「本気で世界シェア1位を取りにいく」Reproが4年ぶりの増資で約30億円を調達

Repro代表取締役の平田祐介氏(前列中央)と投資家陣

「前々期まで2期連続で黒字が続いていて、きちんと売上が立っていた反面、攻めの投資ができなかった部分もある。当初は赤字を掘って投資をすることに恐れもあったが、この1〜2年で自分の視座を2段階ぐらいあげることができ、前期は赤字になりながらも先行投資を進めてきた。今回の調達は自分にとって決意表明のような意味もある。世界シェア1位を本気で目指していきたい」

Repro代表取締役の平田祐介氏は自社の現状と展望についてそのように話す。同社は2月13日、YJキャピタルなどを引受先とした第三者割当増資とデットファイナンスを合わせて総額で約30億円を調達したことを明らかにした。

  • YJキャピタル
  • SBIインベストメント
  • NTTドコモ・ベンチャーズ
  • KDDI(グローバル・ブレインが運営するKDDI Open Innovation Fund 3号 )
  • DGベンチャーズ(既存投資家)
  • DG Daiwa Ventures (DG Lab Fund / 既存投資家)
  • ジャフコ(既存投資家)
  • みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、商工組合中央金庫(デットファイナンス)

Reproにとって外部からの資金調達は約4年ぶり。前回の調達は2016年3月まで遡る。2014年の設立後、翌年にアプリ分析ツール「Repro」をローンチ。最初こそ「全然売れなかった」ものの、マーケティング機能を搭載しアプリマーケティングツールへと進化したことで急成長を遂げてきた。

現在Reproのプロダクトは66ヶ国、7300を超えるサービスに導入されている。

2018年に平田氏に取材をした際にもT2D3(SaaSの重要指標で、サービス開始から3倍、3倍、2倍、2倍、2倍と年々売上が成長する状態のこと)の軌道に乗り、事業が年々成長していることは聞いていたので、個人的には「次はエグジットのニュースかも」なんて考えもあった。

事実、もともとReproは2年で数億円規模のM&Aを目指すべく設立された会社であり、前回の調達後にM&Aの交渉を進めていた時期もあったという。

ただ、結果的にReproが選んだのは別の道だった。IPO路線へとシフトし、さらなる成長、ひいては世界シェア1位に向けて、人材採用や研究開発などへ積極的に投資を実行。今回の調達はその流れをさらに加速させるためのものだ。

マーケティングツールからCEプラットフォームへ

Reproは2016年にマーケティング機能を取り入れたことを機に、アプリマーケティングツールとして事業を拡大してきた。

特徴はデータの取得から加工、マーケティング施策へのアウトプットまでを一気通貫でサポートしていること。Reproを使えば、取得したアプリユーザーの行動・属性データをリテンション分析やファネル分析など様々な仕組みを用いて徹底分析し、その結果を基にプッシュ通知やアプリ内メッセージといったマーケティングアクションを実行するところまでをワンストップで完結できる。

この仕組みをベースに、近年力を入れてきたのが「チャネルの拡張」だ。2018年にスタートしたWeb版によって、アプリ・Web横断で施策を実施することが可能に。昨年からはCDP(カスタマーデータプラットフォーム)系の事業者と繋ぎこみを行い、オフラインデータへの対応も始めた。

オフラインもカバーすることで、OMO文脈の複合的な施策もReproでできるようになる。たとえばアパレルブランドの渋谷店でジャケットを購入したとしよう。その情報はPOSデータに入り、CDPを経由してほぼリアルタイムにRepro上にもあがってくる。

Repro上にはそのジャケットと相性が良いネクタイの情報があったので、ジャケットを購入した消費者に対して「先ほどは渋谷店でのお買い上げありがとうございました。店頭には置いてなかったのですがジャケットに合うネクタイがあるので、良かったらいかがですか」というメッセージをアプリに通知する。そんなことが可能になるのだという(この取り組みはまだ正式な商用化はしてないそう)。

チャネルの拡大により顧客層も広がってきた。当初はアプリを作っているIT系企業がほとんどを占めていたが、小売を始め、全国チェーン展開している企業、数十万人以上の従業員を抱えるエンタープライズへの導入も進んでいる。今後は金融や小売、外食などへ積極的に展開していく計画だ。

