火星で着るマーズジャケットやホタルのように光るソーラーチャージジャケットなど「未来の服」を作る英Vollebak

Vollebakは、ロンドンを拠点とする設立6年目のアパレル企業で、顧客に直接販売を行っている。Vollebakのウェブサイトを訪れた人は、同社の服に付けられた誇張された宣伝文句に驚くことだろう。例えば「『防水』だけでは不十分な、大嵐のためにデザインされた」ジャケット「雨、風、雪、火から身を守ってくれる」パーカー「先史時代のヒトが着ていた柔らかい獣皮の感触と性能を再現した『氷河期』」フリースといった具合だ。

他の追随を許さないこのマーケティングセンスは、CEOのSteve Tidball(スティーブ・ティドバル)氏本人が生み出したものだ。彼は双子の片割れであるNick Tidball(ニック・ティドバル)氏と共同でVollebakを創設した。2人とも以前広告業界で働いた経験があり、またどちらも活発なアウトドア派なのだが、ここ数年は家族とVollebakでの仕事が忙しくアウトドアアクティビティはご無沙汰となっている。先に「未来の服」を作るVollebakについて行ったインタビューの中で、スティーブ・ティドバル氏は、こうしたコピーを自分で書いていることを明かしてくれた。

このインタビューの中で、彼は衣服の製作にどの程度テクノロジーが関与しているのかという私達の質問に回答し、また、まもなく終了するシリーズAでの資金調達などで、Vollebakがこれまでに約1000万ドル(約11億4000万円)の外部資金を調達したことも語ってくれた。シリーズAは、ロンドンを拠点とするベンチャー企業Venrexが主導し、Airbnbの共同創設者であるJoe Gebbia(ジョー・ゲッビア)氏やHeadspace CFOのSean Brecker(ショーン・ブレッカー)氏などが参加している。このインタビュー記事は、長さの調節と内容を明確にする目的に編集されている。

TC:あなたは、双子のニック氏とともにVollebakを立ち上げましたね。Vollebakの特色として、服につけられたコピーが天才的な感じがします。そのあたりのお話を聞かせていただけないでしょうか。

ST:5年前、Vollebakを立ち上げました。その前は、15年間、どちらも広告業界で働いていました。ですから、コピーがちょっとおもしろいとしたら、それは私達の以前の仕事と関係しているかもしれません。

私達はマーケティングの観点からいえば、信じられないほどシンプルなルールでVollebakを運営しています。そのルールとは基本的に「可能な限りお金をかけない」ことです。例えば、数年前、私達はディープ・スリープ・コクーンという最初の宇宙服を作りました。マーケティングでは、ターゲットが誰かを必ず考えますが、その時の私たちのターゲットはElon Musk(イーロン・マスク)氏その人だったので、SpaceXの向かいにある看板に空きスペースを見つけ、そこにポスターを掲げました。ポスターには「我が社のジャケットは出来ているけど、そちらのロケットはどうなっていますか?」と書きました。これはそれほどコストがかからない方法ですが、とてもおもしろいコピーだったので、次の週、NASAから電話がかかってきて、彼らと少し話をすることになりました。

TC:Vollebakの服は、宇宙旅行からサステナビリティまで、次の世紀に人々が経験しそうだとあなたが想像することが反映されているように思います。例えば、暗闇でもホタルのように光を放つソーラーチャージジャケットがありますね。自然界で最も優れたカモフラージュ方法の1つである、イカの適応迷彩を再現したと言える「ブラックスクイッド」ジャケットもありますね。どの程度テクノロジーが衣服製作に絡んでいるのでしょうか?

ST:私達がここ5年ほど技術面で焦点を当ててきたのは、マテリアルサイエンス(素材の科学)です。これはスタートアップとしてはアクセスしやすい分野なのです。AIや衣服型装置のようなもっと複雑なテクノロジーに焦点を当てようとするなら大変な額の資金が必要ですが、マテリアルサイエンスなら、スタートアップにも扱うことができるからです。これが私達が大変関心を持っている分野です。マテリアルサイエンスをどの程度製品に込めることができるか、ということは通常あまり追求されていないように思います。

私達が発売した商品で最もおもしろかったものの1つが世界初のグラフェンジャケットでした。グラフェンを最初に分離した科学者でさえ、グラフェンでなにができるかをいうことはできませでした【略】そこで、私達は、こちら側にはグラフェンが使われていて、こちら側には使われていない、これをテストして、どうなるか教えて欲しい、と彼らに言ったのです。私達は、グラフェンは驚くべき作用があり、熱を保存し再分配することができる、そしてグラフェンが保存できる熱の量には制限がない、という理論を持っていました。テストでは、驚くような結果が2つ出ました。ある米国人医師が非常に寒い夜のゴビ砂漠で過ごすことになったのですが、彼はまずグラフェンジャケットをラクダに巻きつけ、そのジャケットがラクダの熱を吸収した後、もう一度そのジャケットを自分で着込みました。そうすることで、彼は一晩暖かく過ごすことができました。

