【インタビュー】アップル幹部がM1搭載の2021年版iPad Proに寄せる思い、Macとの統合と新しい統合プロセッサー戦略

Apple(アップル)が開催した2021年1発目の製品イベント。開始後3分にしてすでに3つの発表がなされた頃には、発表づくしのイベントになることを確信した。Appleは今週、わずか1時間もの間にAirTag(エアタグ)、新しいApple Card(アップルカード)のファミリーシェアリング、新しいApple TV(アップルティービー)、カラフルなiMacの新シリーズ、そして新色パープルのiPhone 12など、数多くの新製品を発表したのだ。

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Appleが新たに発表したデバイスの中でも、市場ポジションの面で最も目を引くのは新しい12.9インチのiPad Proだ。

今週、筆者はAppleのワールドワイドマーケティング担当上級副社長Greg Joswiak(グレッグ・ジョズウィアック)氏とハードウェアエンジニアリング担当上級副社長John Ternus(ジョン・ターナス)氏とともに、最新版のiPad Proと、コンピューティング関連の仕事を扱う業界でのその立ち位置について話す機会を得た。

さまざまな面で、新しいiPad Proは、最終ラップにダントツ1位で突入しているのに、アフターバーナーを点火して後ろの集団をさらに引き離すスプリンターのようだ。2020年のモデルはいまだに最高レベルのコンピューターであり、強力なコンピューティングツールのほか、バッテリー性能、ポータビリティがすべて備わっていた。それなのに2021年のモデルには、さらにM1プロセッサー、RAM、ストレージ速度、Thunderbolt(サンダーボルト)接続、5Gラジオ、新しい超広角前面カメラ、さらにはLiquid Retina XDRディスプレイ搭載といった数々のアップグレードがなされている。

市場ではまだ2020年のiPad Proが席巻しているが、これほどの飛躍は驚きだ。その中心にあるのは、ディスプレイである。

Appleは、5000ドル(日本では税込58万2780円)の超高性能Pro Display XDRにわずかな機能改善を加え、それを12.9インチのタッチ版に移植した。とはいえ、その仕様ははっきり言って最高だ。1000ニトの輝度はHDRではピーク時に1600ニトに達し、フルアレイのローカルディミングゾーンは2500個にのぼる。Pro Display XDRの576個と比べるとケタ違いだ。

2021年最初のApple製品発表はオンラインで行われたため、やはりメディアはiPad Proを含め、新作デバイスをその場で入手できていない。つまり、筆者自身もまだこの目でXDRディスプレイを見ていないというわけだ。残念ながら、スペックが本当に高いためスクリーンを見ずにそのルックを推測しようとするのは、頭の中で「1兆個」をイメージしようとするようなものだ。理論的には可能だが、あまり役に立つものではない。

このスクリーンは市場に出ているどのMacデバイスやiOSデバイスよりも明るく、仕事でHDRの動画や写真を扱う人にとっては大きな決定打になるだろう。しかしそれでも、市場にあるどのディスプレイよりも高密度かつ高輝度のマイクロLEDディスプレイを何百万個あるいは何千万個もの単位で搭載するには、大々的な投資が必要だ。

そこで筆者は、すでに史上最高の携帯ディスプレイ、ないしはディスプレイ全体で見ても史上最高の1つとされるものがありながら、この性能強化に踏み切った理由についてお2人に伺った。

「私たちは常に最高のディスプレイを追求してきました」ターナス氏は続ける。「最高のディスプレイをすべてのデバイスに搭載し、それをさらに良くしていくこと。それが私たちの仕事であり、私たちが毎日職場に来て、大きなことを成し遂げるために働きたいと思う理由です」。

「覚えていらっしゃるかもしれませんが、Pro Display XDRについて私たちが話したことの1つは、このディスプレイと性能を仕事環境にもっと取り入れることでした。今までの仕事の流れでは、プロジェクトの最終段階になってやっと、非常に高価なリファレンスモニターを1つだけ目にするのが普通でした。ですがこのディスプレイがあれば、もうスタジオに足を運ぶ必要はありません。外出先へどこでも持って行って、同じ性能で使えるため、クリエイティブな仕事をする人にとっては非常に大きな価値になるはずです」。

