「ここからリスタートする」マンガアプリでApp Storeアカウント停止したNagisaの今

Nagisa代表取締役社長の横山佳幸氏

「根本的に認識が甘かった。だがああいう経験があってからこそ、今がある」——ゲームアプリやマンガアプリを手がけるNagisa代表取締役社長の横山佳幸氏は振り返る。

2010年5月創業のNagisaは、これまでTwitter解析サービスやメッセンジャーアプリ、動画編集アプリなどをリリースしてきたが、直近はカジュアルゲームアプリ(100個以上を同時に運用)とマンガアプリ(「マンガ無双」「マンガ姫」)の2本柱でのビジネスを進めてきた。

規約違反でApp Storeのアカウント停止へ

だが2015年10月、アップルが同社の開発者用アカウントを停止。App Storeでアプリをリリースできなかったことから、同年12月にはiOSアプリ事業からの撤退を余儀なくされた。当時のことはTechCrunchでも報じているが、(1)一般漫画作品の一部にある性的描写での規約違反、(2)既存アプリのアップデート未対応による広告SDKでの規約違反、(3)コンテンツの開発環境と本番環境の出し分け——の3点が問題となり、アカウントの停止という重いペナルティを負うことになった。

アプリプラットフォーマーにおける性的描写の規制は、書籍で流通するものよりも厳しくなっている。そのため、町の本屋で誰でも買えるようなマンガであっても、描写を白塗りして修正することが求められることも少なくない。同社はいわゆる「R18モノ」ではなく、少年誌、青年誌のマンガを扱っていたが、それでもプラットフォーマーの判断でNGとなるものは少なくなかった。また、以前紹介したとおり、そういった内容的にNGなコンテンツを審査時に表示せず、リリース後の本番環境でのみ表示していたことも問題になった。

「一部の表現についてアップル(App Store)、グーグル(Google Play)の両プラットフォームから指摘があった。グーグルについては期限内に修正を行えたが、アップルについては(ガイドライン自体が)ブラックボックスになっていた。またマンガアプリだけでなく、App Storeに100個以上のアプリをリリースしていた。その中には広告用のSDKを入れていたが、(プラットフォーマーの規約変更で)そのSDKも違反になっていった。しかし、それを修正するよりも売上の担保にリソースを割いてしまった。グーグルについては修正が間に合ったものの、アップルについては間に合わなかった」(横山氏)

1年で「アカウントの停止がない運営」を実現する組織に

2015年10月にアカウントが利用できなくなってからは、アプリの開発を全てストップ。12月までの3カ月間、社内の意識改革と素早いチェック体制の構築に努めたという。だが自社のアカウントは復活せず、2016年1月以降はパートナーを通じてアプリをリリースした。「まず大事なのは我々がしっかりした体制を築けるかどうかというところだった。例えばマンガアプリであれば、二重三重のチェックを実施し、問題があれば速やかに修正する体制を作った。パートナーと組んで1年間サービスを展開する中で、アカウントの停止も一切ない運営ができるようになった」(横山氏)

アプリ事業の成長を背景にスタッフの増員を図ろうと広いオフィスに移転したが、事業がストップしたため、採用自体もなくなった。資金繰りにも苦労したが、既存株主であるニッセイキャピタルが支援(NagisaはこれまでニッセイキャピタルやDonutsから資金調達している)。数億円規模の調達も行った。プラットフォーマーのルールを破ったことで自ら招いた窮地も、体制を見直し、周囲の支援を受けることで立て直してきたという。停止したアカウントはまだ復帰していないが、「アップルとはコミュニケーションを続けている。再登録できるのではないかという連絡も来ている」(横山氏)

さいころのマンガアプリ「マンガZERO」

現在Nagisaが展開する事業はマンガのほか、エンタメ、インキュベーションだという。マンガに関しては子会社のさいころ、エンタメ、インキュベーションについてはピーシーズを通じて展開する。このほかパートナーとの事業も拡大していく。「マンガ事業は、出版社が持つ作品の流通の最大化を目指している。かつて『立ち読み』に使われていた可処分時間がスマートフォンの普及に伴うSNS、ゲーム、動画等の新しいサービスの登場で奪われている。しかし、マンガの需要は変わらない、いや一般化してきておりここにきて増えていきているのではないか。そんな中で書店にある人気作品も、書店では場所が限られていて置けない作品も、ユーザーとの接点を増やしていくサポートをしていきたい」(横山氏)

エンタメに関してはゲームアプリの開発が中心となる。Nasigaではこれまで、サンリオや吉本興業などのパートナーとも組んでアプリ開発を行っているが、他社とも同様の取り組みを進める。またこれまでのカジュアルゲームから、より開発工数がかかる「ミドルゲーム」の領域に進出するという。インキュベーションに関しては、新領域のアプリ開発を進める。現在はリアルタイム配信アプリを開発中だという。

横山氏は今のNagisaの強みについて「事業部を超えた技術・ノウハウ共有体制、そして100個以上のアプリを企画からマーケティング、マネタイズまでやってきたという、多産多死の失敗からのノウハウ」だと語る。以前アプリマーケティングの領域で問題になった(というか今も続いているが…)、いわゆる「ブースト広告」はやめて、通常の広告出向(アドネットワーク、SNS広告)とASO(アプリストア最適化)で良質なユーザーを集め、高いアプリの継続率を担保することができるようになったという。直近半年で、全社のDAU(デイリーアクティブユーザー)は700%増になった。

「マーケティングが強くて、いいプロダクトがあれば、いいユーザーが付いてくる。それによってマンガの作品獲得も強くなっている。相乗的なサイクルだ。まずは立ち読みでいい。雑誌の発行部数が下がっている中で、マンガの魅力を再定義していきたい。出版社の流通パートナーになっていきたい」(横山氏)。今後は人材を拡充し、大型の資金調達も視野に入れるとしている。将来的にはホールディングス化し、子会社ごとの独立性を高めることも狙う。「アカウント停止から1年半。当時は会社として売上はほぼゼロだったが、メンバーに助けられ、既存株主に支援頂き、パートナーに協力頂いてここまで来た。ここからリスタートだと思っている」(横山氏)

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TechCrunch Japan

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