【コラム】ネットワーク効果とは本質的に反競争的なものである

Appleは、アプリ開発者に対し、App Storeを通さずに直接消費者にアプリを販売することを制限する規則を課している。米国連邦判事は先に、この規則を無効とした。

このニュースを受け、Appleの株価は3%下落した。これは、中小規模のアプリ開発者にとって、顧客に直接使用料を請求できる関係を構築できることを意味するため、朗報である。しかしAppleはこの分野を支配するビックテックの1つに過ぎない。

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Amazon、Facebook、Grubhubといったテックジャイアントは、リセラーに厳格な利用規約を適用して服従を強いている。判事によるこの判断がこれらのテックジャイアントにどういった影響を及ぼすかのほうが、Appleと中小規模のアプリ開発業者との小競り合いより大きな問題である。Appleとアプリ開発業者の戦いは、より規模の大きい戦いの中の小さな争いに過ぎない。

アプリ開発業者はAppleのApp Storeでアプリを売るごとに最大30%を支払う。Amazonのリセラーの場合は、毎月のサブスクリプション料金の他に、8%から15%の販売手数料、出荷手数料、その他の雑費を支払っている。またGrubhubはレストランに対し、注文ごとに15%、クレジットカード決済費、注文処理費、そして10%の配達手数料を課している。

アプリ開発業者と同じく、オンラインリセラーやソーシャルメディアのインフルエンサーはすべて「よその誰かが所有するプラットフォームを利用して、健全なマージンを稼げる持続可能なビジネスを構築できる」という大きな嘘にだまされている。実際には、市場を独占するApp Store、オンラインマーケットプレイス、ソーシャルネットワークがユーザーを一方的に排除したり搾取する力を持っているのが現実で、人々はこれに対してどうすることもできないでいる。

App Store内、マーケットプレイスのリセラー、ソーシャルメディアのインフルエンサーの間には、健全な競争が存在している。しかし、本当の問題は、ソーシャルネットワークやオンラインマーケットプレイスプロバイダー自体であるということを誰も正視していないように思われる。ある意味で、彼らは自らの領域を完全に支配するデジタル独裁者のようになっている。

これは、自分たちの業界に届けられる新しいオンラインサービスに興奮している中小企業が認識しておくべきことである。というのも、そうしたサービスが、安定したビジネスを育てる自らの能力に直接的な影響を及ぼすからである。連邦判事のこの度の決定は、デジタルビジネスにおける本当の目標とは、エンドユーザーと直接的な関係を築くことである、ということを示唆しているのだ。

インターネット上ではUber、Airbnb、Udemyといったデジタルマーケットプレイス運営者が囲い込んだ庭の外で、馬を水辺につれて行き、さらに水を飲ませることができ企業こそが、本当の競争力を持った企業なのである。コンテンツや電子商取引においてほとんどの中小企業が認識していないのはこの点である。自らが所有するウェブサイトやメディアだけが他からの拘束を受けずにエンドユーザーに直接製品を販売することのできる自由な場なのだ。

AppleのApp Storeを利用するモバイルアプリ開発業者、Amazonのリセラー、Instagram、YouTube、TikTokにコンテンツを投稿する意欲的なクリエイターたちは、みなデジタル界の巨人の絶対的な管理下にある。デジタル界の巨人は絶対的権力に裏打ちされた独自のルールで欲しいままにその領域を支配しているのだ。

オンラインマーケットプレイスやソーシャルネットワークを利用することと引き換えに、私たちは不当な扱いを受けている。私たちはいわばデジタルな世界でテックジャイアントの畑を耕す小作人のようである。Amazonのリセラーは粗利益の一部を上限を設けずに搾取する地主と収穫を分割することを余儀なくされている。TikTokの熱心なフォロワーは、TikTokが囲い込むことになる視聴者の増員に結びつく。

これらのテックジャイアント(彼らはすべてもともとは、一からユーザーを増やしたスタートアップだった)は今や自由にそして恣意的に抑圧的な規則を押し付け実施する。テックジャイアント は、小さなスタートアップに対し、ユーザーのメールアドレスをリクエストすることさえ禁じているし、都合が悪ければ彼らをプラットフォームから排除することもある。しかしSpotifyやNew York Timesが同様に振る舞えばどうなるかを考えるべきである。両者とも判決が出される前から、すでに直接的な販売とApp Storeを通した販売を行っていた。

