このグラブはあなたをベートーヴェンにする

“映画のMatrixは見たことある?”、電話の向こうのThad Starnerは、興奮した声で私に尋ねた。 “ヘリを操縦できないTrinityの脳にインストラクションをアップロードして、操縦させるシーンがあっただろ。それと同じことを、やろうとしてるんだよ”。

このジョージア工科大学の教授が始めたウェアラブルの実験は、そのうち、誰もがギターやピアノや点字や、そして超高速で踊るダンスの名人になれる技術に育つかもしれない。

Starnerが作ったMobile Music Touchと呼ばれるグラブ(上図)を着けてピアノを弾くと、ベートーヴェンの曲を本物のベートーヴェン(名ピアニストでもあった)以上に上手に弾けるのだそうだ。

Starnerは、Google Glassの開発リーダーでもある。彼はこれまで20年あまり、何らかのコンピュータを頭に装着している。彼がディスプレイのあるウェアラブルコンピュータを初めて作ったのは、1993年にさかのぼる。彼はまた、ウェアラブルをベースとするAIと、人間とコンピュータの対話的関係(human computer interaction, HCI)にも深く関わっている。

彼のグラブは、重量挙げの選手が使うような、指のない革製の手袋に似ているが、その背中にはマイコン回路とそこからの配線とBluetooth通信機能がある。そのグラブがラップトップやモバイルデバイスなどと通信して、曲を演奏する。

Starnerはここ2年ほど、触覚学習(haptic learning)を研究していて、Mobile Music Touchグラブはその副産物だ。このデバイスがユーザの筋肉に誰かの筋肉の(または人工的な)記憶情報を注入することによって、ピアノの練習なんか一度もしたことのない人でも、ベートーヴェンを凌ぐピアノ演奏ができるのだ。

それに、筋肉の動きのパターンだけでなく、言葉を教えることもできる。彼は、手話や点字の例も挙げた。

脊髄を損傷している人たちの、助けになるかもしれない。“実際に第二椎骨と第四椎骨のあいだが破損している人に試してみたが、このグラブによって手の感覚を取り戻すことができた”、と彼は言う。それは一年がかりの成果で、ほかのリハビリ努力なしで行われた臨床試験だった。

この脊髄損傷の研究事例では、人間がそれを意識しない方がスキルの習得がはやい、という注目すべき結果が得られた。それは、受動的触覚学習(Passive Haptic Learning, PHL)と呼ばれる現象だ。ダンスやギターの演奏などでも、頭で考えるのではなく、体が覚えるという形で上達していく。Starnerは、それと同じことだと言う。

Starnerのグラブでは、人間がほかの、関係のないことをしていても、PHLによる学習効果が得られる。

“野球選手に、ビデオを見せてフォームの矯正ができるかい? できないだろ?”、と彼は問いかける。でも、実際にボールを投げてるときに正しい投げ方を教えることができたら、どうかな?”。そりゃ、すごいわ。

Starnerによれば、まだ彼のグラブでは、未経験者がいきなりヘリの操縦をすることはできない。それにもちろん、いきなり本物のベートーヴェンのようにピアノを弾くこともできない。でも、これまでの研究が示しているのは、ふつうに練習努力するよりもずっとはやく、高い精度で、いろんなスキルを習得できる可能性があることだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))