オンデマンドシャトルのViaが森ビルなどから資金調達しバリュエーションは約2420億円に

オンデマンドシャトルViaのバリュエーションが、Exor(エクソール)がリードしたシリーズE投資ラウンド後に22億5000万ドル(約2420億円)になった。ExorはAgnelli(アニェッリ)家の持ち株会社で、PartnerRe(パートナー・リー)やFerrari(フェラーリ)、Fiat Chrysler Automobiles(フィアット・クライスラー・オートモービル)の株式を保有する。

Exor以外にいくつかの投資家も参加したシリーズE投資ラウンドは、この件に詳しい情報筋によると、4億ドル(約430億円)だった。Exorが2億ドル(約215億円)投資したとViaとExorが発表している。Exorのアーリーステージ投資部門を率いるNoam Ohana(ノーム・オハラ)氏がViaの役員会に加わる。

新規投資家としてMacquarie Capital、森ビル、Shellが、既存投資家からは83North、Broadscale Group、Ervington Investments、Hearst Ventures、Planven Ventures、Pitango、RiverPark Venturesが今回のラウンドに参加した。

約700人を雇用するViaは今回調達した資金の大半を、事業のソフトウェアサービスの「提携」拡大にあてる計画だ。同社はシカゴ、ワシントンD.C.、ニューヨークで消費者向けのシャトルを運行している。しかし実際のところ、事業の中核はソフトウェアプラットフォームだ。同社はこのプラットフォームを、自前のシャトルバスを展開する自治体や運輸当局に販売する。

Viaの創業者でCEOのDaniel Ramot(ダニエル・ラモット)氏によると、Viaが2012年に創業されたとき、自治体はソフトウェアプラットフォームにほとんど関心を示さなかった。同社は消費者向けのシャトルにフォーカスして始まった。その後、サービスを通じて集めた膨大な量のデータを使ってダイナミックなオンデマンドルート決めのアルゴリズムを改善した。このアルゴリズムではシャトルが最も必要とされている場所を通るようにするためにリアルタイムデータを用いている。

Viaはオースティンの交通当局にプラットフォームを無料で提供し、その後2017年後半にオースティンと初の自治体との提携を結んだ。この提携によってViaはケーススタディを進めることができ、また他の自治体にも同社のサービス購入を促すものとなった。2019年に事業提携部門が立ち上がった、とラモート氏は最近のインタビューで語り、新型コロナウイルス(COVID-19 )が拡大する前は、週に2、3の自治体と提携を結んでいたとも述べた。

今日では、Viaのプラットフォームはカリフォルニア州のロサンゼルスやクパチーノといった都市、Arriva  Bus UKなど100以上のパートナーに使用されている。Arriva Bus UKはドイツ鉄道のサービスで、通勤客を英国のケントにある高速鉄道駅に運ぶのにViaのプラットフォームを活用している。

パンデミックの中での資金調達

スタートアップにとって、今は新型コロナウイルスパンデミックのために資金確保が極めて厳しい。そうした不運な状況でViaはなんとか資金調達ラウンドをクローズした。新型コロナウイルスは製造から運輸、エネルギー、不動産に至るまであらゆる産業や事業セクターのマーケットを滅茶苦茶にした。

クレジットの厳格化や不透明さにもかかわらず、Viaはかなりの規模の資金を調達できた。ラモット氏はラウンドがずれ込むかもしれないと心配していたとき、ExorがViaと同じビジョンを共有する長期的かつ辛抱強い投資家であることに気づかされたとTechCrunchに語っている。

公共交通や配車、シェア用マイクロモビリティ、航空を含む運輸のあらゆるカテゴリーが利用減やサービス停止に直面している今ですら、ラモット氏とオハラ氏は約束された未来を描いている。

低いユニットエコノミクスや定かではない収益化への道のりといったハードル、つまりライドシェアの限界をマーケットは理解し始めているとオハラ氏は述べた。「一方で、オンデマンドのダイナミックなシャトルバスサービスのマーケット規模は大きく、現在は過小評価されている」とも話している。「今日の公共交通機関に目を向けると、Viaにとって大きなチャンスがある。当社はすでに、世界中の自治体や公共交通パートナーと協業し、かなりの経験を持っている」。

