「モノのインターネット」に必要な5つの階層

lego-robots


編集部記Jim HunterはCrunch Networkのコントリビューターである。Jim HunterはGreenwave Systemsのチーフサイエンティストとテクノロジーエバンジェリストである。

数ヶ月前に投稿したモノのインターネット(IoT)の「モノ」の捉え方が変わってきたという内容の記事に多くの反響があった。

その記事で書いた私の主張は、「モノ」を人のように扱うべきというものだ。選挙権を与えたり、税金の支払いを求めたりということではなく、特定の役割を満たす従業員を採用するのと同じように考えるということだ。スマートな「モノ」を「人っぽく捉える」と言えるかもしれない。

前回の補足として、そのような「モノ」は何で構成されているかを明記し、形式化した方が良いと思いついた。何故なら、世の中は数えきれないほど大量の物であふれているが、全てがIoTではなく、また全てをIoTにすべきでもないと考えているからだ。

IoTの「モノ」を定義するために、マズローの欲求5段階説を用いたい。これは良く知られた心理学の概念で一般的にピラミッドの形で表されるものだ。一番下には人間の基本的な欲求(生理的に必要な空気、食べ物、水)があり、一番上には高次の欲求(自己実現欲求や潜在能力の発揮)に向かって上がっていく。

次の表は、IoTの「モノ」の各ニーズをその段階に置き換え「モノの自己実現」までの過程を表している。

GW IoT_hierarchyOfNeeds pyramid

マズローの説では低次の欲求が満たされなければ、人は次の段階の欲求を持たないという。「モノ」のニーズも似たように機能すると私は考えている。下位の構成パーツが無い場合、次の段階に向かうことができないということだ。

ピラミッドの底辺は「モノ」が存在するために必要なものを表している。当然のことだが電力が必要で、他のモノにつながったり、送受信(ラジオのように)したりするために必要な物理的な仕組みや「モノ」の機能を発揮するための部品が必要だ。

また、IoTに関しては「モノ」の置かれる環境も考慮に入れなければならない。「モノ」が機能する物理的な環境のことだ。それは北極の氷を観察するプロジェクト用のもので、氷点下でも機能するだろうか?あるいは、リストバンド型の活動量やエキササイズをトラックするもので、スポート時の衝撃や圧力に耐えられるだろうか?急激に変化する体温や汗に耐えられるだろうか?防水や耐火機能はあるだろうか?ケースは軽量な布が適切だろうか?チタンだろうか?

そしてもう一つ、「モノ」は物なので特定のニーズを満たし、価値をもたらさなければ使い物にならない。最も重要なのは、その「モノ」に期待されている機能を備え、存在理由を持たならなければならないということだ。

中核となる物理的なニーズが満たされたのなら、外界と接続する前にセキュリティーの確保が求められる。IoTを利用するのにセキュリティーが重要な鍵であることを明記しておく。同時に個別の「モノ」をそれぞれ特定し、外部からアクセスでなければならない。

アクセシビリティは、インターネット接続だけを指しているのではない。物理的に「割って」開かれた場合、セキュリティーの欠如は保存したデータをリスクに晒すことを意味する。

私たちは現在に至るまでに、インターネットに関連する全てのもので、不正利用される可能性のあるものは、実際に不正利用されてしまうことを学んだ。全てのIoT端末を製作する初めの段階で、この事実について考慮しなければならない。全てのIoTの「モノ」はエンコード、暗号化、データ認証を施す必要がある。

セキュリティーの条件を満たすと、次のピラミッドの段階ではコミュニケーションのニーズが発生する。「モノ」は物理的なニーズのために外界と接続する物理的な仕組みが必要であると明記したが、ここでのニーズは自己表現のニーズと表している。

端的に言えばこのニーズは、IoTの「モノ」の声を世界に届ける方法が必要ということだ。インターフェイスやネットワークを形成する方法をこの段階で特定する必要がある。その「モノ」は、伝送やネットワーク層においてどのプロトコルを使用すべきか? IEEE 802.15.4だろうか?6LoWPANだろうか?IoTの「モノ」が使うプロトコルと言語はこの段階で必要だ。コミュニケーションのニーズは、IoTの「インターネット」の部分を満たすものだ。

インターネットに関連する全てのもので、不正利用される可能性のあるものは、実際に不正利用されるものだ。

次のニーズの段階はデータに関するものだ。ここでは「モノ」が集めた情報をどのように扱うかを決める。どのような処理を行うべきか?データのログはどのように取るべきか?分析はどうするべきか?集めたデータはどのように機能し、「モノ」はそれをどのように表示すべきだろうか?

ピラミッドの一番上の段階にはスマート端末特有のニーズがある。マズローの自己実現欲求に相当するものだ。ここでの「モノ」のニーズは表現することだ。「モノ」は単一のセンサーやコミュニケーションのゲートウェイとしてだけでなく、多様な構成要素を組み合わせた「モノのインターネット」の一部としての役割を果たすのだ。

その「モノ」は分析に役立ち、論理的だろうか?これまでの行動を学習し、今後の行動を予期できるだろうか?スケールは可能だろうか?自動で設定を行い、人が介入しなくても作動するだろうか?「モノ」がチューリングテストに合格する必要はないが、ここでその「モノ」の性質が分かるだろう。

「モノのインターネット」の「モノ」とは当初それぞれ個別の「モノ」を指していたが、実際の所、単一のモノに限らないというこの構造に私は興味を持っている。

個人が団体や組織に加入したと考えてみてほしい。その新しいグループも独自の存在として確立する。同様に単一の「モノ」が他のモノとつながってグループやモノのネットワークを形成すると、それを「複合的なモノ」として捉えることができる。

この「複合的なモノ」も単一の「モノ」と同様にこの構成に則った独自のニーズを持つ。私はこの特異なミクロとマクロの視点で、単一の「モノ」とそれらが集めるデータが情報へと進化する様に興味を覚えるのだ。

この構造を考えたのは、親しみのある概念を利用して、「モノ」の設計とインタラクションモデルのデザインについて理解を深めるためだ。例えば、このシンプルな質問について考えみてほしい。「IoT端末を購入する場合、どのような点を考慮すべきだろうか?」この考え方を知っていることで、その回答は「新しい従業員を採用する場合と同じ点を考慮すべき」となる。どちらの場合でも誠実性、信頼できるかどうか、他の人やモノと上手く協力できるかを考慮すべきなのだ。
モノを「人のように捉える」ことで、応用の効く概念の視点を得ることができるだろう。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。