ロシアの検索大手Yandex、メディア事業からの撤退を検討中と投資家に説明

ロシアのインターネット大手Yandex(ヤンデックス)は、同社のメディア製品について「戦略的オプション」を模索していると投資家に語った。その中には、ニュースアグリゲーターのYandex Newsや、ユーザー生成コンテンツの推薦とブログの「インフォテインメント」プラットフォームであるZenの売却の可能性も含まれている。

このディスクロージャーは、米国時間3月16日に報じた、YandexがYandex NewsとZenの売却に向けて協議中であるという情報筋の話を裏付けるものだ。

この動きは、ウクライナ侵攻開始以来、ロシア国家による表現の自由に対する規制が強化されていることによるリスクと関連していると、情報筋は指摘する。この中には、ロシア軍に関する「偽」情報(クレムリンが好む「特別軍事作戦」という表現ではなく、ウクライナでの「戦争」に言及するなど)を流した者に長期の禁錮刑を科す恐れがある新しい法律が含まれている。

Yandexは中央ヨーロッパ時間3月18日、投資家向けの声明の中で、「ニュースアグリゲーションサービスとインフォテインメントプラットフォームのZenについて、売却を含むさまざまな戦略的オプションを検討します」と記している。

「当社は、その他のテクノロジー関連事業および製品(検索、広告、自動運転、クラウドなど)、トランザクションサービス(ライドヘイリング、eコマース、ビデオ / オーディオ、ストリーミングなど)の開発に注力する意向です」と同社は付け加えた。

Yandexの広報担当者は、Yandex NewsとZenの売却について協議中であることを確認した。

「ニュースアグリゲーションサービスとインフォテインメントプラットフォームのZenについて、売却を含むさまざまな戦略的オプションを検討していることを確認します」と同担当者は述べた。

同社はメディア製品の買い手候補について公のコメントを出していないが、内情に詳しい情報筋は先に、ロシアのソーシャルメディア大手VKが有力候補だと話していた。

Yandexは投資家向けの将来予測に関する声明で、売却プロセスが「初期段階にある」ことを示唆し「買い手の特定、許容できる条件の交渉、取引の締結に成功する保証はない」とも投資家に警告している。

オランダに籍を置くロシア企業である同社は、時価総額が68億ドル(約8106億円)だった2月25日に取引を停止している。

画像クレジット:Alexander RyuminTASS / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Den Nakano)

ロシアの「グーグル」Yandex、メディア事業から撤退か

プーチン政権はウクライナでの戦争に関するロシア国内の情報共有について締め付けを続けており、その影響でFacebook(フェイスブック)、Google(グーグル)、Twitter(ツイッター)と同じくメディア分野の主要プレイヤーでもあるロシア国内のハイテク大手がメディア資産の再編に着手している。

現地時間3月15日のロシアの報道では、往々にして「ロシアのGoogle」と呼ばれる同国の大企業Yandex(ヤンデックス)がメディア部門の売却交渉に入っており、ロシアのソーシャルネットワーキング大手VKが買い手候補に挙がっていると報じている。

この件に詳しい情報筋はTechCrunch に、ニュースアグリゲータのYandex Newsと、レコメンダーエンジンと連携したブログプラットフォームのYandex Zenを含むメディア部門の売却交渉が「最終段階」にあることを認めている。今後あり得る売却の時期については確認できなかった。Yandexは報道についてのコメントを拒否した。

この噂は、欧州連合(EU)内部でYandexに制裁を加えるよう圧力がかかっている中でのものだ。ニュース部門はすでに、Yandexの主要幹部(現在は元)Tigran Khudaverdyan(ティグラン・フダヴェルディヤン)氏に関連した制裁を通じて、EU規制当局から目をつけられている。

フダヴェルディヤン氏は3月15日、ロシアのウクライナへの正当な理由なき侵攻に関してEUの制裁を受ける個人リストに加えられた。EUは、Yandexのニュース事業の元責任者であるLev Gershenzon(レフ・ゲルセンゾン)氏の告発を引用し、Yandex Newsがプーチン政権のプロパガンダを広める役割を担っていることを強調した(ゲルセンゾン氏は現在ベルリンを拠点としていて、LinkedInのプロフィールによると2013年にYandexを退社している)。

