音楽配信を支援するUnitedMastersがミュージシャン向けiPhoneアプリを提供開始

レコードレーベルに代わる音楽レーベル流通スタートアップで、Google(グーグル)の親会社であるAlphabet(アルファベット)の出資を受けているUnitedMastersは米国時間7月4日、アーティスト向けのiPhoneアプリをリリースした。

ウェブでしか利用できなかった同社のサービスを、このiPhoneアプリで利用できるようになる。アーティストは自分の作品をiCloudやDropboxから、あるいはテキストメッセージから直接アップロードし、Spotify、Apple Music、Tidalといったあらゆるストリーミングプラットフォームに配信できる。UnitedMastersは配信手続きやパフォーマンスの分析を実施し、配信売上の10%を受け取る。ただしコンテンツの権利はアーティストが100%保持する。

UnitedMastersはBose、NBA、 AT&Tといったブランドパートナーとも連携して、ブランド資産と配信コンテンツのマーケティング利用も管理する。アーティストはPayPal経由で支払いを受け取る。アーティストのソーシャルアカウントと関連づけて、オンラインのプレゼンスを音楽に結びつけることもできる。

アーティストはこのアプリを使って曲に加えて高品質のカバーアートもアップロードする。さらに制作に参加したプロデューサーや、露骨な歌詞を含んでいないかといった情報も入力し、すべてまとめてリリースできる。リリース日を指定すれば、コンテンツの承認待ちを経てどのサービスでもその日に配信が開始されるようにUnitedMastersが最善を尽くす。

UnitedMastersはInterscope Recordsの社長だったSteve Stoute(スティーブ・スタウト)氏が設立した。アンドリーセン・ホロウィッツと20世紀フォックスも同社に出資している。同社は、旧来のレーベルモデルでは権利を奪われ、リスナーが本当に音楽を聴いているサービスで配信したいと願う新世代のアーティストの支援を目指している。iPhoneで配信までのプロセス全体を管理することは、まさに現代のリスナー層との親和性が高い。

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(翻訳:Kaori Koyama)

Alphabet他から調達した7000万ドルで、UnitedMastersはレコード業界の革命を狙う

レコードレーベル(レコード会社)は時代遅れだ。彼らは、音楽が、CDを販売することから、楽曲のストリーミングを行い、コンサートチケットとグッズの宣伝を行なうようなった進化について行けていない。かつてのレーベルは、アーティストたちのためにアルバムを作成し、名声と、収入を得る手助けをするためのものだった。しかし、いまや誰でも録音をすることが可能になり、誰も音楽を「買う」ことはしない。現在では、ハイパーターゲット広告と分析技術を組み合わせたテクノロジー企業であることが必須なのだ。そして古いレーベルには、それを行なうエンジニアリングの才能が欠けている。

これが、 Interscope Recordsの元社長であるSteve Stouteが、密かにGoogleの親会社Alphabet、有名なベンチャー企業アンドリーセン・ホロウィッツ、そしてエンターテインメントの巨人20世紀フォックスから秘密裏に7000万ドルを調達した理由だ。

本日(米国時間11月15日)、彼のスタートアップであるUnitedMastersが表舞台に姿を現した。

UnitedMastersは、ミュージシャンたちに、搾取的なレコードレーベル取引に対する代替案を提供する準備を整えている。アーティストたちは彼らの音楽をSpotifyからYouTubeそしてSoundCloudに対して配信して貰うために、UnitedMastersに対して、これまでの例よりも安いレートで手数料を支払う。そして両者はアーティスト側に原盤権を残しながらロイヤリティを分け合うのだ。またUnitedMastersは全ての分析データを取り込み、視聴者を特定し、アーティストたちにCRMツールを提供し、チケットやグッズ販売のために、トップファンたちに対してピンポイントで宣伝を出す手伝いも行なう。

