Y Combinatorの2019年冬のDemo Day初日の有望スタートアップ10社

電気自動車の充電スタンド、兵士のためのヘッドアップディスプレイ、マリファナのコストコなど、一流アクセラレーターY Combinator(YC)の2019年冬のデモデーに登場したスタートアップには、TechCrunch好みの企業がいくつもあった。シリコンバレーの波動を感じたければ、YCこそまさにその場所だ。しかし、2日間にわたり2箇所で開かれた「Demo Day」(スタートアップが投資家にプレゼンを行うイベント)には200社を超えるスタートアップが登場し、そのすべてを把握するのは困難を極める。

興味のある方は、デモデー初日に登場した85社を超える企業の紹介記事を読み、完全な索引を見て2日目からピックアップした企業の記事を読まれるのがいいだろうが、ここではデモデー初日の半分から選んだ10社を紹介したい。私たちが選んだ理由も書き添える。

Ravn

戦場では、建物の角から顔を出すときが、兵士にとってもっとも危険な瞬間となる。Ravnは、兵士や警察官が、角を曲がった先の様子を確認できるヘッドアップディスプレイを作っている。銃やドローンや、周囲のカメラの映像を利用する。遮蔽物に身を隠したままで敵を見ることができれば安全だ。Ravnはすでに、米海軍と空軍との間で49万ドル(約5468万円)の契約を交わしている。海軍の特殊部隊Seals出身のCEOは、コンピューター科学を学び、拡張現実の専門家となり、国防省に売り込みをかけた。Ravnは、今後かならず必要になるであろう歩兵用のヘッドアップディスプレイを供給できる。

Ravnを選んだ理由:戦場はかならずAR化される。しかし、MicrosoftのHoloLensチームは、現在、弾倉にあと何発弾が残っているか、仲間はどこにいるかといった戦闘中の情報提供に重点を置いている。Ravnの技術は、そうした撃ち合いの惨状を体験してきた人間が開発した。彼は、兵士が危険な状態に陥る前に戦闘を回避する、あるいは勝利することを目指した。同社には、米政府にハイテク機器を売り込む専門家がいる。

Middesk

仕事のパートナーが税金を払っているか、破産宣告していないか、または訴訟に捲き込まれていないかを知るのは難しい。こうした事故による回収不能になった不良負債は、年間1200億ドル(約13兆3900億円)にのぼる。Middeskは、事業の優良不良を識別し、企業間取引、融資、投資、買収などの信頼性を高める適正評価を行っている。顧客が安心して資金を出せるよう、Middeskは、広範にわたる取り引きに介入する。

Middeskを選んだ理由:同社は、実質的にあらゆる取り引きに関与できるビジネス界の弁護士として信頼を高めている。情報が多いほど、愚かな決断は減らせる。Middeskは、疑わしい取り引き相手を信じてしまわないよう、予防してくれる」から。

Convictional

消費者に製品を直接販売している業者が、より簡単に大手小売り業者と取り引きできるようにする企業。通常、製品を提供する側が小売業者との関係を築き、製品を売ってもらえるようになるまでには長い時間がかかるが、Convictionalは、企業間のセルフサービス商取引プラットフォームで、この時間を短縮する。これを使えば、小売業者は簡単にメーカーとつながり、発注できるようになる。

Convictionalを選んだ理由:スーツケースからひげ剃りにいたるまで、あらゆるものが直販されるようになったが、製品の露出度や販売規模を拡大するためには、こうした商業分野から追い出されないように頑張っている小売り業者とつながる必要がある。仲介者であるConvictionalは、高収益が見込める立場にあると同時に、貴重な購買データの宝庫にもなり得る。

Dyneti Technologies

詐欺を50パーセント以上予防し、コンバージョンを5パーセントまで高められるクレジットカードのスキャナーSDKを開発。同社は、Uberの元従業員2人によって設立。そのうちの一人は、Account SecurityとUberEATSで詐欺の分析部門を立ち上げたCEOのJulia Zheng氏だ。Dynetiのサービスは深層学習に支えられており、あらゆるカード方式に対応する。設立からわずか2カ月で、RappiやGametimeなどの企業と契約を交わしている。