別のロシア人の友人の場合は、ネパールの山で凍死しそうになったのですが、グラフェンジャケットに最後の一筋の太陽光を吸収させたところ、ジャケットが温まり、彼はそれをインナーとして着ることにしました。この友人は、夜通し体を暖かく保ってくれたのが、グラフェンジャケットだと信じています。

TC:グラフェンシャツやセラミックシャツをどのように作るのですか?特別な織り機があるのですか?それとも3Dプリンターでしょうか?プロセスを教えて下さい。

ST:とても困難なプロセスを経る、というのがその質問への回答です。そのために、当社の製品は通常の衣服より値段が割り高です。具体的には、特殊な工場、特にヨーロッパの工場でそれらを作ります。そうした工場には、わずかな人しかアクセスできない非常にハイテクな機器が備えられています。

TC:生産期間は通常短期ですか?

ST:そのとおりです。最初は、資金があまりなかったので、可能な範囲でできるだけ多くの服を作りました。それらはあっという間に売り切れ、また作る、という形でビジネスは拡大していきました。私達の製品には非常に複雑で、非常に実験的な部分があるので、1万着も作るのは無謀なことです。そこで、うまく機能するか、改善点はあるか、などを見るために、最も実験的なものについては短期で生産しています。

TC:そうした実験的な新製品の1つが、マーズジャケットですね。どこで着るものなんですか?

ST:火星のために何かを作るといっても、結局それを地球で検証しなければならないのですから、その皮肉さがちょっとおもしろいですよね。しかし、火星や宇宙旅行が現実になった場合、そこへ出かける人の数や、そこに行った際に彼らが行うべき仕事は指数関数的に増加するでしょう。科学者、生物学者、建設業者、エンジニア、建築家などが必要になるでしょうが、彼らは何かを着なければなりません。ですから、私達は今のうちから作業を始め、月か、火星か、もっと軌道の低いところかを問わず、実際に行うべきタスクにはどんなものがあるのか検討し、それらがどんな作業か、そして対処すべき課題はなにか、といったことを考えたいと思っています。マーズジャケットには吐くためのポケットがついているのですが、これは無重力になるとヒトの前庭器官が混乱に陥るためです。

TC:前庭器官について知っているなんてすごいですね。あなたはマーケティングの天才だと思っていたのですが、科学者でもあるんですか?

ST:私は、科学者のフリをしているエセ科学者ですね(笑)。まあ、私達の周囲には本当におもしろい人達がたくさんいて、彼らは未来の戦争について考えていたり、今後の宇宙旅行について考えていたりします。私達はよく、うちの事業はWhatsAppの上で行われているね、と冗談を言っています。

TC:顧客からのフィードバックは主にどこで集めていますか?一部のD2Cブランドは、ソーシャルメディアやインスタグラムで活発に活動して、Slackチャンネルも持っていますよね。Vollebakはいかがですか?

ST:私は当初から、革新的なテクノロジーとフレンドリーな人々をメールでつなげたら素敵だな、という考えを持っていました。

TC:Vollebakは、サイトを通した直接販売のみを行っていますが、今後このスタイルが変わることはありますか?

ST:現在のスタイルを短期間で変えることはありません。私達のブランドにとって絶対的に重要なことの1つがお客様からフィードバックを得ることですが、現在の販売スタイルを変えることで、お客様とのつながりを失ってしまうことが心配です。例えば、お客様が当社のシャツ、あるいはジャケットでなにかよい経験をしたとしても、それを買ったのがどこかの小売店なら、お客様は私達と本当のつながりを持っていないことになります。これは情報の喪失だと感じます。

当社では、近々メタバース空間でより多くのことを行おうとしています。メタバースという考え方、つまり仮想世界と現実世界との間に競争や統合が起こるというアイデアがとてもエキサイティングだと思うからです。そのために現在、その空間ですごいものを構築しており、ある物を処理できる強力なスーパーコンピューターを探しているところです。基本的に、未来を決定づけると思うものは何でも深く掘り下げていくつもりです。

編集部注:インタビュー全体はこちらでお聞きいただける。インタビュー全体には、Vollebakの女性製品発売計画や資金調達状況なども含まれている。

画像クレジット:Vollebak

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)