だからといってViaが広がりつつあるパンデミックの影響を受けないわけではない。Viaの消費者向け事業は、感染拡大のために乗車が落ち込むなどしてマイナスの影響を受けている。

しかしパートナーシップの事業はいくぶん約束されている、とラモット氏は話した。

すでに提携しているパートナーとしては、ドイツのベルリンやオハイオ、マルタの交通当局が含まれ、これらはViaとともにパンデミックの間の新たな需要に対応するソフトウェアに変更したり導入したりしている。自治体は商品や必要不可欠の業務に従事する人たちを輸送するのにシャトルサービスを使うかもしれない。例えばベルリンは120台のシャトル車両を、ヘルスケアワーカーの通勤向けの無料夜間サービスにあてている。

「緊急サービス分野が真の関心を寄せている」とラモット氏は話し、パンデミックが広がるにつれてソフトウェアプラットフォームや同社が提供するフレキシビリティに対するさらなる需要が出てくると予想している、と付け加えた。

画像クレジット:Via

新型コロナウイルス 関連アップデート

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(翻訳:Mizoguchi

NY発ライドシェア 「Via」街や交通機関との“パートナーシップ”を重視した日本戦略とは

海外と比較すると、ここ日本においてライドシェアは圧倒的に盛り上がりが足りていない。タクシー業界による猛反対や、第二種運転免許を持たないドライバーが運賃を取って自家用車に乗せる“白タク”と呼ばれる行為が禁止されていることがその背景にある。だがそんな状況にも関わらず、2012年にニューヨークで設立されたライドシェア・スタートアップのViaは2018年8月に日本での実証実験を開始した。

写真左がTechCrunch Japan編集部の菊池大介、右がViaのDavid Adelman氏

同社でVice President of Global Partnershipsを務めるDavid Adelman氏によると、Viaのミッションは「世界で最も効率の良いオンデマンドでダイナミックなシャトルサービスOSを街、タクシーやバス会社、交通機関などに提供する」こと。他社とは違い既存の業界などとのパートナーシップを重要と考え、争うことなく「共に成長すること」がViaの戦略であるため、日本での定着・成長も大いに期待できると話す。加えて、日本の社会的課題を解決することに関しても同社はとても意欲的だ。

Adelman氏は10月17日、幕張メッセで開催されたCEATEC Japan 2018にて「米国テクノロジー最前線 – Society5.0に向けたMobilityの可能性」と題されたアメリカ大使館主催のキーノートセッションに登壇し、僕がモデレーターを務めた。当日のセッションの内容も踏まえた上でViaの日本での戦略を紹介したいと思う。

これまでに420億円もの資金を調達しているViaのライドシェア数は2013年から累計で4000万以上、月間ライドシェア数も200万以上あるという。ニューヨーク、ワシントンDC、アムステルダム、ロンドン、そしてシカゴでの会員数はおよそ100万人。アメリカとヨーロッパ以外でもオーストラリアやニュージーランドで同社のシステムが使われている。

前置きが長くなったが、ここでViaのサービスが一体どのようなものなのか、説明したい。まず乗客はアプリを使い乗車を予約。アルゴリズムは1、2秒ほどで乗客とドライバーをマッチングし、乗客には「バーチャル・バスストップ」と呼ばれる乗車位置に移動するように指示が来る。乗客は最寄りの交差点などまで歩く必要があるが、これはViaの特徴の一つだ。車両に同じ方向に向かう乗客5、6人ほどを乗せるSUVを使うので、家の前まで迎えに行くなどの“寄り道”を省くことで目的地までなるべく短いルートで進むことができる。

ニューヨーク、ワシントンDC、アムステルダム、ロンドン、そしてシカゴで提供しているのは自社が直接Cに向けて提供するサービスで、アメリカでは「Via」、ヨーロッパではメルセデス・ベンツとのジョイントベンチャー「ViaVan」として展開。他の地域ではパートナーと共にサービスを展開する形を取っている。