この発表に続いて、今度はYandexから別の発表があった。フダヴェルディヤン氏は、Yandex NV(オランダに本拠を置き、NASDAQで株式公開しているYandexの親会社)の副CEOおよび取締役を退任する(取締役会は、同氏がEUの制裁対象者となったことを知り「ショックを受け、驚いている」と述べている)。

EUは「我々は、政権に実質的な収入源を提供している経済部門に関与しているオリガルヒ(新興財閥)や政権所属のエリート、その家族、著名なビジネスパーソンをさらに制裁リストに追加している」と述べた。「この制裁は、プーチン大統領のウクライナ人に対する戦争にともなう誤情報やプロパガンダにおいて主導的な役割を担っている人々も対象としている。我々のメッセージは明確だ。ウクライナへの侵攻を可能にした者は、その行動の代償を払うことになる」。制裁対象者への罰則は、資産の凍結や欧州への渡航禁止などだ。

フダヴェルディヤン氏が制裁対象個人リストに加えられた理由は2つある。1つは、プーチン政権とその対ウクライナの戦争をほう助したと考えられるYandexと、そのニュース部門の経営監督を行ったこと。もう1つは、2月24日にクレムリンで行われたオリガルヒとロシア高官の会合にフダヴェルディヤン氏が出席し、差し迫った制裁の影響について話し合ったことだ。

Yandex NVは2月25日に取引を停止したが、その時の時価総額は68億ドル(約8110億円)だった。

「ティグラン・フダヴェルディヤンは、機械学習によるインテリジェントな製品とサービスを専門とする、ロシアを代表するテクノロジー企業であるYandexの執行役員だ」と、EUは公式通知で述べている。「Yandexの元ニュース部門責任者は、同社がウクライナでの戦争についてロシア人から『情報を隠すための主要な役割』を担っていると非難した」とある。

EUはまた、Yandexの検索エンジンのユーザーが検索結果に基づいてウクライナに関するより広範なニュースを読むことを抑止しているとほのめかす製品決定にも言及し、こう書いている。「さらに同社は、ロシア政府がロシアメディアの掲載内容に関して脅迫した後、同社の検索エンジンでウクライナに関するニュースを探しているロシア人ユーザーに対して、インターネット上の信頼できない情報について警告している」。

さらに、2月24日に西側制裁の影響について話し合う会議にフダヴェルディヤン氏が出席したという事実そのものが「同氏がウラジーミル・プーチンに近いオリガルヒの内輪メンバーの1人であり、ウクライナの領土保全、主権、独立、またウクライナの安定と安全を損ねたり脅かす行動や政策を支持または実行している」ことを示していると指摘した。

これに加え、Yandexの幹部として、フダヴェルディヤン氏はロシアのテック分野でトップ幹部の1人であり、EUは「クリミア併合とウクライナの不安定化に責任を負うロシア連邦政府にかなりの収入源を提供している経済部門」の1人だと説明している。

フダヴェルディヤン氏が役職から離れることが現実的な動きなのかは明らかではない。同氏はもう国際的に活動できないのか、あるいはYandexがEUの直近の非難から経営陣を遠ざけようとするためにこれを行ったのか。

同社に関してはここ数週間、国際的にさらに孤立するような動きがいくつもある。NASDAQ市場での取引停止に加え、投資家のEsther Dyson(エスター・ダイソン)氏とスタンフォード大学の経済学者Ilya Strebulaev(イリヤ・ストレブラエフ)氏という、国際的に知名度の高い長年にわたる2人の取締役が3月初めに取締役を辞任した。Yandexは、財務的にも制裁の範囲に関しても同社は安全な状態にあると主張している。

いずれにせよ、ニュース事業を完全に切り離すことは、Yandexをすべてのドラマから遠ざける1つの方法といえるかもしれない。

その点では、VKは興味深い買い手となるだろう。VKの創業者 Pavel Durov(パーヴェル・ドゥロフ)氏が会社のトップから追い出されようとしていたときのことを思い出して欲しい。クレムリンにつながる企業が支配するMail.ruがソーシャルメディアのプラットフォームを支配下に置いた後(現在はVKを所有している)、政府がすでにビジネスにおいて強い役割を果たしているとドゥロフ氏が考えたことが内部紛争の一因だった。当時クリミア半島に集中していたウクライナでの紛争勃発が転機となった、とドゥロフ氏は当時述べた。

