コンテンツクリエイターに無料の音楽を提供する英国のUppbeatが約7億円を調達

英国を拠点とする音楽プラットフォームのUppbeatは、コンテンツクリエイターがYouTubeやTwitch、TikTokなどのプラットフォームで公開する動画に使用できる無料で高品質の音楽を簡単に見つけられるサービスを構築し、現在50万人以上のユーザーが利用している。同社はビジネスを成長させるためにシリーズAで460万ポンド(約7億500万円)を調達したと発表した。

Uppbeatを構築したのは、英国を拠点とする音楽ライセンス企業のMusic Vineを共同で創業したLewis Foster(ルイス・フォスター)氏とMatt Russell(マット・ラッセル)氏だ。2人は、自分たちの専門性を活かしてクリエイターの間で高まっている無料の音楽リソースのニーズに応えるチャンスがあると考えた。現在、1億人以上がソーシャルプラットフォームでコンテンツを共有しているが、無料でありながら高品質の音楽の選択肢は多くないと2人は確信していた。

Uppbeatは2021年1月にサービスを開始し、費用のかかる音楽ライセンスプラットフォーム、あるいはYouTubeのオーディオライブラリやクリエイティブ・コモンズの音楽といった無料の音楽に代わる選択肢を提供することで、クリエイターが作るコンテンツで使われる音楽の著作権に関する頭痛の種を取り除いている。

Uppbeatはフリーミアムのモデルを活用して、クリエイターがアカウントを作成するとサイトのカタログの約50%にアクセスでき、1カ月に10件ダウンロードできるようにしている。プレミアムのサブスクリプション(月額6.99ドル、約800円)ではすべてにアクセスし、無制限にダウンロードできる(3年間と永続のサブスクリプションも用意されている)。

2021年9月にはサイトを拡張して、音楽だけでなく「ミームスタイル」のコンテンツに適した効果音とクリップのライブラリも提供している。

画像クレジット:Uppbeat

曲にはライセンスのない使用への対抗策としてフィンガープリントが必要であるため、Uppbeatの音楽を使う際に著作権の主張が発生することもある。しかしおよそ5分以内でシステムが必要なクレジットを確認してから主張を自動で処理する。無料ユーザーはYouTubeの動画の説明にクレジットを追加して著作権の主張をクリアすればよい。YouTubeを利用するプレミアムユーザーは自分のチャンネルをホワイトリストに登録して自動で著作権の主張から保護することができる。

このシステムはYouTube限定ではない。音楽と効果音はストリーマー、ポッドキャスター、ブロガー、その他のソーシャルメディアクリエイターが利用する、ほぼすべてのプラットフォームで動作する。

一方、Uppbeatのアーティストは音楽の所有権をすべて保持し、レベニューシェアベースで報酬を受け取る。

Uppbeatによれば、毎月7万5000人以上の新規ユーザーを獲得し、サイトへのトラフィックは月間100万セッションを超えるという。リテンションは高く直帰率は10%未満の低さであると、同社はTechCrunchに対して語った。セッションタイムの平均は5分以上だという。

Uppbeatのカタログはサービス開始時の1000曲から3000曲以上へと増えている。2500種類の効果音とクリップも追加された。同社は、年間収益ランレートは71万8000ドル(約8300万円)で、Music Vine全体としてはおよそ240万ドル(約2億7600万円)と発表している。

同社は、シリーズAの投資家は戦略的支援者でありこの分野のリーダーで、当人が公表を望まないため発表できないと述べた。

今回の資金調達により、Uppbeatは同社の音楽をYouTubeで公開してブランドのプレゼンスをさらに高め、オンラインのコミュニティとこれまで以上に直接関わっていくとしている。バックエンド全体を見直して、パーソナライズ機能を備えたスマートなユーザーインターフェイスの構築も予定している。

さらにクリエイター向け新機能を公開する計画もある。例えばクリエイターが独自のプレイリストを作成して共有する機能が挙げられる。これによりUppbeatのアーティストの露出が増え、クリエイターの収益化につながる可能性もある。すでに同社はユーチューバーと連携し、厳選された「パートナーのプレイリスト」を公開してユーチューバーが自分のチャンネルでよく使う音楽を紹介している。

従業員も現在の9人から増員し、新しいオフィスに移る予定だ。

共同創業者でCEOのフォスター氏は次のように述べた。「Uppbeatの公開以来、クリエイターコミュニティの反応はまさにすばらしいものです。クリエイターの積極性とフィードバックによりこのプラットフォームは現在の地位を得ることができました。Uppbeatがエキサイティングな新しい展開を始めるにあたり多額の投資を受けられたのはクリエイターのみなさんのおかげです。今回の調達はUppbeatが目指す成長戦略の資金となるゲームチェンジャーであるだけでなく、クリエイターコミュニティにとってエキサイティングな出来事であり誰もが自由に創作活動ができるようにするという我々の道のりにおける大きなマイルストーンです」。

画像クレジット:Uppbeat

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(文:Sarah Perez、翻訳:Kaori Koyama)

「クリエイターファンド」はそれほど褒められたものじゃない

2020年の夏、TikTok(ティックトック)は「クリエイターファンド」と称して、米国内のクリエイターに贈与するための2億ドル(約229億3500万円)を用意した。これは当時としてはまだ珍しい手法である。より成熟したプラットフォームのYouTube(ユーチューブ)は、クリエイターの投稿動画で再生される広告の収益をシェアできるようにする、2007年に設立されたパートナープログラムを通じて資金を分配することでクリエイターに報酬を支払ってきた。しかしここ数年、TikTokの人気上昇に対抗するため、各ソーシャルメディア企業が独自のクリエイタープログラムを立ち上げている。YouTubeはショートのために1億ドル(約114億6500万円)のクリエイターファンドを設立し、Snapchat(スナップチャット)はSpotlight(スポットライト)チャレンジへの投稿に賞金を提供、Instagram(インスタグラム)はReels(リール)のクリエイターにゲーム化されたキャッシュボーナスを配布している。

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客観的に見て、大手テック企業が大金を放出しているというのはクリエイターにとって良いことのはずだ。しかし、長年ユーチューバーとして活躍し、最近ではTikTokのスターとなったVidCon(ビッドコン)の創設者であるHank Green(ハンク・グリーン)氏が最近のビデオエッセイで指摘しているように、クリエイターファンドは特段称賛されるべきものではないのかもしれない。こういったファンドはクリエイターの収益を配慮してのものではなく、「独立系アーティストにお金を払っています!」という企業のアピールに過ぎないという可能性もある。

TikTokのようなクリエイターファンドでは決まった一定の資金から支払いが行われているのに対し、YouTubeパートナープログラムでは広告収入のパーセンテージがクリエイターに分配される仕組みとなっている。つまりYouTubeが成長すればするほど、クリエイターに支払われるお金の総額も増えていくということになり、過去3年間でYouTubeはクリエイターに300億ドル(約3兆4374億円)を支払っている(YouTubeのパートナープログラムを通じて、クリエイターは自分の動画に掲載された広告から得られる収益の55%を得ることができる)。一方で、TikTokが成長してもクリエイターファンドの規模が変わることはない。

TikTokのプラットフォームは急速に成長しているのにも関わらず、その結果としてTikTokのクリエイターの収入はむしろ減っているとグリーン氏は主張している。ユーザーが良いコンテンツを投稿しているからこそ、このプラットフォームは成長できているのだという人もいるだろう。こういった巨大なテック企業にユーザーがもたらした価値に対して、これらのユーザーは適切な報酬を得ていないのである。

