LINEトーク上で決済まで完結する“チャットコマース”拡大へ、チャットボット開発のZEALSが3.5億円を調達

LINEやFacebook Messengerを活用したチャットボット広告サービス「fanp(ファンプ)」を展開するZEALS。同社は4月1日、サイバーエージェント(藤田ファンド)および既存投資家を引受元とする第三者割当増資により3.5億円を調達したことを明らかにした。

ZEALSは2018年1月にJAFCOとフリークアウト・ホールディングスから4.2億円を調達しているほか、2017年5月にも8000万円の資金調達を実施。今回のラウンドも含めた累計の調達額は約8.5億円となる。

同社では調達した資金を活用してコマース領域でのサービス展開を拡大させるほか、代理店様との提携やグローバル市場での取り組みを推進する計画。また音声関連の新サービスの準備も進めていくという。

チャットボットでの会話でニーズをあたためる

ZEALSが “会話広告” パッケージと謳っているfanpは、チャットボットとの会話を通じてユーザーのニーズを把握すると共に商品やサービスへの理解を深めてもらい、商品購入や会員登録といったコンバージョンへ導く広告サービスだ。

具体的にはLINEやFacebook上のインフィード広告からLINEのトークやFacebook Messengerを活用したチャットボットへとユーザーを集客。会話を通じてヒアリングした内容を踏まえて、商品を提案する。

ZEALS代表取締役の清水正大氏いわく、ネット広告のパラダイムシフトが起こり、サーチからフィードの時代へと変わっていく中で「全く変化してこなかったのがランディンページ(LP)の構造」だ。

「サーチが主流だった時は自分から検索してくる人、つまりニーズが顕在化してた人たちが(広告の)対象だった。一方でフィード広告の場合はニーズが顕在化していない人にも表示される。そういう人をいきなりLPに集客して何かを提案しても、“ユーザーのニーズがあったまっていない”状態なのでコンバージョンしづらい」(清水氏)

その課題をインフィード広告×チャットボットで解決しようというのがfanpのアプローチだ。特に人材業界とEC業界への導入が進んでいて、前者ではパソナやアトラエ、ビズリーチなど、後者ではロート製薬やオイシックス・ラ・大地、バルクオムなどがクライアントとなっている。

これまでにfanpを通じて解析してきた会話データは1億3000万を突破し、直近半年の売上成長率は月次平均で127%、単月の売上は約1年前の前回調達時から3.5倍に成長。チャットボットの利用ユーザー(チャットボットを利用しているエンドユーザーの数)も40万人を突破した。

実際、導入企業の平均値ではランディングページのCVRに比べてfanpのCVRは5倍を超えるそう。清水氏はこの要因として「ヒアリングファースト」「チャットボットCRM」「パーソナライズPUSH」という3つの特徴を挙げる。

「広告をクリックしたユーザーをLPに誘導していきなり提案するのではなく、チャットボットでユーザーからヒアリングをした上で商品の提案をする。特に“チャット”というUIではそれを違和感なくやれるのが特徴。従来、広告は押し付けのイメージが強かったが、ヒアリングの結果を基にパーソナライズした提案ができる」(清水氏)

ヒアリングしたデータがきちんと管理されていなければ意味がなくなってしまうので、取得したユーザーのインサイトを管理・活用できるCRM機能も重要な要素。また清水氏は、CVRを高めるという観点においては「提案のパーソナライズに加えて、PUSH通知を打てることも大きい」と言う。

「これまでWebのLPではそもそもユーザーにPUSH通知を打つことができなかった。fanpでは仮にその場でCVに至らなくても継続的なPUSHを通じてユーザーにサービスを訴求できる。平均値ではPUSHからのコンバージョンが4割を占めるほど影響が大きく、これは今までのLPからは生み出せなかったものだ」(清水氏)

今後はチャットコマース強化、新サービス展開も予定

上述したように、現在fanpは人材業界とEC業界を中心に展開している。元々は人材業界が1つの柱となっていたが、コマース領域での活用が拡大し新たな柱へと成長しつつあるという。

つい先日にはLINE Payと連携し、LINEのトーク上からタップするだけで商品の購入・決済までを完結できる仕組みをスタート。スマホ時代の新たな「チャットコマース」体験を実現した。

清水氏によると、EC事業者はより多くの顧客にリーチするべく常に新たなマーケティング用のチャネルを探していて「LINEを使って何かできるのではないか」という認識自体が広がってきているそう。

中国のメッセンジャーアプリ「Wechat」では、同アプリ上で機能するミニプログラム(ミニアプリ)が急増していて、Wechat上でECサイトやゲームアプリなどを利用する体験も増えている。同じように日本でも“LINEのトーク上で商品を買う”というチャットコマースの流れが今後広がっていく可能性は十分にあるだろう。

ZEALSでもまさにこのチャットコマース領域を今後の注力ポイントのひとつに掲げていて、決済機能以外にもカート機能や受注管理画面機能などを充実させていく方針だ。

合わせて清水氏がこれからの展望として話していたのが「代理店との提携強化」と「グローバル展開」。代理店向けプログラムをスタートすることでfanpの普及を加速させるほか、これまで蓄積してきたナレッジやデータを基にアジアでのビジネス展開にも着手する。詳細は非公開だが「革新的な音声サービス」も準備中とのことだ。