Yandexは長年にわたり、国際的な事業展開に意欲を燃やしてきた。実際には、ロシア語圏の国々への進出や、トルコでの事業展開が主なものだった。同社は、法律に則って事業を行わなければならないと主張しているプーチンのロシア内で開発されている「中立的」なプラットフォームであるという姿勢を維持しようとしてきた。

しかし、現在のロシアの体制下で、Yandexあるいはどの企業も中立であり続けることができるかどうかは疑問だ。

中立の幻想

オンラインに適用される法的規制には、大規模なニュースアグリゲーターに適用されるメディアライセンス規則が含まれる。つまり、Yandex Newsは国のメディア規制当局が監督する公式登録に記載されたニュースソースしか表示できないため、本質的に「中立」はまだ政府の公式監査人によって認定されたものだ。独立系メディアも、その過程で締め出される。その最新例が、調査報道サイト「Bellingcat」(ウクライナに対する戦争について報道し、プーチンのプロパガンダに長年苦しめられてきた)の国内での禁止だ。

Yandex NewsとZenの売却計画に詳しい情報筋はTechCrunchに、Yandexは5年も前にメディア部門の売却を検討していたと語った。しかし、これらの製品と他のYandexの資産との統合をほどくことの複雑さが、メディア部門からの撤退に向けた動きを先送りした可能性が高いという。

それ以来、プーチン政権はロシアのメディアに対する規制を強化し、2021年はニュースアグリゲーターに外国のメディアソースを「外国のエージェント」とラベル付けすることを要件とするなど、規制強化の動きは明らかだ。

TechCrunchの情報筋によると、ウクライナに関する言論を制限する新しい規制が導入された後、Yandexのこの分野からの撤退の決定が最終的に加速したという。ロシア議会は2022年3月初め、ロシア軍に関する「虚偽」情報を広めたとみなされた人に最高で15年の懲役刑を科すという新しい法律を承認した。

この法律は、Yandex Zenのようなプラットフォームのブロガーに明白なリスクをもたらすだけでなく、テックプラットフォーム自体にも、そのアルゴリズムが制裁対象コンテンツを拡散させていると見なされた場合リスクをもたらす。

RTBが報じたように、Yandexは近年、ニュースの選別アルゴリズムについてロシアの政治家たちから注目されていて、トップニュースの結果に影響を与えたと非難されている(同社は繰り返し否定している)。

Yandexは最近、Zenプラットフォームにいくつかの変更を加えた。おそらく、そうした政治的リスク、そしていまや法的リスクを少なくするための措置で、開かれたオープンインターネットからコンテンツを取り込んでいたオープンレコメンデーションモデルから、購読ベースのコンテンツのみを推薦するように変更したが、これはレコメンデーションによる収入に依存しているブロガーの怒りを買った。

しかし、TechCrunchの情報筋は、Yandexが中立性を主張しながらメディア領域で事業を継続することが実行可能だとはもはや考えておらず、代わりに、メディアの影響をそれほど大きく受けない検索やその他のテックに焦点を当てたサービスに力を注ぐことを示唆した。

「このような規制への対処は、技術的なものだけでなく非常に難しい仕事です」と売却計画に詳しい情報筋は付け加えた。

検索大手の同社は、広告収入からの多角化を図るため、他にもさまざまなサービスや事業を行っている。クラウドやeコマースサービス、翻訳技術、自動運転車技術、さらに配車やフードデリバリーサービスなどだ。

ある人は、Yandexがテックにもっと集中するためにメディアをあきらめ「事業を再構築する方法を再調査」する必要があり、クレムリンの管理強化や対ロ制裁が強まる国際情勢に適応しようとしていると語った。

VKの参入

ロシアのソーシャルメディア大手VKが、Yandexのメディア資産を購入する可能性があると言われている

TechCrunchの情報筋3人はVKがYandexのメディア事業買収を交渉している企業の1社であることを認め、VK内部の情報筋によると、同社は2021年もYandexと取引の可能性を議論していたという。

「2021年、Yandex NewsとZenの買収について議論しました。しかし、Yandexが売却を望んでいるため、今が買収する良い機会です」とこの情報筋は匿名を条件に話した。

別の情報筋は、VKを現時点でのYandex NewsとZenの「最も近い」買い手候補とし「Yandexにとって時間が重要だ」と述べ「数カ月以内に」取引が行われる可能性も示唆した。

