ウェルネスとデジタルサイケデリックのXRプラットフォームTrippが世界最大のVR瞑想コミュニティEvolVRを買収

カリフォルニアに拠点を置く「ウェルネスとデジタルサイケデリックのXRプラットフォーム」、Tripp(トリップ)は買収による成長路線を継続し、世界最大のVR瞑想コミュニティであるEvolVR(エボルVR)を買収した。これは2021年のPsyAssist(サイアシスト)の獲得に続くものだ。PsyAssistは、サイケデリック体験を続けるために使うモバイルアプリである。今回の買収によって同社は、ポケモンGOメーカー、Niantic(ナイアンティック)の新しいツールキットであるNiantic Lightship(ナイアンティックライトシップ)の立ち上げパートナーの一員として、拡張現実(AR)体験に取り組んでいることが明らかになった。

EvolVR(創設者はユニテリアンユニバーサリストの牧師および瞑想インストラクター)は、VRで活動する世界初・世界最大の瞑想コミュニティであると主張しており、4万人を超える人がVRマスクを着けて瞑想に入っているとのことだ。Trippも負けてはいない。同社は、350万を超えるウェルネスセッションを行ってきたと主張している。「瞑想術、フロー誘発ゲーム、バイノーラル音声と呼吸のエクササイズ」を組み合わせて、不可思議な感覚を吹き込み、ユーザーの感じ方を変えるのだ。こうしたセッションは、リラックスと調和に役立つように考案されているが、サイケデリック体験の促進に使用することもできる。

コミュニティを重視する組織を買収して支持者の規模を拡大すれば成長を大きく促進できるが、当然ながら、すべてのコミュニティが「買われる」ことに賛成であるとは限らない。特に、買い手が移行期間に荒っぽいことをすればそうである。TrippのCEO兼創業者であるNanea Reeves(ナネア・リーブス)氏と話して、買収の背景が少しわかった。また、高揚感を得られるVR・瞑想・スピリチュアリティ・サイケデリックのマッシュアップとして次に来るものを知ることもできた。

Trippという名前について尋ねないわけには行かなかった。名前の由来は?サイケデリックとの関係は?

「体験としては、サイケデリックというよりVRです。Oculusの開発キットが初期段階の頃、誰もが四六時中VR体験をしていました。ヘッドセットを外して、『すごい、まさにTrippだ!』と言ってました。ある現実があってそれに気づくという体験をして、それから別の現実も体験することには、何かがあります。もちろん、薬物を使ってもそういう体験はできますが、VRにはそれ自体にそういうメカニズムがあります。そこから名前がひらめきました」とリーブス氏は説明している。

TrippのCEO兼創業者ナネア・リーブス氏(画像クレジット:Tripp)

「先方が当社のサイケデリックな面について知ったのは、当社が消費者向け製品を発売した後でした。私たちがしていることにサイケデリックコミュニティから大きな関心が寄せられ、ケタミンを使うクリニックなどでは当社の消費者向け製品がオーガニックな方法で採用されていることがわかりました。私たちは、それを臨床分野への進出の機会と見ることにしました。(苦痛緩和ケアやサイケデリック療法において)臨床展開に取り組む方法はいくつかあると思います。不安を和らげる治療に備える方法や治療後のサポート方法に大いに力を入れていきたいと思います」。

「当社には、別の取り組みと、サイケデリックなメンタルヘルスの手順を対象としたPsyAssistというアプリケーションバンドルがあります。当社はこれらの分野で支援を行うことができます。2022年の前半に、現時点ではケタミン限定のパイロット試験をいくつか行う予定です」。

「私たちと消費者の最も意味深い関わり合いのいくつかは、人生の終わりに臨んで当社の製品を使用する人との関わり合いであることがわかりました。そうした人にメリットがあった、つまり自分が身体的に経験していることから気持ちを紛らすことができたというだけではありません。家族や世話をする人も、Trippの体験を通してストレスを解消できました。当社のツールキットやアプリがさまざまな点でどのように役立ったか報告してくれるユーザーのフィードバックを見ると、起業家としてそれ以上求めるものはありません。努力によって実際に人々の状況が良くなっていることがわかるからです」。

