「資金はすべて米国にぶっこむ。日本には残さない」–メルカリとスマニュー、海外でどう戦うか

これまで多くのスタートアップが海外展開に挑戦してきたものの、そのほとんどは失敗に終わっている。しかし今年はスマートニュース米App Storeで1位を獲得するなど明るいニュースもあった。

先日のイベント「TechCrunch Tokyo 2014」では、そのスマートニュースに加え、日本で600万ダウンロードを超えたフリマアプリ「メルカリ」、すでに海外ユーザーを多く抱える対戦脳トレアプリ「BrainWars」からキーパーソンを集め、「世界で勝負できるプロダクトの作り方とは?」と題しディスカッションした。

モデレーターを務めたのはTechCrunch Japan編集部の増田覚。冒頭で、「そろそろメジャーリーグで日本人選手の先駆けとなった野茂英雄のような存在が、日本のスタートアップ業界にも必要なのではないか?」と問いかけた。果たして、この3社が野茂となるだろうか。まずはそれぞれの海外展開の現状について整理しよう。

米国で10月リリース、いきなり1位になったスマニュー

スマートニュースについて紹介したのは、共同創業者で代表取締役を務める鈴木健氏。同アプリは2年前にリリースされた。機械学習と人工知能でネット上の情報を集めてきて、快適に読んでもらおうというアプリだ。

リリースから25カ月で500万ダウンロードを突破した。UIに多少の変更を加えて10月に米国でリリース。米国のAppStoreのニュース部門では見事1位を獲得した。多くのメディアに取り上げられ、レビューも好評とのことだ。

メルカリ、来年は欧州市場も

メルカリはスマホから簡単に出品・購入ができるフリマアプリで、去年の7月にリリース。取締役の小泉文明氏によれば、ダウンロード数は600万を突破し、月間数十億の売買が発生しているという。出品数は1日10万品目に上る。テレビCMも効果が出ているそうだ。

今年3月に14.5億円を調達してサンフランシスコにオフィスを開設した。米国では今年9月にアプリをローンチ。カテゴリでひと桁台の順位につけているという。「来年はヨーロッパにも進出したい」と小泉氏は語る。

BrainWarsは驚異の海外比率95%!

トランスリミットは1月に設立したばかり。1つ目の製品が「BrainWars」という対戦型脳トレゲームアプリだ。友達と対戦しながら頭を使うゲーム遊ぶと、自分の得意・不得意分野が分析される。現在、16種類のゲームが用意されており、アップデートごとに2〜3のゲームが追加される。米App Storeのゲーム部門で1位を獲得し、アプリは700万ダウンロードを突破している。友人間のクチコミで伸びており、ここまで広告費を一切払ったことがないそうだ。

もう1つの特徴は海外比率の大きさだ。国内のユーザーはわずか4.6%にすぎない。残りの95.4%が海外からのアクセスで、米国と中国が多いものの、「その他」が22.7%とかなり細分化されている。合計150カ国以上で使われているという。代表取締役の高場大樹氏は「ゲームをしていると普通に外国人とあたる。言葉の壁がなく遊べる。同じ脳トレをやっているので頭脳のオリンピックみたいになる」と語った。

海外展開に向けてUIは変更「日本向けはごちゃっとしている」

リリース時から海外を意識し、すでに海外ユーザーが多いBrainWarsは別として、スマートニュースとメルカリは米国に進出する際に、何らかのUIを調整した模様だ。「グローバルに通用するのはどんなUIなのか」というお題に対して、それぞれ興味深い答えが帰ってきた。

スマートニュースの鈴木氏は、「もともと海外を意識しており、普遍性のあるアプリに仕立てていた」と言う。ただし、言語やUIは日本向けに作っていた。例えば日本人向けに少々ごちゃっとしたデザインにしていたが、米国でユーザビリティテストした結果、変更する必要性に気づいたそうだ。「米Flipboardのデザイナーがアドバイザーになってくれて、どういうデザインにしたらいいか議論してリリースした。まずまずUSのユーザーにとっても使いやすいと評判のものに仕上がった」と振り返った。

メルカリの小泉氏もほぼ同じようなことを語った。「UIについては初期のメルカリはすごくごてごてしていて、日本ぽく、東アジアっぽかった。それが日本にウケていたけど、9月に米国でローンチするにあたって、ちょっとださいと感じた。かなり大胆に米国に適応させ、日本を無視したデザインにした」という。すでに日本版も米国版と同じUIになっている。日本人ユーザーが離れていかないか心配だが、「普段、TwitterとかFacebookとかInstagramとか米国製アプリが日本で使われているので付いてこれると思っている」とのことだ。

