【インタビュー】恵まれない環境にいる起業家へのCompass創業者の助言、「成功したいのならプランBを用意してはいけない

CEO兼ファウンダーのロバート・レフキン氏(画像クレジット:Compass)

不動産テック企業であるCompass(コンパス)が2021年4月、新規株式公開に踏み切り数十億ドル(数千億円)の評価を受けた。

その際、TechCrunchのシニアエディターAlex Wilhelm(アレックス・ウィルヘルム)は創業者兼CEOのRobert Reffkin(ロバート・レフキン)氏を取材し、テクノロジー市場が荒れ狂う最中でのデビューについて話を聞いている。

そして、筆者はそれとはまったく異なるトピックについてレフキン氏を取材した。ホームレスとして亡くなった父親を持ち、家族に縁を切られたシングルマザーの母親に育てられた同氏が起業家になるまでの道のりについてである。レフキン氏は一般の人とは異なる背景を持つ人々に希望を与えるということに情熱を注いでおり、それに関するも出版している。

この会話の中でレフキン氏は、同氏の考える成功の秘訣の他、若い起業家、特に恵まれない環境にいる起業家へのアドバイスなどを話してくれた。

このインタビューはわかりやすくするために編集されている。

TC:私の息子は今ティーネイジャーですでにビジネスを始めようとしているので、あなたがその歳の頃DJをしていたと聞いてとても興味深く感じています。最終的に何がきっかけで学校に関心を持つようになり、どうやって短期間で卒業することができたのでしょうか?

レフキン氏:あなたの息子さんは正しい道を歩んでいるようですね。起業家同氏として、私からの励ましの言葉を伝えておいてください。

母によると、私がDJビジネスを始めるのを許可したことで他の親から頭がおかしいと思われたそうです。しかし高校時代にDJビジネスで成功できたことで、自分自身と起業に対する情熱について知ることができました。それが最終的には自己紹介書に反映され、入学審査チームの数人との関係の形成につながり、コロンビア大学に合格することができました。

常に大きな夢を見るということが初めの一歩だと思っています。私の場合はニューヨークへの旅行がきっかけでした。その際にコロンビア大学を見学してすっかり気に入ってしまったのです。入学が難しいというのは分かっていましたし、実際、高校のカウンセラーには「出願料を払うだけ無駄だから応募するな」と言われました。その瞬間、コロンビア大学に行きたいという気持ちが、単に強い想いから絶対的なものに変わりました。学校そのものに魅力を感じたというだけではなく、私のような人間がチャンスを得るために戦うということに、より大きな意味があるように感じたからです。私の平均成績はCだったのですが、トップ大学についていくために必要な能力があることを示すためSATの準備に力を注ぎました。そしてありがたいことに、それが功を奏したのです。

高校や大学では、微積分や西洋文明を学ぶことが自分の人生や夢にどう関係するのか理解できなかったということもあり、成績では常にCをとっていました。学校で優秀な成績を収めても、世界で自分を際立たせることはできないと思ったのです。その一方で、起業家としての活動や夏のインターンシップでエネルギーを得ていました。現実の世界の方がはるかに理に適っていると感じたため、学校を卒業して本当の人生を始めるためにできる限り早く行動しました。

TC:恵まれない環境にいるシングルマザーに育てられたことが、男性として、また起業家としてのあなたをどう形成したと思いますか?また有色人種であることが自分の道にどのような影響を与えたと思いますか?

レフキン氏:子どもの頃は私と母だけでした。母はイスラエルからの移民で、私が黒人のために両親から勘当されていました。父は私たちを捨て、私が幼い頃にホームレスとして亡くなりました。私が起業家になったのには母が教えてくれたことが一番大きく影響しています。母が起業家精神を体現し「打ちのめされても必ず情熱を持って立ち直ること」という最も重要な原則の1つを教えてくれたのです。母は、男との悪縁、破産、営業の仕事からくる日々の拒絶などに直面しても、必ず立ち直ってきました。そのため、私には決して達成できないと誰かに言われても、そういう言葉に直面する準備ができていたのです。私は母のおかげで立ち直る方法を知っていたのです。

CEOのロバート・レフキン氏と彼の母親(画像クレジット:Ruth / Compass)

黒人でユダヤ人の私は、常に居場所がないと感じていました。高校や大学のほとんどのクラスで私は唯一の黒人でしたし、就職して間もない頃ほぼすべての会議において黒人は私1人でした。Compassのために資金調達をしていたときも、机の反対側に黒人がいるのを見たことはほとんどありません。しかし幸運なことに、今は亡きVernon Jordan(バーノン・ジョーダン)氏や、アメリカン・エキスプレスの元CEOであるKen Chenault(ケン・シェノルト)氏、ゴールドマン・サックスのリードディレクターであるBayo Ogunlesi(アデバヨ・オグンレシ)氏など、多くの黒人のメンターからすばらしいアドバイスを得ることができました。本当に強力なコミュニティがあり、皆がお互いに支え合っています。

TC:これまでにすばらしいメンターと出会ってきたようですが、こういった関係はどのようにして発展したのでしょうか?また、これらの関係性がどのように役立っていますか?