TechCrunchは、VKがYandex NewsとZenの買収を交渉しているという噂についてVKに公式コメントを求めたが、本稿執筆時点で回答はない。

VKはすでに、同社の消費者向けソフトウェア製品群の中にニュース製品を持っており、インターネットポータル「Mail.ru」を通じてニュースコンテンツを表示している。

VKの関係者は、Instagram(インスタグラム)がロシア市場から締め出されたことで生じたソーシャル分野の空白でYandex Zenが成長する可能性を指摘し、ビジネスの観点からすれば、欧米の大手ソーシャルメディアへの規制は、トラフィックを獲得できるため喜ばしいことだと述べている。

「我々はロシア、ベラルーシ、および他のロシア語圏の国々で唯一のメディアかつソーシャル(プレイヤー)になりたいのです」と情報筋は付け加えた。

Yandexとは異なり、VKは国際的な事業を拡大する野心を表明しておらず、成長努力を地元市場に集中している(ただし、Yandexが国際的に大きく成長する見込みは、欧米のロシアに対する制裁が強化されるにつれて低くなる可能性がある)。

一方、Yandex検索は、プーチン政権が好まないウェブサイトやアプリをすべてブロックし、ユーザーに提供できるコンテンツを制限できるインターネット規制の下で運営しなければならない(実際、そうなっている)。

例えば2021年9月、Yandexは政府の禁止措置に従うため、獄中のクレムリン批判者Alexei Navalny(アレクセイ・ナヴァルニー)氏が作成した戦術的投票アプリを検索結果から排除することを余儀なくされた。

また、ロシアの裁判所は、Yandexがキーワード検索システムで「スマート投票」というフレーズを使用することを禁止した。つまり、そのフレーズに関連するコンテンツを提案することはできない。だが、Yandexは判決を不服として控訴した。

クレムリンの規制と欧米の制裁がロシア経済に打撃を与え続ければ、技術系人材の流出につながる可能性がある。ITコミュニティは、数千人のテックワーカーが個人的なリスクを冒して最近の公開嘆願書で戦争反対の意志を公にしたように、最も外向きでグローバルなつながりを持つプロフェッショナルの 1 つであることを考えると特にそうだ。

そのため、クレムリンが自国のテック企業に対する業務上の制限をどこまで強化するかという問題がある。強化すれば、企業全体が海外に移ることもあるかもしれない(Telegramの創業者ドゥロフ氏が自身の会社だったVKをロシアに残したように)。

クローンの攻撃

国際的な事業展開を目指すロシアのハイテク企業は、ロシアが世界からますます孤立していく中で、選択肢を考えているに違いない。すでにクレムリンの勢力圏に完全に組み込まれている企業もあれば、制裁によって外国人が残した空白にローカル成長の新たな機会を見出そうとしている企業もある。

1つだけはっきりしていることは、ウクライナでのロシアの戦争が、ロシア国内のデジタル経済のあり方に大きな影響を及ぼしているということだ。

西側諸国は、ウクライナ侵攻を受けてプーチン政権に圧力をかけるための重要な手段として、テクノロジーをターゲットにしている。ウクライナのハッカー集団「IT Army」のような草の根活動が、ロシアの多くの機関や企業のウェブサイトやインターネット事業を組織的に狙ってダウンさせる一方で、米国とEUはロシアの銀行や企業幹部、その他Internet Research Agencyとして知られる悪名高い企業などの団体に制限を加えている。

欧米の制裁ではロシアの決済が崩壊し、サービス撤退を求めるかなりの圧力が強まったため、多くの外国のハイテク大手がロシアから撤退した。

活動の変化の一部は、ロシア自身によって起こった。Facebook、Instagram、Twitterなどの主要ソーシャルメディアプラットフォームは、ロシアのインターネットおよびメディア検閲機関であるRoskomnadzorによってブロックまたは制限されており、プーチン政権はデジタル情報領域に対する支配を強めている。

欧米の大手ハイテク企業に対する制限の必然的な帰結として、そのギャップを埋めるためにロシア企業が参入する機会が生まれるということがある。

例えば、ロイターは3月16日、InstagramのクローンであるRossgram(ロスグラム)が地元の起業家によって立ち上げられ、3月28日に開始予定だと報じた。ロイターは、この構想のPRディレクターがソーシャルネットワークVKontakteに投稿した文章を引用ている。「我々の開発者グループはすでに準備ができており、我々の同胞に愛される人気のソーシャルネットワークのロシア版アナログを作成する機会を逃さないことにした」。