筆者自身がPro Displayを使う中で、また専門職のユーザーとPro Displayについて話す中で共通して感じたことは、作業段階のさまざまなポイントで色彩と画像を仕様に合わせて正確に処理できるようになったことで、全体的なワークロードが削減されたという点だ。一般的なシステムでは制作ステージのかなり遅い段階でリファレンスモニターが登場するため、多くの場合、高コストで時間のかかるリレンダリングや新色のパスが必要となる。Liquid Retina XDRディスプレイを非常に低価格で作業環境に組み込めば、制作ライン上の数多くのポイントを格段に速く通過できるようになるはずだ。

「なぜ強気でスペックを高めるのか」という質問の主な回答は今回の話し合いの後半で登場するが、この流れで少し触れておきたい。ジョズウィアック氏は、頭上スペース、つまりユーザーにとっての頭上スペースとデベロッパーにとっての頭上スペースを確保することがポイントだというのだ。

「ジョン(ターナス氏)が話したように、iPad Proが実現したことの1つは限界に挑んだことです。さらなる高みを追求したことで、デベロッパー側に頭上スペースが生まれ、彼らのクリエイティビティを試せるようになりました。最初にiPad Proを生み出したときは、Photoshop(フォトショップ)もなかったんですよ」ジョズウィアック氏は次のように続ける。「すぐに使えるようなクリエイティブ向けのアプリがなかったんです。それが今では数えきれないほどの種類になりました。それらを生み出すためのキャパシティーや性能を私たちが確保したからこそ、そしてたくさん売りさばいたからこそ、デベロッパーがこのツールを活用できたというわけです。十分な顧客がいて、十分なパフォーマンスがある。じゃあ、これを活用しようじゃないか、というようにね。どの世代も、このように新しいものが生まれていきます。私たちがパフォーマンスの頭上スペースをもっと確保すれば、デベロッパーは自然とその活用方法を考えるものです」。

「自分が買おうとしているものに頭上スペースがあれば、顧客にとってはこの上なしです。実際、デベロッパーにとても気に入ってもらっています」。

今回のiPad ProにはM1チップが搭載されており、Aシリーズのネーミングからは手を引いた格好だ。このプロセッサー部分は、今週発表されたiMac、そして2021年の初めに発売されたMacBookに搭載されたものと同一(メモリー構成が類似)となっている。

「同じM1の部品ですからね」ターナス氏はこう述べる。「iPad Proには常に、Appleが持つ最高のシリコンを搭載してきましたから」。

「デスクトップに入っているチップをそのままiPadに入れられるなんて、すごいですよね」ジョズウィアック氏は話す。「これほどの電力効率でこのレベルのパフォーマンスを発揮できるなんて、ものすごいことです。しかも、それに加えてテクノロジーもそろってる。ニューラルエンジン、ISP、サンダーボルト、他にも数多くのテクノロジーが搭載されていますから、他のどの会社よりも圧倒的な技術です」。

M1の本格展開が始まり、筆者自身でテストを実施するようになると、エネルギー消費効率が圧倒的な点を実感した。これこそが、M1の一番の差別化要因だ。何十年にもわたり、ノートパソコンのユーザーは電力消費を抑えるために、膨大で負荷の大きいワークロードはパソコンをコンセントにつなぐまで後回しにすることが習慣になっていた。そんなノートパソコンに対する期待値を、M1はデスクトップクラスのプロセッサーを使うことで引き上げようとしている。事実、Appleは最も強力なCPUを提供するだけでなく、市場で最も電力効率の良いCPUを提供しているのだ。このCPUは、700ドル(約7万6000円)のMac Miniの他、同時に1700ドル(約18万5000円)のiMac、そして1100ドル(約12万円)のiPad Proにも搭載される。かなり大胆な動きではあるが、10年以上にわたって独自のアーキテクチャとシリコンを築いてきた製品だからこそ実現できることだ。