Stouteは、この計画は次のように説明する「音楽をゲームのように眺めてみて下さい。ゲームでは最も強い関心を抱いている人たち全てから、収益を挙げています。その理論と考えを音楽に持ち込みたかったのです」。ミュージシャンがたくさんのお金を稼ぐのは、そうした熱心なスーパーファンたちからなのだ。そして遂に、自分たちのアルバムを50回聴いてくれた人たちに、アーティストが売りたいものの広告を手間いらずで配信してくれる仕掛けを作り出した者が登場したということだ。

Stouteは既に、2004年以来、Translationという名のカルチャーメイカー向けの広告代理店に勤めていた。その会社はUnitedMastersのTranslation Enterprises部門として合流する予定だ。ミュージシャン以外にも、UnitedMastersは特定セグメントのリスナーに広告を出そうと考えるブランドたちとも協力する。例えば、アルコール大手であるディアジオが、有名プロデューサーのPuff Daddyと提携しているCîrocウォッカを、彼のファンたちに売り込むことを支援するといったことだ。

スタートアップ業界で世界最大のラップミュージックファンであるベン・ホロウィッツは、彼がUnitedMastersのボードメンバーに加わるというアイデアにすっかり魅了されている。「Steveの考えは、トップテクノロジー企業が顧客たちにマーケティングするように、もしミュージシャンたちが、簡単に自分たち自身を世界に向けてマーケティングできるとしたらどうだろうか?というものなのです」。ホロウィッツは、事前にTechCrunchと共有し、現在は公開されているブログ記事で、そのように述べている。「そのようなプラットフォームは、ミュージシャンたちを古いモデルへの依存から解放して、その収入を10倍に増やすことでしょう。そして、アーティストたちを本当に独立した存在にする一方で、アーティストとファンたちの間にこれまでにない親密さを作り出すことになるでしょう」。

Alphabetにスタートアップの7000万ドルのシリーズAを主導させたのは、ラリー・ペイジ自身だった。「世間の人びとは、ラリーが本当はドラマーだったことを知りません。彼はアーティストに対して深い感受性を持っているのです」とStouteは言う。ペイジは、ミュージシャンがたちが、最も多くのお金を使ってくれるファンたちを追跡したり、的を絞ったりすることができないということに驚いた。そこで、PageはGoogleの企業開発リーダーであるDavid Drummond(元ラジオDJ)と協力して、UnitedMastersが必要とする現金を投資したのだ。

Googleとその仲間たちは、極めて熱心にレコード産業界をひっくり返そうとしている。GV(Google Ventures)の最初の投資対象は、音楽配信および権利管理サービスであるKobaltだった。同社はアーティストたちの作品の公開を追跡し、ロイヤルティの徴収を行なうことを目的に2億ドル以上を調達した一方で、その子会社のKobalt Capitolは投資家たちが音楽著作権を買うためのプラットフォームを提供している。しかしKobaltは、パフォーマーたち自身がツアーのチケットやTシャツを売る際の面倒まではみてくれない。

ミュージシャンたちは一部の技術者たちとは違ってStouteを信頼している。ニューヨークのクイーンズに生まれた彼は、かつては地元の英雄であるNas and Mary J. Bligeのマネジメント行い、人気者に仕立て上げた経験を持つ。彼と話せば、他のミュージシャンたちがやられっぱなしになっていることに、彼がうんざりしているのだという、確かな感覚を得ることができる。彼はUnitedMastersを単なるソフトウェア会社以上のムーブメントのように捉えているのだ。

ミュージックテックを避けることはできない。敵ではないのだ

UnitedMastersの最初の動きが始まっている。現在アーティストたちは自分自身のYouTubeやSoundCloudアカウントを、同社のサイトに接続することで、「あなた自身のキャリアを成長させるためのパーソナライズドガイド」を受け取ることができる。その中には、ファン層の人口分布やツアーを組むべきルートへの洞察も含まれている。