レフキン氏:子どもの頃、私は常に誰かのアドバイスを求めていました。片親家庭で育った私は、より良い生活を送るための助言や知恵をいつも探していたのです。高校生のとき母が非営利団体を紹介してくれたおかげで、世界にはどれほど多くの機会と支援があるかを知りとても驚きました。

私が人生で学んだ最も重要な教訓は、人からのフィードバックは贈り物であるということです。たとえ耳が痛いようなことであってもフィードバックは贈り物なのです。多くのメンターとの関係が深まったのは、他人は教えてくれないだろうと思うような、本当に厳しい率直な意見を私が求め始めたからです。そしてそのアドバイスを実際に受け入れて自分の人生に活かし、それがどのように役立ったかを伝えるようにしました。これをすることで2つの効果がありました。1つ目は、より正直で実用的なアドバイスが得られるようになり、より早く向上できるようになったこと。2つ目は、アドバイスをくれた人たちが私の成功や私が取り組んでいることの成功に、より大きな関心を寄せてくれるようになったことです。

メンターたちが与えてくれたもう1つのことは、世間からは成功できないと言われていても、私は成功できるのだという感覚でした。社長やCEOにアドバイスをしてきたバーノン・ジョーダン氏のような人に出会えたことが、私に大きな影響を与えてくれました。彼は私にとって父親のような存在でした。彼と出会ったのは私が23歳のときでしたが、当時の私には黒人がビジネスの世界で成功できるという実例を見たことがなかったため、よく理解できていませんでした。私がLazard(ラザード)に入社したとき、黒人の投資銀行家はジョーダン氏だけでした。彼はシニアパートナーというだけではなく、フォーチュン500の企業で取締役を歴代最多で務めたことで広く知られる伝説的な人物でした。彼は私に強い関心を寄せ、サポートやアドバイスをしてくれました。そして私に自分の居場所を感じさせてくれ、自分が望むような成功を収める道を示してくれたのです。

私は20代のときにAmerica Needs You(アメリカ・ニーズ・ユー)という非営利団体を設立し、何千人もの学生にメンターシップ、キャリア開発、大学進学支援を行ってきました。私の新刊「No One Succeeds Alone」は、私が多くのすばらしい人々から学んだ教訓を、すべての人に提供することで恩返しをするために書きました。私が収益のすべてを、若者が夢を実現するのをサポートする非営利団体に寄付しているのはそのためです。

TC:起業を志す若い人たち、特に恵まれない環境にいる人たちにアドバイスをお願いします。

レフキン氏:大学を卒業したばかりで最初の仕事に就いている、過小評価されているグループの人へのアドバイスは次のとおりです。

1)社会にも、同僚にも、そして自分自身にも、誰にも自分の夢を邪魔させないことです。誰かにスピードを落とせと言われても、スピードを上げたら良いのです。

2)これからの10年間、できる限り賢い人たちからできるだけ多くのことを学んでください。他の人がくれないような率直なフィードバックをくれるメンターを仕事や仕事の外で見つけてください。フィードバックは贈り物です。聞くのが怖いかもしれませんが、相手があなたにフィードバックいうのは、実はもっと難しいことなのです。だから率直にお願いして、自分がそれを受け止められることを知ってもらう必要があるかもしれません。

3)ネガティブな状況を、自分を奮い立たせるようなポジティブなエネルギーに変える方法を学んでください。あなたには無理だとか、あなたのいる場所じゃないなどと懐疑的なことや嫌味をいう人は必ずどこにでもいるものです。

TC:Compassの今後の動きを教えてください。

レフキン氏:真の成功をつかむためには、プランBを用意してはならないと信じています。CEOとして、Compassの2万3000人のエージェントと従業員のために100%尽くす必要があるのです。私のメンターの1人がかつて「シャワーテスト」という言葉を教えてくれました。シャワーを浴びているときに仕事のことをワクワクしながら考えていないようなら、その仕事はすべきでないという意味です。うれしいことに、私は自分たちが作り上げているこの会社にとても大きな情熱を持っているので、今でもシャワーを浴びながらCompassのことを考えています。弊社はこの8年間で多くのことを成し遂げてきましたが、本当の意味でのスタート地点に、まだ立ったばかりなのです。

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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