EvolVRの買収

同社はMayfield(メイフィールド)が取りまとめたラウンドで400万ドル(約4億6200万円)を調達し、その後2021年6月にサイケデリックライフサイエンスを重視する投資会社Vine Ventures(バインベンチャーズ)とMayfieldが取りまとめたラウンドで1100万ドル(約12億7000万円)を調達した。同社は、変革的な体験を実現するために臨床分野とコミュニティ構築を並行して追求することを計画している。EvolVRの買収は明らかに、その課題の中のコミュニティ分野である。

Trippは、2022年の終わり頃にAR製品を発売するために、ナイアンティックライトシップのプラットフォームに取り組んでいる(画像クレジット:Tripp)

「私は、EvolVRのコミュニティについていくつか気づいたことがあります。私はよくVRで人に会っていましたが、彼らはJeremy(ジェレミー)[Nickel(ニッケル)氏、EvolVRの創設者]の話をずっとしていることがよくありました。それがアバターのグループでの瞑想を強制することになるとは思いませんでしたが、私は続けて、特にパンデミックの時期に彼らの瞑想をいくつか試してみました。彼らが案内付きの瞑想体験をしているのが気に入りました。私と一緒に瞑想体験をしている別の人がいるのを感じました」とリーブス氏は説明している。「Electronic Arts(エレクトロニックアーツ)にいたとき、私はゲーム中毒のコミュニティの状況や、彼らが女性に優しくないことがわかりました。EvolVRでは、瞑想グループのリーダーが安心できる場を作っているのがわかりました。彼らは、私が良い印象を受けるようにグループをリードする方法を心得ていました。誰かが煽っても、効果はありませんでした。メタバースが拡大するときも、嫌がらせを無視できる場があることは大切です。私たちは、そうした配慮の行き届いた落ち着ける場を作って、自分自身と他の人とのつながりを深めるお手伝いができます」。

「ジェレミーと私は(買収を)内密にしてきました。彼は、コミュニティの人たちは買収を喜ぶだろうと思っています。私たちは、ジェレミーの14人の瞑想リーダーと意思の疎通を図る必要があります。彼らも私たちの傘下に入るからです。私たちは、配慮の行き届いたメタバースとはどのようなものか、考える努力をしています」。

買収の結果、EvolVRはどう変わるか?

「私はこの買収を記念したいと思っています。2つのコミュニティが一緒になって、アンビエント音楽のDJイベントとローンチパーティーを開くことを考えていました。私たちは、本当にクールなことをしようと思ってわくわくしています」とリーブス氏は語る。「プログラミングの観点からは、単なるグループ瞑想の枠を超えたいと思っています。サウンド入浴を手がけたいと考えています。呼吸法も手がける予定です。アンビエント音楽の『エクスタティックダンス』で体を動かすイベントを行う方法についてアイデアがいくつかあります。VRの抽象的な概念を使ってコミュニティとの調和をサポートするすばらしい機会があります。VRの申し分のない使用事例です。不名誉なことは避けて、自分の家でこっそりできます。きまりの悪い思いをすることはあまりなく、それでいてメリットがあります」。

Trippのプラットフォームを試してみた。慣れるのに少しかかりますが、とてもリラックスできる。写真は私ではない(画像クレジット:Tripp)

「(Trippの)支持者の幅広さにとても満足しています。私たちの支持者の大多数はミレニアル世代で、X世代がとても大きな2番目の世代です。支持者の約8パーセントは65歳以上です。VRはまだ共有のデバイスで、家族全体で使われています。例えば宿題をする前に集中力を高めるのに役立つよう子どもにTrippを使わせているという声もあります。ゆくゆくは、ほとんどの人がデータに対応したヘッドマウントディスプレイを使うようになることを期待しています。理想では、感情的な健全性を管理するお手伝いをしたいと思っています。そこから、依存症ケアや苦痛緩和ケアのような使用事例を対象にすることができます。実際のところ、主なメリットは、その時その時の感じ方に力を作用させるのに役立つということです」。