小泉氏はさらに、「実はGoogleやAppleがアドバイスしてくれる。ここは直した方がいいよって。それを参考にした」とも打ち明けた。意外と細やかなサポートがあるようだ。

米国は世界への近道、初めに押さえないと勝てない

そもそも、なんで最初に米国なのだろうか。アジアという選択肢はないのか? それに対する小泉氏の答えは以下のようなものだ。

「メルカリはC to Cのプラットフォームなので、1社しか独占できない。必ず“Winner takes all”になる。英語圏で他社にシェアを取られたら、そこで終わり。もう勝てない。だから米国に行った。SonyやHONDAも米国で認識されてグローバル企業になった。ヤフオクとeBayを見ても、米国の方が数倍規模が大きい。日本を捨ててでも米国を取るべき。英語圏をとったら世界で勝てる、逆にそこを取れないと厳しい」。

一方で鈴木氏は個人的に米国に行きたかったそうだ。「向こうに行くとテンションが上がる(笑)」と嬉しそうに話す。「十何年か前に行ったときは感激した。いつか米国市場に挑戦したいと思っていた。でも気持ちだけでは会社を動かせない。グローバルに進出するときに米国を通るのは、難しいけど近道。ニュース分野では基本的に世界中の人が米国のニュースを見ている。米国のパブリッシャーとユーザーに愛されるものを作ろうと、会社で説明して、幸運にもうまくいった」。

それぞれ根本の動機は違うものの、世界で勝つには米国市場を押さえなければいけない、という意見は一致している。

ゲームの最高ランクを「神」にしたら大問題に

日米でユーザーの反応に違いはあるのか。BrainWarsの場合は興味深い差異が見られたという。2人で対戦する前と後にスタンプでコミュニケーションをとれるようになっているが、その使い方に違いがある。

「日本人は負けた時、涙マークとかのスタンプだけど、欧米人はグッジョブ!みたいなスタンプを送る。日本は対戦前に笑顔マークを使うが、米国の人はハートマークとか」と高場氏は説明した。

また同氏が、海外展開を試みて初めて直面した意外な問題点もあった。「ゲームの中に『グレード』という称号がある。ヒヨコ、うさぎ、亀とランクが上がっていく。そして最後は神。日本人はAKBに神セブンと名づけたり、神技という言葉があったり、『すごい』っという意味で使う。そうしたらヨーロッパのユーザーから『神への冒涜だ!』と叱られて即刻、取り下げた(笑) 世界の事情をちゃんと知らないといけない。何もかも準備するのは難しいので、問題が起きたらすぐ対処できるようにしている」(高場氏)

米国でオフラインモードはいる? いらない?

小泉氏は基本的に、初期の日本人ユーザーの動きと違いはないと分析した。ただし、ひとつ変わっていたのが「招待インセンティブ」への態度だという。友だちを招待したら◯◯ポイントをプレゼントするというものだが、米国人はこれが思いのほか好きなのだとか。「普通にTwitterとかFacebookとかで紹介してくれる。ユーザー獲得のところは良い意味で驚きが多かった」と振り返る。

鈴木氏も「思ったより反応が良かった」とポジティブな感想を持っている。「米国は車社会だからオフラインモードとかいらないのでは? それよりラジオみたいな音声読み上げじゃないの? とかいろいろ言われていた。でもやっぱり米国はネット回線の環境が悪いのでオフラインモードは受け入れられた」と語る。

ニュースをめぐる環境に違いがあるとすれば、米国の方が「ニュースソースに対するブランド感が強い」ということだそうだ。「だから米国はニュースアグリゲーションよりもCNNなどのパブリッシャーの方が強い。しかしパブリッシャーは日本よりも寛容。米国ではFlipBoardがすでに切り拓いていた。僕らはパブリッシャーフレンドリーなサービスで、スマートモードで発生する収益はすべてメディアに渡す。『まじで?すごいな!』となった」(鈴木氏)

「でも日本ではリリース当初、怒られていましたよね」と増田記者が突っ込むと、鈴木氏も認めた。「2年前にアプリを出した時、僕と浜本だけで、まともにパブリッシャーと話ができていなかった。そこで元アイティメディアの会長・藤村さんに入ってもらって、スマートニュースについて説明してもらって、どんどんいい関係を作っていけた」