Dynetiを選んだ理由:サイバーセキュリティー上の脅威は増す一方だが、その対策が未熟な企業も、電子商取引に乗り出したいと躍起になっている。Dynetiは、Stripeのような基本的な企業間事業のひとつだ。複雑な問題を単純化して信頼をもたらす能力があるため、企業は自社の製品に集中できる。

AmpUp

「電気自動車充電器のAirbnb」と呼ばれるampUpは、大多数の人が電気自動車に乗る世界に向けて準備を進めている。スマホアプリで、無数にある充電スタンドとドライバーをネットワークで結んでくれる。このアプリを使うと、電気自動車の運転車は、最寄りで自分の車に適合する充電スタンドを素早く知ることができる。また、充電器のオーナーは、自分で決めた価格で料金を徴収し、自分のスケジュールで運営ができる。このサービスは現在、サンフランシスコ湾含地区で展開されている。

ampUpを選んだ理由:時代は電気自動車に向かっているが、確実に充電できるか否かの不安が、電気自動車の購買意欲を削いでいる。大規模な充電スタンドのネットワークを自社で構築したところで、ガソリンスタンド網には到底及ばない。そこでampUpは、充電器で収入を得たいと考える人なら誰もが、自分の土地に充電器を置けるようにした。

Flockjay

Flockjayは、オンライン営業学校だ。仕事を探している人なら、ハイテク産業での営業の実績が少なくても、専門の教育をほとんど受けていなくても受講できる。12週間のブートキャンプで訓練や指導を行う。同社は、17名の生徒とともにこのサービスを開始し、全員がすでに企業の面接を受け、40パーセントがハイテク産業での新しい仕事の内定をもらっている。

Flockjayを選んだ理由:プログラミングのブートキャンプの場合は参加条件が非常に厳しいが、優秀な営業マンはやる気のある人間を見習えばなれる。経験や教育が乏しい人たちは、一般に当たり前とされている機会を手に入れるために、自分を上手に売り込む方法をすでによく知っている。Flockjayは、職の確保が大変に難しい人たちに、エコノミック・モビリティ(所得階層の上位移動)をもたらす可能性がある。

Deel

世界には、米国企業と契約している業者が200万件あるが、彼らとしっかり取り込み管理するのは難しい。Deelは、契約、支払い、税金に関する業務をひとつのインターフェイスにまとめ、書類仕事と時間の無駄を削減する。使用料は月間10ドル。支払い1件あたり1パーセントの手数料も徴収する。これにより、契約業者1社につき年間平均560ドルの収益が得られる。

Deelを選んだ理由:遠隔勤務が奇異な目で見られなくなったことで、アメリカの産業には、海外での新しい人材確保の機会がもたらされた。しかし、遠く離れた国の人員を適切に管理できなければ、せっかく安い労働力を確保してもコスト削減にはつながらない。グローバリゼーションの流れは今後も続くため、企業にはよりよい人材管理ツールが必要となる。

Glide

以前から、トレンドはウェブページやモバイルアプリを簡単に作れるサービスに大きな関心が集まり、流れはそちらに向かっていた。Glideは、Googleスプレッドシートを使うことで、顧客が簡単に本格的なモバイルアプリを作れるようにする。ページが簡単に作れるだけでなく、サイトの情報を常に最新に保つ方法も単純化している。

Glideを選んだ理由:デスクトップ・ウェブサイト製作の市場は熾烈を極める。プログラミングができない人には、モバイルサイトの開発も容易ではない。視覚化されたレイアウトツールもまだ馴染みが薄いので、Glidesは、誰もが使ったことがあるスプレッドシートで作ることを考えた。このところ、どのブランドもインフルエンサーも、ウェブページから親密性が失われつつある。そのためGlideでは、第一に親近感があり個性的になるよう、アプリを仕立てる手助けをしてくれる。

Docucharm

Uberの元プロダクト・マネージャーMinh Tri Pham氏が共同創設者に加わったプラットフォームだ。書類をコンピューターに理解できる構造化データに変換して、書類の処理とワークフローを正確に自動化し、人間によるデータの打ち込みの必要を排除する。DocucharmのAPIは、たとえば給与明細など、いろいろなフォーマットの書類を認識でき、間違いなく必要な情報を抽出できる。顧客には確定申告代行業のTributiや貸金業者のAspireなどがある。

