【コラム】3億円のNFTを買っても著作権は手に入らない

編集部注:本稿の著者Harrison Jordan(ハリソン・ジョーダン)氏は、HP.LIFEの創設者兼CEO。

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現代アーティストにとって、作品を非代替性トークン(NFT)という形でブロックチェーンに紐づけることは、アートをオンラインで販売するための安全で検証可能な方法のように思えるかもしれない。

いくつかの点では、それは正しい。ブロックチェーンは本質的に、すべてのトランザクションについてタイムスタンプ付きのデータを記録し、分散型台帳上で所有権を永続的に示すものだ。ブロックチェーンのトランザクションを見れば、NFTがいつ取引されたのか、誰がその取引に関わったのか、いくら使われたのかを知るのに、必要な情報がすべて得られる。

しかし、NFTのオーナーシップの実態は、想像以上に複雑だ。新しい暗号資産クラスであるNFTは、現行の規制システムにほとんど縛られずに存在しているように見える。しかしアートと組み合わせた場合、考慮すべきオーバーラップがある。現代のNFTエコシステムの法的落とし穴を理解することが、その可能性を引き出すための最初のステップとなるだろう。

ブロックチェーンに著作権は存在するのか?

NFTが著作権の代替となる可能性に大きな期待が寄せられており、NFTが著作権そのものであると信じている人も多い。額面通りに見れば、その混乱は容易に理解できる。

実際には、NFTは資産を表すトークンに過ぎず、資産そのものとはまったく別物だ。すべてのNFTは唯一無二の資産であるため、オリジナルと同じ価値を維持したまま複製することはできない。多くの人はこの独占的な所有権を作品そのものの所有権と同一視しているが、その違いを強調しておく必要がある。

この誤解はさらに奥深くなる。NFTになり得るものの範囲は、著作権の対象となる作品と驚くほどよく一致している。「著作物」の定義は各国・地域で異なるが、本質から大きく外れることはない。例えばカナダでは、著作権の保護は、文学的、芸術的、演劇的または音楽的な作品に加えて、演奏、録音、その他の関連作品にまで及ぶ。創作者がこれらの保護を申請する必要はなく、作品の創作時に国が本質的に提供するようになっている。

もちろんこの保護は、NFT化されるオリジナル作品に対しても保証されている。アート作品が制作され、NFTマーケットプレイスでオークションに出品された場合、その著作権はアーティストに帰属し、対面での取引とほぼ同様に機能する。国際法に準拠した著作権取引のインフラが整っていないため、現在のプラットフォームでNFTの著作権をやりとりすることは不可能だ。

つまり、アーティストと購入者の間で外部契約が交わされない限り、NFTのさまざまな著作権はオリジナルアーティストに帰属することになる。NFTの購入者が所有するのは、ブロックチェーン上のユニークなハッシュと、トランザクション記録、作品ファイルへのハイパーリンクだけだ。

法的パラメータがなければ、不正行為は避けられない

盗難や詐欺の可能性を考えると、NFTの著作権追跡の問題はさらに厄介なものになる。NFTがブロックチェーンに追加されるためには、アップロードした者が「署名」する必要がある。画家が自分の絵にサインするのと同様に、この機能はNFTとその作成者を結びつけることを目的としている。しかし、トークン鋳造者が自分の身元を偽った場合には問題が起こる可能性もある。多くのNFTプラットフォームでは、これは珍しいことではない

この問題は、NFT市場に強力な法的枠組みがないことに起因する。プラットフォームによっては、作成者本人でなくてもツイートやアート作品、ニャンキャットのgif画像でさえもNFT化することができる。その結果多くのアーティストが、自分の作品が盗用され、同意なしにNFTの形で販売されていると報告している。従来のアート市場であれば、明らかに著作権侵害となるところだ。

この問題は、特にNFTツイートのやり取りの中で広まっている。2021年初めには、@tokenizedtweetsと呼ばれるTwitterボットが大量にNFT鋳造を行い、Twitter(ツイッター)とNFTコミュニティに衝撃を与えた。このボットは、作者の同意や通知なしにバイラルツイートからNFTを作成するという方針をとったため、俳優やアーティストなどのクリエイターから反発を買った。「スタートレック」で知られる俳優のWilliam Shatner(ウィリアム・シャトナー)氏は「@tokenizedtweetsがコンテンツを盗み、私がアップロードした画像や私のツイートなど、すべて私の著作権のもとにあるものが無断でトークン化され、販売されている」と懸念を表明した。

強力な法的インフラを持たないプラットフォームでは、盗難や詐欺は当然の結果だ。現在Twitterの利用を禁止されている@tokenizedtweetsの行為は、この問題をよく表している。

何が足りないのか?国際的なコンプライアンス

これまでのところNFTプラットフォームは、NFT販売が表すアートの著作権について、国際的なコンプライアンスの領域に踏み込んでいない。それが起これば、NFTのエコシステムにとって非常に大きな飛躍となるだろう。著作権の行使を強化することで不正行為を最小限に抑えるだけでなく、国際的なコンプライアンスを実現することにより、ブロックチェーン上でのトークンによる著作権交換が可能になるからだ。

1886年に締結されたベルヌ条約は、179の加盟国において著作物が創作された時点で標準的な著作権保護を保証する国際協定であり、そのおかげですでに下地はできている。例えば2014年にはシンガーソングライターのTom Petty(トム・ペティ)が、Sam Smith(サム・スミス)のヒット曲「Stay With Me」が自身の「I Won’t Back Down」とメロディがほぼ同じであるとしてサム・スミスを著作権侵害で訴え、この条約が試された。この訴訟と、トム・ペティの財産へのロイヤルティ支払いを含む和解は、ベルヌ条約の継続的な機能を証明している。

1996年のWIPO著作権条約により、デジタルアートの領域にベルヌ条約の原則が正式に導入されたが、ベルヌ条約加盟国の多くはこの条約に署名しなかった。新たな条約の目途が立たない中、世界政府が残した不足を民間セクターが補わなければならないかもしれない。

国際条約で統一が図られているにもかかわらず、NFTの世界では世界各地の著作権法の多様性に対応できていないのが現状だ。業界を投機的なものからグローバルな機能性へと移行させるためには、国際的な著作権コンプライアンスをこの新興エコシステムに組み込む必要がある。

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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:コラムNFTアート著作権アーティスト

画像クレジット:John M Lund Photography Inc / Getty Images

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(文:Harrison Jordan、翻訳:Aya Nakazato)

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TechCrunch Japan

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