アプリのデータのみを扱うアプリマーケティングプラットフォームから、Webやオフライン、IoTなどのデータも取り込んだ上で、消費者1人ごとに最適なコミュニケーションを行えるプロダクトに進化したRepro。これを機にプロダクトの打ち出し方も「CE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォーム」へとリブランディングしたことも明かしている。

AIの研究開発を加速、子会社設立で本格的なグローバル進出も

チャネルの拡大と並行して強化してきたのが「AIによる自動化」と「グローバル展開」だ。

Reproでは2018年7月に研究開発チーム「Repro AI Labs」を設立し、ユーザーとの適切なコミュニケーションに不可欠な“シナリオ設計”をAIが手助けする仕組みを開発。話題を集めた「少年ジャンプ+」との実証実験では、AIがアプリから離脱しそうな傾向にあるユーザーを予測し、プッシュ通知を通じてユーザーの離脱を防ぐ取り組みを行った。

このチャーン予測機能はすでに商用化済み。蓄積してきたデータとAIを活用して、プッシュ通知のタイミングをパーソナライズする機能や、優良顧客を予測する(たくさん課金してくれそうなユーザーを予測する)機能などを次々と手がけている。

「マーケティングオートメーション(MA)ツールという単語から多くの人が連想するのは、そのツールを買えばマーケティングが自動化されることのはず。でも実際にはめちゃくちゃ人間の手が必要なのが現状で、だからこそ市場が爆発的には伸びなかった。近年は本当に人間が介在せずにマーケティングを自動化することが技術的にも可能になりつつあるので、Reproでもそこを突き詰めていく」(平田氏)

パワーアップしたReproを引っさげ、2019年8月にはシンガポール子会社を設立。まずは東南アジアを軸にCEプラットフォーム領域でシェアを拡大するべく、本格的な海外進出を進めているところだ。

「2年で数億円規模のM&Aを目指す」からのスタート

今回の資金調達は上述した取り組みをさらに前進させることが目的だが、その意思決定に到るまでには様々なドラマがあったようだ。

冒頭で触れた通り、もともとReproは2年で数億円規模のM&Aを目指すことを目標に数人のメンバーが集まって立ち上げた。当初は苦戦し「いつ潰れてもおかしくない状況」に直面しながらも、PMFを達成。事業を成長軌道に乗せられた時には創業から3年が経過していたという。

「ある日創業メンバー全員から呼び出されて『平田、俺たち2年で数億円のエグジットを約束して集まったよね。でも現時点ですでに3年が立っている』という話になった。自分で会社をやっていたり、別のことを抱えながら2年間という約束で協力してくれたメンバーもいたので、そろそろM&Aに向けて動き出してくれということで、投資家とも相談しながら話を進めた」(平田氏)

当時のReproは売上が前年比で300%成長し、勢いに乗り始めていた時期。実際に数社から買収のオファーが届き、そのうちの1社に絞って数十億円単位の具体的な交渉も進めていたという。

「最終的に希望する金額と先方から提示された金額に少し開きがあった。死ぬ気でここまで会社を作ってきて、まだまだ伸ばせる自信があるし良いメンバーと一緒にやれてもいる。安売りするのは自分たちがやってきたことを否定している気もして、徹底的に話し合った結果、IPO路線に切り替えこのチームでさらなる成長を目指すことに決めた」(平田氏)

とはいえ、当初は頭で納得していても精神が追いつかない時期もあった。もともと2年間という前提で「毎日18時間くらい働いて目的達成してやるという気持ちだった」が、IPO路線に変えるということは当面の間CEOとして経営を担い続けることが基本となる。当初の想定より責任も重い。

悩みを抱えていた結果、事業は黒字を継続しているものの思い切った投資ができず、後から振り返れば機会損失や競合の参入を許すことにも繋がった。

「改めてIPOを目指す意義は何か、1年ほど前まで悩んでいた。その中で見えてきたのが、日本がこのままだと暗い国になってしまうのではないかということ。才能ある若い人材が夢や目標を語れなかったり、社会に出ることを危ないことだと考えていたり。これから人口も減りGDPも減少する中で、数少ない成長産業であるIT領域から外貨をしっかり稼げるサービスを出せないと、未来はもっと暗くなってしまう」(平田氏)

