【コラム】離陸間近なeVTOLの今後、パート2

今年は垂直離着陸機(eVTOL)業界にとって重大な転換点であり、十億ドル規模のイグジットや莫大なベンチャー投資、そして幾多の提携が起きた。しかしさまざまな意味で、この一年は試合開始前のチェス盤を準備している段階だったと思うべきだろう。そしてすべての駒が配置された。いよいよ対局開始だ。

つまり、2022年は成否が決まる年になる、少なくとも2024年までに商業運行するという大志を宣言したデベロッパーにとっては。来年は果たして何が起きるのか、彼らに限らず業界全体で。来たる年に注目すべき予測とトレンドをいくつか下に挙げる。

「行動で示せなければ黙っていろの年」

われわれが話した専門家やアナリスト、VCたちの全体的な所感は、2022年は良いものと悪いものを見分けることが重要だということのようだ。具体的には、航空機が連邦航空局(FAA)の認可を取れるかどうか、それは自社のプロダクトを離陸させたいと願う会社すべてにとっての必須要件だ。

「2022年のメインテーマ、それは間違いなくFAAの認可です」とSMG Consulting(SMGコンサルティング)のファウンダー・パートナー、Sergio Cecutta(セージオ・セクッタ)氏は語る。「今年は、行動で示せ、さもなければ黙っていろという年です」。

認可の日程を踏まえると、2024年に運用を始めたい企業は、認可を得るために来年末までにはFAAと一緒に飛び始める必要がある。

IDTechEx(IDテック・イーエックス)のテクノロジー・アナリスト、David Wyatt(デビッド・ワイアット)も同じ意見だ。「2022年に私が見たいのはたくさんの飛行機が飛んでいるところです」と語った。「2024年までに認可可能なものを作るためには、十分な数の飛行機を飛ばして、その能力を行動で示す必要があります」

「それらは完全な最終プロダクトではありませんが、少なくとも巨額の資金を調達した会社として期待されるプロトタイプを作る必要があります」と彼は付け加えた。「そのための飛行機を作り、運用認可を取れる能力を投資家に示さなくてはなりません」

自動車メーカーが本気になる

eVTOLの主要プレーヤーの多くがスタートアップ(またはスタートアップ転じて上場企業、SPACのおかげで)だが、エアタクシーやドローン配達を始めとする電動飛行アプリケーションの巨大な潜在市場を活かそうとしているのは彼らだけではない。

Hyundai(現代自動車、ヒョンデ)とHonda(ホンダ)のeVTOLへの熱意にためらいはない。Hyundaiは2020年のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ)でeVTOLのコンセプトを披露した。2021年末には、同社の都市型エア・モビリティー部門を専門の子会社、Supernal(スーパーナル)として独立させ、2028年までに航空機を市場に提供する計画を発表した。

ほかの自動車メーカー、中でもToyota(トヨタ)とStellantis(ステランティス)は、前者がJoby(ジョビー)からの大型投資を受け、後者がArcher(アーチャー)との生産契約を既に結んでいる。しかし来年は、さらに多くの自動車メーカーがeVTOLプロジェクトを発表する可能性がある、とUP Parterns(ユーピー・パートナーズ)の共同ファウンダー・マネージング・パートナー、Cyrus Sigari(サイラス・シガリ)氏は言う。

「Ford(フォード)やGM(ゼネラル・モーターズ)が2022年に大きな動きを見せても私は驚きません」

まだ続くSPAC

本誌のeVTOL回顧パート1でも詳しく書いたように、2021年は間違いなく、SPACの年だった。この金融手段には明確な上昇力があり、それはeVTOLだけでなく電気モビリティー分野全体で起きた現象だった。このトレンドが2022年にも続くかどうか明らかではないが、航空産業の資本需要の高さは、さらに多くのスタートアップが公開市場からの巨額な資金注入を期待していることを意味している。

航空会社、JetBlue(ジェットブルー)のベンチャーキャピタル部門のプレジデント、Amy Burr(エイミー・バー)氏は、SPACは電動飛行機デベロッパーのように売上の無い会社が資金を調達して上場する最高の手段かもしれない、と語った。

「彼らにとってそれが唯一の進むべき道だと私は考えます、今まで通りベンチャー・ラウンドを繰り返して資金を獲得できるのでなければ。それも常に可能性の1つですが」と彼女は言った。

シガリ氏は、来年「あと2つ」SPACの入る余地があることを示唆した。「5を越えたら非常に驚くでしょう、ゼロにならないことも間違いありません。これは、世界的金融危機が起きないことが前提です」

公開市場の航空テクノロジーに対する食欲がわずかに減少する可能性はある。11月末、エアタクシーのデベロッパー、Volocopter(ボロコプター)はSPAC計画の中止を発表し、それはSPACの「著しく好ましくない」状況が理由だとドイツの報道機関が報じた

「SPAC案件が増える可能性は常にありますが、Volocopterの計画が頓挫したことがこの種の取引一般に対する関心が冷え込んでいる兆候なのかどうかは、まだわかりません」

本誌が話をした専門家の殆どが言及しなかった(あるいはさほど関心がなかった)のが、自動運転車などの最新テック分野で起きている業界統合だ。「時間とともに、統合は不可欠になるでしょうし、うまくいかない会社もでてくるでしょう」とセクッタ氏は言った。

言及がなかったことが示唆するのは、少なくとも本誌が考えるに、この業界は先進技術ハイプ・サイクルの頂点にまだ達していないということだろう。それは、狂気じみた現金流入と盛大なファンファーレにも関わらず、この先にはまだ苦難の道があるかもしれないことを意味している。

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画像クレジット:Bryce Durbin

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

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