【コラム】宇宙探査には助成金の支給と規制が必要だ

1989年、Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏は今日のインターネットが普及を促進したWorld Wide Webを発明した。しかし彼は、多くの人々がこの技術によるメリットを享受することを望んだために、この技術を保護することをよしとしなかった。30年後、インターネットのほとんどの力と多大な利益は、少数のテックビリオネアに独占され、インターネットが生まれた当初約束されていたことのほとんどは実現されていない。

宇宙に関して同じ轍を踏まないためにも、私たちは競争を生み出し、コストの削減を実現するために新規参入者に助成金を支給すべきである。また、宇宙への旅を安全なものにするための規制も必要である。

宇宙は重要である。宇宙は数え切れないほどの仕事と燃料経済を生み出し、また気候変動に対する解決策をもたらす可能性さえある。投資家たちはすでにこの可能性に目を付けている。宇宙産業は、2030年までに 1.4兆ドル(約154兆円)の市場価値を生み出す可能性があるとされているが、彼らはこの宇宙業界の企業に何億ドルもの資金を注ぎ込んでいるのだ。

宇宙は広大で、とても少数のテックビリオネアに独占されるとは思えない。しかし、1989年にはインターネットもそのように考えられていたのだ。私たちはこれをしっかり理解する必要がある。宇宙産業は機械工から宇宙航空エンジニア、マーケティング、情報、物流の労働者まで、世界規模で雇用を生み出し、経済成長を促進する可能性があるためだ。

そのためには競争が必要である。しかし現在は、少数の企業が、世界のためというよりは、その企業の創設者の利益のために事業活動しているという状況だ。

私たちはインターネットで犯した過ちを繰り返してはならないし、介入が必要なほどテクノロジーが乱用されるようになるのを座して待っていてはならない。例えば、ケンブリッジアナリティカのスキャンダルでは、民間のテクノロジー企業が、社会に害を与えること(これは規制当局が保護すべき分野である)をいとわずに自らの利益(これは彼らの株主に対する義務である)のために、非常に危険なソーシャルメディア操作を行った。

宇宙では利害はさらに大きくなるだろう。またそれらは少数の国というのではなく、人類全体に影響を及ぼす。環境に関わる危険があるし(私たちが徹底的な調査を行っているのは「地球」での飛行による二酸化炭素の負荷であって、宇宙飛行ではない)、また宇宙での事故は人命が奪われると同時に、危険な破片が地上に降ってくることにもつながる。

これらの危険は予期できないものではない。Virgin Galacticが初めて死者を出したのは2014年のことだった。Space X の発射は約300人の乗客を乗せた飛行機が 大西洋を横断するのに相当する 二酸化炭素を排出しる。また、2021年始め、中国のロケットからのスペースデブリが無制御の状態でモルジブに 落下したこともあった。

私たちは、こうした事故が、より大規模な形で再び引き起こされる前に行動を開始しなければならない。

宇宙旅行は、1%のごく限られた人々にインスタ映えする瞬間を与えたり、サービスを提供するビリオネアの富を増やす以上のものであることが可能であるし、またそうでなければなるまい。

宇宙産業は、最良のものを最大限の人々に届けられるよう運営されるべきである。これは助成金の支給から始まる。

つまり、私たちは宇宙旅行を他の交通手段と同じように取り扱うべきなのだ。宇宙旅行を経済的に持続可能なものにするには、政府によるある種の介入がほぼ絶対的に必要である。

こうした状況は以前にもあった。飛行機による旅行や高速道路の発達、人件費の上昇で米国の2大鉄道会社が破産に至った時、ニクソン政権が介入しアムトラックを発足させたのだ。

これは、思想的な側面から推進されたものではなく(それとは正反対である)、米国が州間移動による経済的恩恵を得るための決定だった。創設から50年たってもアムトラックは採算が取れていない状態が続くが、それでも他の多くの産業や何百万もの個人や家族が依存する重要な経済的インフラの一部である。

これと同様のやり方を宇宙旅行にも適用する必要がある。Virgin Galacticのチケットは25万ドル(約2750万円)と予測されており、このような超豪華な旅行市場から恩恵を得る個人はほとんどいないだろう(これはごく初歩的な宇宙旅行商品の値段で、Virginの競合他社はこの額の数倍の値段を付けている)。

今宇宙産業に助成金を支給したなら、宇宙産業における競争を促進しながら、宇宙産業の広範な利益をすべて実現することのできるクリティカルマスに到達することができるだろう。

今のうちにこの問題に取り組めば、寡占企業が出現してからなんとかしようと戦うより(これは今米国連邦取引委員会が何十年も遅れてビックテックに行おうとしていることである)ずっと楽に物事が進むだろう

宇宙旅行はビリオネアだけの興奮剤やおもちゃではない。これは物理的にも経済的にも私たちにとって最後のフロンティアなのだ。

これを成功させたいなら、地球上での成功や失敗から学び、それらを宇宙に適用しなければならない。

それは、助成金、支援、規制と安全を意味する。これらは地球上でも重要だが、宇宙では絶対に不可欠なものなのである。

編集部注:執筆者のJoshua Jahani(ジョシュア・ジャハニ)氏は、コーネル大学およびニューヨーク大学の講師。中東・アフリカを専門とする投資銀行ahani and Associatesのボードアドバイザー。

画像クレジット:Vertigo3d / Getty Images

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(文:Joshua Jahani、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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