TikTokの広報担当者はTechCrunchの取材に対し「クリエイターファンドは、クリエイターがTikTokでお金を稼ぐための方法の1つに過ぎません」と答えている。

ブランドとコンテンツ制作者が簡単につながることができる「TikTok Creator Marketplace」(ティックトック・クリエイター・マーケットプレイス)や、ライブ配信中だけでなくいつでもクリエイターがチップを受け取れるようにした機能が2021年1月から開始するなど、新たな取り組みを数多く進めていると同社は主張しているが、当然このようなマネタイズ機能はYouTubeにもある。

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「クリエイターコミュニティの声に耳を傾け、フィードバックを得て、プログラムに参加している方々の体験を向上させるために機能を進化させ続けていきます」と同社はTechCrunchの取材に対して答えている。

TikTokの収益を1年以上にわたって綿密に追跡してきたグリーン氏によると、以前は1000回の再生で5セント(約5.7円)を稼いでいたものの、ここ数カ月は1000回の再生で2セント(約2.3円)になっているという。これはTikTokが成長しているために再生回数が増え、それにともないクリエイターへの報酬が減っているからだと同氏は主張している。

確かにTikTokは、フルタイムのクリエイタービジネス全体に資金を提供するためにこれらのプログラムを作ったわけではない。しかしこの支払い額は、ソーシャルプラットフォームへのクリエイターの貢献度を過小評価しすぎているのではないだろうか。クリエイターファンドがTikTokの長期的なクリエイター向け収益化計画であるかどうかは不明であり、またInstagram、YouTube、Snapchatの場合、これらの報酬はクリエイターに自分たちのプラットフォームを使ってもらうためのインセンティブに過ぎないが、クリエイターは短編動画をめぐる競争において少々疲弊気味のようだ。

他のフルタイムクリエイターもグリーン氏の意見に同意している。英国のテック系ユーチューバーであるSafwan AhmedMia(サフワン・アメッドミア)氏は、2021年4月からTikTokで2500万回以上の再生回数を集めたにも関わらず、112.04ポンド(約1万7000円)しか稼げなかったとツイートしている。YouTubeの米国トップクリエイターであるMrBeast(ミスター・ビースト)もこのツイートに返答し「10億回以上の再生回数」で1万4910.92ドル(約171万円)稼いだと答えている。TikTokは総再生回数を表示しないため、手動で数えない限りわからないようになっており、彼らの計算はグリーン氏の計算よりも正確ではないが、それでも彼らの試算によると、ミスター・ビーストとアメッドミア氏の2人は、再生回数1000回につき2セント(約2.3円)以下の収入しか得ていないことになる。

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クリエイターにとっては一般的に、YouTube、TikTok、Snapchatなどの動画のインプレッション数よりも、ブランドとの契約による収益の方が大きいといわれているが、それでもクリエイターは自分がプラットフォームにもたらす価値に見合った対価を支払って欲しいと願っている。

「TikTokの収益が上がれば、クリエイターの収益は下がる、というスローガンが作れるほどです。あらかじめ決まった額からの捻出ではなく、収益の一定割合を報酬として支払うというのはTikTokにとっては非常に悪いことですが、クリエイターにとっては非常に良いことです。TikTokはPRNewswireなんかで『今後3年間で10億ドル(約1155億円)をクリエイターに支払います』などと発表し、あたかもこれが莫大な金額かのようにして話していますが、実際のところ支払い額は完全にコントロールされており、参加するクリエイターが増えてアプリが成功すればするほどクリエイターの1ビューあたりの収入は減っていくのです」。

TikTokアプリ自体がどれだけの収益を上げているのかは不明だが、親会社のByteDance(バイトダンス)は2021年580億ドル(約6兆6500億円)の収益を上げており、この数字を見ると約2年前に開始した2億ドル(約229億3500万円)のクリエイターファンドがあまりにも小さな数字に感じてしまう。

それでもTikTokとYouTubeを比較するというのは、リンゴとオレンジを比較するようなものである。30秒のTikTokが、20分のYouTube動画の支払い額よりも少ないのは当然だ。YouTubeにはプレロール、ミッドロール、エンドロール広告があるが、TikTokの広告は動画と動画の間に表示される(広告主も日に日に賢くなっており、人気トレンドをみんなと同じように繰り返して普通のTikTok動画のように見せてくるため、ユーザーはしばらくして突然動画が洗顔料か何かを売ろうとしていることに気づくのである)。TikTokの途中で広告が再生されることはなく、あまり煩わしくないユーザー体験を提供している。これに対してYouTubeは広告なしのYouTube Premiumプランを月額11.99ドル(1180円)で提供している。

TikTokもYouTubeに倣ってより多くの広告を挿入して収益を上げ、クリエイターへの報酬を増やすことができるだろう。しかしそれはかなり迷惑な話であり、またTikTokがお金に困っているとも思えない。もう一度いうが、ByteDanceは2021年に580億ドル(約6兆6500億円)を稼いだのである。TikTokのクリエイターファンドは2億ドル。これはTikTokの親会社の収益の0.3%にあたり、その0.3%が複数年にまたがってクリエイターファンドに費やされているのである。

TikTokがクリエイター経済に革命を起こしているというが、実際はクリエイターたちがプラットフォーム上で寄せ集めたオーディエンスを構築し、活用しているというところが正確だ。ただし数字を見ると、TikTokは実際にクリエイターを支援するために十分な資金を一切投入していないのである。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

YouTubeがNFT導入を検討中、CEOが書簡で示唆

YouTubeのCEOであるSusan Wojcicki(スーザン・ウォジスキ)氏は米国時間1月25日に公開した文書で、同プラットフォームにNFTを含むWeb3テクノロジーを導入する可能性があることを示唆した。NFT(非代替性トークン)はブロックチェーンに保管されたデジタルアセットを証明するもので、YouTubeクリエイターの収益化につながる手段となる。具体的な計画やYouTube上でNFTのテストが開始される時期は明らかにしなかったが、同氏はWeb3の世界で起きているイノベーションについて「YouTubeの継続的なイノベーションに向けたインスピレーション」と表現した。

ウォジスキ氏は文書の中で次のように書いている。「2021年は、暗号資産、非代替性トークン(NFT)、さらには自律分散型組織(DAO)までも含めた世界が、クリエイターとファンのつながりを深める機会として、かつて想像もつかなかった注目を集めました。NFTのような先進技術を利用してクリエイターの収益化を支援するようにするなど、私たちはYouTubeのエコシステムを発展させることを常に重視しています。同時に、クリエイターとファンによるYouTubeの利用体験を強化し、継続的に向上させることにも努めています」。

YouTubeにコメントを求めたが、NFT対応に関してYouTubeがどんな準備をしているのか、広報から詳しい説明はなかった。

とはいえ、YouTubeはNFTを見せたい人がそれを実現できそうな方法をすでに多数提供している。例えば、現在同社は、クリエイターのビデオの下に表示される「グッズ紹介」機能を提供している。これはクリエイターがアパレル、コレクターズアイテム、ぬいぐるみ、レコード盤などのプロダクトを紹介するもので、これに対応する販売パートナーは増加している。このことから、デジタルクリエイターが自分のNFTアートを紹介できるようにするために、YouTubeがNFTプラットフォームと提携して暗号資産ウォレット技術を統合できそうだと考えられる。あるいは、YouTubeは他の方法でクリエイターのプロフィールとNFT対応をさらに深く統合するかもしれないし、NFTを扱うクリエイター向けのツールを開発してお互いにネットワークを構築し作品を共有できるようにするかもしれない。