Docucharmを選んだ理由:高い技術を持つ高給の社員にデータの打ち込みをさせるのは無駄なことだ。Docucharmのような光学文字認識は、データ抽出を元に新しいビジネスの世界を切り拓く。このスタートアップには、その業界全体を支えるAI基盤になる可能性がある。

Flower Co

マリファナを安価に販売し配達する会員制のショップ。たいていの医療機関は、高価な製品と手厚い世話を求める金持ちや初心者の需要に応えている。それとは対照的にFlower Coは、低価格のマリファナを大量に求める昔からの愛好家の需要に応えるものだ。現在同社は700名の会員に月間20万ドル(約2200万円)のマリファナを売り上げている。会員料金は年100ドル。販売ごとに10パーセントの手数料を徴収する。

Flower Coを選んだ理由:マリファナは次なるゴールドラッシュだ。1世代に1回だけの土地の奪い合いとなる。しかし、大多数がずっと前から大勢の友だちと安いマリファナを楽しんできた愛飲家たちであるにも関わらず、ほとんどのマリファナ販売業者は、非常に目の肥えた高級な客に焦点を合わせている。マリファナの吸引をライフスタイルにしたい人たちは、今後大量に増えると思われるが、Flower Coは、そんな人たちの御用達業者になれる。

【編集部注】米国では過半数の州で医療用大麻が合法化されているほか、10州ほどで嗜好品としても合法化されているが、日本では大麻取締法で規制されている違法薬物だ。

その他の注目企業

Atomic Alchemy:核医学の不足を埋める。
Yourchoice:あらゆる性を対象としたホルモンを使わない妊娠調整。
Prometheus :二酸化炭素をガソリンに変える。
Lumos:意志のための医療用検索エンジン。
Heart Aerospace:短距離電動飛行機。
Boundary Layer Technologies:超高速なコンテナ輸送。

Y Conbinator 2019年冬のデモデー初日に登場した85を超えるスタートアップ紹介(本文は英語)

追加取材:Kate Clark、Greg Kumparak、Lucas Matney

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(翻訳:金井哲夫)

ベンチャーキャピタルのSFへの移転加速、アンドリーセン・ホロウィッツが年内に引越

トップクラスのベンチャーキャピタルが次々にサンフランシスコに移転する中、最後までシリコンバレーに踏みとどまっていたAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)がついに市内に引っ越すことに決めたようだ。事情に詳しい情報源によれば、Andreessen Horowitzは今年中にサンフランシスコにオフィスをオープンさせるという。

ウォールストリートジャーナル(WSJ)のさる金曜日の記事によれば、同社は180 Townsend Streetビルのリース契約にサインしたという。このビルはMLBのサンフランシスコ・ジャイアンツのホーム・スタジアムの付近にある(今年1月までAT&Tパークとして知られていたが、現在はオラクル・パークと改名された)。

我々の情報源によれば、「a16z(Andreessen Horowitz)はスタンフォード大学近くのサンドヒル・ロードの広大な敷地のオフィスを閉鎖するわけではない」という。同社は2009年の創立直後からここを本拠としてきた。情報源は「a16zはビル全体をリースするわけではない」と付け加えた(180 Townsendは延べ床面積が3800平方メートルもある)。

ここ数念、シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルがサンフランシスコにオフィスを移す動きが続いていた。a19zもこれに加わったことはベンチャーキャピタルの地理的重心が北に50キロほど移動するトレンドを確認するものだ。

サンフランシスコ市内にオープンしたベンチャーキャピタルはTrue Venturesだった。当初はウォーターフロント地区だったが、その後もっと便利なサウスパークに移転した。この近所にはKleiner Perkins、Accel、General Catalyst、New Enterprise Associatesといった名だたるベンチャーキャピタルがオフィスを構えている。