Reproは以前から複数の国にユーザーを抱えていて、国外でもニーズがあることはわかっていた。だからこそ「腹をくくって世界シェア1位を目指す」道を選んだ。「日本人は事例ができると強い。自分たちが良い事例を作れれば、もっと大きい産業でも海外で勝負をする起業家が増えるはず。だったら自分の余生をかけてやりきる意義もある」という思いもあった。

直近1年ほどは戦略的に赤字を掘りながら、人材採用を強化中。いよいよ自分たちの資金だけでは足りなくなってきたため4年ぶりの増資を決めた。

増資のテーマは「国内の盤石な体制を築いた上で、海外を攻めること」。今回のラウンドで3大キャリア(関連するVCも含めて)を仲間に招き、金融業界でDXを推進するSBIも株主に加わった。海外子会社にも積極的に投資を実行し、IPO時には少なくとも子会社単体でARR3億円以上を目指すという。

ちなみにメンバーは毎月10人前後増えているそうで、現在は約200名体制。エンジニア(Rubyのコミッターが7人いるそう)やReproのキモとも言えるCS部隊を中心に組織も強くなってきた。

今後は海外に開発拠点を設けグローバル規模で開発体制を強化するほか、シンガポール法人に続く新たな拠点の開設も計画しているという。

プロダクトとCS体制で東南アジアのシェア獲得目指す

Reproが勝負を挑むCEプラットフォームはグローバルの競争が激しい領域だ。平田氏が過去の取材でも名前をあげている「Braze(旧Appboy)」を筆頭に複数のプレイヤーが存在し、東南アジアにおいてもReproはかなりの後発になる。

その状況下においてどう戦っていくのか。1つのポイントは地域ごとのマーケターの成熟度とニーズの違いだ。

平田氏の話では米国はマーケターが成熟していて多くの担当者は自走できる。そのため自分がやりたいことが機能として実装されているのか、スペックが同じならどちらが低価格なのかといったような「プロダクトの機能面」で比較されることがほとんどだという。

一方で日本の場合、米国ほど個々の担当者にマーケティングの知識が浸透していないことが多い。だから機能面以上に「目標達成に向けて密にサポートしてくれるか」が重要なカギとなる。

過去に日本展開していた米国産のツールと比較しても「当時は機能面で2.5倍くらい先行されていた印象」(平田氏)だったが、周りからは“コンサルの域”とも言われるようなCSチームによる手厚い伴走支援によって、Reproは国内市場の競争に勝ってきた。

では東南アジアの場合はどうかというと「米国と日本のミックス」なのだそう。ツールの評価方法は米国に近く機能面がシビアに比較されるが、マーケターが成熟しているわけではないので伴走支援も欠かせない。それがネックになって先行して市場に乗り込んだ米国企業も現時点では苦戦している状況で、後発でも十分に付け入る隙があるというのが平田氏の見解だ。

「(CEプラットフォームも含めて)CRMの領域は日本人に向いている。市場の啓蒙から必要で、アドテクなどと比較して成長に時間がかかる一方、頑張ってやり続ければ確実に伸びる。リングに立ち続けて、死ななければ勝てる領域だということが少しずつ見えてきた」

「海外の競合も複数いるが、10年20年かけて本気でやり続ける起業家がどれだけいるかというと、ほとんどいないという感覚。だからこそ覚悟を持って耐え続ければ世界戦でも勝てる手応えはある」(平田氏)

もちろんCEプラットフォームとしてグローバルで覇権を握るにはプロダクトの改良も不可欠。これについてはAIによる自動化の推進などに加えて新たな試みも進めている。現時点で詳細は明かせないとのことだが「B2C企業向けの次世代CRM」の確立に向けて、現在のReproには足りていない要素を開発していく計画だという。

世界でトップシェアを誇るプロダクトを目指し、4年ぶりの増資を経て次のステージへと動き出したRepro。同社のこれからの動向に注目だ。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。