「ゲーム」から「ネット」の人に——グリー元取締役・吉田大成氏の分散型動画メディアは月間3000万再生に成長

エブリー代表取締役の吉田大成氏

エブリー代表取締役の吉田大成氏。抱いているのはマスコット犬の「EVE(イブ)」

2006年にグリーに入社し、「釣り☆スタ」「探検ドリランド」などソーシャルゲーム黎明期のヒットタイトルの責任者として活躍してきた吉田大成氏。SNSからゲームへと事業をシフトしつつあったグリーを支えた吉田氏だが、2015年8月に同社を退社。9月には自ら起業して「エブリー」を設立。現在は分散型の動画メディア(自社で独自にメディアを持たず、各種ソーシャルメディアにコンテンツを配信することで露出をはかるメディア)を手がけている。

「ゲーム」でなく、「ネット」の人としてユーザーと向き合う

「もともとネットのことをしたくてヤフーに入社し、その後にKDDIと提携したばかりのグリーに転職した。グリーでの仕事から『ゲーム』の人と思われがちだが、ベースは『ネット』の人。もともと創業から数年のグリーに入ったのも、いつかは自分で起業したいという思いもあったからこそ」——吉田氏は語る。

2013年には取締役を退任。ゲーム事業から離れて、新規事業やM&Aなどを担当することになった吉田氏。「ゲームの次」を担う事業を模索する中で動画メディアに目を付けたが、結局社内では事業化するまでに至らなかった。それならばとグリーを離れ、自らの起業を決めた。「事業にフルコミットして、ユーザーと向き合うサービスをしたいと考えた」(吉田氏)

取材の際にはグリーでの話も聞いた。ガラケー時代からゲーム事業の成長に寄与した吉田氏だが、2012年以降グリーはコンプガチャ騒動の中心にいる1社として世間から批判を受けることになる。またその後プロダクト面ではスマートフォンネイティブアプリへの移行が遅れたとも言われており、その結果は苦しい業績というかたちで現れた。吉田氏の取締役退任は、その責任を負うものだったという報道や、経営陣の不仲といったウワサもあった。

当時の出来事とグリーの退職、そして起業は結びついているのか? これについて吉田氏はあくまで新しいチャレンジのためのポジティブな選択だったと説明する。

苦しかった2013年当時を振り返ると「グリーはすごくいいチーム。経営陣それぞれが自分の役割に徹している。自分がどうするか以上に、1000人を超える会社をどうするかを考えていた。誰がどう責任をとるか、そしてこれからどう新しいものを作るかと話していた」(吉田氏)という。とはいえ業績の不信もあり、経営陣から何らかのアクションがなければ社員からは「誰も責任は取らないのか」となるような状況だった。吉田氏は自らが取締役を退任し、新たな事業の立ち上げると決めた。

また他の経営陣との関係については、「部下も含めてその後の引き継ぎもきっちりとしている。新規事業でゲーム事業からも人材を送ってもらうなど、それぞれの役割をやってきた」とした。

グルメ系分散型の動画メディアは月間3000万再生に

グリー時代の話はここまでにして、吉田氏が今、エブリーでどんなことにチャレンジしているのかをお伝えしよう。同社が挑戦するのは動画領域。具体的には、(1)C2・F1・M1層(10代後半から30代前半)をターゲットにした分散型の動画メディア、(2)YouTuberやモデル、芸能人の発掘・育成といったタレントマネジメント、(3)前述の動画メディアやタレントを起用した動画広告ネットワークの3点だ。

まずは動画メディア事業からスタート。現在はメイクやヘアアレンジといった美容カテゴリの動画を配信する「KALOS」、レシピを中心にグルメカテゴリの動画を配信する「DELISH KITCHEN」を展開している。オフィスに複数のスタジオを用意し、社内で動画の撮影や編集も行う。

エブリーのオフィス。キッチンでは料理動画の撮影を行う(撮影テクニックはナイショということで一部マスクをかけている)

エブリーのオフィス。キッチンでは料理動画の撮影を行う(「撮影テクニックはナイショ」ということで一部マスクをかけている)

特に好調なのはDELISH KITCHEN。2015年9月にスタートして約4カ月だが、コアファン数(配信先ソーシャルメディアにおけるDELISH KITCHENのファン数の合計)は54万人、月間動画再生回数は2540万回(2月は3000万回を超える見込み)、月間の動画再生ユニークユーザーは441万人となっている。

「Facebookのグルメ系動画ではファン数で国内最大の規模。『翌日すぐ使える』をテーマにしているが、これがユーザーに評価されている。アテンション(認知)、インタレスト(興味・関心、共感)が伸びており、動画の視聴後にその料理を作ったり、商品を購入したりするケースも多い」(吉田氏)

Facebookの動画はウォールを閲覧している際に自動再生されるため、再生回数が多いのではないかとも思ったのだが、完全視聴率も40〜50%と高い。「1分前後の長さで、見たあとに『有益だ』と思える内容であれば最後まで見てもらえる。コンテンツは受け入れられている」(吉田氏)

 

Facebookの次に力を入れているのはInstagram。DELISH KITCHENのアカウントはフォロワー12万人。ハッシュタグ「#delishkitchentv」には、動画を観て、実際にそのレシピを作ってみたというユーザーの料理写真が並ぶ。現在はバレンタインデー前に配信したチョコチップクッキーやミニクロワッサンの写真が数多く並んでいる。

FacebookとInstagram、他のソーシャルメディアにしても、プラットフォームごとに掲載するコンテンツの内容を変えており、最適な形式は模索中だという。「ゲームのブランドと同じ。例えば『ドラゴンクエスト』と言っても、家庭用ゲーム機、携帯ゲーム機、スマートフォンアプリと、プラットフォームごとに最適な形がある。動画も同じで、プラットフォームごとに求められるモノは違ってくる」(吉田氏)

エブリーは今後も自社メディアを持たず、各種ソーシャルメディアを通じて情報を配信していく。「スマートフォンの時代、自社ページにユーザーを誘導する価値はどんどんなくなってきている。普段使っているアプリなんて平均すれば1人数個という状況。その数個のアプリにどんどん時間が取られているのであれば、その(アプリの)中でユーザーにリーチすることが重要だ」(吉田氏)

今後はグルメや美容以外の領域に特化した(分散型の)動画メディアの立ち上げを進める。「今は動画メディアが伸びている時期。『動画を中心に料理のメディアをやる』のではなく、様々な番組を作って、それぞれ伸ばすことを考えている。海外でもBuzzFeedの『Tasty』などグルメ系の動画は人気だが、そのジャンルだけが観られるわけではない。社内の人材も全方位で募集していく」(吉田氏)。

将来的にはアドネットワークを含めた本格的なマネタイズを進めていく。「僕らの強みは分散型メディアの制作ノウハウ。将来的には雑誌やテレビなど組んで動画を作ることも可能だと思う」(吉田氏)

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今後の動画メディアの展開について

投稿者:

TechCrunch Japan

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