一方、戦略イニシアチブ機関(これ自体はロシア政府が設立した非営利団体)が設立したベンチャーファンドのIIDFは、ロシアから撤退したり、事業を禁止されたりしているサービスを代替したり、真似したりする、すでに存在するか構築されているテックサービスの登録を開始した。この登録は、IIDFのアクセラレータという形で行われているため、そのギャップを埋めるために、新しいスタートアップに資金を提供するプログラムも展開していることが想像できる。

画像クレジット:Lilyana Vynogradova / Shutterstock

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(文:Natasha Lomas、Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

ロシアの大手Yandexがシェア型eスクーターWindのテルアビブ事業を買収、イスラエルでの事業を拡大

ロシアの大手ハイテク企業であるYandex(ヤンデックス)が、シェア型eスクーター企業Wind(ウィンド)のイスラエルでの事業を買収し、イスラエルにおけるモビリティ事業を拡大しようとしている。両社は取引条件を明らかにしていないが、イスラエルの金融紙Globes(グローブス)が、価格は4000万ドル(約45億4000万円)から5000万ドル(約56億7200万円)だと推定されると報じている

Windは、Lime(ライム)、Leo(レオ)、Bird(バード)といった競合他社と並ぶ、イスラエルでトップクラスのeスクーターシェアリング事業者だ。Yandexは、すでに2018年からイスラエル国内でモビリティプラットフォームYango(ヤンゴ)を運用しており、配車サービスを皮切りに、ラストワンマイルデリバリーやフードテックなどに取り組んでいる。Yandexによれば、Windを買収することで、幅広いラストマイルと交通手段のソリューションを提供することが可能になり、自社のエコシステムを拡大することができるという。

Yangoが、新しく増えた車両を活用して、配達サービスを拡大していくことも考えられる。例えば、最近Yandexは、テルアビブ市周辺のダークストア(EC流通センター)のネットワークを利用した、食料品の即時配達サービスYango Deli(ヤンゴ・デリ)を開始した。まずは14カ所のダークストアから始めて、11月末までには数を倍増させる予定だ。

今回の買収には、Windが保有する1万台以上のシェアリング用スクーター、イスラエル内のスクーターのインフラや運用システム、移動経路の最適化に関する研究開発などが含まれている。ベルリンとバルセロナを拠点とするWindは、今後も欧州での事業運営を継続していく予定だ。これまでに合計で7200万ドル(約81億7000万円)の資金を調達しており、現在テルアビブ都市圏の13都市で数万人の顧客にサービスを提供しており、累計で約400万回の移動が行われたという。

Yandexがロシア国内でYandex Go(ヤンデックス・ゴー)と呼ばれるスクーターシェアリングプラットフォームを開始したのは、今回のWindの買収のわずか数カ月前だった。ロシア国内でのスクーター保有台数は約5000台と言われているので、今回の合併でYandexの規模は倍以上になる。ロシアの顧客は、Windアプリからスクーターを予約できるようになるが、イスラエルでもYangoアプリからスクーターを予約できるようになる。

Yandexはまた、イスラエル、アナーバー、韓国自律走行型配達ローバーのテストも行っており、現地当局から関連する許可を取得次第、ロボットによる配達を開始できると述べている。

また近い将来、同社のロボタクシーをYangoプラットフォームに導入したいといっている。

Yandexの広報担当者はTechCrunchに対して「私たちは2019年初頭からテルアビブ市内やその周辺で自動運転車のテストを行っています。イスラエルには、他の実験地では得難い、技術を試すための条件や課題があるのです。例えばあらゆる種類のラウンドアバウト、無数の2輪車やマイクロモビリティ車両、そしてもちろん地中海の暑さと高い湿度です」と語っている。

Yandexによると、モスクワは寒冷地であるため、伝統的には自転車に適した都市ではないが、それでもロックダウン中およびロックダウン後にラストマイルデリバリーが急増し、モスクワの街には自転車に乗った宅配業者があふれたという。

Yandexの広報担当者は「幸いだったのは、私たちのクルマはすでに過酷な温度条件への対処方法を知っていたということです。テルアビブでの経験は、新型コロナ期間中のモスクワで大いに役立ちました」と語った。

画像クレジット:Wind

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:sako)

