「自動運転はタクシーから」Autowareが作り出す未来

11月14日(木)・15日(金)の両日、東京・渋谷ヒカリエで開催中のTechCrunch Tokyo 2019。14日午前のFireside Chatでは「自動運転OS『Autoware』が作り出す未来」と題して、ティアフォー取締役会長兼CTOの加藤真平氏が登壇。自動運転の最新テクノロジーと近い将来の姿について語った。またサプライズゲストとしてJapanTaxi代表の川鍋一朗氏も登場。当日発表されたばかりの自動運転タクシーの社会実装に関する協業について、2人に語ってもらった。モデレーターはTechCrunch Japan編集統括の吉田博英が務めた。

写真左からティアフォー取締役会長兼CTO 加藤真平氏、JapanTaxi代表取締役社長 執行役員CEO 川鍋一朗氏

お年寄りから子どもまで幅広く使える自動運転へ

ティアフォーは自動運転技術を開発するスタートアップ。登壇した加藤氏は、オープンソースの自動運転プラットフォーム「Autoware」の開発者でもある。加藤氏は「自動運転技術ははやっていて、いろいろなやり方がある。我々は自分たちだけで実装を目指すというよりは、まわりのパートナー企業とアライアンスを組んで、シリコンバレーや中国のテック企業と渡り合っていくという戦略で事業を進めている」と話す。

加藤氏は「自動運転はまだ今日の社会には浸透していない。現在“自動運転”と言われているものには、さまざまな意味がある」という。

「半自動運転機能については、ちょっと高いクルマであれば、高速道路や一部の一般道でレーン維持をするものや、衝突回避をするものが出てきている。だが、今までのそういう自動運転機能から一歩先に進んで、AIやハイテクを搭載する自動運転は、1社ではシステムを作ることはできないと私は考えている。いかにパートナーとアライアンスを組むかというのが、自動運転を実現するために技術面でも大事なことだと思っている」(加藤氏)

戦略はいかにパートナーを集めることができるかにかかっている、という加藤氏。「ティエアフォーとしては、自分たちが作ってきたソフトウェアを自在化するというよりは、オープンソースとして一般に公開して、一緒にアライアンスを組んでビジネスや研究開発をしていこうというのがスタイル」と語る。

加藤氏は広くアライアンスを組むことで「開発者だけでなく、結果としてお年寄りから子どもまで、幅広く使える大変高い水準の技術になると思う」として、ティアフォーが掲げるビジョン「Intelligent Vehicles For Everyone」の“Everyone”の意図するところについて説明する。

Autowareの長所については「自動運転に必要な全ての機能が1つのパッケージとしてまとまっている点だ」と加藤氏。「だから、クルマがあり、センサーがあれば、ソフトウェアをダウンロードして、一般道を走りたい、限定された地域を走りたいといった目的に応じて、機能を変えられる」と述べている。

「Autowareは1つの自動運転システムをつくるためのものというよりは、いろいろな自動運転システムを作るためのプラットフォーム。Linuxでもいろいろな機能があり、サーバーを開発する場合とデスクトップを開発する場合とで使い方が違うと思うが、Autowareも一緒。物体を認識する機能、行動を計画する機能など、いろいろな機能が入っていて組み合わせることができるところが強みになっている。全ての機能がオープンで1つのソフトウェアに入っているというのは、世界的に見てもAutoware以外にない。シェアをカウントしたことはないが、7〜8割のシェアを取っているのではないか」(加藤氏)

自動運転の現状と近未来

自動運転を巡る現状について加藤氏は、「各社の競争が激しく、また自動運転と言ったときに、いろいろな人がいろいろな捉え方をしている」と話している。「先に挙げたとおり、半自動運転でよければ、市販のクルマを買えば既に機能が付いている。ただし一歩先に行けば、人間がドライバー席に座らず、全てAIとコンピュータで運転するという未来があり、その中でも種類が分かれている。分かりやすいのは、姿かたちは今のクルマとあまり変わらないが、そのクルマが進化して自動運転機能を持つというもの。もうひとつは新しいモビリティとしてクルマの原型をとどめていなくてもよく、『もうこれはロボットだよね』というタイプだ」(加藤氏)

「今の自動車の延長上にある自動運転は、一般道を走る目的のために開発されている」という加藤氏は、ティアフォーがAutowareで開発する自動運転車の走行の様子とソフトウェアを動画で紹介。「3次元を認識する点が今の市販車と大きく違うところ。レーンをカメラで見るというだけでなく、3次元を捉えられるカメラを使って、高度なAIを搭載し、細かい制御をするところまでティアフォーは来ている」と説明する。

世界的には「Googleなどは技術力ではティアフォーの先を行っているが、ティアフォーに追いついていない自動運転企業の方が圧倒的多数。すごくばらつきがある」としながら、加藤氏は「総じて今、一般道で、運転席に人を乗せなくても走れるようになってきた、というのが現状だと思う」と分析する。

