「水路を民主化」したいNavierの水中翼レジャーボートは約3480万円

正直、ボートが実際いくら程度するのかをググったほど見当もつかなかったのだが、30万ドル(約3480万円)もする製品でレクリエーションを「民主化」しようなどと宣伝しているのを見ると、ギロチンを磨きたくなるのは筆者だけだろうか。ロベスピエール的な冗談はさておき、Navier(ナビエール)には一目置いてしまった。同社の次世代ボートはかなりかっこいい。ハイドロフォイル(水中翼)によって水面を軽やかに移動することができ、大型のバッテリーパックと電気モーターを搭載しているため、電動船としては最長クラスの航続距離を誇っている。同社によると航続距離は75海里で、これは約690 ハロン(86マイル/139 km)に相当する。

同社は、Global Founders Capital(グローバル・ファウンダーズ・キャピタル)と、Comcast Ventures(コムキャスト・ベンチャーズ)の元MDであるDaniel Gulati(ダニエル・グラティ)氏が運営する新しいファンドTreble(トレブル)の共同主導により、720万ドル(約8億3000万円)のシード資金調達を完了したとを発表。今回の資金調達には、Next View Ventures(ネクストビュー・ベンチャーズ)、Liquid2 Ventures(リキッド2ベンチャーズ)、Soma Capital(ソーマ・キャピタル)、Precursor Ventures(プレカーサー・ベンチャーズ)に加え、複数のエンジェルも参加している。

「2020年にスタートして以来、船舶のランニングコストを90%削減した新タイプの水上船を作ることを目標として掲げています」。Navierの共同創業者兼CEOであるSampriti Bhattacharyya(サムプリティ・バッタカリヤ)博士は説明する。「水中翼の電動化、高度な複合材、インテリジェントなソフトウェアを組み合わせることで、船舶のランニングコストを桁違いに削減できると考えています。これによりまったく新しいスケーラブルな輸送システムや、これまで不可能だった水上輸送システムが可能になります。世界の46%が沿岸部の都市に住んでいるわけですから、かなり大きな潜在市場があると考えています」。

「民主化」の意味を尋ねてみると、それはボートの購入をという意味ではなく、運用コストに関してだと回答した同社。従来の化石燃料で動くボートはクルマの15倍近い運用コストがかかるため、それがボートが移動手段として普及しない原因だと同社は話している。燃料と労働力という2つの主要要因がコストを上げている原因であると言い、そのため電動水中翼船技術による燃料費の削減と、ボートの自律化による人件費の削減を実現しようとしているのである。

同社が最初に市場に投入する予定の製品は、レクリエーションボート市場に向けた「Navier 27」(通称N27)だ。

めちゃくちゃかっこよくないか?(画像クレジット:Navier)

「レクリエーショナルボートは、釣りやウォータースポーツ、友人とのクルージングなど、非常に幅広いアクティビティに活用してもらえます。つまり、ボートを使用して水上で楽しむあらゆるアクティビティのためです」。CTOのReo Baird(レオ・ベアード)氏は、私がボートの知識をまったく持っていないことを考慮して馬鹿丁寧に説明してくれた。レクリエーション用のボートというのは同社にとっては第一歩に過ぎず、将来的にはその効率性を生かして浮動式のロボタクシーを作りたいと考えている。「我々は高効率な水上船のプラットフォームを構築しているのです。このプラットフォームを利用して水上のロボタクシーとして機能させることが長期的な目標です。そのためには、燃料費や人件費などのコストを削減する必要があります」。

「コスト、スピード、利便性で勝負できるボートを作ることができれば、まったく新しい交通手段を切り開くことができます」とバッタカリヤ氏は説明する。「例えばサンフランシスコのベイエリアを考えてみてください。現在、10のターミナルと5つのルートがありますが、より小さなマリーナに行くことができるボートを作れば、ターミナルの数は10から65に増えるでしょう。すると一気に2000ものルートが使えるようになり、これですべてが解決します。イーストベイのリッチモンドからサンフランシスコまで、クルマで1時間ではなく、海を渡って15分で行けるようになるのです」。

効率化は3つの要素によって実現される。主な節約源は水中翼技術によるもので、船がスピードに乗っているときは船体が水から浮き上がり、小さな翼でクルージングしているような状態になる。これによりモーターが水を押し出す必要がなくなり、抵抗が減って効率が上がるという仕組みである。この技術は1950年代頃から旅客船に搭載されていたもので、紛れもなくクールな技術ではあるのだが、トレーラーに積むのが難しく、また浅い海には向いていない上に水中翼の効果を得るためにはかなりの速度で移動しなければならないため、レクリエーションボート向けにはあまり一般的でない技術なのである。

「発進時の正確な最低速度は公表していませんが、時速15〜18マイル(24〜29km)の範囲内です」とベアード氏は話している。

CTOのレオ・ベアード氏とCEOのサムプリティ・バッタカリヤ博士(画像クレジット:Navier)

その他にも、主に軽量の複合素材を使用することで効率性を上げている(フォイリング中にボートを水面から持ち上げるのが容易になる)。また、抵抗と重量をさらに減らすためのスマートなデザインも効率性に貢献している。

「弊社にはすばらしいチームがあります。MIT(マサチューセッツ工科大学)出身者が何人もいますし、弊社の主任造船技師のPaul Bieker(ポール・ビーカー)は、Larry Ellison(ラリー・エリソン)がアメリカズカップで優勝したときの船を担当した人物です」。バッタカリヤ氏は同社が伝説的な造船関係者と協力してN27を設計していると説明する。「Navierは単にアップグレードされた電気製品ではなく、私たちはこれまでのボートのあり方を根本的に見直しているのです。ハイドロフォイルが波の上をフォイルするので船酔いも起きませんし、圧倒的に優れた乗り心地を実現します」。

同社によると、約1カ月半前に予約を開始して以来、最初の15隻がすぐに完売したとのことだ。このクールなボートに興味を持つさまざまな顧客層から現在も数百件の問い合わせを受けているという。しかし、現在はメイン州の造船所で試作品を制作中で、最初の消費者向けの船は2023年頃に生産ラインから出荷される予定とされているため、手に入れるにはまだしばらくかかりそうだ。同社は米国での製造を計画している。

Navierは、ボートビルダーのLyman-Morse(ライマン・モース)と提携し、このNavier 27の生産を実現している。同モデルの最初の2隻の船体は、現在メイン州の施設で建設中だ。2024年までに400台以上の生産を計画しており、Navierのウェブサイトではその年のボートを予約するためのウェイティングリストに登録することが可能だ。

フランス人ネタを繰り返したい訳ではないが、ちなみに同社名は水中翼船の製造を可能にするための重要な数学である「ナビエ・ストークス方程式」を考え出したコンビの一方、Claude-Louis Navier(アンリ・ナビエ)に由来しているという。

画像クレジット:Navier

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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