【コラム】ハイテクとハイタッチのハイブリッドがパンデミック後の教育新時代を築く

パンデミック渦の教育におけるテクノロジーの役割について、これまで多くの議論が繰り広げられてきた。それもそのはずである。デジタルソリューションは、不確実な状況下や休校のような事態にも、学校コミュニティが学習を継続することを可能にしたからだ。

しかしEdTechの台頭は大きな課題と向かい合わせの状態でもある。2020年3月にパンデミックで学校が閉鎖されて以来、教育機関は生徒がコンピューティングデバイスやインターネットにアクセスできるようにするための投資を行ってきた。

テクノロジーに不慣れな教師たちが即席の仮想教室でリモート授業を行う方法を学び、テクノロジーに精通するようになった。しかし、デジタル学習がここまで進展したにもかかわらず、教室での対面式授業という社会的側面が中断された結果、2020年から2021年の学校年度を終えた生徒の読解力と数学の成績は平均で4〜5カ月遅れていることがMcKinsey & Companyの最近の調査で明らかになった。

教師がソフトウェアを使って、指導を差別化したり個人に合わせて行ったりすることができるようになり、デジタル学習の可能性は見えてきた。しかしここで終わらせてはいけないのである。この1年半の間に「テクノロジー」は「バーチャル」とほぼ同義語になり、多くの子どもたちはデバイスの向こう側で孤独を感じ、仲間や教師とのつながりを求めていたのである。

私たちは今、これまでに学んだことを活かして教育の新時代の到来を告げるべきなのである。それは、テクノロジーを有意義に活用しながらも、人とのつながりを中心とした教育であり、魅力的なソフトウェアとすばらしい教師のどちらか1つを選ばなくて良い教育である。この秋新学期が始まるが、これからは最高のテクノロジーと最高の教室体験を融合させていくことが重要なのである。

HMHは先に、毎年恒例のEducator Confidence Reportの結果を発表した。今回の結果はパンデミック後の教室の特徴を示す重要な洞察を描き出している。

全米各地の第一線で働く1200人以上の教育者が回答したこの調査。楽観的な見方は減少しているものの(自分の職業の状況について、やや肯定的または肯定的な見方をしていると回答した教育者はわずか38%)、学習テクノロジーの習得と恩恵に対する自信は上昇しているようだ。

私たちは今、デジタルに関して見通しの段階から証明する段階へと移行しているのである。

激動の1年ではあったものの、テクノロジーに対する教師の現状への見解は、デジタルソリューションをより目的を持って利用するための道を開く明るい材料となった。

教育関係者のEdTech活用に対する自信は、7年前にこの調査を開始して以来過去最高となっており、66%の教員が自分の能力に非常に大きな自信を持っていると答えている。多くの教育関係者がその理由として、2020年3月に「窮地に追い込まれた」経験があったからこそだと答えている。現在ではほぼ満場一致で95%の教師がEdTechの効果を実感しており、77%がパンデミック後もより効果的に教育するためにテクノロジーを活用したいと考えている。

重要なのは、教師がどのようなメリットを感じているかということだ。81%の教師が、生徒のエンゲージメントの向上、差別化された個別指導、教育コンテンツへの柔軟なアクセスの3つの利点のうち少なくとも1つを報告しており、これらはいずれも生徒を中心としたものである。

テクノロジーがより大きな役割を果たし、より効果的になっているにもかかわらず、教育者たちはデバイスやインターネットへのアクセス不足など、アクセスや効果を妨げる重大な障壁が依然として存在すると報告している。57%の教育者が、生徒がテクノロジーに積極的に関与していないことが大きな障壁になっていると指摘しており、また半数以上の教育者が、デジタルリソースを授業に組み込む計画を立てる時間がないことが最重要課題であると答えている。

生徒の心の健康が教育関係者の最大の関心

教育と学習の中心にあるのは、教師と生徒の間に築かれ育まれる強い結びつきであり、それが学業や社会性の成長の基盤となり学習意欲を高めるということは、誰もが認識していることだ。私たちはこのつながりを断ち切り生徒を孤立させるようなテクノロジーによって、この重要な関係を曖昧にさせてはならず、今回の調査データはそれをしっかりと証言している。

教育関係者の58%がパンデミック後に生徒の社会性と情動のニーズが高まることを懸念しており、そのニーズには2021年も引き続き高い関心が寄せられている(これは教師自身の給与や生徒が遅れをとることへの懸念を上回る数字である)。そして82%の教育関係者が、工夫凝らし、完全に統合された社会性と情動の学習(SEL)プログラムが効果を表すだろうと考えている。

「パンデミック後の教育モデル」への移行を開始するためには、テクノロジーの力と従来通りの教室での学習を融合させた、ハイテクとハイタッチ、つまり人間らしい触れ合いが互いに補強し合う、両世界の長所を活かしたアプローチが有効になるだろう。

教育者たちのユニークな経験から見えてくる、未来の教室の姿

テクノロジーだけでは教育の新時代を切り開くことはできない。コミュニティ志向かつ人間のつながりを重視したマインドで、デジタルソリューションを活用していくことが重要だ。

HMHでは、孤立ではなくエンゲージメントを促すEdTech・エコシステムを目指している。単なる「ガラス画面の下の1ページ」ではなく、教師が指導を差別化できるような実用的なデータや洞察を提供するソリューションを提供し、教育者の負担を増やすのではなく、むしろその能力を拡張して、生徒の社会性と情動のニーズに集中する時間を与えるイノベーションを目指している。

教育関係者らが、こういった目標を達成するためのテクノロジーの潜在性を信じているということは、はっきりとわかった。82%の教育関係者が生徒1人ひとりに合わせた学習が将来の学習と教育を変えると考えており、75%の教育関係者が、指導と評価を1つのプラットフォームで行える技術ソリューションが、この変革に不可欠であると考えている。

この1年でEdTechの可能性は飛躍的に高まっているが、教室の未来は単にハイテクだけではなく、ハイタッチでもあるのだ。

教育関係者にパンデミック後に最も楽しみにしていることを尋ねたところ、その答えは明らかで「学生コミュニティと一緒にいられること」だった。80%が学生と直接交流できることを、74%が学生のエンゲージメントが高まることを、63%が学生間のコラボレーション機会があることを心待ちにしている。

対面式学習とデジタル学習をめぐる熱い議論は、デジタルかアナログかという極端な対立を生み出す短絡的なものになりがちだ。しかしこれが対極にあるものという考えをやめ、相互に補完し合うものだという考えを受け入れることができたら、私たちは最大の成功を手に入れることができるだろう。

2020年私たちは多くのものを失ったが、同時に重要なものも手に入れた。そしてこの勢いを継続することは可能である。私たちは社会として、目の前の健康リスクを評価し、職場や地域、そしてもちろん学校も含め、ますますハイブリッドな世界を進んでいく必要がある。

私たちが本格的に校舎に戻るとき、テクノロジーとイノベーションを駆使しながらも、その中心にある教師と生徒のコミュニティによって永遠に定義される、新しい学習の時代の到来を告げる準備ができていると私は信じている。

編集部注:本稿の執筆者Jack Lynch(ジャック・リンチ)氏は、Edtechのベテラン。学習テクノロジー企業HMHのCEO。

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Jack Lynch、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。