実用化という面では「法規制や倫理感、産業構造を変えてしまう、といった社会の問題があり、テクノロジーだけの問題ではない」と加藤氏。ただし「少し視点を変えて、一般道ではなく公園や倉庫内などの屋内などであれば、自動運転は今年来年というより『もう既に来ている』」とも話している。

ティアフォーでは、3Dプリンターで試験用の機体を用意し、設計を細かく変えながら量産化できると判断できれば製造にまわす、というスタイルで、公道以外で利用できる自動運転モビリティの実証実験を行い、開発を進めている。「こういうモビリティであれば、技術面では十分な水準まで来ている。安全をどう担保するかという面で細かい課題は残っているが、来年ぐらいには公園などの敷地内でハンドル、アクセル、ブレーキが付いていないクルマが走っているのではないかと考えている」(加藤氏)

現在、日本の行政では一般道で走るタイプと、限定された地域内を走るタイプの2通りの自動運転車の実現を推進していると加藤氏。「来年のオリンピック開催は経済的にも、技術実証の場としても機会と捉えられていて、いろいろな企業がこれにタイミングを合わせて開発を進めている」として、トヨタの自動運転モビリティ「e-Palette(イーパレット)」を紹介した。

「e-Paletteは既に、アクセル、ブレーキ、ステアリングがついていないモビリティ。これが来年、オリンピックの選手村を、選手を乗せて20台近く走ると言われている。こうした限定されたエリアをターゲットとした自動運転機能については、これまでに取り組んできた実績もあって、ティアフォーが開発したものがe-Paletteに採用されたのだが、とてもいい経験となった」(加藤氏)

「世界連合軍でAutowareを作るのが我々の野望」

アメリカでもUberやGoogleからスピンオフしたWaymoが自動運転技術を開発しているが、国ごとの特性に応じた仕組みはやはり、必要なのだろうか。

加藤氏は「私の仮説では、汎用の自動運転システムというか、自動運転に限らず、汎用のAIを開発するのは難しいと思っている」という。「各社とも、ある地域用に作り込んで自動運転を実用化する技術力はあるが、全世界に対応するのは遠い話になる」と加藤氏は述べ、当面は「陣取り合戦がビジネスの戦略としては大事になるだろう」と見通しを示した。

「アジア、アメリカ、ヨーロッパと、走行環境、法律、通信インフラなど、いろいろなものが国ごとに違う。例えばGoogleもあれだけ投資をして自動運転を開発しているが、まだネバダ州とカリフォルニア州の2州での展開だ。これはほかの州では技術的にできないということではなく、州ごとに微妙に異なる規制が変わるので、対応が難しいということ。ある程度、汎用的な技術はできると思うが、最終的に法律や社会のあり方といったことを考えると、ひとつのAI、ひとつのシステムで全ての地域に対応するのは難しいのではないかと思う」(加藤氏)

Autowareの利用は、日本、中国といったアジア圏が多めだが、アメリカやヨーロッパでも広く使われていると加藤氏はいう。ヨーロッパについては「オープンソースなので、ダウンロードして使っている人たちはいるが、僕らとのつながりがまだない」とのこと。「オープンソースにしているのは、なるべく広めて、使ってくれる企業や研究者とコラボレーションしたいという戦略から。アジア、アメリカについては国際団体の『The Autoware Foundation』にも多く加盟してもらっているが、ヨーロッパはこれからだ」と話している。

「世界連合軍でAutowareを作るのが我々の野望。まだ国際団体を作ってから1年経っていないので、来年はヨーロッパやアフリカなどにも広めていきたい」(加藤氏)

今実際に、どんな業界で自動運転が取り入れられようとしているのか、加藤氏に聞いてみた。「現段階ではR&Dがちょうど沸騰してきているところ。3次元処理ができるようになってきたり、シミュレーターがリアルになってきたりで、ようやく一般公道を走る準備ができてきたというのが私の印象だ」(加藤氏)

中でも「タクシーが分かりやすい」と加藤氏。「タクシーは、最も自動運転が社会に貢献できるアプリケーションなのではないかと考えているので、タクシーの自動運転はぜひ実現したい」と語る。

まさにこの日の朝、自動運転タクシーの社会実装に向けて、ティアフォーとJapanTaxiをはじめ数社との協業が発表されたのだが、「タクシーとの連携については、実は3年ほど前から日本交通、JapanTaxiと話を進めている」と加藤氏が説明。ここでゲストとして、JapanTaxi代表取締役社長の川鍋一朗氏が登場した。

「自動運転はタクシーから実装される」

自動運転タクシーというと、しばしば課題に挙げられるのが「ドライバーはどうなるのか」という話だ。川鍋氏は「雇用の未来など、センセーショナルに取り上げるときに必ず『タクシーやトラックの運転手がいなくなる』と語られるが、実際には運転手不足などにより採用を進めていくと、年間10%ずつぐらい入れ替わっていくので、今後10年で対応できるスピード」と述べ、「仮に全自動運転タクシーが東京を走ったとしても、恐らく無人運転ではない、という状況が長く続くのでは」と続けた。