サンフランシスコの金融センターに近く、エンバーカデロとチャイナタウンの中間に位置するジャクソン・スクエアにもJackson Square Ventures、NextWorld Capital、 Catamount Ventures、Sway Venturesなどいくつかのベンチャーキャピタルの本社がある。

Andreessen Horowitzは同業他社がサンフランシスコやニューヨークにオフィスをオープンする動きにも影響されずメンローパークのサンドヒル・ロードを唯一の拠点として順調に活動を続けてきた。

しかし、我々のの情報源によれば、1年ほど前からサンフランシスコ市内にも拠点を設けることを真剣に考えるようになったという。最終決定に至ったのは最近のようだ。これで150人の社員の多くは毎日の長時間通勤の苦労が大きく軽減されるに違いない。社員の多くは市内に住んでおり、会社まで車で延々と走ることを余儀なくされていた。

もちろんいちばん要なのは、市内にオフィスを設けることで投資先のファウンダーとこれまでより密接にコンタクトできる点だろう。ファウンダーたちは静かすぎるシリコンバレーを好まず、サンフランシスコを拠点とすることが増えていた。

もちろんサンフランシスコの不動産価格は過去最高を更新し続けており、WSJの記事によれば、大手不動産業者のCushman & Wakefieldのオフィス賃貸料月額は2018年第4四半期現在で平方メートルあたり813ドルという記録的な額になっているという。これは前年同期比で6.4%のアップだ。

我々は有名アクセラレータ、ベンチャーキャピタルのY Combinatorが市内に適当な物件を探していると報じた。Andreessen Horowitzに続いてY Combinatorも今年サンフランシスコに引っ越してくることになるかもしれない。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

4300万円で垂直離着陸の空飛ぶバイク、一流アクセラレーターY Combinatorが投資

David Mayman氏は、この10年間、パーソナルな航空機のを追い求めて、10年の歳月と数百万ドルの個人資産をつぎ込んできた。彼は、ジェットパックは方向性を誤った幻想に過ぎないという大方の意見には納得していない。自身の会社Jetpack Aviationでジェットパックを作り続け、認知度を高めるためのスタント飛行をほうぼうで披露しながら、彼は人が空を飛ぶということに関しては、まだまだ夢を見る余地があると人々に訴えてきた。

それにしても、従業員8人のスタートアップで、価格38万ドル(約4300万円)の「空飛ぶバイク」を作ろうというのは、かなりの難題だ。ときどき無謀な冒険に出ることで知られる一流アクセラレーターY Combinatorは、この会社とジェットエンジンに魅せられたそのCEOに賭け、次なる投資先に決定した。

Jetpack Aviationは、まったく違う会社になろうとしている。同社は今週、大ばくちの中の大ばくちである一人乗りの垂直離着陸機「Speeder」の予約受け付けを開始した。「スター・ウォーズ」か「Halo」からそのまま抜け出したようなスタイリッシュなコンセプトデザインの乗り物だ。

【編集部注】この垂直離着陸機は、A.L.I.Technologiesが日本国内で商標登録済みで開発中の「Speeder」とはまったく関係がない。

お金持ちでSF好きな購入希望者は、最初に出荷されるバイクの予約順番待ちの列に並ぶためだけに1万ドル(約110万円)以上を支払わなければならない。しかし、このスタートアップの創設者は、これを資金集めというより、野心的な同社の将来の成功を支援したい人がどれほどいるかを確かめるためのものと考えているようだ。

「これは私たち全員にとって、実用性を宣言するものです」とMayman氏はTechCrunchに話した。「Tesla Model 3の一般販売までに長い時間がかかったことを考慮すれば、これがすぐにでも商品が手に入る、生産の最終段階で行われる予約注文としてのKickstarterキャンペーンとは性格が違うものだとわかってもらえるはずです」

まずギャンブルがあり、それからバイクができる。これはYCのスタートアップへの投資としても異例の形だが、Mayman氏にとっても、これは今までのビジネスとは違う筋道だ。彼はこの12年間、ジェットパックへの執着を自己資金で賄ってきたからだ。オーストラリア出身のCEOであるMayman氏にとって、YCの投資は、シリコンバレーのベンチャー投資家ネットワークにつながりを与えてくれるものだった。彼はまた、サンフランシスコは非常に奇抜なものを予約注文したがる企業の幹部を育てる街だと、正当に評価している。