ロシアYandexがYandex SDGなどのUberの持ち株を1102億円で買収、4事業を完全に所有

ロシアのインターネットおよび配車サービス大手のYandex(ヤンデックス)は、Uber(ウーバー)が保有するYandex Self-Driving Group(SDG、セルフドライビンググループ)の株式、およびUberが間接的に保有するYandex.Eats(ヤンデックスイーツ)、Yandex.Lavka(ヤンデックスラブカ)、Yandex.Delivery(ヤンデックスデリバリー)の株式を取得した。買収総額は10億ドル(約1102億円)で、Yandexが4つの事業を完全に所有することになる。

Yandex SDGとは、Yandexが2018年にYandex.Taxi(ヤンデックスタクシー)とUberのロシア事業を統合する形でUberと共同で設立した、配車サービスとフードデリバリーのジョイントベンチャー(JV)であるMLU B.V.から自動運転の技術をスピンアウトした企業だ。その当時、Uberは新会社MLU B.V.に36.6%の出資を行っていた。2020年SDGが分離独立したときには、Uberはその18.2%の株式を保有することになったが。この持ち分が今回Yandexに買われたということになる。またYandexは、Uberが保有していたYandexのフードデリバリーサービス、ラストマイル物流サービス、15分コンビニエンスストア配送サービスの、合わせて33.5%の持分を買い取った。

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2019年当時にYandexとUberは、モルガン・スタンレーが約77億ドル(約8484億円)の価値があると見積もっていたMLUのIPOを検討していると報じられていた。Yandexは、自動運転技術のことを「配車サービス、eコマース、フードテック事業を含むYandexのエコシステムとの相乗効果が高い技術です」と評価している。よってYandexが、その成長可能性のすべてをコントロールしたいと考えるのは自然な話だ。2021年の第2四半期に、EBITDA前5億900万ドル(約560億7000万円)の損失を計上したUberは、有利なエグジットを求め、より身近なところに優先順位を置き直そうとしているのかもしれない。

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Yandexの広報担当者は「今回の買収により、Yandexは自動運転技術に対する戦略的管理能力と柔軟性をさらに高めることができます」とTechCrunchに語っている。「このことは、YandexとYandex SDGの両者にさらなる成長の可能性をもたらし、株主のみなさまに新たな価値をご提供することができるでしょう」。

今回の買収は、MLU B.V.とYandex SDGの合弁会社の大規模な再編の一環であるということが、月曜日(米国時間8月30日)にUberがSECに提出した書類に記載されている。それらは2段階で行われる予定だ。第3四半期末までに完了する予定の第1段階では、Yandexは、新たに再編されて配車サービスやカーシェアリングなどのモビリティ事業に注力する予定のMLUの4.5%の株式を新たに取得することになる。これにより、YandexはMLUの合計71%を所有することになるが、そのうち2.8%は従業員の株式報奨制度のために確保されている。また、Uberが保有していたSDGの株式18.2%も第1段階で売却される予定だ。

そして年内に完了する予定の第2段階には、Yandex.Eats、Yandex.Lavka、Yandex.DeliveryのMLUからの分離と、それに続くこれらの事業に対するUberの持分の取得が含まれている。

Yandexは、Uberが保有するMLUの残りの持分を、合意された範囲内での増額が織り込まれたおよそ18億ドル(約1983億円)程度の、期限2年の米国型(期限内にいつでも行使可)コールオプションとして受けとることも決めている。この数字は、もし2023年に行使されれば20億ドル(約2203億円)にまで増加する。またYandexは、2030年8月まで、ロシアおよびその他の国でUberブランドを独占的に使用する。

Yandexは、ロシアおよびその他の一部の国におけるUberブランドの独占的使用権に関する現行ライセンスを、オプションの行使を前提に2030年8月まで延長する予定なのだ。Yandexの株価は、火曜日(米国時間8月31日)の市場終了時に5.16%上昇した。

関連記事:ロシアYandexの自動運転部門がGrubHubと提携、米国の大学キャンパスにロボット配達を展開

画像クレジット:Alexander RyuminTASS/Getty Images/Getty Images

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:sako)