YouTubeがNFTの分野に進出しようと検討するのは当然と考えられる。他のソーシャルメディアプラットフォームも同様の動きを見せているからだ。Twitterは数日前に初のNFT対応として、NFTプロフィール写真を利用できるようにした。クリエイターは自分が所有するNFTを六角形のプロフィール写真として設定し、誰かがそのプロフィール写真をクリックするとアートに関する詳しい情報が表示される。InstagramもNFTを検討していることを公に認めたThe Financial Timesの最近の報道によると、FacebookはNFTマーケットプレイスを構築しているようだ。

将来的なWeb3対応に加え、ウォジスキ氏は2021年のYouTube全般を振り返りながら注目すべきアップデートをいくつか提示した。

ウォジスキ氏は、TikTokの競合であるYouTubeショート上での「リミックス」機能を拡大すると述べた。YouTubeショートでは現在、他のYouTube動画からオーディオコンテンツのみをリミックスする機能が提供されている。YouTubeは詳細を共有していないが、Instagramがすでに対応しているのと同様に、動画のリミックスに対応することを検討しているようだ。同氏は、YouTubeショートはこれまでに5兆回再生されたと述べた。再生回数よりもYouTubeショートを利用しているクリエイターの人数の方が興味深いが、その人数は共有されなかった。YouTubeショートファンドからの支払いを受けたクリエイターの4割以上は、同社のYouTubeパートナープログラムに参加していなかった人たちだったとも書かれている。これは、YouTubeショートが新しいタイプのクリエイターがYouTubeで収益化する手段になっていることを示唆している。

文書ではその他の取り組みや投資にも触れている。ゲーム、クリエイターの収益化、音楽、ショッピング、教育の他、さまざまな規制の問題に対する立場についても取り上げられた。ウォジスキ氏は、年間1万ドル(約114万円)を超える収益を上げている全世界のチャンネル数は対前年比で40%増加し、YouTubeチャンネルメンバーシップと有料デジタルアイテムは1億1000万回以上購入または更新されたと述べている。ゲーム関連では、再生数は8000億回、ライブ配信は9000万時間、アップロード数は2億5000万本をそれぞれ超えている。2020年には米国、日本、韓国、カナダ、ブラジル、オーストラリア、EUの合計でYouTubeのエコシステムにより80万人以上の雇用が支えられているという。

クリエイターに向けて、すでに発表されていたShopifyとの提携の計画メンバーシップギフト贈呈機能の提供開始、教育コンテンツを利用するユーザー数の倍増、ボーダーラインにあるコンテンツのおすすめの停止、YouTube Kidsの改善なども取り上げられている。ウォジスキ氏は「低評価」ボタンを削除する決定に対して反発があることも認めたが、削除が必要である理由を再び主張した。

画像クレジット:Olly Curtis/Future / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Kaori Koyama)

【レビュー】Mevo Multicamは手ごろですばらしいライブ配信スタジオだ……必要なのは「それを信じる」ことだけ

Mevo Multicam Appと3つのカメラがセットになったMevo Start 3パックは999ドル(約11万4000円)。これに良い照明と適当なマイクを加えれば、2000ドル(約22万8000円)以下でフルマルチカムのストリーミングセットアップが完成する。数年前ではまったく考えられなかったことだ……人類の進歩は驚くべきことだとしみじみ思う。これにしっかりとしたインターネット接続を追加すれば、このキットよりも2桁は高価な機器を満載した衛星中継車の中核的な機能が再現される。

プロの放送局のニュースクルーがMevo Startキットを使うことはできるだろうか。それは難しいだろう。もっと高い信頼性と冗長性、そして生放送のニュースレポーターのニーズに対応した機器が必要だ。しかし、同じ問題を別の視点で考えてみると、非常にわかりやすくなる。

例えば、ユーチューバーが自分のスキルを発揮したいと思ったらどうだろう?ウェブカメラとOBS(録画とライブ配信用のアプリ)を組み合わせてライブ配信を行っている人なら、もっと簡単に分解・再構築できるセットが欲しいと思うかもしれない。Twitchで音楽配信をしていたり、自分のバンドで何度かライブ配信したことがあったり、マルチカメラを使ったライブ配信の腕を上げたいと考えている人も、さまざまな会場で行われるイベントのライブ配信を始めたいと思っている人もいるだろう。この場合、Mevo Start 3パックは俄然お買い得に思える。何よりも、最初にセットアップしてしまえば、分解して再度組み立てるのも簡単だ。

少なくとも理論上は良い話だ。しかし、少しリラックスして考えてみよう。本当にこれだけのことができるのだろうか?

テクニカルレビュアーは時として不可能といってもいい課題に直面する。自分の用途ではない製品をどうやってレビューするのか、その製品が対象とするユーザーに適しているかどうかについて、どうしたら有意義なレビューをすることができるのか。Logitech for Creators(ロジテックフォークリエイターズ)のMevo MulticamアプリとMevo Start 3パックは、まさにそのような製品の1つだ。筆者はTwitchやYouTube、Facebookのストリーマーではないが、放送ジャーナリズムを中心としたジャーナリズムの学位を取得している。ニュースキャスターやテレビの生中継レポーターとして訓練を受けたことが懐かしい。BBCニュースの衛星中継車では(文字通り)熱い時間を過ごした。テレビのプロデューサーだったこともある。

問題は、ある業界で専門的な経験を積むと、普通の人とは異なる期待を持って製品に臨むようになることである。BBCに在籍していたときは、生放送中に衛星への信号がほんの一瞬落ちただけでも、ニュースルームの送受信センターにとって信じられないほどのストレスだった。一方で、端的にいえば、このキットは何百万、何千万もの人々にニュース速報を伝えるための中継車1台分の機材を置き換えるためにデザインされたものではない。ユーチューバーに使ってもらうためのものだ。

Mevo Multicamアプリは、マルチカメラを使用したライブ配信のコントロールセンターとして機能する。エレガントなすばらしい方法でマルチカメラストリーミングを行うことができる(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

理論上はMevo Startは非常に良いアイデアのように思える。しかし、これはMevo Startが完ぺきという意味ではない。Mevo Startは明らかに、薄暗いクラブハウスでカメラ機材のセットアップに長い時間を費やしたことのない人によって設計され、その製品チームはMevo Startキットのセットアップと解体を連続して30回行うことを要求されていない。もしそうなら、製品の仕上がりに大きな影響を与えるほんの少しだけ異なる判断をしていただろう。

例えば、カメラの電源ボタンについては実に愚かだ。電源ボタンはゴム製ではあるものの、ボディに対して凹凸がなく、触っただけではどこがボタンかわからない。さらに悪いことに、マットブラックのボディに対して電源ボタンもマットブラックだ。暗闇の中で、何人ものミュージシャンに囲まれながらカメラを設置しようとしたらどうなるかを考えてみたらいい。公平を期すためにいえば、これは製品設計上よくあることである。CADで設計され、明るいハードウェアラボでテストされた製品を、誰かが「カメラが使用されるであろうユースケースに合わせて調整しよう」と考えるのが遅すぎたのだ。