「空飛ぶバイクに誰も興味を示さないなんて、あり得ません」とYCの共同経営者であるJared Friedman氏はTechCrunchに宛てた電子メールで語っていた。「Jetpack AviationはSpeederで未来を作りました。この技術が、過酷な通勤、旅行、そして日常の移動をどう買えるのか、楽しみです」

同社のジェットパックへの人々の関心と期待を高めるために、Mayman氏が使える手段は、大勢の報道陣の前でプロトタイプの壮観なデモ飛行を披露することしかない(Jetpack AviationがRed Bullと提携していることは意外なことではない)。ところが、Speederの飛行できるプロトタイプはまだ作られていない。彼は、この新しい投資ラウンドで実現すると話している。

2015年、自由の女神の周囲をジェットパックで飛行するMayman氏

本当に作れるのだろうか?これは大きな疑問だ。

私たちとの会話の中で、Mayman氏は次のことを率直に認めた。

  1. Speederが顧客の手元に届くまでには「少なくとも」2年の開発期間を要する。
  2. このモデルを出荷するためには「数千万ドル単位」の資金が必要である。
  3. 未知の部分がまだ山ほどある。

Jetpack Aviationの現在のデザインは、Uberなどの企業が開発を進めているヘリコプター型のコンセプトVTOL機とは違い、比較的滑らかで、人は、ジンバルで支えられた数基のジェットエンジンを搭載する本体の上に直接またがるという野心的なスタイルだ。

同社によれば、最終デザインでは、このバイクは最大速度が時速150マイル(時速約240キロ)、最大高度1万5000フィート(約4500メートル)で飛行できるという。航続時間はまだ限定的で、このモデルの場合は最長でおよを30分。同社はいくつかのバージョンを計画している。その中には、米連邦政府による規制に準拠し、パイロットの免許を持たなくても操縦できる軽量モデルもある。

当面の問題は自動安定化技術の開発だ。Speederを、簡単に安全に飛ばすには欠かせない。Mayman氏によれば、VTOL機のデザインはどれもがクアドコプター型だという。推進システムの上に重心を載せることが非常に難しいからだ。「指の上に立てた鉛筆のバランスを取るようなものです」と彼は言う。

同社では、人々にジェットパックの操縦訓練を行っている。ジェットパックはこれまでに11回のデザイン変更が加えらた。システムをうまく使いこなして飛び回れるようになるまで、およそ1週間だという。しかし、Mayman氏はこのバイクを、普通に使えるデバイスにしたいと考えている。スティーブ・ジョブズ氏がiPadのシンプルさを説明したときに、とても説得力のあったデザインコンセプトだ。だが、人がこれに乗って市街地を飛行するCG映像を見ると、ちょっと普通ではない感じを受ける。

すでに市場に存在するドローンのための自律飛行や安定化の技術では、Jetpack Aviationの眼鏡にはかなわない。しかし、Mayman氏によれば、3分の1スケールのプロトタイプでは目覚ましい進展があったという。また、複数のジェットエンジンを中央で束ねた方式が難しい場合のために「見栄えは少し悪くなるが」プランBも用意していると彼は話してくれた。

このようなコンセプトを離陸させて、会社が惨めに墜落しないためには、このビジョンが成熟する過程を柔軟に見守ることが重要だと、Mayman氏も言っていた。彼らはそのバイクに複数のデザインで臨んでいて、認可を得るための規制環境についても複数の事態を想定している。また、これとは別に軍用バージョンの開発と、高速医療救助などの緊急対応に特化したデザインも計画している。

1万ドルを支払って予約した人たちが、まったく違うスタイルの製品を手にしたときにがっかりしないかと訪ねると、最終的にほぼ同じデザインで製品化できるよう、十分なモデリングを行っているとMayman氏は答えた。「デモのCGとまったく同じとはいかないかも知れませんが、それでも、オートバイやジェットスキーほどのサイズの同系統のコンセプトに収まると私は信じています」

