「東大IPC 1st Round」第4回の採択企業5社を発表、シード期から東大発スタートアップを支援

東大IPC 1st Roundのロゴマーク

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スタートアップが初めに直面する課題の1つにシード期の資金調達がある。東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は、東大発のスタートアップなどを対象に、企業連携型インキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」を用意している。東大IPCは三井不動産など計10社のコーポレートパートナーと手を組み、最長6カ月の期間でさまざまなサポートをしながら、採択企業の垂直立ち上げを目目指している。同プログラムは採択企業の約9割が採択から1年以内に資金調達を実施するなど、大きな効果を生んでいる。

東大IPCは3月15日、第4回「東大IPC 1st Round」採択企業を発表した。採択されたのは、EVや鉄鋼材リサイクル、AI、バイオ、獣医DXで事業展開する5社だ。

Yanekara:商用電気自動車をエネルギーストレージ化する充放電器とクラウドの開発

Yanekaraは「自然エネルギー100%の日本を創る」ことをミッションとしている。電気自動車を太陽光で充電し、それらを群制御することで電力系統の安定化に必要な調整力を創出できる充放電システムを開発している。

電気自動車が拠点や地域内の太陽光発電で走るだけでなく、駐車中に遊休資産となっている車載バッテリーから調整力を生み出すことができれば、エネルギーの脱炭素化と地域内自給、さらには高い災害レジリエンスを実現できるという。

今回の支援によって、プロダクトを完成させEV利用企業への提供実績を作り、Yanekaraシステムの社会実装に繋げていく。

Citadel AI:AIを可視化し、AI固有の脆弱性・説明責任リスクから顧客を守る事業

Citadel AIは、AIの思考過程を可視化の上、顧客のAIの品質・信頼性を確保する「AI監視ツール」を提供する。元米国Google BrainのAIインフラ構築責任者が開発をリード。同ツールは、オンライン・バッチ環境、学習・運用フェーズのいずれにも対応し、さまざまなAIシステムへの適用を可能としている。

Citadel AIは、AIを「消費期限がある生鮮食料品のようなもの」と表現する。出来上がった瞬間から社内外の環境変化のリスクに晒され、品質劣化が始まる。AI固有の脆弱性を狙ったアタックも存在し、さらにAIの説明責任・コンプライアンスの観点から、学習データに潜むバイアスにも常に注意が必要となるという。

Citadel AIは「24時間いつでも頼れるAIをあなたに」という事業ビジョンを持つ。

EVERSTEEL:画像解析を用いた鉄スクラップ自動解析システムの開発

EVERSTEELのミッションは、鉄スクラップの自動解析システムにより鉄鋼材リサイクルを促進し、世界の二酸化炭素排出量を削減することだ。

鉄鋼材生産による二酸化炭素排出量は、世界の製造業全体において最も多い25%を占めており、低減の促進が望まれている。また、リサイクル過程での不純物混入により鉄鋼材の品質などが低下し、多大なコストが発生してしまう。さらに鉄鋼メーカーは、不純物混入制御を現場作業員の目視で行っており、品質確保と作業の効率化に限界がある。

EVERSTEELは自動解析システムを実用化することで、高効率・高精度な不純物混入制御を実現していく。また、世界の基盤材料である鉄鋼材のリサイクルを促進することで、世界規模でのSDGs達成を目指す。

LucasLand:バイオ産業にDXをもたらす簡便微量分析法の開発

創薬や食品科学、環境安全、感染症検査、科学捜査などのバイオ産業において微量分析は重要視されている。しかし、一般的な微量分析法(X線、NMR、質量分析など)は分析装置の大きさやコストが問題となる。また、簡便微量分析法である表面増強ラマン分光法は生体試料への適合性の課題があった。

LucasLandのミッションは、これらの難問を解決した東大発の新素材「多孔性炭素ナノワイヤ」を用いて、バイオ産業全般のDXに資する微量分析プラットフォームを創造すること。今回の支援を活用し、事業化を推進していく考えだ。

ANICLE(予定):獣医業界のDXを進める遠隔ペットケアサービス事業

ANICLEは、すべてのペットが最適なヘルスケアを受けられる社会の実現を目指していく。現在の獣医業界には、さまざまなハードルにより飼い主が動物病院に行くタイミングが遅れ、救えたはずの命が失われているという深刻な課題がある。

ANICLEはITを活用し、トリアージ、オンライン相談・診療、往診といった遠隔獣医療サービスを提供することで、獣医療へのアクセスの改善を図る。さらに家庭と動物病院を繋ぎ、シームレスなヘルスケアをペットが受けられるように獣医業界のDXを進めていく。

東大IPC 1st Roundでコーポレートパートナーと協業機会も

東大IPC 1st Roundは米国スタンフォード大学出身者によるアクセラレータプログラム「StartX」をベンチマークに、東大IPCが始めたインキュベーションプログラムだ。対象は起業を目指す卒業生や教員、学生などの東大関係者や、資金調達を実施していない東大関連のスタートアップとなる。

また東大IPCは、コーポレートパートナーを東大IPC 1st Roundに迎えることで、採択企業との協業機会の創出に力を入れている。コーポレートパートナーには、JR東日本スタートアップ、芙蓉総合リース、三井住友海上火災保険、三井不動産、三菱重工業、日本生命保険、トヨタ自動車、ヤマトホールディングスなど、各業界のリーディングカンパニーが参加している。

東大IPCによると、すでに採択先と各企業との資本業務提携など、オープンイノベーションの事例が10社以上も生まれたという。2020年からは採択先に対する東大IPCによる投資も開始し、BionicMやアーバンエックステクノロジーズ、HarvestXなどに対する投資を実行している。

今回の発表では、産業ロボット業界をけん引する安川電機と、基幹業務ソフトから中小企業の「マネジメントサポート・カンパニー」を目指すピー・シー・エーが新たにコーポレートパートナーに加わったことが明らかになった。新たに迎えた2社を加え、コーポレートパートナーは全部で10社となった。

インキュベーションプログラムとして高い実績

東大IPCはこれまで計34チームを採択した。採択1年以内の会社設立割合は100%で、資金調達成功率は約90%、大型助成金の採択率は50%だという。設立直前直後のチームを対象とするインキュベーションプログラムとして、東大IPCは実績を積んでいる。

具体的な支援としては、東大IPCは採択企業に対し、コーポレートパートナーによる協賛も含めた最大1000万円の活動資金を出している。事業推進に必要な資金調達や実証実験、体制構築、広報、資本政策などに関して、東大IPCや外部機関からのハンズオン支援なども提供する。

なお、東大IPC 1st Roundにおける採択企業の詳細な選定基準は非公開となっている。東大IPCの広報によると、スタートアップの事業性と実現性、支援意義の3つの観点で選定しているという。また、イノベーションエコシステムの拡大を目指す狙いから、審査プロセスにはコーポレートパートナーや外部VCも参加し、最終選定を行っているとのこと。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:東京大学協創プラットフォーム開発東京大学人工知能DX

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