カメラの背面:電源用のUSB-Cポート、ローカルレコーディング用のMicroSDカードスロット、マイク入力、そして暗闇の中では非常に見つけにくい電源ボタンがある(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

デザイン上の特徴を1つだけ殊更に強調するのは申し訳ないとは思うが、電源ボタンはカメラの唯一のボタンであるので重要なことだ。電源ボタンが簡単には押せず、かなりの力で押さなければならない、という点はすばらしい。ライブ配信中の事故は絶対に避けたいものだが、誤って電源ボタンを押してしまうのを防ぐことができる。一方で、ライブ配信のために急いで何かを設定しようとすると、両手がふさがってしまう。筆者の場合、片手はマイクや他の機材でふさがっていて、常に片手でカメラの電源を入れたり切ったりする必要があった。(電源ボタンがかたいということは)つまり、カメラの電源ボタンを押すときには、電源ボタンの反対側の同じ位置をつかんでカメラを固定しないと力が入らない、ということである。残念ながら、電源ボタンを押す際、力をいれようとすると自然にレンズもつかんでしまうということになる。カメラの中で唯一指紋をつけてはならないのがレンズなのだが。

片手でカメラの電源を入れたり切ったりするには、このようにカメラを持つしかない。人差し指は電源ボタンを押しているが、親指はどうだ?次にやるべきことは、レンズについた親指の指紋を消すことか?(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

電源ボタンはさておき、このカメラにはスマートなデザインも多くみられる。迷光を防ぐためにドーム型のレンズの上には小さなひさしがあり、レンズフレアの軽減に大いに役立っている。カメラ底部の三脚穴は取り外し可能で、穴の径を変えればカメラをマイクやライトスタンドに取り付けることができる。カメラ前面のライトLEDは、スタンバイ中のカメラを示す緑のLEDと、実際に撮影中であることを示す赤のLEDで構成されている。カメラにはバッテリーが内蔵されているので、電源がなくてもライブ配信を開始することが可能。外出先でのライブ配信にも適している。これらはすべて、非常に考え抜かれた機能である。

しかしながら、カメラのセットアップには非常に苦労した。3台とも使用する前にファームウェアのアップグレードが必要だった。もしかしたら筆者がAndroidデバイスを使用しているのが原因で、iOSのアプリの方がこなれているのかもしれないが、判読不能なエラーメッセージが表示されて完了までに何時間もかかった。最終的には使えるようになったものの、スマートフォンを6回も再起動する羽目になった。そのうち1回は最初に各カメラに接続するため、もう1回はファームウェアのアップグレードの失敗からリカバリーするためだ。

ファームウェアの問題が発生したことを受けて、筆者はMevoのプレスチームに連絡をしてみた。彼らは開発チームに連絡してカメラが動作するようサポートと提案してくれた。筆者はこれについて検討したが、その申し出は断ることにした。ハードウェアレビュアーとしては、製品の開発に携わった人と電話で話すことができるというメリットがあるが、消費者としては、このようなことは期待できない方が多い。

もし自分で使うためにこのカメラを購入していたなら、この時点で返品していたと思う。筆者はハードウェアのレビューを長年担当してきたが、レビューを始める前にスマートフォンを6回も再起動しなければならないような製品をテストしたことはない。数日間あきらめて、やっと重い腰を上げてカメラを本格的に試そうとしたら、またファームウェアのアップグレードがあった。今回は比較的スムーズに作業を進めることができたが、数週間のうちに2回もカメラのファームウェアをアップデートしなければならないというのは決して心強いとはいえない。

問題の核心は「信頼性」にある。製品の中には、2回、3回うまくいかなくても問題のないものがたくさんある。例えば、Google Nest Thermostatの温度を変更しようとして、最初はうまくいかなかったとしても、それはそれで問題ない。もう一度やってみる、うまくいく。それでOKだ。しかしながら、ライブ配信はエアコンをつけるようなものではない。数千人の人々がライブを観ている場合はストレスレベルが上がり、小さな技術的な問題であっても、とてつもないストレスとなる可能性がある。私の感覚は、何百万、何千万もの視聴者が観ているかもしれない衛星回線のライブや、現場からのライブレポートがニュースルームに届かずに台無しになってしまうテレビの生放送なので、おそらく他のライブストリーマーは、筆者のように技術的な問題に敏感ではないのだろう。

取り外し可能な三脚穴のデザインはありがたい。ネジは照明スタンドのサイズと三脚のサイズの2つ。ネジを外すとマイクスタンドのネジのサイズになる。非常によくできた仕組みだ。ボディに指紋がつきやすいのは指摘しておくべきだろうが、機能的には問題ない(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

製品を完全にセットアップできたら、製品が輝くチャンス到来だ。カメラを操作するMevoのアプリは非常に優れている。Mevo Multicamアプリでは、1台のカメラで撮影を準備し、カメラ間でフェードイン / アウトすることができる。また、ズームインやオーバーレイの使用、さらにはデジタルパンニングも可能だ。基本的には非常にシンプルなセットアップでありながら、非常にパワフルな結果を生み出すことができる。

セットアップのプロセスについては不満を並べたが、それはここで打ち切るべきだろう。筆者はこのカメラをさまざまな場面でテストしたが、一度も期待を裏切られることはなかった。問題も起きなかったし、バッファリングし続けることも、遅延、切断もなかった。

マルチカメラによるストリーミングは、創作活動、音楽ライブ、実写イベントなどに最適である。Mevo Startは、小さなボディに驚くべき価値を秘めている(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

問題は、筆者がこのカメラを完全に信頼することができなかったことであり、結果として筆者が担当するライブ配信にこのカメラを使用することはおそらくないだろう、ということだ。3台のカメラを用意して、もらったばかりの子猫たちが遊んでいる様子をライブ配信するか?もちろん、見応えのある愛らしい映像になると思う。友人が地元のバーで行う音楽ライブの様子を、何十人かのライブ配信愛好家に向けてライブ配信する際は利用するだろうか?おそらく「No」だ。ストレスレベルが高すぎる。長時間なんの問題なくライブ配信して初めて、重要な撮影にこのカメラを使ってもいいと思えるだけの信頼を置けるかどうか、といったところだ

ここに難問がある。ライブ配信は非常に危険で高ストレスなものなので、自分の機材を信頼できると感じることが重要である。私がこれまでにレビューした製品の中でも、Mevoのカメラは信頼という点で最悪のデバイスだ。とはいえ、逆もまた真なりだ。というのは、レビュアーという仕事では、ファームウェアの初期バージョンや、まだ本領を発揮していないソフトウェアを目にすることもある。Mevoは、このレビューで見つかった問題を解決してくれるかもしれないし、3カ月後、6カ月後にはカメラはすばらしいものになっているかもしれない。筆者は喜んでそれを受け入れよう。

少なくとも理論的には、マルチカメラにチャレンジしたいと考えているライブストリーマーにとって、Mevo Start 3パックは費用対効果の高い、完ぺきに近いソリューションとなるはずだ。この製品がおすすめできるかどうかは、数カ月後に再検討したいと思う。

画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

ユーチューバーがリアルで「イカゲーム」を再現、ハリウッド並予算で作られたYouTube動画がクリエイターに与える影響

韓国のサイコスリラー「Squid Game(イカゲーム)」が話題になった。「イカゲーム」は1億4200万人の視聴者を獲得し、Netflix(ネットフリックス)のシリーズ史上最大のヒット作となった。そして今、ユーチューバーのMrBeast(ミスター・ビースト)が、ドラマのタイトルになった死闘を再現し、8日間で1億4200万回の再生回数を記録したことが話題になっている(誰も殺されていないのでご安心を)。

