SoundCloudは音楽のYouTubeだ―ビジネスモデルはSpotifyよりはるかに有利

2016-01-26-soundcloud-money

SoundCloudは最近、長らく待ち望まれていたユニバーサル・ミュージックとのライセンス契約を締結することに成功した。ユニバーサルのアーティストにはカニエ・ウェスト、アデル、テイラー・スウィフトといったビッグネームが含まれる。

この契約によってSoundCloudはメジャー・レーベルの楽曲の約半分をカバーできた。ワーナーはSoundCloudとすでに契約しているが、Sony BMG、Sony/ATVはまだ様子見というところだ。

ユニバーサルのライセンスとベンチャー資金の獲得によって、このベルリン生まれの音楽コンテンツ・プラットフォームはSpotifyのライバルとして非常に有望な存在となった。

音楽のYouTube

メディア上ではSoundCloudについて聞くことはSpotifyの場合よりだいぶ少ない。しかし SoundCloudとSpotifyはどちらも巨大なサービスだが、ユーザーベースについていえばSpotifyが7500万人であるのに対してSoundCloudは月間利用者が1億7500万人だ。

SoundCloudにSpotifyの2倍以上の登録ユーザーがある理由はこうだ。Spotifyの本質は有料ユーザーに対する音楽ストリーミング・サービスなので総ユーザー数そのものはあまり大きな意味をもたない。Spotifyにとって重要なのはそのうちのどれだけが有料契約を結ぶかだ。これに対してSoundCloudは(すくなくともまだ今のところ)収益化の必要が薄く、成長のために無料コンテンツを大量に提供する余裕がある。

第2に、SoundCloudはSpotifyよりもビジネスモデルが有利だ。SoundCloudの主要なユーザーは同時に音楽コンテンツの提供者でもあり、彼らの目的はフォロワーを増やすことで、収益化そのものには関心が薄い。今回のユニバーサルとの契約は同社に関連するやっかいな著作権訴訟を避ける効果がある。これに対してSpotifyは収入の80%を著作権の保有者に支払っている

こうした数字でも分かるとおり、SpotifyとSoundCloudのビジネスはまったく異なる。

SoundCloudのビジネス・モデルはプラットフォーム提供であり、その上に流れるコンテンツはユーザー自身がアップロードしてくれる。Spotifyのように著作権者にライセンス料金を払って楽曲をストリーミングするのが本業ではない。SoundCloudのネットワークは、楽曲をアップロードするユーザーが増えれば楽曲を聞こうとするユーザーも増えるという構造になっている。
ネットワークが拡大すればそれに連れて楽曲を投稿するインセンティブも大きくなるというネットワーク効果が働くことがSoundCloudの急成長のもうひとつの理由だ。

プラットフォームが才能ある新たなアーティストを日々惹きつけているなら、その将来はきわめて有望だと言わざるをえない

逆にSpotifyの場合、基本的にレコード・レーベルがライセンスを保有する楽曲の再販売業者であり、いわば音楽ストリーミングのウォルマート〔スーパーマーケット〕のようなものと考えることができる。そのため、Spotify上の楽曲のほとんどはApple MusicにもPandoraにも他のストリーミング・サービス上にも存在する。そのためSpotifyはSoundCloudのようなネットワーク効果を期待することができない。

これはビデオ・サービスにおけるYouTubeとNetflixの差によく似ている。こういう比較は、Netflixには成功のイメージが強いのでSpotifyをひいきしているように感じるかもしれない。しかしそうではない。実はYouTubeの単独の価値は850億ドルとNetflixの価値の2倍なのだ。その理由は簡単だ。2016年にNetflixはCBS、 Viacom、Time Warner、Foxのどれよりも多額のライセンス料金を支払うことになる。Spotify同様、Netflixの売上もほとんどはライセンス保有者に流れる。

SoundCloudは音楽のYouTubeとなれるか?

この双方の組には深いところまで類似点が見い出される。Netflixと同様、アーティストはフォロワーを増やすのにSpotifをあてにはしない。そのためにはSoundCloudに参加する。これはビデオグラファーがYouTubeに作品をアップロードするのと同じだ。

ラッパーのFetty WapはSoundCloudで大評判になってからビルボードのチャートに載った。DJの大物、DiploやSkrillexもメインストリームで有名になるための足掛りとしてSoundCloudを利用している。 こうした事情でSoundCloudはSpotifyよりも良好な関係をアーティストとの間に築いている。

Spotifyのコンテンツのほとんどはメジャー・レーベルから来ており、他のサービスでも聞ける。しかし音楽ファンがインディーの最新トラックやDJのリミックスを聞きたければSoundCloudを探すことになる。SoundCloudは新しいアーティストや曲などユニークな音楽コンテンツを探す場所になってきた。またSoundCloudではユーザー同士がフォローし合うことによって交流が深まり、音楽に関する情報が密接にやり取りされる。

コンテンツのユニークさによって音楽におけるセレンディピティ〔思いがけぬ発見〕がSoundCloudの特長になった。これによりユーザーのネットワークも日々拡大している。またそのコンテンツは主としてユーザー自身が無料でアップロードしたものだ。こうしたことはすべてSpotifyには望めない。

プラットフォームが才能ある新たなアーティストを日々惹きつけているなら、その将来はきわめて有望だと言わざるをえない。逆にSpotifyは現在のような利益を確保するために苦闘することになりそうだ。NetflixがそうであるようにSpotifyもストリーミングを継続していくためにははコンテンツの権利保有者との苦しい妥協を強いられる。またライバルのサービスに対して独自性を出していくのも難しい。もしこの両社のどちらかを選ばねばならないのなら、今のところ私は「音楽ストリーミングのYouTube」であるSoundCloudの方を選ぶだろう。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+