ロシアYandexの自動運転部門がGrubHubと提携、米国の大学キャンパスにロボット配達を展開

ロシアの大手ハイテク企業であるYandex(ヤンデックス)の自動運転部門としてスピンオフしたYandex Self-Driving Group(ヤンデックス・セルフドライビング・グループ)は、フードデリバリーサービスのGrubHub(グラブハブ)と提携し、米国の大学キャンパスで複数年にわたりロボットによる配達を行うと発表した。Yandex Self-DrivingのDmitry Polishchuk(ドミトリー・ポリシュチュク)CEOからの発表によると、同社はこのパートナーシップの期間中に250以上のキャンパスにサービスを提供したいと考えており、まずは今秋に数十台のロボットを導入することから始めるという。

Yandexの自動運転部門は、2020年9月にUber(ウーバー)との合弁会社からスピンオフした。2021年5月には、自動運転で合計700万マイル(約1100万キロメートル)の走行距離を記録し、当時のWaymo(ウェイモ)を上回ったと発表している。Yandexは2017年よりフルサイズの自律走行車を開発しており、イスラエルのテルアビブやミシガン州のアナーバー、ロシアのイノポリスで、ロボットタクシーを使ったテストを行っている。2020年4月には、ロシアのスコルコボで、同社の自律走行車と同じ自動運転技術スタックを搭載した重量約68キログラムの6輪自動走行ロボット「Yandex.Rover(ヤンデックス・ローバー)」による商業配達を初めて開始した。

関連記事:ロシアYandexがUberとのJVから自動運転事業をスピンアウト、159億円を新会社に投資

「技術は確かに非常に複雑ですが、小さな町や大都市の特定の地区では、配送ロボットやロボットタクシーの形で導入を開始できるレベルに達しています」と、同社の広報担当者はTechCrunchに語り、次のように続けた。「3~4年後には、モスクワやニューヨークのような都市の中心部における渋滞時間帯に、経験豊富な人間のドライバーと同じように、安全かつ効率的に運転できるレベルに到達すると、私たちは確信しています」。

Yandexの商業化へのアプローチは独特だ。自動車用の自律走行技術を開発している多くの企業の中でも、Yandexはまずロボットで市場に出ようとしており「それは非常に効率的な方法のように思えます」と、広報担当者は語っている。「2018年6月に始まった配達用ロボットを作るというアイデアから、このようなきちんとした商業契約を結ぶまでに2年を要しました」。

Yandex.Roverは、ロシアではすでにフード配達プラットフォーム「Yandex.Eats(ヤンデックス・イーツ)」と食料品速達プラットフォーム「Yandex.Lavka(ヤンデックス・ラフカ)」で商用テストを行っている。同社の発表によると、Yandex.Roverは、時速5〜8キロメートルで移動し、歩道、歩行者エリア、横断歩道を自律的に運行できる。自動車が通行不可のキャンパスエリアには適したアイディアだ。このサービスはすでにGrubHubのアプリに完全に統合されている。ユーザーエクスペリエンスの面では、ローバーが目的地に到着すると、顧客はプッシュ通知を受け取り、外に出てアプリでロボットのハッチを開けることができる。

Yandexによると、同社の配送ロボットは、昼夜を問わず、雨天時や雪天時にも、信号機付きあるいは信号機のない横断歩道でも、運行させることができるという。ローバーはほとんどの場合、自律的に運行可能だが、同社の広報担当者によると、酔っぱらった大学生に乗られるなど、困難な状況に陥った場合には、遠隔支援のリクエストを送信することがあるとのことだ。

同社では、まだGrubhubとの提携を反映したロボットのブランド化は行っていないとTechCrunchに語っているが、今秋に数十台の車両を送り出すという目標が、無理なく達成できることを期待していると述べている。

「Yandexと協力して、大学生のフードデリバリー体験を変えていきます」と、Grubhubの法人・大学パートナー担当バイスプレジデントであるBrian Madigan(ブライアン・マディガン)氏は語っている。「私たちは、学生たちのユニークな食事のニーズに対応しようとしている全国の大学に、費用対効果が高く、拡張性があり、迅速なフードの注文 / 配達機能を提供できることをうれしく思います。大学のキャンパスは、特にフードデリバリーにおいて、自動車の乗り入れが難しいことで知られていますが、Yandexのロボットは、自動車が通行できないキャンパスの一部にも簡単にアクセスすることができます。これは大学が新しいテクノロジーを導入する際に直面する大きなハードルを効果的に取り除くことになります」。

問題は、新型コロナウイルス収束後の秋の新学期が始まる頃、酔っ払った男子学生がロボットを破壊したり盗んだりしようとする危険を掻い潜って、それらのロボットのうち何台がYandexに戻って来られるかということだ。