関連記事:Netflix配信の韓国ドラマ「イカゲーム」、全世界で1億4200万世帯が視聴

先日、YouTubeの米国トップクリエイターに2年連続で選ばれた23歳のJimmy Donaldson(ジミー・ドナルドソン、MrBeast)氏は、セットを用意し、456人の参加者の衣装を作り、Netflixのドラマに限りなく近い動画を制作した。そして、Netflixの人気シリーズ同様、最後まで勝ち残ったプレイヤーは、人生を変えるような賞金を手にする。ドナルドソン氏の動画では、参加者は45万6000ドル(約5150万円)を獲得するチャンスが与えられた。

ドナルドソン氏の「イカゲーム」が、少なくとも再生回数では元祖「イカゲーム」と同じくらい人気を呼んだのには、いくつか理由がある。1つには、YouTubeは無料で、Netflixはそうではないからだ。

だが、動画がバイラルにする(拡散する)ためには、コストがかかる。同氏は、25分の動画に、なんと350万ドル(約4億円)もかかったとツイートした。ちなみに、Netflixの全9話のシリーズにかかったコストは、合計2140万ドル(約24億円)。シリーズ1時間あたり平均240万ドル(約2億7000万円)だ。

ドナルドソン氏のような人気ユーチューバーであっても、Netflixのような上場グローバル企業が持つ経営資源にはかなわない。そのため、ドナルドソン氏のように、衝撃的なスタント(人目を引くための馬鹿げた行為)を内容とする動画を作るクリエイターにとって「イカゲーム」の再現のような、前例のないことをするのは難しくなっている。

「イカゲーム」リリース後、9時間を割けなかった人のために、背景を説明しよう。「借金まみれから一生抜け出せないなら、途方も無い富を手に入れるために死闘を繰り広げてみてはどうか」。これが、韓国の債務危機に対するHwang Dong-hyuk(ファン・ドンヒョク)監督の答えだが、海外の視聴者にも共感してもらえるだろう。米国では学生の借金が1兆7300億ドル(約195兆円)に達し、過去10年間で91%以上増加した。もしあなたが、たった一度、歯医者に行っただけで、これまでの貯金を使い果たしてしまうのではないかと心配しているのであれば、登場人物たちが手っ取り早く金を手に入れようと必死になる姿に共感するのは難しくないだろう。

「イカゲーム」の中で、そのゲームは、裕福なエリートたちが自らの娯楽のために作ったものであることが明かされる。貧しい人々がゲームの条件に同意するなら、死闘を演じさせてはどうだろう、ということだ。

そこまで極端でなくても、MrBeastの動画が行っていることも同じだ。同氏は、普通の人々に大金を渡し、自らのブランドであるパフォーマンス的な慈善活動で、何百万人もの視聴者を楽しませ、注目を集めることで金銭的な利益を得ている。

予想どおり、MrBeastの「イカゲーム」動画には、Netflixのドラマをあれほど魅力的にした、感情的な共鳴やサスペンスが欠けていた。参加者は何のリスクも負わないため、昼間の「Wheel of Fortune(米国のゲーム番組)」の再放送と同じ程度に、懸けられたものが小さく感じられる。だがドナルドソン氏は、このスタイルのYouTubeコンテンツを開拓しただけでなく、完成させた。とんでもなく馬鹿げたことをすれば、みんながそれを見てくれる。YouTubeでは視聴時間が金になる。ただ、このモデルを追求していくと、ユーザーの注目を集めるための投資コストが時間を追うごとに膨らんでいく。

クリエイターエコノミーの拡大に伴い、一部のユーチューバーの予算も増えている。しかし、不安定な性質を持つこの仕事で、赤字に陥ることは危険だ。Netflixの「イカゲーム」は、これまでに少なくとも予算の約42倍の8億9110万ドル(約1007億円)を稼いだが、ドナルドソン氏は自身の「イカゲーム」への投資を回収できないかもしれない。

「これ以上できない」というところまでエスカレート

動画「How I Gave Away $1,000,000(僕が100万ドル[約1億1300万円]を誰かにあげるまで)」でドナルドソン氏は、こうしたコンテンツを作り始めたきっかけは、デジタルアイテム収集アプリのQuidd(クイッド)から、1万ドル(約113万円)の動画ブランド契約を持ちかけられたことだと説明している。同氏は、その1万ドルをホームレスの人に渡す動画を撮った。その後もQuiddからの資金で動画を作り続け、その数は雪だるま式に増えていった。

現在、最も人気のある動画の中には「I Ate A $70,000 Golden Pizza(7万ドル[約800万円]のゴールデンピザを食べてみた)」「Last To Leave Circle Wins $500,000(円の中に最後まで残ったら50万ドル[約5650万円]」「Donating $100,000 To Streamers With 0 Viewers(視聴者ゼロのストリーマーに10万ドル[約1130万円]を寄付してみる)」など、投資額がもっと大きなものもある。

MrBeastは9月、クリエイター向けのYouTubeチャンネル「Colin and Samir」で「動画制作に毎月400万ドル(約4億5200万円)を使っているが、自分の期待を上回る動画もあれば、そうでない動画もある」と語っていた。同氏によると「I Sold My House For $1(自宅を1ドル[約113円]で売ってみた)」という動画の制作費は100万ドル(約1億1300万円)を超えたが、広告収入で回収できたのは50万ドル(約5650万円)にも満たず、スポンサー料ではその差を埋められなかった。だが、いくつかの動画が予想以上に良い結果を出している限り、あまりバイラルではない(拡散しない)動画が多少あっても、痛くも痒くもない。

「動画をバイラルにする方法がわかれば、あとはいかに多くの動画を配信するかということになります」と同氏は2020年、Bloombergに語った。「稼ぐことができる金額は実質的に無限です」。

Forbes(フォーブス)は、ドナルドソン氏が2019年6月から2020年6月の間に、YouTubeで2400万ドル(約27億円)を稼いだと推定した(YouTubeだけが同氏の収入源ではなく、MrBeast Burgerというゴーストキッチンを経営したり、Twitch(ツイッチ)でストリーミングしたり、多くのブランドとコラボレーションしたりしている)。しかし同氏は、同じバイラルスターのLogan Paul(ローガン・ポール)氏とのインタビューで、収入のほとんどをそのまま動画に使っていると語っている。

「月に300万ドル(約3億3900万円)とか400万ドル(約4億5200万円)稼いだら、次の月には動画に使ってしまいます」とドナルドソン氏は話す。「私たちが得る、文字どおり『カミソリのように』薄い利益は、すべて単純に再投資しています」。

このようなクリックベイトモデルの問題点は、視聴者が高予算のYouTube動画に鈍感になってしまうことだ。クリエイターはさらにレベルアップする必要に迫られる。

コメディアンのDemi Adejuyigbe(デミ・アデジュイグベ)氏も、Earth, Wind, & Fire(アース・ウインド&ファイアー)の「September」に合わせて踊る動画を毎年公開するなかで、この問題に直面した。

