「すべての人の移動を楽しく」の実現へ ― 普及価格帯モデル「Model C」を発表したWHILL

CEOの杉江理氏(写真左)とCTOの福岡宗明氏(写真右)。左の車体がModel Aで、右が今回発表したModel C

パーソナルモビリティを開発する日本のWHILLは4月13日、新型モデルとなる「WHILL Model C」の予約販売を開始する。2017年6月より出荷を開始する予定だ。同社はイベント「TechCrunch Tokyo 2012」内のプレゼンコンテスト「スタートアップバトル」でも優勝。国内外でパーソナルモビリティを企画、販売している。2016年5月には20億円を調達していて、これまでに累計で約30億円を調達済みだ。

「すべての人の移動を楽しく、スマートに」というミッションのもと、WHILLは2014年9月よりフラグシップモデルである「WHILL Model A」の一般販売を開始した。その後、FDA(アメリカ食品医薬品局)からの認可を得るためにModel Aの仕様を一部改良したModel Mを発表。2016年2月にFDAからの認可を取得し、7月から一般販売を開始した。

WHILLが手がけるパーソナルモビリティの特徴は大きく分けて3つある。24個の小さなタイヤを組み合わせた”オムニホイール”により小回りや段差の乗り越えも可能な「走行性能」、見た目だけでなく利用者の動きやすさを意識した「デザイン」、スマホアプリ経由で操作をカスタマイズすることが可能な「ソフトウェア」だ。

オムニホイール

これらのパーソナルモビリティを開発したのは、ソニーやトヨタ出身のエンジニアを中心とする技術ドリブンなチーム。彼らを率いるWHILL CEOの杉江理氏によれば、現在までの販売実績は日米合計で1000台だという。2016年度だけで500台程度を販売しており、そのニーズは着実に増しているように見える。

普及価格版のModel Cでマスマーケットを狙う

そんなWHILLが本日発表したのが、Model Aよりも広範なユーザーをターゲットにした普及価格版の「WHILL Model C」だ。Model Cのメーカー希望小売価格は45万円。Model Aの小売価格は99万5000円であり、従来モデルの半額以下となる大幅な価格ダウンを実現したことになる。一般的な電動車いすの価格帯は20〜40万円程度で、これに近づけたかたちだ。

WHILL Model C

Model CはModel Aと比べ約55%の軽量化を実現(重量は52kg)。車体は3つに分解することも可能で、セダン車程度の大きさがあれば積み込むことができる。動力は取り外し可能なバッテリーで、5時間の充電で16kmの走行が可能。スマホとBluetoothで接続すれば、専用アプリを使ってリモート操作することもできる。カラーバリュエーションは6色だ。

また、新モデルにはModel Aから採用されているオムニホイールも搭載されており、その場での回転(最小回転半径76cm)や、最大5cmの段差の乗り越えも可能だ。

「5cmの段差ってどれくらい?」と思ったTechCrunch読者もいるだろうから、ここで小話を1つ。取材した際、写真撮影のために車体を別の建物に移動させる場面があった。歩道と車道の間には、街でもよく目にする一般的な高さの段差(場所は違うが、下の写真くらい)があったのだが、Model A(高さ7.5cmまでの段差に対応)は乗ったまま段差を降りることができた。一方のModel Cは、一度運転手が降りて、手で車体を下ろす必要があった。でも、コンビニの駐車場の入り口だとか、日常生活で遭遇する大抵の段差はModel Cでも乗り越えられるだろう。

バッテリーはパナソニックとの共同開発。スタートアップとしては異例の取り組みを実現した。モーターは日本電産製だ。杉江氏はModel Cの開発背景について、「Model Aを見て、『どうしてもこれに乗りたい!でも、100万円はどうしても出せない』という声もあった。給与帯にかかわらず、さまざまな人に乗ってもらえるパーソナルモビリティを開発することは私たちの悲願でした」と語る。

また、3G通信を利用することで、オンラインで本体の状況を確認できる「スマート診断」機能やロードサービス、自賠責保険をセットにした「WHILL Smart Care」も年額1万9800円で提供する。「3G通信の本質はエラーの診断。地味な話に聞こえるかもしれないが、すごく困るのがメンテナンス。故障した際にカスタマーサポートに電話をするというのは顧客にもコストがかかる行為。『なんだか動かない』という課題を解決する」(WHILL(日本法人)代表取締役でCTOの福岡宗明氏)

「WHILL」という製品カテゴリーつくる

WHILLが開発したこの新しい乗り物の写真を見て、スタートアップがつくる「電動車いす」と考える読者は多いだろう。実際、メディアがそうやって表現することも多い。でも、同社はこれを「パーソナルモビリティ」と呼んでいる(米国では「Personal EV(Electric Vehicle)」とブランディングしているそうだ)。その理由は、車いすに乗っているという外見に引け目を感じさせず、さまざまな人に新しい移動体験を提供したいという想いがあるからだ。

だからこそ、彼らは「かっこいい」デザインにこだわっているし、福岡氏は、「実際に乗ってもらう、または乗っているところを見てもらうという体験を通して、『(健常者である)あの人も乗ってるなら』と感じてもらい、イメージを変えたい。パーソナルモビリティ、もっと言えば『WHILL』という新しい製品カテゴリーを創っていきたい」と語っている。

人々のイメージを変えるのは大変だ。道のりが長いことは同社も認めている。でも、僕は(新しい物好きだというバイアスはかかっているが)Model Cの実機を見た時は、シンプルかつスマートなデザインもあって、「早くこれに乗りたい」という思いを掻き立てられた。

実は、直販でWHILLのパーソナルモビリティを購入した人の4割は、過去に電動車いすを使ったことのない人たち。電動車いすの代わりではない、新しいカテゴリーをつくり始めているとも言えるだろう。

「日本とアメリカだけでなく、今年からはイギリスでもパーソナルモビリティの販売を開始している。最初からグローバル展開は考えていて、将来的にはヨーロッパ諸国だけでなくアジアにも拡大していきたい。私たちのミッションにある『すべての人』とは、(障害の有無、国籍にかかわらず)文字通りすべての人なのです」と杉江氏は語る。

WHILLのメンバーら

 

投稿者:

TechCrunch Japan

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