「タクシーを利用するときに、普通に1人で乗るときもあれば、障害者の方が乗る、子どもだけで乗る、観光の方が乗るといった、人がいた方がいいシチュエーションはまだまだ多い。日本交通では新卒で乗務員をたくさん採用しているが、彼らにも『運転という機能はだんだん減るが、人間力、ホスピタリティという面が必ず上がるので、絶対に職にあぶれるということはない』と話している」(川鍋氏)

加藤氏は「これからは、テクノロジー単体に価値を見出すのはすごく難しくなっていく」として「社会のどの部分にテクノロジーを入れていくか、我々のようなテクノロジーを開発する側が考える責任を持っている」と語る。

「自動運転タクシーは実現できる。ただ、使い方を間違えたら産業構造を破壊してしまう。また、そもそも価値を最大化しようとしたら全部テクノロジーでやる、というのは恐らくあり得ないことだ。うまく社会や人間とテクノロジー、AIとが共存するというのは、テクノロジーだけでなく社会の課題だと思う。今のドライバーと少し役割は変わるかもしれないが、ドライバーという職業がなくなるということは、私もないと思う」(加藤氏)

加藤氏は技術開発としてだけでなく、産業、社会として成立させるという点を「楽しんでいるし、興味を持っている」と語っている。

川鍋氏はまた「単にA地点からB地点まで人を運ぶだけなら自動運転になるだろうが、今の日本の課題は人口減少であり、過疎化である。『移動しなければならないのに、お金が負担できない』という状況がすごく増えるはずだ。税金で埋めることになるだろうが、税金にも限りがある。そうすると社会として、最小負担額で何か移動できる物体を作らなくてはいけなくなる。そこには人を1人乗せるだけでなく複数人乗せることになるし、物も載せていかなければいけなくなるだろう」と貨客混載の可能性について述べている。

「相乗りタクシーシャトル的なものに、郵便物も小包も載せ、後ろを開けるとコンビニエンスストアのようなものが出てくる。そういう未来になるのではないか。地方では、今、ドライバーの有効求人倍率は6倍ぐらいある。これをよく見ると、トラック、バス、タクシー、宅配便、郵便とそれぞれが運転手を募集している状況。この全部が一緒になれば、6人が1人にはならないまでも、2〜3人にすることはできるのではないか。そうならざるを得ない社会的要請が日本にはあり、自動化された運転が進む社会的基盤がある」(川鍋氏)

加藤氏は「社会を中心とした考え方をしないと、新しいテクノロジーをプロダクト化できなくなってきているが、そこがむしろ差別化要因」と語っている。「どうやってリアルワールドをテクノロジーと僕らがうまく融合させていくか。テクノロジーはグローバル化し、テクノロジーそのものに差異はなくなっていく。5年もすれば、自動運転技術はみんなできるようになっていくので、差別化できるのは社会といかに融合するかという部分になる」(加藤氏)

川鍋氏は「自動運転は100%、タクシーから実装される」と予言する。「祖父がタクシー会社を創業した時には、日本製のクルマはなく、トヨタが日本車を作り始めたときにタクシー業界が真っ先に使った。タクシーは一般車両の6〜7倍の距離、年間10万キロを走る。タクシーが使って、壊れまくったという日本車を直してまた使って、というプロセスがあった。オートマチック車ができたときも、タクシーから導入された。早く壊れることで実証実験になっている。自動運転車両も最初は価格が高いはずだが、社会的にも認知を高めようというときに、必ずタクシーが役に立つと考えている」(川鍋氏)

本日の発表ではティアフォーとJapanTaxi、損害保険ジャパン日本興亜、KDDI、アイサンテクノロジーの5社が協業して、2020年夏、都内で実際に日本交通のタクシーが実証実験を行うことが明らかになった。川鍋氏は「これまでは『自動運転車両をタクシーにする』という話だったが、タクシー専用車両を使ってくれなければ、いつまでも実証実験の域を出ない。タクシー専用車両を使って自動運転ができないか、加藤氏に相談した」と打ち明ける。

この車両は2020年1月に開催される自動運転Expoでお披露目されるという。また、都内での実証実験では、一般ユーザーがJapanTaxiのアプリを使って、自動運転タクシーが呼べるようになる予定だそうだ。

「モビリティの変化の度合いは、タクシーが一番大きいと考えている。変化した頃に『タクシー』と呼ぶかどうかは分からないが、自動運転の度合いが高まれば、運転手はアルバイトの乗務員でもよいということになり、ホスピタリティがある人でいいということになるはずだ。貨客混載になるならば、完全自動運転車では荷物にロックをかけ、受け取りにQRコードを使い、といったことになり、設備投資が大変なことになるので、必ず有人になると私は考えている」(川鍋氏)

「テクノロジーが進めば、タクシードライバーも含めて、特集能力を持たなくても、いろいろな職業に就くことができるようになる。オリンピックの頃には自動運転タクシーが都内を走っているはずなので、ぜひアプリをダウンロードして利用してみてほしい」(加藤氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。