2016年の最初のバイラル動画では、表に「SEPT 21(9月21日)」、裏に「THAT’S TODAY(それは今日だ)」と書かれた自作のシャツを着て、寝室で踊っただけだった。翌年は派手に風船を使い、2018年には子ども合唱団を登場させ、2019年にはマリアッチバンド(メキシコの大衆的な楽団)を雇った。その後の展開はおわかりだろう。2021年、同氏はもうビデオを作らないと決めた。毎年、より大きく、より良いものを作り続けるのは、時間がかかりすぎるし、困難だからだ。そこで、同氏は最後にもう一度、全力で取り組み、ファンから100万ドル(約1億1300万円)以上の寄付を集めた。だが、一連の「September」動画は、同氏の生業にはならなかった。動画が話題になったことで、ハリウッドで注目されるようにはなった。毎年の「September」動画の企画の合間に「The Good Place」や「The Late Late Show with James Corden」などの番組で脚本を担当した

美容・ファッションクリエイターのSafiya Nygaard(サフィヤ・ナイガード)氏も、クリックベイトモデルの問題に直面した1人だ。同氏は最初、BuzzFeed(バズフィード)のビデオプロデューサーとしてファンを獲得したが、退職して自身のチャンネルに投資し、独立することにした。同氏は、美容分野で差別化を図るために「Melting All My Nude Lipsticks Together(私が持っているヌードカラーの口紅を全部溶かしてみる)」「Mixing All My Foundations Together(私が持っているファンデーションを全部混ぜてみる)」など「悪いメイクの実験」をしてきた。1年後には「Melting Every Candle From Bath & Body Works Together(Bath & Body Worksのすべてのキャンドルを一緒に溶かしてみる)」「Melting Every Lipstick From Sephora Together(Sephoraのすべての口紅を一緒に溶かしてみる)」とエスカレートしていった。後者の動画では、600本以上の口紅を使用した。Sephoraの口紅の価格は約10〜50ドル(約1130〜5650円)。同氏の支払額があまりに高額だったため、Sephoraのレジ係が確認のために銀行に電話した。同氏はその様子を撮影した。

しかし、Sephoraであらゆる口紅を買ってしまったら、それ以上のことをするのは無理だろう。ナイガード氏は目下、約1000万人の登録者がいるYouTubeチャンネルを月に1~2回しか更新していないが、Instagram Reels(インスタグラム・リール)やTikTok(ティクトック)には数日に1度のペースで投稿するようになった。TikTokでも高価な買い物をすることがある。ある人気のTikTokで、同氏がBalenciaga(バレンシアガ)の1350ドル(約15万3000円)のピンヒールをデザインした。しかし、117本のBath and Body Worksのキャンドルや、600本のSephoraの口紅に比べれば、小さな買い物だ。

ナイガード氏やアデジュイグベ氏のようなクリエーターは、このように高額で、時に低報酬となるコンテンツから離れることができた。だが、ドナルドソン氏にとって、高予算の動画を作ることは活力の源となっている。自分のチャンネルがYouTubeの食物連鎖の頂点に立ち続けるために、より過激なコンテンツの制作をやめるわけにはいかないのだ。

クリエイター経済への資金供給

スタートアップは事業の成長のために資金を必要とするとき、ベンチャーキャピタルを利用する。動画制作コストが増大する昨今、バイラルクリエイターに投資機会を見出すベンチャーキャピタル企業が出てきている。ベンチャーキャピタルのSignalFireは、クリエイターは最も急成長している中小企業であると述べている。Sam Lessin(サム・レッシン)氏のSlow Venturesのように、その考えを次のレベルにまで高めている企業もある。Slow Venturesは最近、Silicon Valley Girlというチャンネルを持つユーチューバーのMarina Mogilko(マリアナ・モジルコ)氏の将来に170万ドル(約1億9200万円)を投資した。今後30年間、同氏のクリエイターとしての収益の5%を受け取る。

「人」に投資するというのは薄っぺらく聞こえるかもしれない。だが、関係者全員が善意であると仮定した場合、アーティストに金銭的な余裕を与えることは、本当に最悪なことなのだろうか。これは、すでにハリウッドで起こっていることだ。制作会社が脚本を購入し、人材を雇い、映画を売り込んでも、興行的には大失敗に終わることがある。

しかし、クリエイター、つまり「人」はスタートアップではない。そして、自分を超えようとし続けるとどうなるか。燃え尽きてしまうのだ。

ベンチャー企業からの資金調達という緩衝材が、クリエイターの経済的負担を軽減する可能性はある。だが、利害関係者へのアピールというプレッシャーが、さらなるストレスとなることも考えられる。

YouTubeのCEO、Susan Wojcicki(スーザン・ウォジスキ)氏は、2019年にクリエイターに宛てた手紙の中で、燃え尽き症候群の問題が大きくなっていることを認めている。

「自分のチャンネルが上手くいかなくなるのではと心配して、撮影を休めないという気持ちになる、というクリエイターの声を聞いたことがあります」とウォジスキ氏は述べた。「もし、あなたがしばらく休みたいと思っても、ファンは理解してくれるでしょう。結局のところ、あなたが作っているからこそ、ファンはそのチャンネルを選ぶのですから」。

YouTubeのプロダクトチームは、クリエイターが休みから戻ってくると、より多くの再生回数が得られることに気づいた。しかし、Drake McWhorter(ドレイク・マックウォーター)氏は、それは真実ではないと思う、と当時CNNに語った。

「YouTubeはトレッドミルのようなものです」と同氏はいう。「一瞬でも止まったら死んでしまいます」。

ネットでバイラルになるのはこれまでになく簡単になったが、だからといって長期的に視聴者の注目を集めるのが簡単だとは限らない。ネットで生計を立てるには、視聴者が必要となる。MrBeastがハリウッド級の予算でYouTube動画を制作し、なおかつ「カミソリのように薄い」利益しか上げていない今、私たちは「クリエイター経済で勝っているのは誰か」と問わなければならない。結局のところ「Real Life Squid Game」の成功は、ドナルドソン氏にとってよりも、YouTubeにとって、あるいはNetflixにとってさえも、朗報なのかもしれない。

画像クレジット:MrBeast/YouTube

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

YouTubeが1週間にわたりクリエイターによるライブ配信ショッピングイベントをテスト開催

YouTube(ユーチューブ)は2021年初め、一部のクリエイターを対象に、ライブ配信ショッピングの試験運用を開始することを発表した。そこでついに、ライブショッピングプラットフォームのより大きな試験運用の準備が整ったようだ。同社は11月15日から、1週間にわたってライブショッピングイベント「YouTube Holiday Stream and Shop」を開催する予定だ。このイベントでは、視聴者が新商品を購入したり、期間限定の特典を適用したり、Q&Aや投票を通じてクリエイターや他の視聴者と交流したりすることができるとのことだ。

同社は、2021年初頭に、YouTube上での統合型ショッピングをめぐるより大きな取り組みの一環として、ライブショッピングへの投資計画を初めて発表した。最初のテストでは、2021年夏にライブ配信の試験版が開始されるまで、オンデマンド動画に焦点を当てていた。

関連記事:YouTubeが一部クリエイターを対象にライブストリームからのショッピングを試験的に開始

それ以来、多くのユーチューバーがファンと一緒にライブブ配信ショッピングを試している。その中には、ネイル磨きコレクションSimply Not Logicalチャンネルで280万人のファンに向けて発表したSimply Nailogicalや、スキンケアライン「Selfless」を450万人のファンに向けて発表したHyram、Walmart(ウォールマート)と提携して商品を販売するライブブ配信ショッピングセッションを行ったRaven Elyseなどがいる(Walmartは以前にも複数イベントでTikTok上でライブショッピングを実験していた)。