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「バッテリー寿命は、バッテリー容量とシステム効率によって変わりますよね。だから私たちはシステム効率の向上に力を入れて、チームがお分かりのとおりすばらしいパフォーマンスのM1を生み出してくれたわけです。ですが、ディスプレイも忘れてはいけません。私たちはこのディスプレイ用に、効率と、名前のとおりパッケージサイズに注力した新しいミニLEDを設計し、iPadの使い勝手に合った、そしてバッテリー寿命の長いディスプレイを実現しました」。

「この点だけは、妥協したくなかったのでね」ターナス氏は付け加える。

新しいiPad Proの大きな目玉機能は、Center Stage(センターステージ)機能搭載の、12MPの超広角カメラだ。自動センタリング機能やビデオのトリミング機能により、文字通り人間中心のFaceTime(フェイスタイム)が可能になる。フレーム内で人を検知すると自動的に顔が画面の中心に映されるよう調整し、その人が動いたり立ち上がったり、ストレッチをしたり、左右に傾いたりしても、フレームの中心から外れないように調整してくれるのだ。また、別の人が12MPの超広角前面カメラの枠内に入ると、その人にも自動でフレーム調整が適用される。この機能は、フェイスタイムだけでなくZoom(ズーム)やWebex(ウェベックス)にも対応しており、この機能のAPIも提供されるという。

筆者は実際の動きをもう少し詳しく見ることができたため、それを踏まえてこれが業界の被写体フォーカス機能の標準実装になると断言できる。トリミング機能はスマートに作られており、突然どアップのカットに飛ぶのではなく、安定した手でスムーズに拡大縮小をしているカメラマンを思わせた。まさに、目に見えない機械学習エンジンが監督を務めるテレビ番組を見ているような感覚だ。

「私たちが大好きな仕事の良い例が、この機能ですね。ハードウェアとソフトウェアをうまく融合することです」ターナス氏は続ける。「もちろん主役はカメラですが、人の検知やパン、拡大などを実現しているのは、その周りにあるSOCとアルゴリズムです。これにはセンスがいりますよね。動きが速すぎてもいけないし、遅すぎてもいけない、心地よい感覚を生み出すわけですから。Appleには、Appleらしい製品を作るためにセンスにあふれたクリエイティブなメンバーがたくさん集まっているんです」。

この機能は、Magic Keyboard(マジックキーボード)を使ってiPad Proを操作する際の、カメラが不自然に天井を映してしまう問題の解決にも大いに役立つ。このご時世、ビデオ会議に参加することが非常に増えたが、今まではこの問題のせいでiPad Proを外出先でのビデオ会議用に使えずにいた。そこで筆者は、センターステージがこの角度を修正するために設計されたのかターナス氏に伺った。

「iPadはどの角度でも使えますよね。そこで、使い方によってその使い心地も変わります。ですがこの機能のすごいところは、常にフレームを修正できるところです。ビデオ会議に1日中参加していると、立ち上がって足を伸ばしたくなります。カメラを消さなくても、立ち上がってストレッチをしたり、部屋の中を歩き回ったりできる。今までにない圧倒的に新しい技術で、本当にすばらしいことです」。

確かに、Portal(ポータル)などの他のビデオチャット用デバイスに加え、Teams(チームズ)などのビデオソフトウェアがすでにトリミング形式の模倣機能を提供していることは事実だが、一度に何百万ものユーザーにこのようなソフトウェアを提供する際には、ユーザーエクスペリエンスがすべてだ。実際に市場に展開したセンターステージ機能がどのように競合と戦うか楽しみだ。

さて、機能の面でiPad ProとMacがどのように一体化するかについて延々と議論が続いていることを受け、筆者はiPad ProとMacBookそれぞれの購入者にどのような違いがあるかお2人に伺った。この質問にいち早く答えたのは、ジョズウィアック氏だ。