まだ影も形もない状態から予約を受け付けるとは、かなりユニークな決断だが、彼らは明らかにテスラを模範にしようと考えている。40万ドル近い大枚を自由にできる人が、ジェットエンジン付きのジェットスキーを買いたいと思えば、なんとしても自由市場にそれをやらせるしかない。

Y Combinatorからの15万ドル(約1667万円)の投資は、その途方もない事業の第一歩を支えるものであり、他の人たちのレーダーにも引っ掛かるように自信を持って勧める意味もある。Mayman自身は、彼が情熱を傾けるプロジェクトの野望をさらに拡大できることを純粋に喜んでいるようだ。そのビジョンを実現させるまでの道のりに、無数の障害物が横たわっていたとしてもだ。

「手を付けなければ、到達はできません」とMayman氏。「もしみんなが『すごいぞ、こんなものを作れるなんて、めちゃくちゃ幸せだよ』と感じながら毎朝目を覚ますことができないのであれば、そんなことはやる価値がありません。別のことをしたほうがマシです」

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(翻訳:金井哲夫)

Yコンビネーターの支援するCodeCombat、プログラミング学習RPGを提供中

プログラミングの勉強を始めたいと思ったものの、どこから始めて良いのか迷っている人も多いはずだ。プログラム初心者向けのサービスはいろいろと出揃ってきている。そんな中、最近注目を集めているのはYコンビネーターの支援するサービスで、ゲームを通してプログラミングを学ぼうとするものだ。

ゲームはウェブベースのもので、コンピュータサイエンスの基本講座で学習するような、JavaScriptの基本を勉強することができる(訳注:日本語化もされています)。ゲームを進めていくには、提供されるレッスンを理解して、自分でプログラムを書いてきちんと動作させる必要がある。

ゲームの内容はRPG風のもので、ビギナー用のシングルプレイヤーモードと、経験者向けのマルチプレイヤーモードが用意されている。対象としては楽しみながら基本を学びたいと考える高校生程度を想定しているとのこと。共同ファウンダーのGeorge Sainesによると「すごい勢いで参加者が増えています」とのこと。

開発を始めたのは2013年2月のことだ。来週にYコンビネーターを卒業することになっている。昨年10月からベータ版として運用しているのだが、その前からRedditでアルファ版のソースを提供していた。1月にプロダクト全体をオープンソース化し、利用者が自分でコンテンツを作れるようにレベルエディターも公開した。

「この動きをさらに広げていきたいと考えています」とSainesは言っている。「多くの人がゲームをプレイしてくれていますが、コンテンツ制作にはどうしても時間がかかります」。

レベルエディターを公開してから、103人がコンテンツの投稿を行ってくれたのだそうだ。

ゲームは無料で、Saines曰く無料で提供し続けていくつもりだとのこと。そして採用活動と結びつけることによるマネタイズを考えているのだそうだ。CodeCombatでは、ゲーム上に現れる課題をどのように解決したのか、どういう方法で解決したのかを記録に残すこともできる。そうした記録を残しておけば、プレイヤーのプログラミング能力を正確に見極めることもできるわけだ。

こうした情報を、採用希望企業と共有することによって、CodeCombatはいわゆるプラットフォーム料金を得ることができるというわけだ。

CodeCombatは無料で、こちらにてプレイすることができる。

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(翻訳:Maeda, H


履歴書ではわからないプログラマ能力を評価するHackermeter。採用現場での普及を目指す

有能なプログラマを雇おうと考えたとき、応募された履歴書を見ていくという行為はたいてい無駄なものとなる。募集要項なども見ずに応募してくる人をはじくこと程度にしか役に立たないのだ。優秀な技術者を募集したとしよう。するとプログラマを自認する人のすべてが「Cに堪能である」として応募してくることもあり得る。だまそうとするのではなく、各自の基準にて自分で信じ込んでいる場合もあるのだ。

そうした事実に対処するため、コーディング能力を数値化しようとするのがHackermeterだ。Y Combinatorに参加していたスタートアップのひとつだ。

Hakcermeterは、基本的にコーディング課題に対応する能力によってスコア付けを行う。より良いプログラミングを行えばスコアは高くなる。スコアが高ければ、それだけ有能な人材であると認知されるようになるわけだ。