YouTubeによると、他の小売業者もより直接参加したそうだ。例えば、Sephora(セフォラ)はライブQ&Aを開催し、Target(ターゲット)は新機能を使ったライブスタイルの販売を行った。

Merrell Twins(メレル・ツインズ)の登場で幕を開けることになっている今後のStream and Shopイベントでは、Walmart、Samsung(サムスン)、Verizonな(ベライゾン)などの一流小売業者の製品も紹介される予定だ。

また、宣伝ウィークでのパネルディスカッションでは、ライブショッピング体験をより深く理解するために行ったリサーチの詳細と、YouTubeがどのような役割を果たしているかを紹介した。Publicis(パブリシス)とTalkShoppe(トークショップ)と共同で実施したこの調査では、視聴者の75%が、クリエイターの#ShopWithMeビデオを見るなどして、ショッピングのインスピレーションを得るためにYouTubeを利用していることがわかった。また、85%の視聴者がクリエイターの推薦を信頼しており、視聴者は動画の制作価値よりも情報の質と量を重視していることがわかった。

YouTubeは、ライブ配信でのショッピングに向けた取り組みを進めているが、まだこの機能を広く提供しているわけではない。その代わり、個々のクリエイターを対象にライブショッピングのテストを続けている。

一方で、ライバルのTikTok(ティックトック)は、独自のライブショッピング機能を進めている。

2021年初め、TikTokはShopify(スポティファイ)と提携し、米国、英国、カナダでTikTokショッピングの試験運用を開始した。2021年9月のイベントでは、新しいパートナーであるSquare(スクエア)、Ecwid(エクウィッド)、PrestaShop(プレスタショップ)、Wix(ウィックス)、SHOPLINE(ショップライン)、OpenCart(オープンカート)とBASE(ベース)とともにショッピングを拡大していると語っていた。また「TikTok Shopping」というブランドで、商品を動画や広告に統合する方法や、ライブショッピングのサポートなど、一連のソリューションや機能を紹介した。

また、Facebook(ファイスブック)は、2021年の春と夏に独自のライブショッピングイベントを開催し、FacebookアプリとInstagramアプリの「ショップ」内にライブショッピング専用のセクションを設けている。

YouTubeは、ライブショッピングイベントの開催日が近づくにつれ、詳細を発表する予定だ。

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画像クレジット:TechCrunch

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(文:Sarah Perez、翻訳:Akihito Mizukoshi)

動画配信ソフト「OBS」がNVIDIAの音声ノイズ除去機能を取り込み、キー打鍵音やマイクのホワイトノイズなど低減

動画配信ソフト「OBS」がNVIDIAの音声ノイズ除去機能を取り込み。キー打鍵音やマイクのホワイトノイズなど低減

RyanKing999 via Getty Images

子どもたちの「将来やりたい職業ランキング」に毎度ランクインするようになった”ユーチューバー”ですが、そのYouTuberやその他プラットフォームのストリーミング配信者がよく使っているのが、OBS Studio。OBSはOpen Broadcaster Softwareの略で、アップロード動画の録画にもライブ配信にも無料で使える優良ソフトウェアです。

このOBSの最新ベータ版(v.27 Beta)にて、以前はRTX Voiceと呼ばれていたNVIDIAのAIオーディオノイズリダクション技術が利用可能になりました。

RTX Voiceに対応するグラフィックスボードを搭載したPCが必要ですが、これによりOBSは配信中のキーボード打鍵音の低減、マイクのホワイトノイズやその他の様々な雑音を自動的に排除するようになります。

またこれらは、すべてOBSネイティブでサポートするようになるのもポイント、外部ソフトとの連携ではないため、配信者は複数のソフトウェアを切り替える手間が軽減されます。

ただし、元はNVIDIAの技術なのでOBS単体だけでなく、NVIDIA Broadcast Audio Effects SDKと最新のGeForce Game Readyドライバーの導入が必要です。

少々面倒そうですが、セットアップのしかたはNVIDIAのブログ記事に記されています。一度やってしまえばあとはかんたんなので、対応する環境をお持ちなら導入しない手はありません。

NVIDIAのGame Readyドライバーにはほかにもゲーム『Mortal Shell』でのレイトレーシングとDLSSのサポート、『Valorant』のReflex遅延低減設定などいくつかのアップグレードが含まれています。さらに2021年のLG製テレビなど、G-SYNC対応ディスプレイ6機種のサポートが追加されました。

(Source:NVIDIANVIDIA Developer。Coverage:OBSEngadget日本版より転載)

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カテゴリー:ソフトウェア
タグ:NVIDIA(企業)OBS Studio / Open Broadcaster Software(製品)動画配信(用語)YouTuber / ユーチューバー(用語)YouTube / ユーチューブ(製品・サービス)ライブ配信(用語)

YouTubeが「低く評価」の数を隠す実験を開始

YouTube(ユーチューブ)は米国時間3月30)、同動画プラットフォームに劇的な変化をもたらす可能性のある実験の開始を発表した。動画の「Dislike(低く評価)」の数を一般視聴者から見えなくするというものだ。同社では「低く評価」の数を見えなくするためのいくつかのデザインを試す「ちょっとした実験」を行うと話している。ただし「低く評価」ボタンが完全に廃止されるわけではない。

YouTubeは、この実験のことをTwitter(ツイッター)で公表したが、コミュニティのフォーラムではさらに詳しく、その目的は動画を好きではないことをユーザーが表明する手段をなくすことではないと説明している。クリエイターは、YouTube Studioを通じて、これまでどおり「高く評価」と「低く評価」の数を見ることができ、またそれらのカウントは現在のままYouTubeの「おすすめ」アルゴリズムに反映される。

YouTubeでは「低く評価」の数を一般視聴者から隠すというアイデアは、クリエイターの意見から出たものだと話している。

「私たちは、低く評価の数の公開が精神的苦痛を招くことがあり、また評価の低い動画を狙ったキャンペーンを誘発しかねないというクリエイターの意見を聞きました」と発表では述べられている。「そこで私たちは、クリエイターの体験を向上させるためのバランスを図る取り組みとして、高評価と低評価の数を表示せず、しかし、クリエイターが視聴者のフィードバックを確実に反映できるよう、その数値を共有できるデザインを試します」。

もちろん、YouTubeの「高く評価」と「低く評価」のボタンの使用には、ある種の群集心理が働くこともあるだろう。しかし「低く評価」の数が、その動画がクリックベイトやスパムや誤解を招くものであることを警告する意味を含んでいるならば、表示する意味がある。

心の健全性や低評価動画を狙ったキャンペーンに対するクリエイターのフィードバックに応え、低評価数を公開しないデザインをいくつか試します。この実験の対象となった方には、今後数週間、下のようなデザインが示されます。

クリエイターのみなさんは、高評価と低評価の正確な数字をYouTube Studioで確認できます。視聴者のみなさんは、これまでどおり高評価と低評価でクリエイターにフィードバックを送ることができ、それはYouTubeのおすすめ動画の選定に反映されます。

YouTubeは、1つのデザインを公表した。それは、これまでと同じボタン配置ながら「低く評価」の数が示されず、親指を下に向けたアイコンの下に「Dislike(低く評価)」という文字が示されている。