UnitedMastersは現在、プロダクト、デザインならびにエンジニアリングの技術的才能を持つ人材たち、そして最初の独立系ミュージシャンたちの一群を積極的に募集している。約40人のチームの中には、元FacebookやDropbox出身のエンジニアたちを抱えている。その一方で、すでに約1000のパフォーマンスを扱っていて、デジタルネイティブになってビジネスを運営することを望む新鋭アーティストたちに的を絞っている。「独立してやっていけるようにすることがUnitedMastersの目標です。 25万人のChance The Rappersが必要なのです」と、グラミー賞を勝ち取った強烈なインディーズヒップホップアーティストを例に挙げながら、Stouteは語った。

最終的には、現在のレーベル契約を破棄して、長期的な可能性に賭け、自身のオリジナル音源の管理をしたいと思っているアーティストたちと契約を結ぶことができるだろう。キャッシュの前払いを行い、束縛し、そしてわずかばかりの収益分配を行なうのではなく、UnitedMastersはパートナーとして振る舞う。

現在のレーベルは、アーティストの収入の全部を取り上げてしまいたがることが多い。「レーベルは360契約(レーベルがアーティストに一定の金銭的援助を与える代わりに全ての音楽収入を管理すること)を始めました、CDの売り上げが落ちて利益が枯渇し始めたからです、しかし彼らが360サービス(十分なサービス)を提供してくれるわけではありませんでした」とStouteは憤慨してみせる。「私はなにもレコードレーベルを『悪人』に仕立て上げたいのではありません」と、やや表現を和らげながら、彼は宣言する「モデルを変えなければならないのです」。アーティストたちはしばしば、ストリーミングでは十分な収入を得ることができないと不満を述べることが多いが、Spotifyのような企業は収益のおよそ70%を支払っている。彼らが受け取るべき収入から大きく上前をはねているのがレーベルなのだ。

ストリーミングサービスに音楽を送り込むための、TuneCoreのようなサービスはすでに存在しているが、そうしたサービスたちはミュージシャンたちにより多くの分析結果を提供することで彼らに訴求しようとしている。 Spotifyはアーティストたちのための包括的な洞察アプリを立ち上げた 。また、既にたくさんの商品プラットフォームとチケットパートナーも存在している。しかし、UnitedMastersは、音楽ビジネスに現在欠けているデータ層になりたいと考えている。これによって、たとえば音楽レコメンデーションサービスのPandora上で、1曲毎の再生からはほんのわずかな収入を得ている中から、分析によってあるアーティストの強力なファンを発見することができる。このことでそのファンに対してFacebook上で広告を出して、サイン入りポスターを買ってもらったり、VIPチケットパッケージを購入して貰ったりすることができるのだ。

アーティストたちにこれまでとは別の道があると教えることがUnitedMastersにとっての最大の課題だ。多くのミュージシャンたちは、いまだにストリーミングを、ブランドとしての彼らのバンドのマーケティングの役に立つ、避けられない音楽配布の進化と捉えるのではなく、彼らのアルバムセールスを食い荒らす敵だと考えている。しかし、一旦アーティストたちが、自分たちはナイキとあまり変わないもので、彼らの曲はそのブランドのコマーシャルのようなものだと思うようになれば、彼らはリスナーたちとその情熱を購入につなげるための支援が必要だということに気が付くだろう。

オールドスクールであるレーベルと、KobaltやUnitedMastersのようなスタートアップの両方が入り込む余地が残されているのだ。しかし、いまやアーティストたちは、必要とする多様なサービスの全てを1つの会社もしくはレーベルから受け取ることができる存在となるよりも、彼ら自身をマーケティングとプロダクト専門家のチームを組み上げて経営する創業者のようなものとして捉え始めている。これにより、UnitedMastersのパートナーモデルは、コントロールを旧来の中央集権型のオーナーに預ける方法に比べて、徐々に魅力的なものに映っていくことになるのだ。

「素晴らしいアーティストになることが、アーティストにとっての大切な仕事なのです」とStouteは結論付ける。「アーティストたちをとりまくインフラは、彼らがもっと有利な割合で収入を得る手助けをしなければなりません、彼らの原盤を取り上げて所有してしまうのではなく」。

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(翻訳:Sako)