水色のエリアでは「Via」もしくは「ViaVan」、青色のエリアではパートナーと連携したサービスを展開している。

パートナーには乗客・ドライバー向けアプリだけでなく、アルゴリズムやノウハウも提供する。アルゴリズムやブランディングはパートナーに合わせてカスタマイズさせるのだという。その一例が8月1日より森ビルと共同で実証実験を行なっている「オンデマンド型シャトルサービス」の「HillsVia」。実証実験は2019年7月末までの1年間実施される予定だ。

森ビルが料金を負担し、社員が無料で乗れるようにすることで、禁止とされている“一般車両への相乗り”の実験を可能とした。ドライバーは一般人ではなく、運転手派遣会社のプロたちだ。

HillsViaを通じ、森ビルは「Via社独自開発のアルゴリズムを採用することで、交通渋滞や環境負荷など都市交通が抱える課題の解決に寄与すると共に、都市における移動手段の選択肢を増やすことで、より豊かな都市生活を実現すること」を目指す。

メルセデス・ベンツがこの実証実験の趣旨に賛同し、最新の車両を提供。言うまでもなく、ダイムラーはViaに出資している。ドライバーを含め7人が乗れる最新の車両が4台用意されており、東京都港区を中心とした所定エリア内で平日の午前8時から午後7時半の間で走らせている。僕も都内で何回か走行中のHillsViaバンを目撃したが、見るからに“高級”なので是非乗ってみたいと思ったほどだ。

この実証実験では森ビル社員約1300名を実証実験の対象者とし、出勤時、外出時、帰宅時などの利用を通じて様々なデータを取得することでサービスの有用性と発展性を検証する。社員はViaが森ビルのために用意したスマホアプリを使い、現在地と目的地を設定。同じ方向へ向かう同僚などと共に乗車する。

Adelman氏いわく、森ビルとの実証実験の開始以降、同様のシステムの導入について「数々の企業」から声がかかっており、すでに導入に向けて動き始めているという。だが、Viaの日本でのミッションは従業員用のシャトルを提供するだけに止まらない、と同氏は付け加えた。「日本では規制が厳しいため、他の国々で行なっているようなサービスを展開するのは安易ではない」ものの、将来的には同社のサービスをこの国でも「誰もが利用できるようにしたい」(Adelman氏)

ここ日本においてライドシェアは僕たち若者や働く世代だけでなく、高齢者にとっても便利なサービスとなるだろう。田舎だとバス停まで遠かったりするので、家の近くまで来てくれるライドシェア ・サービスは重宝されるのではないだろうか。上で説明した通り、Viaのサービスはパートナーに合わせてカスタマイズが可能なので、スマホが使えない高齢者に合わせて電話予約ができるようにしたりできる。

パートナーによっては、たとえばテキサス州の都市アーリントンと共に展開し、乗客を商業施設や病院などへと運ぶサービスでは、車椅子に乗る人でも乗車が可能な車両も用意がある。レガシーなタクシーやバスにViaの持つテクノロジー、アルゴリズムやビッグデータなどを組み合わせることで、より効率的・効果的なオペレーションが可能となるなるわけだ。「モビリティーの課題をテクノロジーで解決するのがViaのミッションだ」とAdelman氏は話していた。

ソフトバンクと中国の滴滴出行が7月に設立した合弁会社DiDiモビリティジャパンは、日本においてはタクシー会社にプラットフォームを提供する形で動いている。Uberでさえ都市部では配車アプリとして使われているケースが大半だ。一方、新たに日本エントリーを果たしたViaは街、タクシーやバス会社、交通機関などにプラットフォームを提供する経験が豊富。すでに日本のタクシー会社や自治体などとの協議も進めているみたいなので、今後の展開に期待したい。

日本でも数々のライドシェア系サービスが誕生してきているし、Lyftの日本参入も噂されている。規制が厳しいこの国でライドシェアの文化がどのように定着・発展していくのか、今後も目が離せない。