YouTubeにログインしたとき、このように画面が変わっていても、ユーザーは自分で実験から抜けることはできない。フィードバックが送れるだけになると、YouTubeでは話している。

念のためハッキリさせておくが、YouTubeはこれをもってすべてのユーザーの画面から「低く評価」の数を排除するとは約束していない。実験で寄せられる意見を参考に、このデザインを広く採用するか、するならばいつ、どんなかたちで導入するかをYouTubeが決めることになる。

ソーシャルアプリから測定値を排除する実験を行ったのは、YouTubeが初めてではない。Instagram(インスタグラム)も好意的な評価(いいね)の数を表示しない実験を行っている。人気競争ではなく、それ本来の体験を楽しんでもらうためだ。Facebook(フェイスブック)も、2021年、「いいね!」ボタンをFacebookページから排除した。より正確な「フォロワー」数を重視する考えからだ。だが「低い評価」の数だけを排除し「高い評価」は残すことで、その動画の本当の人気を視聴者が見誤ってしまう心配もある。

YouTubeがTechCrunchに話したところによれば、この実験は、数種類のデザインに対する意見を集めるまで数週間にわたり、AndroidとiOSで、世界的に実施されるという。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:YouTubeYouTuber

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Sarah Perez、翻訳:金井哲夫)

ユーチューバー向け高品質フリーミアム音楽プラットフォームUppbeatがサービス提供開始

新しい音楽プラットフォームUppbeat(アップビート)は、YouTuber(ユーチューバー)やその他のコンテンツ制作者たちが、制作する動画に使用できる高品質の無料音楽を、簡単に見つけられるようにすることを狙っている。このシステムは、アーティストに公平な補償を行いながら、複雑な著作権処理を行えるようにデザインされている。既存の無料音楽プラットフォーム、たとえばYouTube(ユーチューブ)のオーディオ ライブラリやクリエイティブコモンズから提供される動画用音楽などに代わるものを提供することが目的だ。

このスタートアップのアイデアは、約6年前から運営されているまた別の音楽ライセンス企業である英Music Vine(ミュージックヴァイン)の共同創業者であるLewis Foster (ルイス・フォスター)氏とMatt Russell(マット・ラッセル)氏によるものだ。

2020年、2人の創業者たちは、これまでとは毛色の少し違うクリエイタースペース製品に取り組む機会が増えていることに気づいた。

「私たちはYouTuber、ストリーマー、ポッドキャスターといったクリエイタースペースが巨大化していることに気がついたのですが、こうしたタイプのユーザーのために、良い仕事をしている音楽プラットフォームがなかったのです」とフォスター氏はいう。「そこで私たちは、クリエイターにとって完璧な音楽リソースとはどのようなものかをじっくり考えてみたのです。それがUppbeatを作るきっかけになりました」。

彼らは2020年9月からUppbeatのウェブサイトの開発に着手し、英国時間1月11日に公開した。

クリエイター側の視点でみた場合、Uppbeatが重視しているのは、特にYouTubeを中心とした著作権処理に対する面倒を取り除くことだ。

現在は、もしあるYouTuberが動画の中の音楽に対して著作権を主張されると、収入が失われる原因となり得る。YouTubeは、この問題に対処するために、何年にもわたってコンテンツIDマッチシステムへの新機能追加や変更を行ってきたが、依然として問題は残されている。

「もしあるYouTuberが著作権の主張を受けたら、(YouTubeは)そのYouTuberの動画の収益を停止することが可能です。そして、YouTubeの問題処理システムを通して解決を行った場合には、最長で30日もかかることがあるのです。これがYouTuberにとって、かなり大きな不満なのです」とフォスター氏はいう。

だがUppbeatの音楽を使えば、ほぼ瞬時に著作権処理が行われる。

画像クレジット:Uppbeat

Spotify(スポティファイ)と同様に、Uppbeatのウェブサイトはフリーミアムモデルを活用している。クリエイターは、まず無料アカウントを手に入れることができる。このアカウントでは、およそ1000曲ほどのカタログの約半分にアクセスが可能で、毎月10回までダウンロードを行うことができる。一方、有料プランでは、カタログへのフルアクセスが可能で、ダウンロード制限もない。

無料ユーザーはYouTube動画の概要説明にクレジットを追加するだけで、著作権処理主張をクリアすることができる、一方、有料ユーザーは承認済みリスト(ホワイトリスト)に追加されるので、この余計なステップを省くことが可能だ。

無許諾使用を撃退するために、音楽トラックはフィンガープリントを取られているため、著作権の主張は継続して可能だ。しかし同社によれば、その解決は何日も何週間もかかるものではなく、5分程度で処理が行えるものだという。Uppbeatシステムは、動画の説明文をチェックして必要なクレジットを確認したり、その有料ユーザーのリストと照合することで、権利請求をクリアする。これはすべて自動化されていて、それもスピードアップにつながっている。

画像クレジット:Uppbeat

一方、アーティストに対しては、彼らの音楽が利用された場合には、たとえそれが無料ユーザーによる利用でもUppbeatが支払いを行う。

有料サブスクリプションや、もうすぐ始まる広告からの収入は、個別のダウンロード数に比例して、毎月アーティスト間で分配される。

「アーティスト側の視点から見ると、平均的には、有料側のトラックから無料側のトラックと同じ金額を稼ぐことになります」とルイス氏はいう。「つまり無料で利用されていても、お金がもらえるということです」と付け加えた。

また、トラックを閲覧したり、音楽を聴いたりする際に再生される音声広告で収益化も行う(とはいえ、これは有料プランを推進するための時限的な措置だ)。

Uppbeatのカタログも見やすい構成だ。音楽がジャンル別、テーマ別、スタイル別に整理されていて、YouTuberが必要とする音楽やビートの種類を示すカラフルな列の中に配置されている。たとえばバックグラウンドで使用するためにカスタマイズされた音楽や、inspiring(インスピレーションを与える)、calm(穏やかな)、happy(楽しい)、dramatic(ドラマチック)といった、さまざまな雰囲気に対応するトラックが用意されている。数カ月後にはSFX(効果音)のカタログも追加される予定だ。

UppbeatはMusic Vineを通じたプロデューサー、作曲家、ソングライターといった既存の音楽業界のつながりが、他の無料音楽サービスよりも高品質の音楽トラックを入手するのに役立つと考えている。

現在のところ、このスタートアップはMusic Vineからの収入での運営を行っているが、フォスター氏によればVCからの打診もあったという。創業者たちは、当面はほとんどの部分の所有権を、社内で維持したいと考えている。

Uppbeatは、紹介プログラムと利益分配スキームの両方を実験している。後者は、Uppbeatへ新規顧客を連れてきたYouTuberに対して、2年間はその顧客からの収益を完全に手渡すようにするというものだ。

「私たちは多大な犠牲を払っています」とフォスター氏は認めている。「しかし私たちは、Uppbeatを早くリリースしてYouTuberの間で有名になればなるほど、(その収益を)共有できてハッピーになることができると考えています。大きな民間投資を行うのではなく、YouTuberコミュニティ内でそうした収益共有を行うことはクールなアイデアだと思っているのです」と彼は指摘する。

同社はまた、何人かの大規模YouTuber向けの収益共有も検討している、とフォスター氏は付け加えた。

現在Uppbeatは、英国のリーズを拠点に、従業員8名とフリーランサー12名で構成されるチームだ。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Uppbeat音楽YouTuber著作権

画像クレジット:Uppbeat

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(翻訳:sako)