【インタビュー】CMUロボティクス研究所の新ディレクターが語るロボット研究の未来

カーネギーメロン大学のロボティクス研究所では、2年間にわたって暫定的にポストを担ったSrinivasa Narasimhan(スリニヴァサ・ナラシマン)教授が退任し、この度6人目となるディレクター、Matthew Johnson-Roberson(マシュー・ジョンソン=ロバーソン)氏が着任した。2005年にカーネギーメロン大学コンピュータサイエンス学部を卒業した同氏は、ミシガン大学の海軍建築・海洋工学部および電気工学・コンピュータサイエンス部の准教授を経て同ポジションに就任することとなった。

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ジョンソン=ロバーソン氏はUM Ford Center for Autonomous Vehicles(ミシガン大学自動運転車Fordセンター)の共同ディレクターも務めており、今回はそのオフィスから新しい役職における今後の計画や、ロボット研究の将来像について語ってくれた。

TC:今はミシガンでFord(フォード)関連に取り組んでいる最中なのですか?

MJR:そうですね。数人の生徒とともにロボット関連の研究をして楽しんでいますよ。

TC:そこでの主な取り組みは何でしょうか。

とても多くのことを進めています。Fordのための長期的で既成概念にとらわれない研究です。Argo(アルゴ)のように、できれば半年から3年以内に道路を走れるようになる予定のものを対象に多くの研究を行っています。道路を走れるようになるのが5年から10年先のようなものに対しても長く取り組んでいます。新タイプの奇妙なセンサーから人間の予測や安全性の保証まで、あらゆることに非実際的なアプローチをとることができるのが大学の良いところです。

TC:Fordとミシガン大学がとっているような連携システムは、多くの大学にとっての手本のような存在になるのだと感じます。特にCMU(カーネギーメロン大学)のような大学には、裕福な資金提供者との長い歴史があります。こういったパートナーシップは今後大学研究のモデルになっていくとお考えですか?

これは、過去20年間にわたってロボット工学が通り抜けてきた変革を反映しています。90年代、00年代に開発された技術の多くが成熟して商用製品として展開されるようになり、多くの産業の未来に大きな変化をもたらしています。企業と大学が徐々に関係を持ち始めるようになったというのは、自然な流れだと思います。ピッツバーグという街を見ても、天然資源や鉄鋼を中心とした重工業からの転換が進んでいますが、この転換はさらに加速するでしょう。

関係性を継続し、新しい関係を築いていくことが私の目標の1つです。産業界だけでなく政府や政策など、これからのロボット工学に関連するあらゆることを考慮し、そうした関係を築いて研究所ですでに行われている技術的な仕事の強みを生かしていきたいと思っています。これは私が特に楽しみにしていることです。

TC:ピッツバーグでは地元スタートアップ企業が数多く存在する一方で、Google(グーグル)のような大企業も研究や法廷を学んだ卒業生の近くに進出してきています。このような関係をさらに深めるため、CMUはどう取り組んでいるのでしょうか。

CMUのある教授と共同するためにWaymo(ウェイモ)のオフィスを開設しています。このような関係は、教員とだけでなく学生に対しても見られます。高度な訓練を受けた新しい従業員こそがこういった企業の生命線です。採用活動で優位に立ち、人々が来たいと思うような文化を築くためにできることは、これらの企業にとって大きな利点となります。また、企業が共同研究を行ったり、研究のスポンサーになったりして、新しいプロジェクトを開発したり、入学してくる学生との新しい関係を築いたりしています。大学の最もすばらしい点は、毎年世界で最も賢い人々が新たに入ってきてくれるという点です。

TC:大学という幅広い文脈の中で、これらのスタートアップ企業の成長を支援するというのはあなたのタスクの1つとお考えですか。

そうですね。私自身、スタートアップを立ち上げる機会がありましたし、知識に大きなギャップがあることを知りました。非常に賢く、世界に対して大きな野心を持っている学生が大勢いるため、彼らがそれを実現できるように支援する方法を考えることが私の役割だと思っています。今あなたが強調したのもスタートアップですし、エコシステムという言葉がよく聞かれます。その地域に他のスタートアップ企業があるということもありますが、それに加えて一緒に何かをしたり、何かを作ったりする気の合う仲間を見つけることができるコミュニティがあるということです。

TC:現在ミシガン大学にいらっしゃるので、デトロイトで起きている変革を目の当たりにしていると思います。スタートアップコミュニティの育成という点でデトロイトはピッツバーグほど進んでいないかもしれませんが、そこには多くのチャンスがあります。CMUが惹きつけた人材を維持するために、学校はどういった役割を果たせるでしょうか?

いくつかのことがあります。近年ますます重要だと感じることの1つは、まずチャンスがそこにあることを認識するということです。ロボット産業のスピードと規模は、私たちの誰もが予想できないほどの速さで加速しています。そのために重要なのは、そのことを認め、じっとしていようとしないことです。業界は変化し、ロボットを取り巻くエコシステムが変化し、またこれらの企業を取り巻く規模やスケールも変化しています。これを実現するための方法をともに考えていきたいのです。

TC:ロボット工学は歴史的に最もインクルーシブな分野ではありません。その中でCMUはどのような役割を果たしていけるでしょうか? CMUのようなところに入学する多くの人は、入学する前からロボット工学に慣れ親しんでいる人たちなのではないでしょうか。

今回私はCMUにいる間に2つのことを残したいと思っています。1つ目は機会を増やし、参加者の幅を広げ、各分野における多様性を高めるということです。そして2つ目はもっと重要なことだと思います。大学は若い人たちの心を形成するのに適した場所です。私がロボット工学に多様性と包括性を持たせるための変革を起こすためには、第一級のロボット研究機関にいるということ以上に効果的な方法はありません。次世代のロボット工学者の誕生の場にいるということなのですから。

TC:あなたはCMUに入学した当初、ロボット工学を専攻していたわけではないので、良い例ですね。

まったくその通りです。さらにもう一歩踏み込むと、CMUに入学したとき私はとても苦労しました。みんなが自分よりも賢いという場所に足を踏み入れたのは初めてのことでした。それこそがあの場所の特別なところだと思います。何があってもロボット工学を辞めることにはなりませんでした。それは当時も今も、あの場所にいる人々のおかげだと私は思います。

TC:最近のロボット工学において最も楽しみにしていることは何ですか?

世界各地で展開されている大規模なロボット工学分野のシステムは、現在まさに変曲点に来ています。いつか、米国や世界のどこにいても、窓の外を見ればロボットが何か役に立つことをしているという状況になって欲しいと思っています。今の世界はそうではありません。工場の現場などに行けばロボットを見ることができますし、もしかしたらロボット掃除機を持っているかもしれませんが、私は窓の外を見るとロボットがいるというレベルにしたいと思っています。

画像クレジット:CMU

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

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