「とてもいい質問ですね。世の中にはiPadとMacが互いに戦争していて、どちらかが倒れるまで戦い続けると考えている人がいる。その一方で、『いや、Appleはこの2つを一体化しようとしているんだ、2つとも1つのプラットフォームに強制的にまとめようとたくらんでいるんだ』という人もいます」ジョズウィアック氏は続ける。

「この2つの声は真逆の思考から生まれていて、実際にはこのどちらも正解ではありません。私たちはそれぞれの分野で最高の製品を作ろうと本当に一生懸命努力していることを誇りに思っています。Macははっきり言って最高のパソコンです。顧客満足度を見れば、長期的にこれが実証されていることが分かります」。

ジョズウィアック氏は、パソコン分野全体が成長していることに触れ、それをうれしく思うと話す一方で、Macはパソコンという概念をはるかに上回る製品で「売れ行きも上々だ」と付け加えている。また、iPadのビジネスも依然として(iPadをタブレット扱いすることは拒否しながらも)タブレット分野を逸脱していると述べる。

「それに、iPadとMacの『どちらか』という考えも間違っています。Macを購入されるユーザーの大半がiPadを持っています。うれしいことですね。Macの代わりに使っているのではなく、適切なときに適切なツールを使っているのです」。

「彼(ターナス氏)とそのチームがiPad Proで実現したすごいところは、一番満足してもらうのが難しい、クリエイティブな仕事をする人にも引き続き喜んでもらえる製品を作ったことです。Macを使って、自宅でも同じように専門的な作業をしながら、iPad Proも活用できる。今までも、何世代にもわたってこのような使い方がクリエイティブのワークフローの一部になってきました」ジョズウィアック氏はこう続ける。「この分析を見ているとワクワクします。どちらか一方ではなく、どちらもクリエイティブ職の人にとって役割があるのです」。

持ち歩き用のコンピューターをiPad Proのみに絞って以来、筆者はよくマルチモーダルの観点から専門的な仕事について考えるようになった。Appleもまた、2018年にProワークフローチームの立ち上げを行っている。ワークフローはここ10年で大幅に変わっており、そこには、いうまでもなくiPhoneやiPadがダイレクト操作の実例を普及させたことが大きく関係している。今の社会では「この新しいものは何だ」とか「すごいね、これが当たり前になったんだ」などという感覚さえ昔のものと化し「これは自分には不可欠だと思う、自分に必要だろう」と思うようになっているのだ。

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「一部の人の考えとは違って、私たちはMacの領域を侵害しないようにiPadで何をすべきでないか考えたり、その逆をMacで考えたりすることはありません」ターナス氏はこう述べる。「私たちが重視しているのは、何が最高のやり方かということです。私たちが作れる最高のiPadとは何だろう、最高のMacとは何だろう、というようにね。iPadとMacを両方使う人もいれば、自分のニーズに合わせてそのどちらかを好む人もいる。どちらも良いと思うんです」。

ここまで読んでいただいた読者のみなさまは、Appleが断固としてiPad対Macの議論をしようとしないことがお分かりだろう。そのうえ、AppleはiPadを市場で対抗者のいない独自のポジションに据えようとしていることも見て取れる。ジョズウィアック氏はよく、タブレットという言葉を使うことさえ嫌だと話している。

「iPadとタブレットは別物です。タブレットはいま1つですが、iPadは最高です」ジョズウィアック氏はこう続ける。「私たちは常にiPad Proで限界を押し上げています。リーダーにはそうあって欲しいと思いますよね。リーダーは限界を突破する存在で、リーダーこそ、XDRディスプレイのように今まで見たことがない世界へ連れていってくれる存在です。私たち以外に、この役割を担える人はいません。そして、一度新しいものを目にして、使ってみれば、疑う気持ちは晴れるでしょう。作ってくれてよかったと思うはずです」。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:AppleインタビューApple M1iPad

画像クレジット:Apple

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(文:Matthew Panzarino、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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