「エンド・トゥ・エンドの宇宙企業」を目指すRocket Labが大規模な部品製造施設の新設を発表

Peter Beck(ピーター・ベック)氏は、Rocket Lab(ロケットラボ)を単なる打ち上げ業者ではなく、宇宙船を製造してそれを軌道に乗せるまで自社で行う完全な垂直統合型の宇宙企業に成長させたいという意思を隠そうとしない。ベック氏が2006年に設立したこの会社は、米国時間9月1日、これまで以上に大規模な人工衛星の部品を製造するための新しい製造施設を開設すると発表し、その目標に向けてさらに大きく前進した。

この新施設では、人工衛星の重要な姿勢・安定性制御システムであるリアクションホイールを製造することになる。Rocket Labによると、この施設は2021年の第4四半期に操業を開始し、年間最大2000個のリアクションホイールを生産できる能力を備えるという。宇宙機には一般的に3個から4個のリアクションホイールが搭載されていることを考えると、ロケットラボの顧客はこれらの部品を受け入れる約500基の衛星を計画していると見ていいだろう。Rocket LabのCEOであるベック氏は「これらは複数のコンステレーションに大量に供給するためのものです」と、TechCrunchによるインタビューで語った。

Rocket Labの宇宙システム事業は、自社開発の宇宙機「Photon(フォトン)」ですでに多忙を極めており、2020年には大手衛星ハードウェア製造会社のSinclair Interplanetary(シンクレア・インタープラネタリー)を買収したことで、さらに勢いづいている。Rocket Labは、個々の用途に合わせてカスタムメイドしたPhotonを提供しており、宇宙製造業のスタートアップ企業であるVarda Space Industries(バルダ・スペース・インダストリーズ)と共同で、近々打ち上げ予定の機体を設計したり、2024年に予定されている科学ミッションでは2基のPhotonを火星に送ることになっている。

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これまで宇宙機の部品は、数十から数百という規模で生産されるのが普通だった。軌道に乗るまでのハードルが高かったからだ。しかし、Rocket Labのような企業の技術革新によって、打ち上げコストが下がり、より多くの企業が宇宙にプロジェクトを送れるようになった。つまり、より多くの衛星と、より多くのリアクションホイールが製造されるということだ。現在でも、Rocket Labが製造したリアクションホイールは約200個が軌道上にあるが、1年で2000個というのは大幅な規模拡大となる。

これはすべて、Rocket Labが目指す「総合的な宇宙サービス企業」を実現するための取り組みだ。顧客にとって垂直統合型の大きなメリットは、同社によると、製造リードタイムを短縮できることだという。Photonの製造を開始した当初は、リアクションホイールの納入に数カ月を要したため、軌道に打ち上げるまでのタイムラインが大幅に遅れてしまったと、ベック氏は語っている。

「宇宙経済が予測通りに成長するためには、これを解決しなければなりません」と、ベック氏はいう。「これは解決しなければならない根本的な問題です。宇宙のサプライチェーン全体は、小規模な事業を特徴としており、どんな規模であれ大量生産する能力には本当に欠けています」。

Rocket Labは、宇宙システム部門と新しい生産施設をサポートするため、16人以上の人材を採用する予定だ。高度に自動化が進んだこの施設では、生産ツールと環境試験用ワークステーションはすべて自動化され、金属加工は無人で行えるように最適化されていると、Rocket Labは声明で述べている。これらの技術は、Rocket Labの他の製造プロセスと非常によく似ていると、ベック氏はいう。自動化を利用して製品を迅速にスケールアップする能力の礎として、同氏はRosie(ロージー)と呼ばれる製造ロボットのことを挙げた。

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Rocket Labが製造しているスタートラッカーのナビゲーションツールのような、他の宇宙機部品も生産を拡大する予定があるかと尋ねると、ベック氏は口を閉ざした。しかし、ベック氏によれば、同社では新製品の投入を計画しているという。それがどんな物になるかは、明言しなかったものの、ベック氏が宇宙システム部門を起ち上げた当時、掲げていたその目的は「宇宙に行くものにはすべてRocket Labのロゴがついていなければならない」というものだった。

この目標は、Rocket Labのさらに大きなビジョンである、打ち上げサービスと宇宙機製造を組み合わせ、軌道上のインフラを構築できるエンド・ツー・エンドの宇宙企業になることにもつながる。

「これらを組み合わせれば、軌道上でインフラを整備し、最終的にサービスを提供するための非常に強力なプラットフォームになります」と、ベック氏は語っている。

しかし、どのようなサービスを考えているのかという質問に対して、ベックは胸の内を明かさず、代わりに競合他社の有名な例を挙げた。それは、SpaceX(スペースX)が自社で製造・打ち上げを行うインターネット衛星プロジェクト「Starlink(スターリンク)」だ。ベック氏は、Rocket Labがどのような事業展開を目指しているのかについては口を閉ざしたまま、垂直統合によって新しいビジネスモデルを試すことができるとだけ語った。

「私たちが実験するための限界費用は、非常に低く抑えられます」。
画像クレジット:Rocket Lab

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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TechCrunch Japan

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