Hackermeterに登録する際、まずはプログラマであるのか採用側であるのかを選択する。

プログラマであるとして登録すると、選択すべき課題範囲が表示される。もちろん基本的なものから応用レベルのものまでがある。基本的なものの方では、たとえばフィボナッチ数列ジェネレーターを作るとか、回文であるかどうかを判定するプログラムを作るといったようなものだ。難しい方ではJSONを使って特定のデータ構造をパースするツールを作るだとか、あるいは簡易暗号化モデルの限界をテストするといったようなものもある。

課題はいずれもRuby、Python、Java、C++ないしCという5つの言語に対応している。コーディングおよびテストはブラウザ内で行うようになっている(大事なところなのだが、後に改めて説明する)。納得がいくものに仕上がったら、書いたプログラムを登録する。登録したプログラムが課題に適合するものであれば、ポートフォリオに登録され、スコアにも反映するようになる。

採用側であるならば、Hakcermeterのデータベースを使って検索をかけることで、自動的にふさわしいプログラマを見つけることができるようになっている。たとえばPythonのエキスパートを探しているとする。難しい課題をPythonを使って回答した人という条件を指定すれば、該当するプログラマが簡単に見つかる。レベルの高さはさほど必要ないが、ともかくRubyを使える人を探したいときはどうするか。課題レベルを検索条件から外して、Rubyで回答した人という条件のみで検索をすれば良い。こうして条件を満たすプログラマに対して、メッセージを送るなりの対応をすれば良いわけだ。あるいはこの段階でも条件があうかどうか不安であるならば、さらに「スクリーニング」を行うこともできる。

「スクリーニング」というのは、採用者側で用意する連続(rapid-fire)課題のことだ。Hackermeterにも予めいくつか用意されているので、それを使っても良いし、作成から採用者側で行っても良い。制限時間を設定し、スキップ可能な課題数(スキップ不可でも良い)を定め、そして採用候補者に提示する。

こうしたサービスで最も問題になるのは、「Google」だ。課題内容を入手して、その課題についての回答をどこかにアップロードするという人はいるだろう。すると自分で解かなければならないはずの人も、Googleで検索をして、コピーペーストでエキスパートに成りすますことができてしまう。

ここで関係してくるのが、先に「改めて説明する」と書いていた部分だ。Hakcermeterは、システム側で用意しているエディタ内でコードの作成を行うように指示している。実は、採用者側は後に回答者のキーストロークをひとつひとつ再現できるようになっているのだ。ペースト動作一発で回答を作成しているとしたならば、それはおそらくカンニングの事実を示すものといえるだろう(あるいは使い慣れた自分のエディタで作業をしたということを示すのかもしれないが、それはしてはならないことになっている)。キーストロークひとつひとつを再現されるのは気持ちが悪いという意見もあるだろう。しかし対面式のコーディングテストなどを行う企業も増えつつあり、結局のところそれと変わらないと考えることもできる。

もちろん不満の声もあり、現在のところは次の2つが主なものだろう。

  • サイトで扱う情報が、コーディングスコアのみしかない。名前とスコアしか表示されていないのは、確かにある意味では「効率的」だろう。しかしもう少しパーソナルな情報も欲しいという考えもあろう。コーディングを行っているのがどのような人物で、どういう嗜好ないし志向をもっているのかという情報があっても良いかもしれない。あるいは2分間の自己紹介ビデオを掲載した方が良いなどという考えもあるかもしれない。「スコアも興味深いものでしょうが、こちらに私の作った素晴らしいプロダクトもありますよ」などという紹介文は双方にとって役立つ情報となり得る。おそらくこうした機能は何らかの形で組み込まれることになるはずだ。取りあえず、今のところは存在していない。
  • 透明性の問題。課題に回答すると得点が付けられる。しかし、どのような部分で減点されているのかということがよくわからない仕組みになっているのだ。Hackermeterの共同ファウンダーであるLucas Bakerによれば、得点は消費時間、コードの効率性、そして課題の難易度などを考慮してつけられているのだと言う。しかし得点についての疑問の声もある中、評価基準の客観化も進めようとしているのだそうだ。現在のところはブラックボックスとなっている。

