【コラム】すべての自律分散型組織が「自律的」あるいは「分散型」というわけではない

Web3、NFT、DeFi、トークンの成長を背景に、機関投資家はDAOと呼ばれる別の暗号資産構造の活用方法にも注目している。インターネット上のコミュニティ活動の新しいモデル構築に向けられたものだ。

DAOすなわち自律分散型組織は、2022年においてとても奇妙な場所に位置している。

この暗号資産の集合体は、理論的には、スマートコントラクトとブロックチェーンの透明性に支配されている構造化されたキャパシティの中で、グループが意思決定と運用を行えるように設計されている。だが、最近登場してきたDAOは、分散化と自律性の両方に対するさまざまなコミットメントを有しており、互いに判然としない様相を呈している。DeFiプロトコルのようなテクノロジーの自律的なガバナンスメカニズムとして、DAOをどのように利用できるかに焦点を当ててきた向きが存在する一方で、DAOを使って、NFTプロジェクトのロードマップに関する集団的な決定を行っているところもある。また別の一派は、この構造が単に、Discord(ディスコード)やTelegram(テレグラム)のグループチャットに暗号資産の宝庫を追加する新しい方法であると考えている。

実際のところ、DAOとは何かを厳密に定義している人はほとんどいない。つまり、新しい組織にとっては、暗号資産に興味のある人のDAOに対する理解を促すとともに、DAOの創設者候補がその構造を最大限に活用できるようにする余地が残されている。「標準的」なDAOとはどのようであるべきかという包括的な定義の難しさは、オポチュニティの広がりを際立たせるものに他ならないとこの分野の創設者たちは口にする。

「結局のところDAOは、個人向けのテクノロジーとは対照をなす、集合的なテクノロジーです」と、Syndicate(シンジケート)の共同創設者であるWill Paper(ウィル・ペーパー)氏は先にTechCrunchに語っている。「DAOは企業の次の進化ともいえるでしょう。発言(voice)と離脱(exit)の両方を自らの基盤にエンコードするものです」。

TechCrunchは、a16z(Andreessen Horowitz、アンドリーセン・ホロウィッツ)が支援するSyndicateが、完全なコンプライアンスを実現する暗号資産の「投資クラブ」サービスを立ち上げたことについて記事にした。そのスマートコントラクトのネットワーク上で、ユーザーは、友人たちと一緒に投資する永続的で安定した構造を構築することができる。

ベンチャー支援を受けたスタートアップの数々が、多様なレベルのブロックチェーン依存性を備えた新世代のDAOを支援することに目を向け始めている。その余勢を駆ったDAOの創設者たちは、これらのツーリングスタートアップが築いたスマートコントラクトに依拠しつつ、自分たちのプラットフォームを使って規制のハードルに対処できる。

DAO専門のアナリティクスファームであるDeepDAOは、現在4100を超える数のDAOを追跡調査している。2016年に「The DAO」と呼ばれる初めてのDAOが設立されて以来、これらのグループは大きく進化してきた。

「それは非常に特殊で限定的なユースケースでした。The DAOのコンセプト全体に着想を与え、この業界を始動したのです。今では第2世代のDAOが、この言葉をまったく別のものとして使っています。彼らはDEOについて、所有権を記録するシステムとしてブロックチェーンを使用する組織、という捉え方をしています」と、Superdao(スーパーダオ)の創設者Yury Lifshits(ユーリー・リフシッツ)氏は述べている。「ブロックチェーン上で誰が所有しているかを定義する組織はDAOであるため、ガバナンスがスマートコントラクトによって定義される必要はなく、ガバナンスが分散化されるということもありません」。

Superdaoは、SignalFire(シグナルファイア)がリードした1050万ドル(約12億1140万円)の資金調達ラウンドを1億6000万ドル(約184億5930万円)の評価額で完了した。

ベンチャーキャピタリストたちは、DAOに向けたブロックチェーンインフラストラクチャを構築するスタートアップを支援している。一方で、Andreessen Horowitzのようなファーム、またVariant(バリアント)やParadigm(パラダイム)などの「暗号資産ネイティブ」ファンドは、徐々にDAO自身を支援するようになってきており、多くの場合、最初の立ち上げと運用を目的に構築したバックエンドインフラストラクチャの製品化も視野に入れている。

「DAOはボタンをクリックするだけで起動できるソフトウェアにすぎないという事実は【略】ですが、何千人、何万人もの人々、最終的には何百万人あるいはそれ以上の数の人々に触媒作用を及ぼします。そのすべてが資本を結集してアイデアを集約し、共通の目的のために協働するのです【略】私たちはこれを、Web3と暗号資産が何であるかの最も純粋なビジョンとして捉えています」と、a16zのGPであるAli Yahya(アリ・ヤヒア)氏は、PleasrDAO(プリーズアダオ)への投資にともなうインタビューでTechCrunchに語った。

SyndicateやSuperdaoは、DAOのインフラ分野におけるベンチャー支援プレイヤーたちの一例にすぎない。Utopia(ユートピア)、Tally(タリー)、Colony(コロニー)、Layer3(レイヤー3)のようなスタートアップも、新しい機会を顕在化するという約束のもと、VCからの資金を獲得している。その中には、人々がより迅速にDAOを形成するのを支援するところもあれば、まずユーザーがDAOを発見する手助けをすることを優先するところもある。

ツーリングスタートアップが着目している最大の領域として、DAOが米国規制への準拠を確保すること、LLCとして法人化すること、あるいはDAOが目指しているものに整合する適切な構造を追求することなどが挙げられる。暗号資産富裕層のバイヤーが協力して投資を行ったり、スタートアップをグループとして支援するような投資DAOは、米国内で課題に直面しており、認定されていない投資家の間で共同投資グループ向けに展開される、かなり明確なルールに対処している。

「私の予測では、投資DAOは米国外では今後も繁栄し続けると思いますが、米国では法制度がかなり強固であり、SPVやローリングファンドという点では比較的堅実なオルタナティブが存在しています」とリフシッツ氏は語る。「米国の投資DAOが従来型の投資ビークルに勝てるかどうかは微妙です」。

1000人超の会員を抱えるOrange DAO(オレンジ・ダオ)のような大規模な投資グループは、より従来型の投資ビークルとして構成された別のベンチャーファンドとDAOの活動を緩やかに結び付ける、一層複雑な構造に依存している。

BitDAO(ビットダオ)、Uniswap(ユニスワップ)、Lido(リド)などの大規模なDAOは、DeFiのプールされた投資機会に焦点を当てている。一方で、DAOの信奉者たちは、クリエイターやアーティストが自分の作品を収益化する方法から、将来の近所のHOA(管理組合)の運営方法に至るまで、Web3ネイティブの構造はあらゆるものを再形成する、という無限の機会を見出している。コンプライアンスは常に進化し続ける課題を提示しているが、DAOツーリングスタートアップにつきまとうこの地雷は、DAOが潜在的な脅威についてユーザーを教育するということに貢献してきた。それは、暗号資産スタートアップやDAOがますますメインストリームのユーザーベースを引きつけようとしている時に、一層重要になるであろう。

「私が参加していたDAOでは、誤って数百万ドル(数億円)相当のトークンを不適切なアドレスに送信してしまい、永久に失われてしまったことがありました」とペーパー氏は語る。「私たちはユーザーを支援するために多くの保護策を用意していますが、提供する保護策と柔軟性との間には常にトレードオフが存在しています」。

画像クレジット:BlackJack3D / Getty Images

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(文:Lucas Matney、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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