「人の持つ対話の力を機械に授けることができれば、次なる産業革命が起こると考えてこれまで取り組んできた。またそれを通じて企業理念にも掲げているように“日本をぶち上げて”いきたいという思いが強い。その点ではコマースを始め次の領域やアジア展開、新サービスなどまだまだ挑戦したいことばかり。チャットボットと音声サービスを通じて、コミュニケーションテックのパイオニアを目指していく」(清水氏)

チャットボット広告の「fanp」がLINE Payと連携、LINEトーク内での商品購入が可能に

LINEやMessengerを活用した会話広告のチャットボードサービス「fanp」を提供しているZEALSは3月12日、LINE公式アカウント内におけるLINE Pay決済と連携したことを発表した。同社によると、LINE Payとの決済連携機能がサードパーティーに実装されるのは初の事例とのこと。

具体的には、fanpのチャットボットが組み込まれた男性向けのスキンケアブランド「BULK HOMME」(バルクオム)のLINE公式アカウント上でLINE Pay決済が利用可能になる。BULK HOMMEのチャットボットとやり取りしながら、提案された商品をLINE Payを利用してその場で購入するといった流れを作れるようになる。

ZEALS によると、今後はLINE Payだけではなく、クレジットカードや後払いでの決済、決済以外のカート機能、受注管理画面機能なども充実させていくとのこと。

ZEALSは、2018年1月にJAFCOとフリークアウト・ホールディングスを引受先とした第三者割当増資で4億2000万円を調達している

会話でニーズを“あっためる”、チャットボット広告のZEALSが4.2億円調達

チャットボットを利用した会話広告サービスを展開するZEALSは1月29日、JAFCOフリークアウト・ホールディングスを引受先とした第三者割当増資を実施した。調達金額は4億2000万円だ。

ZEALSが提供する「fanp(ファンプ)」は、チャットボットを利用した会話型の広告出稿サービスだ。通常では、Facebookに出稿したインフィード広告をクリックすると、より詳細な内容を説明するランディングページ(LP)に遷移することが多いと思う。

一方、fanpでは広告をクリックするとLPに飛ぶ代わりにFacebook Messengerのチャットボットが立ち上がる。ユーザーはそのチャットボットとの会話を通じ、広告を出稿した企業のサービスや商品の理解を深めるというわけだ。そのような会話内容の“設計”はZEALSが行う。

チャットボットとの会話は自然言語処理を駆使したフリー形式ではなく、あらかじめ用意された選択肢をタップして会話していくタイプだ。ZEALSは元々ロボットの向けの会話エンジンを作っていた企業なので、自然言語処理には長けている。しかし、ユーザーの離脱率をできるだけ低くするという目的から選択型のチャットボットに決めたそうだ。

「はじめは自然言語処理を利用したチャットボットもテストしたが、ユーザーがボットと2回も会話することなく離脱してしまうことが続いた。今は、個人情報の入力などを除き、ほぼすべての入力を選択形式にしている」(ZEALS代表取締役の清水正大氏)

fanpには顧客情報を管理するCRMもあり、ダッシュボードからユーザーの会話内容やデモグラフィック・データを確認することができるようにもなっている。

fanpのCRM機能

それでは、会話広告の威力とはいかほどのものなのだろうか。ZEALSが独自に調査したところによれば、インフィード広告とLPの組み合わせで出稿した場合のCVR(コンバージョン率)は0.8%だったのに対し、会話広告ではその約7倍にあたる5.7%だったという。

清水氏はこの結果について、「入力された検索語をもとに表示されるリスティング広告では、ユーザーのニーズが明確だ。一方、インフィード広告ではユーザーのニーズがまだ“あったまって”いない。会話広告では、まだ顕在化していないニーズをチャットボットとの会話と通してあっため、商品やサービスの理解を深めることができる」と語る。

また、一度ユーザーが離脱してしまったとしても、fanpはその後も継続してユーザーに働きかける。なかには、追加的な会話によって初回から半年後にコンバージョンした例もあるそうだ。

2017年5月にリリースしたfanpは、これまでに味の素キャリアデザインセンターインベスターズクラウドなど数十社を顧客として獲得している。業種としては、人材、保険、不動産など高単価サービスを提供する企業が多いのだという。よく考えてから購入を決めるタイプの商品・サービスと会話は(たとえそれがボットとの間のものでも)相性が良いのだろう。これまでに解析した会話データは4200万件を超す。

fanpを利用した広告出稿には、広告出稿費(最低150万円〜)、システム利用料、会話量に応じた従量課金料金がかかる。

ちなみに、ZEALSはもともと、メディア向けチャットボットサービスの「fanp」と企業向けの会話広告サービス「fanp Biz」の2つを提供していた。しかし、その後同社は会話広告サービスにリソースを集中させると決断。現在はかつてのfanp Bizをfanpという名称で提供している。やっぱり広告の方が儲かったのだろう。

ZEALSは今回調達した資金を利用して、チャットボットとユーザーの会話をデザインする「コミュニケーション・デザイナー」の採用を進めるという。TVCMや雑誌広告などは専門のクリエイターがクリエイティブの企画設計を行う。それと同じように、チャットボットやロボットとの会話の設計にも専門的な人材が必要になる社会がくる、というのが清水氏の考えだ。

ZEALSは2014年4月の創業。2017年5月には約8000万円の資金調達も実施している。

ZEALS代表取締役の清水正大氏