Hackermeterは、プログラマの採用手続きから履歴書というものを排除してしまうものとなるだろうか。おそらくそうはなるまい。効率性はともかく、組織は履歴書のようなものの存在を必要としており、またHR部門も履歴書なしでは動きえない面がある(そもそも優秀なプログラマというのは一般公募の形ではなく、高額な報酬で動くヘッドハンターを経由して採用されることも多い)。しかしそうであってもHackermeterのようなサービスは面白い。優秀なプログラマを見つけ出すことはますます難しくなっているようで、さらに給与も高額化しつつあるようだ。こうした中、Hakcermeterのようなサービスを使ってみようと思う企業もあるだろう。また、職探し中のプログラマにとっても、自らのスキルを多くの採用担当者に見てもらうのは、決して悪いことではないはずだ。

Hackermeterはプログラマとしての利用は無料で、採用側は採用者数に応じたコミッションを支払うことになっている。

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(翻訳:Maeda, H)


バックエンドまわりをすべて引き受けるBacklift, デベロッパはフロントエンドだけ書けばよい

今日ローンチしたY Combinator出身のスタートアップBackliftは、フロントエンドデベロッパのためのバックエンドデベロッパ、を自称している。サーバ環境のセットアップなどをすべて引き受けるので、フロントエンドデベロッパはまさにフロントエンドのロジックだけに集中できる。そのために必要なのは、Dropboxのアカウントとテキストエディタのみ。BackliftはDropboxをファイルシンクサービスとして利用する。あなたの縁の下にBackliftがいると、RailsDjangonode.jsなどのセットアップについて、あなた自身は何も知らなくてもよい。

BackliftのファウンダCole Krumbholzによると、彼のねらいはデベロッパがいきなり自分のフロントエンドのコードを書き始められること。デベロッパの中にはバックエンドについてびびる人が多いが、Backliftはそういう人たちのための教材としても優れている、と彼は言う。またBackliftは、プロトタイピングの場としても利用して欲しいし、将来的にはアプリケーションのホスティングもやりたい、と。

Backliftには、Dropboxのアカウントでサインインする。そしていろんなテンプレートが用意されているから、その中から自分のアプリ用を選ぶ。backbone.jsのサンプルアプリケーションも各種用意されている。Google MapsのAPIを使うサイトの例、Bootstrapを使うシンプルなサイトの例、などもある。そのほかのよく使われる技術、AngularJS、CoffeeScript、Handlebarsなども使える。BackliftはユーザのDropboxアカウントに新しいフォルダを作り(それはユーザのデスクトップにも反映し)、ユーザはお好きなテキストエディタでコードを書き始める。コードをDropboxにセーブすると、それはBackliftにシンクされ、結果をブラウザ上で見られる(シンクはユーザがコードをDropboxにアップロードしてから1秒未満で始まる)。

アプリケーションは何らかのデータを扱うものが多いから、Backliftはベーシックなデータ処理のためのAPIを提供している。管理用のダッシュボードが提供されるので、そこでデータベースへのデータのインポート/エキスポートなどを行う。

ベータの段階でBackliftを本格的に利用したスタートアップの一つがAutomatic.comだ。これもYC出身だが、最近ローンチした独特なハードウェアによって、どんな車でもインターネットに接続できる車にする。Automatic.comのビジュアルと対話デザイナーGabriel Valdiviaは、次のように言う: “うちはAmazonのS3も使ってるけど、開発段階、それに投資家たちにに見せる段階では、Backliftの方がずっと便利だし、仕事がはやいし、それにセキュアだ”。

Krumbholzによると、このサービスは絶えず進化していて、今計画している今後の機能も多い。ただし、その詳細を話すのは尚早だそうだ。

Backliftは今、完全に無料だ。今後は有料の機能も加えるが、それについても詳細は未定だ。

Krumbholzは、Y Combinatorのスタートアップとしては珍しく、単独ファウンダだ。海軍を除隊した彼は次に航空管制用ソフトウェアのインタフェイスを作り、さらにその次にはiOS用のモバイルゲームを作り始めた。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))