「音声だけの現行世代の瞑想アプリで、人々はますます快適に解決策を探していると思います。それを次のレベルに持っていくお手伝いができると思います。そうすれば、そのレベルのあり方を体験できます。私の目標を挙げるとすれば、必要な時に利用できるセルフケアの決まったツールキットを継続的に提供することです」。

今回の買収は現金と株式の組み合わせだったが、Trippは取引の詳細を開示していない。

画像クレジット:Tripp

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

わずか8分でストレスを軽減できるTrippのサイケデリックVR瞑想アプリ

消費者のウェルビーイングやマインドフルネスを支援するモバイルアプリを投資家に売り込むスタートアップ企業が増えているが、中にはユーザーが周囲の世界から完全に切り離されるような、より没入感のある方法を模索しているスタートアップもある。

Tripp(トリップ)は、没入型のリラクゼーションエクササイズを開発している企業だ。それはガイド付き瞑想アプリで体験できるような種類のものと、より自由な形の体験を融合させることを目指したもので、ユーザーはVRヘッドセットの中で、フラクタル図形や光る木、惑星が目の前を通り過ぎるのを見ながら、日常から離れて自分の思考を探求することができる。

その社名が示すように、このスタートアップ企業は、幻覚剤を使わずに、サイケデリックトリップの際に感じるものを模倣した視覚と聴覚の体験を作り出そうとしている。

「幻覚剤を摂取することに抵抗を感じる多くの人にとって、これはより穏便な方法でサイケデリック体験の一部を提供できる、摩擦の少ない代替手段です」と、同社のNanea Reeves(ナネア・リーブス)CEOはTechCrunchに語った。「このアイデアは、マインドフルネスとビデオゲームの仕組みを組み合わせることで、人々の感覚を実際にハックできないかと発想したものです」。

Trippによると、同社はVine Ventures(ヴァイン・ベンチャーズ)とMayfield(メイフィールド)が主導し、Integrated(インテグレーテッド)などが参加した投資ラウンドで、1100万ドル(約12億2000万円)の資金調達を完了したという。これで同社が調達した資金の総額は1500万ドル(約16億6000万円)となった。

画像クレジット:Tripp

近年、VR関連のスタートアップ企業の多くは、投資家の熱い支持を得ることに苦労している。主なテックプラットフォームが次々とバーチャルリアリティへの取り組みを終了させ、今やFacebook(フェイスブック)とソニーだけがその分野の提供者として残ったが、彼らも依然として収益化に苦心している。その一方で、多くのVRスタートアップ企業が取り組みを続けているものの、5年前にこの分野の企業を支援していた多くの投資家は、より幅広い用途が期待できるコンピュータビジョンやゲームのスタートアップ企業に目を向けている。

関連記事:フェイスブックのVR広告参入は前途多難

リーブズ氏によると、新型コロナウイルスの影響から、人々のマインドフルネスやメンタルヘルスに対する意識が高まったため、投資家もこの分野のプロジェクトを積極的に支援するようになったという。

Trippは、Oculus(オキュラス)とPlayStation VR(プレイステーションVR)の両方のストアにアプリを配信しており、月額4.99ドル(約550円)のサブスクリプションという形で利用できる。

同社はさまざまなガイド付き体験を提供しているが、ユーザーは「Tripp composer」を使って独自のビジュアルフローを構築することもできる。

カスタマイズだけでなく、Trippの大きな売りの1つは、消費者により深く、より早く瞑想体験を提供することであり、ユーザーはヘッドセットを装着してから8分という短い時間で、ストレスを軽減できると同社は主張する。

Trippはこのプラットフォームを、企業のオフィスでウェルネスソリューションとして活用することも検討している。現在はこのソフトウェアプラットフォームの治療器としての有効性を研究するため、臨床試験を行っているところだ。

同社によると、このアプリでは、これまでのべ200万回以上のセッションが、ユーザーによって行われたという。

関連記事:

カテゴリー:VR / AR / MR
タグ:Tripp瞑想VR資金調達OculusPlayStation VRマインドフルネスアプリ

画像クレジット:Tripp

原文へ

(文:Lucas Matney、翻訳:Hirokazu Kusakabe)