「治験の情報格差なくす」Buzzreachが情報発信サービスを正式公開

新しい治療法や治療薬の情報を求める患者らが、病気や症状に合った治験や臨床試験の情報を検索できるプラットフォーム「Search My Trial(SMT)」。そして製薬企業や医療機関が直接、患者や一般ユーザーに治験実施の情報を発信できるプラットフォーム「Puzz(パズ)」。

新薬開発には欠かせない、“治験”にまつわる2つのサービスを患者・医療関係者の双方向に展開するBuzzreach(バズリーチ)は3月5日、これまでベータ版として提供してきたPuzzを正式にリリースしたと発表した。

Puzzの詳細に入る前に、一般向けに公開されているプラットフォームのSMTについて紹介したいと思う。SMTは、病気や症状に悩む患者など一般ユーザーと、日本全国で行われる治験・臨床試験情報をウェブ上でマッチングするサービスだ。SMTは2018年5月より、ベータ版として公開されている。

SMTでは患者自身や家族の環境や状況に合った治験情報を調べることができ、近隣で該当する治験を実施する医療機関があるかどうかも検索可能。かかりつけ医院での治療だけではなく、別の選択肢としての治験を検討することができる。

ユーザーが気になった治験・臨床試験には応募も可能。ウェブ上で簡易的なスクリーニングを行った結果、条件に合えば医療機関の治験コーディネーターと連絡が取れるようになる。

一般向けのSMTに対し、今日正式リリースされたPuzzは「製薬企業/医療機関向け」かつ治験情報を「発信」するためのプラットフォームだ。

Puzzでは企業/医療機関が治験情報を掲載して、一般ユーザーや治験情報を必要とする患者に向けて情報を発信し、参加申し込みまで受け付けることができる。

Puzzでは医療機関単位だけでなく、プロジェクト単位で治験情報を登録でき、それぞれに細かい設定や情報展開が可能となっている。Puzzに治験情報を掲載することで、治験の被験者募集を専門的に行う企業やヘルスケア系メディア、患者会などに対して、情報発信を一度で同時に行える。

また、Puzzに掲載された治験情報はSMTにも掲載されるため、新しい治療法を求める患者と治験情報とをマッチングすることもできる。

Puzzでは、これらのチャネル全体で約250万人の治験希望者データベースに向けて治験情報を拡散可能。さらに治験参加者のデータはクラウド上で一括管理することもできる。Puzzへの情報登録は無料プラン、有料プランが選択可能だ。

情報格差をなくし、薬の開発コスト・スピード改善を目指す

新薬開発では、長い開発期間と膨大な開発コストが製薬企業の負担となり、削減が各社の課題となっている。その要因の中でも、治験の被験者となる患者の数が絶対的に足りない、という問題が大きく影響しているとBuzzreachでは見ている。

この問題は、治験業界における情報の流通性の低さにあるという。治験は新薬を作るためには必須のプロセスだが、治験の認知度の低さにより、患者募集のためのコストが増大し、必要な症例数が足りない場合には試験期間の延長や実施医療機関の追加などにより、さらにコストが余分にかかるようになる。

一方で新たな治療方法を求める患者にとっては、治験情報に行き着くまでが困難で、簡単に最新の情報を得ることができない。

患者側と製薬企業/医療機関との情報格差をなくすこと、患者側に必要な情報が届けられること、アナログだった患者情報の管理を一括で行えるインフラを整えること。これらを実現することで、薬の開発コスト・スピード改善に貢献したい、というのが、同社がSMTとPuzzを開発した狙いだ。

2018年のベータ版ローンチから約6カ月間、複数の製薬企業でPuzzを導入した結果、あるプロジェクトではトータル開発期間を2カ月間短縮でき、これにより4500万円ほどのコスト削減ができたケースもあるという。

Buzzreach代表取締役 猪川崇輝氏

Buzzreach代表取締役の猪川崇輝氏は「現状、大半がブラックボックスとなっている治験の情報を患者につなぐことが開発スピードをあげ、開発コストの圧縮にもつながり、何より患者に新たな選択肢と希望を届けることを可能にする」とコメント。「日本で実施されている可能な限り多くの治験情報を、病気で悩む人に新たな選択肢としてつなぐため、PuzzおよびSMTを提供し、より一般向けにわかりやすく情報に触れてもらえるよう努める」としている。

同社はPuzz正式リリースと同時に、KLab Venture Partnersをリードインベスターとして、シードラウンドで資金調達を実施したことも明らかにしている。調達金額は総額約5000万円だ。

調達によりBuzzreachでは、PuzzやSMTのサービス拡充に加え、ITを活用して、より良い環境を求めている患者にフォーカスしたその他のサービスにも注力するという。

今後、治験の情報提供をきっかけに、患者ごとに最適な情報を届けるサービスを展開していく、というBuzzreach。2019年春には治験担当者と参加患者をつなぎ、さまざまな問題を解決する患者管理アプリをリリースし、治験を基点として製薬企業と患者がつながるコミュニティをスタートさせる予定だということだ。

Buzzreachは2017年6月の創業。代表取締役CEOの猪川崇輝氏と、COOの青柳清志氏はともに治験被験者募集専門会社のクリニカル・トライアルで立ち上げ時から参画していた経歴を持つ。

治験業務の効率化を図るプラットフォームとしては、昨年10月にOracleに買収された米国のスタートアップgoBaltoや、日本にも拠点を置くMedidataといった企業が、主に製薬企業やバイオテクノロジー企業、医療機関、研究機関などに向けたサービスを展開している。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。