「自前主義の限界感じた」トヨタがオープンイノベーション・プログラムを手がけるワケ

screenshot_729
2016年12月7日に発表された、トヨタ自動車のオープンイノベーション・プログラム「TOYOTA NEXT」。同プログラムは、企業や研究機関が持つユニークなアイデアや技術と、トヨタが持つアセットを組み合わせ、“新たなモビリティサービスの創設”を目指すというもの。運営はデジタルガレージおよび同社傘下でシードアクセラレーターのOpen Network Labが協力する。

募集対象は、技術者や研究機関をはじめ、ベンチャー・中小企業から大企業までの国内の企業。募集期間は2月20日まで。その後は約半年間の選考期間を経て、協業の形を模索していくという。

開催にあたって、募集されているテーマは下記の5つだ。

1. 全ての人の移動の不安を払拭する安全・安心サービス
2. もっと快適で楽しい移動を提供するクルマの利用促進サービス
3. オーナーのロイヤルティを高める愛車化サービス
4. トヨタの保有するデータを活用した ONE to ONE サービス
5. 全国のトヨタ販売店を通じて提供するディーラーサービス

創業から80年、「自前主義の限界」感じた

社内外のリソースを組み合わせ、新たな商品やサービスを開発する“オープンイノベーション”の動きはここ数年で活発になってきている。TechCrunchの読者に関わりそうなところで言えば、大企業が旗振り役となってプログラムを立ち上げ、アクセラレーターがサポートに入ってスタートアップとの橋渡しをする、なんていうケースが多いのではないだろうか。

そんな背景もあって1〜2年ほど前から各所でオープンイノベーションに向けたプログラムが発表されている。例えばCCCグループが手がける「T-VENTURE PROGRAM」などは、採択企業が最終的にCCC傘下に入るといった具体的な事例も出ているようだ。しかし各社のプログラムを見渡してみて、全てが具体的な成果を上げているとは言い切れない状況だ。

ではそんな中でなぜトヨタはTOYOTA NEXTを開始するのか。トヨタ自動車 デジタルマーケティング部 部付 中長期戦略グループ 係長の金岡慶氏は、「自前主義の限界を感じていた」とプログラム立ち上げの経緯について語る。

「創業から80年。我々はずっと自前主義を貫いてきていたのですが、ここ数年、業績だけでは分からないような行き詰まりを最近感じていて。『メーカー目線」ではなく『お客様目線』でのブレークスルーを考えたときに、自前でやっていくことだけが最適解ではないだろうと。いろんんな人の知恵を借りてやっていくことが良いのではないかと思いプログラムを開催することにしました」(金岡氏)

TOYOTA NEXTは同社と取引のあるグループ会社以外を除き、あらゆる人や組織が応募可能なプログラムとなっている。また従来のプログラムのような1企業対1企業の形式は設けず、複数社でアイデアを考えて申し込みをすることもできるとのこと。そのあたりに従来のオープンイノベーション・プログラムとの違いを感じられる。

各アセットごとに担当者をアサイン

これまでにも未来プロジェクト室など、新たなモビリティサービスを生み出すプロジェクトを走らせてきた同社だが、今回のプログラムはトヨタ自動車が持つアセットを幅広く開放している点が大きく異なっているという。

これまでの取り組みでも、テレマティクスサービス「T-Connect」のアセットのみを提供するということはあった。だが今回の取り組みでは、同社の自動車ユーザーの位置情報などのビッグデータ、全国約5200店舗のディーラーネットワーク、レンタカーサービスを提供する約1200店舗・月間1000万UUのオウンドメディア、会員数15万人・友達数2,500万人の LINE 公式アカウントなどのタッチポイント、トヨタのクルマに備わっているスマートキーボックス、TransLog、T-Connect、TC スマホナビアプリなどの製品やサービスを提供するのだという。

「今回、各アセットごとに担当者をアサインしていく予定です。2次選考でアイデアの突き合わせの時間を2カ月半とっており、社内の体制は万全にしているので、通過したアイデアが何にもならなかった……という事態は起きないようにしています」(金岡氏)

プログラムを始めたはいいものの、プログラムの運営チームが社内の別部署の協力を得られずに頓挫するなんていう話も耳にするが、そういった課題も乗り越えているというのが同社の主張だ。選考を通過した後は、事業の規模によってさまざまな協業の形を検討。出資という形式をとることもあれば、ジョイントベンチャーの立ち上げや開発資金のみの提供も考えられるそうだ。

なぜ、トヨタ×デジタルガレージだったのか?

今回の取り組みでトヨタがデジタルガレージとともにプログラムを組んだ背景には、クリエイティブディレクターであるレイ・イナモト氏が関係している。金岡氏によると、TOYOTA NEXTのクリエイティブ統括をレイ・イナモト氏が行っており、イナモト氏の会社であるInamoto & Co.に対してデジタルガレージが出資していることから接点を持ったのだという。

デジタルガレージといえば、DGインキュベーションによるスタートアップ投資に加えて、Open Network LabのSeed Acceleration Programを通じて日本のスタートアップを支援してきたアクセラレーターの先駆けでもある。

「(大企業とスタートアップを結ぶプログラムについて)これまで我々のところにもいくつかお誘いの声はあったのですが、全て断ってきました。もしやるならば、本気の企業とやりたいと思っていました」(DGインキュベーション シニアインベスメントマネージャーの松田崇義氏)良い例、悪い例も知っているデジタルガレージが運営の知見を教えていくことで、1回限りで終わらず、定期的に開催するプログラムにしていくことを目指すという。

TOYOTA NEXTでは、具体的な成果目標は掲げていないという。「応募テーマ数と同程度、5つくらいはサービスが出せたらな、とは思っています」(金岡氏)

トヨタ自動車 デジタルマーケティング部 部付 中長期戦略グループ 係長の金岡慶氏(左)とデジタルガレージのDGインキュベーションの松田崇義氏(右)

トヨタ自動車 デジタルマーケティング部 部付 中長期戦略グループ 係長の金岡慶氏(左)とデジタルガレージのDGインキュベーションの松田崇義氏(右)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。