これをどのようにみれば競争的といえるだろうか?この判決が出て以降も、ビックテックは依然として誰が利用規約に違反したか、プラットフォームから誰を削除するかを判断する役割を担っている。これは彼らのユーザーだけのことではない。これは彼らの宇宙、彼らの支配、彼らの規則、彼らによる規則の執行なのである。

1948年の米国対パラマウント・ピクチャーズの訴訟では、最高裁判所は、映画スタジオは、どの映画を上演するかを排他的に決定することができるため、自ら映画館を所有することはできないという判決を下した。パラマウント・ピクチャーズがどの映画を上映するかをコントロールすることで競争を抑圧したために、最高裁がそれを禁じたというわけだ。

今日、ソーシャルネットワークはプラットフォームでエンドユーザーが視聴する内容をコントロールし、ボタンを押すだけで、誰でもいつでも、自由に締め出すことができる。資本主義にインターネットが突きつけている大きな課題は、ネットワーク効果が本質的に反競争的であるということだ。テックジャイアントという勝者がすべてを支配する市場は、自由市場経済というよりは国家による管理経済を彷彿とさせる。

私達はウェブのおかげで、ものを売り買いするための世界規模のマーケットプレイスへアクセスすることができる。その一方で、競争力のあるウェブサイトを立ち上げるための知識やリソースを持っていないために大半の人がビジネスに利用するサービスを、少数の主要プロバイダーがコントロールしている。利用者は独自のドメインと優れた検索ビジビリティを持たない限り、実質的な保護なくプラットフォームから排除され、エンドユーザーや視聴者へのアクセスを失う危険に常にさらされているのである。

ネットワーク効果とは、あるオンラインマーケットプレイスが支配的になると、よい取引をするためにみなが支配的なサービスに引き寄せられ、他の競合するマーケットを無力化してしまう状態をいう。勝者がすべてを手にするテック企業のゴールと自由市場のゴールとの間にはそもそも本質的な対立があるのである。

支配的なオンラインマーケットプレイスにおいては、競争は、そのユーザー同士の間にのみ存在する。一方、マーケットプレイスプロバイダーが責任を問われることがない。彼らが利用規約を監視するのに不完全なAIや海外の請負業者を使うことを決定したところで、ユーザーがこれに抗う実質的な方法はない。約6万人しか社員がいないFacebookがどうやって30億人近いユーザーを適切に管理できるというのだろう?私達が目にしてきたように、それは不可能である。

アプリ開発業者、オンラインレセラー、クリエイターにとって唯一の賢い選択肢は、オープンウェブ上のオープンソースである。テックジャイアントのエンドユーザー(またはソフトウェア)に依存するのではなく、WordPressあるいはDiscordといったソフトウェアにより駆動される自分自身のオンライン領域を持てば、創設者が自社を上場したからといって、または貪欲な投資銀行がそのプラットフォームを買収したからといって、絞り上げられるのではないかと心配する必要がなくなるのだ。そうして初めて自らの利鞘を守ることができるのであり、利用規約も実質的な有効性を持つものになるだろう。

政治的な意味合いはさておき、Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領がプラットフォームから追放された際に私たちが目にしたように、FacebookやTwitterの利用を禁止されてしまうと、実質上どこへも行き場がない。彼らがあなたを追放すると決定したなら、それまでである。共和党が上院の多数派でなくなったのと同じ日にトランプ前大統領がFacebookとTwitterのアカウントを失ったのは偶然ではない。共和党が上院の多数派に返り咲いたら、トランプ前大統領はソーシャルメディアのアカウントを取り戻すだろう。ソーシャルネットワークは、立法府の多数派に譲歩することよって規制当局の矛先をうまく回避しているのだ。

従って、新たに導入されたアマゾンインフルエンサープログラムにそんなに興奮しないことだ。持続可能なデジタルビジネスを築き上げたいなら、手数料を取らないソフトウェアによって自分自身のメディアプレゼンスを確立する必要があるし、顧客の連絡先情報へアクセスできること、またアルゴリズムの調整に影響を受けない顧客を持つことが大切なのである。

編集部注:本稿の執筆者Eric Schwartzman(エリック・シュワルツマン)氏は、個人や組織のデジタルマーケティングへの移行を支援するための体系的なプログラムを有するデジタルマーケティングコンサルタントで「The Digital Pivot:Secrets of Online Marketing」著者。

画像クレジット:skegbydave / Getty Images

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(文:Eric Schwartzman、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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