海外展開の際は「最初の1人をどう選ぶか」が大事

組織の話になってきた。海外展開に向けて、各社とも組織づくりで意識したことはあったのだろうか。

小泉氏は「最初の1人をどう選ぶか」にかなりこだわったという。「時間はかかるが、最初の数人を間違わないで選ぶこと。いきなり100人とかとるわけじゃない。1人目が重要。それによって次の人も決まる。メルカリは米国でかなり知名度がある人にアドバイザーになってもらった。人づてで会ってもらい、プロダクトを見せると、『クールだ。ぜひ一緒にやりたい』と言ってもらった。いま20人以上にまでなった」

ちなみに現在メルカリの米国オフィスを率いるのは取締役の石塚亮氏。中学時代から米国に留学し、大学卒業後そのままRockYouというソーシャルアプリ会社をシリコンバレーで創業した経験を持つ。創業者の山田進太郎氏が、米国進出を見据えて誘った人物だ。その彼が半ば片道切符で米国を開拓しているという。

「銀河系軍団」を目指すスマニュー、空中分解しないための工夫

スマートニュースはチーム作りのロールモデルが2つあると、鈴木氏は言う。1つはGoogle。そこはなんとなく想像できるが、もう1つはスペインリーグのサッカーチーム「FCバルセロナ」だそうだ。どういうことだろうか?

「僕らのチームつくりのテーマは“日本代表から世界選抜へ”。世界で戦うにあたっては世界選抜が必要で、世界トップの人材を集めたい。あらゆる分野でそういう人材を入れたい。米国は現在サンフランシスコが4人、ニューヨークが2人だが、もっと拡張してグローバルのヘッドクオーターを米国に作る」(鈴木氏)。

“米国における藤村氏”も見つかったという。要はパブリッシャーとの交渉役である。「春に出張したときにRich Jaroslovskyさんと会った。彼はもともとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)で政治記者だった。レーガン大統領とともに来日して昭和天皇に会ったこともある。WSJのマルチメディアの立ち上げにも関わった。そんな彼が米スマートニュースでパブリッシャー担当となっている」と胸を張った。

「でも、銀河系軍団は失敗しがちじゃないですか?」という問いに対して、鈴木氏は自信を持って答えた。「採用を決めたら、日本に2週間くらい滞在してもらう。すごく仲良くなる。あと面接のフローも僕らは相当長い。しっかりとコミュニケーションを取っているので、離職率はいまのところゼロ%です」

スマートニュースの知名度は米国ではまだ低い。なぜ採れるのか? と不思議に思えてくるが、鈴木氏によれば、「米国人は知名度だけで選ばない。プロダクトとビジョンとチームにどれだけ惹かれるか」だそうだ。プロダクトに惚れさせれば、意外な大物を一本釣りできる可能性もあるらしい。

一方でトランスリミットは他の2社とは違い、海外拠点を作らない方針だ。高場氏は「アプリデベロッパーとして世界展開するので、日本1カ国を拠点として多国籍のチームを作りたい。米国で拠点を作らないのかと聞かれるが、まだ日本に7人のチーム。いま米国に作って、管理工数を取られ、マネージメントとかでスピードが落ちるより、日本で地盤を作って海外にはマーケティング機能を置く方がいい」と語る。

アングリーバードなどは1つの国で作ったものをマーケティングで世界に広げた好例だという。「不可能ではないと思ってやっている」と高場氏。

米国は大きなチャンス、「すべてをぶっこむ」

最後の質問は「ぶっちゃけ海外にどれだけ使いました?」というもの。

小泉氏の答えはとても明確だ。「(10月に)調達した24億円は基本的に米国版を立ち上げるための資金。日本でもCMとかでお金は使っていますけど、基本的にはすべて米国にぶっこもうと思っています。日本に残す必要はない。米国を制することができなければメルカリはもう無理だという気持ちで、全部使う」と話した。

12月以降にようやく収益が上がりはじめるスマートニュースも、それらの投下先はグローバル市場だという。鈴木氏は「世界人口の半分がスマホを使う。新聞読む人は減っていき、『初めてニュースを読むのはスマホ』という人が数十億人規模で生まれる。そこに全力で挑戦して、世界中の人たちに使ってもらえるサービスを作りたい」と展望を語った。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。