Yandexは、ロボットタクシーサービスの開発も継続して事業の商用化を進め、同社の自動運転技術をさまざまな場面で活用していきたいと述べている。

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カテゴリー:ロボティクス
タグ:YandexGrubHub自動運転ロボット配達フードデリバリー

画像クレジット:Yandex Self-Driving Group

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

6億台以上のブラウザは現在もアドレスバー騙しバグが未修正、AppleのSafari、Opera、Yandexなどは修正済み

年を追うごとに、フィッシングはアタッカーがパスワードを盗む最もよく使われる手段になってきている。ユーザーとして、我々はフィッシングサイトの明らかな兆候を見つけることにかなり慣れているが、ほとんどの人はブラウザのアドレスバーでウェブアドレスを見て、サイトが本物かどうかを確認する。

しかし、ブラウザのフィッシング対策機能(フィッシング被害者予備軍にとって最後の防御ラインであることが多い)も完全ではない。

セキュリティー研究者のRafay Baloch(ラファイ・バロック)氏は、Apple(アップル)のSafari、Opera、Yandexなど現在最もよく使われているモバイルブラウザに、アタッカーがブラウザを騙し、ユーザーのいるウェブサイトと異なるウェブアドレスを表示させることのできる脆弱性があることを発見した。こうしたアドレスバー騙しバグによって、アタッカーはフィッシングを本物のウェブサイトに見せかけるのがずっと容易になり、パスワードを盗むのにおあつらえ向きの環境が生まれる。

一連のバグは、脆弱なブラウザがウェブページを読み込む時間を要するという弱点につけ込むことで悪用される。被害者がフィッシングメールやテキストメッセージで偽のリンクを開いた瞬間、悪意あるウェブページはページに隠されたコードを実行して、ブラウザのアドレスバーに表示された悪意あるウェブアドレスを、アタッカーの選んだ任意のウェブアドレスに置き換える。

少なくとも1つのケースで、その脆弱なブラウザは緑の南京錠アイコンを表示したまま、アドレスを書き換えられた悪意あるウェブページが本物であることを示してしまった。実際にはそうでないのに。

Opera Touch for iOS(左)とBolt Browser(右)のアドレスバー騙しバグ。こうしたバグによってフィッシングメールがはるかに信用されてしまいやすくなる(画像提供クレジット:Rapid7)

Rapid7の研究担当ディレクターで、バロック氏と協力して各ブラウザメーカーに脆弱性を報告したTod Beardsley(トッド・ビアズリー)氏は、アドレスバー騙し攻撃はとりわけモバイルユーザーを危険に曝すと指摘している。

「モバイルでは画面スペースは非常に貴重なので、1ミリも無駄にできません。その結果、セキュリティーのシグナルやアイコンのためのスペースがあまりありません」とビアズリー氏はTechCrunchに語った。「デスクトップブラウザでは、現在いる場所のリンクを見たり、リンクにマウスをかざしてどこへ飛ぶのかを調べたり、南京錠をクリックして詳しい証明書を見ることもできます。こうした追加情報はモバイルではまず得られないので、アドレスバーはユーザーに現在いるサイトを教えるだけでなく、そこに曖昧性がなく確信を持ってユーザーに知らせることが求められます。もしあなたが「palpay.com」にいるにも関わらず、本来の「paypal.com」でなければ、パスワードを入力する前に自分がフェイクサイトにいることがわかります」。

「この手の騙しは、アドレスバーを曖昧にすることで、アタッカーが自分の偽サイトに一定の信用と信頼を与えることが可能になります」とビアズリー氏はいう。

バロック氏とビアズリー氏によると、メーカーの対応はまちまちだという。

これまでにアップルとYandexだけが9月と10月に修正を発行した。Opera広報のJulia Szyndzielorz(ジュリア・ジーンツィエルボルツ)氏は、ブラウザのOpera TouchとOpera Miniの修正を「徐々に公開する」と語っている。

しかしUC Browser、Bolt BrowserおよびRITS Browser(合わせて6億台以上の端末にインストールされている)は、研究者らへの返信がなく脆弱性は修正されないままだ。

TechCrunchは各ブラウザメーカーに連絡をとったが、いずれもまだ返事がない。

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カテゴリー:セキュリティ
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