海外投資続ける電通ベンチャーズ、今度は子ども向け学習プラットフォーム「Tynker」に出資

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電通が運用するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「電通ベンチャーズ1号グローバルファンド(電通ベンチャーズ)」は8月2日、子ども向けプログラミング学習プラットフォーム「Tynker(ティンカー)」を開発する米Neuron Fuelへ出資したことを明らかにした。出資額は非公開だが、関係者によると数億円規模の出資のようだ。

Neuron Fuelは2012年3月の設立。彼らが提供するTynkerは8〜14歳の子どもをメインターゲットにしたプログラミング学習のプラットフォームで、ゲーム感覚で各種プログラミング言語の基本を学ぶことができる。最近だとドローンやロボットといったデバイスのコントロールまでを学習できる教材も展開している。プログラミング経験のない保護者などでも習熟度が分かるようなダッシュボードも提供し、学習を支援している。累計ユーザー(無料含む)は世界で3000万人以上だという。

海外投資進める電通ベンチャーズ

電通ベンチャーズと言えば、これまでコミュニケーションロボットを手がけるJiboやクラウド対応のスマートフォンを手がけるNextbit、コオロギから抽出したタンパク質を使用した健康食品を開発するExoなど海外のかなりエッジの効いたスタートアップに投資を行っている。少し前に彼らの成り立ちについても聞いたのでここで紹介したい。

2015年4月に50億円規模の1号ファンドを組成した電通ベンチャーズは公開しているだけで8社(Neuron Fuelを含む)の海外スタートアップに投資している。投資ステージはシード、アーリーからレイターステージまで(シードで数千万円から数億円前半程度)、領域は前述の通りだがネット企業から食品やヘルスケアまで多岐にわたっており、どちらかというと電通の本業から少し離れた、数年後に市場が活性化するであろう領域への投資のイメージが強い。

「ファンド組成の理由は2つ。1つは広告業界が変わる中で新しいビジネスをどう作るかということ。またもう1つは電通の成り立ちとして、クライアントをサポートするビジネスを手がけてきたということ。スタートアップについても同じようにサポートしていける」(電通ベンチャーズ マネージングパートナーの笹本康太郎氏)

ファンドを共同で運用するのはフィールドマネジメント・キャピタル。KDDIがグローバル・ブレインと組んで「KDDI Open Innoavtion Fund(KOIF)」を立ち上げたように、共同でディールソーシング(投資先探し)や投資検討を行っている(ちなみにフィールドマネジメント・キャピタル共同創業者でマネージング・パートナーの堀部大司氏と長谷川勝之氏はグローバル・ブレインの出身。KOIFの立ち上げにも関わった)。

彼らが強みにうたうのは、ビジネス開発を支援する「バリュークリエーションチーム」を組織していること。電通本体のリソースを使って、PRやメディアリレーションから、ローカライズなども行っているという。電通ベンチャーズの投資先は基本的に欧米やアジアのスタートアップ。彼らの日本参入に関しての具体的な支援ができるのが強みだそう。たとえばJiboであれば、電通内に「ロボット推進センター」があるため、ここでローカライズやサポートなどができると説明する。「VC業は本業との相性がいい。スタートアップのエコシステム発展のためにも大企業のリソースをうまくスタートアップに運んでいきたい。電通はクライアントのサポートをビジネスにしてきた会社だ」(笹本氏)

本業より“ちょっと先”の領域への投資が多い電通ベンチャーズだが、もちろんCVCとしてファイナンシャルリターンも求めていく。「ファイナンシャルとストラテジーの割合は50対50。投資先とのシナジー重視かと言われるが、やはりファイナンシャルリターンはVCの基本。外部の評価をしっかり取り入れていく」(笹本氏)。ファンドの運用期間は7年。引き続き欧米・アジア圏での投資を進めつつ2号のファンドの立ち上げも計画するとしている。

電通ベンチャーズのメンバー

電通ベンチャーズのメンバー。中央がマネージングパートナーの笹本康太郎氏

子どもたちにプログラミングを教えるTynkerが、これからはロボットやドローンなどのデバイスも教材に

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子どもたちにゲームを作らせながらプログラミングを教えるTynkerが、今度はゲームを作るだけでなく、デバイスをコントロールするプログラミングの教程を加えた。デバイスは、ドローンやロボット、照明器具のような“スマートホーム”製品など、さまざまだ。同社はこの新しい教育課程を、今週サンマテオで行われたBay Area Maker Faireで発表し、またiPadとAndroidタブレットのアプリケーションの提供も開始する。

同社はこれまで、子どもたちがドラッグ&ドロップでキャラクターを動かしながらプレイするゲームを作り、それによってプログラミングの基本概念を習得するための、ツールやチュートリアルを主に作ってきた

過去3年間で、Tynkerでプログラミングを始めた子どもたちは2300万名を超え、合衆国とカナダとイギリスとオーストラリアで計2万あまりの学校が同社のカリキュラムを利用している。各月に100万から200万のユーザがTynkerにログインし、同社のユーザベースは1か月に50万ずつ増加している。

同社のiPadアプリはAppleのストアの展示商品にプレロードされていて、子どもたちが遊べるようになっている。Androidのアプリも、Googleの今度のDesigned for Familiesでローンチする。CEOのKrishna Vedatiによると、今年の同社の決算は黒字になりそうだ。

これからは“物のインターネット”へのプログラミングが加わるので、子どもたちはこれまでのように純粋にソフトウェアだけのプログラミングではなく、ドローンを飛ばせたり玩具をコントロールしたり、ロボットに命令するなど現実世界のオブジェクトの制御を体験することになる。立ち上げにあたってTynkerが協力を求めるのは、ドローンのParrotやロボットのSphero、照明システムHue/LuxのPhilips、などの企業だ。協力企業は今後さらに増える、と同社は言っている。

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子どもたちがTynkerのビジュアルなインタフェイスから、これらのオブジェクトをコントロールするプログラムを作れるために、新たなコードブロックが導入され、いくつかのサンプルコード的なテンプレートも提供される。たとえば”Flappy Drone”は、ドローンを障害物をよけながら飛ばせるプログラミングの例だ。人気のモバイルゲーム”Flappy Bird”に似ているので、この名前がつけられている。このほか、ロボットのレーシングゲームRobo Race、ドローンに曲芸飛行をやらせるStunt Pilot、インターネットに接続されている照明システムのコントロール、などが用意されている。

Vedatiによると今後Tynkerは、もっと多くの機種のドローンや、リモートコントロール玩具などをサポートし、AppleのApple HomeKitやParrotのFlower Powerなどとも統合し、またLegoやArduino、Raspberry Piなどのためのシンプルなプログラミングインタフェイスも提供して行く。

新たなコードブロックと学習用のパズルは、Google PlayiTunesで入手できる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa