【レビュー】「静かさ」も魅力、Mac Studioは卓上のモンスターだ

Mac Studio。今回テストしたのは、M1 Ultra(GPU64コア版)、メモリ128GB・ストレージ2TBのモデル。74万1800円(税込)とかなり高価な製品だ

Mac Studio。今回テストしたのは、M1 Ultra(GPU64コア版)、メモリ128GB・ストレージ2TBのモデル。74万1800円(税込)とかなり高価な製品だ

最高性能のMacである「Mac Studio」のレビューをお届けする。

感想はシンプル。「重いがデカくない」「パワフルだが静か」もう、この2つに尽きる。

テストに使用したMac StudioとStudio Display。セットで総額98万4600円(税込)

テストに使用したMac StudioとStudio Display。セットで総額98万4600円(税込)

Appleシリコン世代としてのハイエンドを目指した製品だが、それにふさわしい性能になっている印象だ。

Mac miniを「ハイパワー化するために巨大にした」ような設計

その昔、「Power Mac G4 Cube」という製品があった。

パワフルでコンパクト、ディスプレイとセットでクリエイターが使うことを想定したマシンだった。そうそう、あのディスプレイも「Studio Display」だった。

Mac Studioは立方体ではないが、パッケージが見事に「立方体」でちょっと昔を思い出させる。

Mac Studioのパッケージ。ほぼ立方体だ

Mac Studioのパッケージ。ほぼ立方体だ

Studio Displayのパッケージと一緒に。流石にディスプレイが大きいので、パッケージサイズが霞む

Studio Displayのパッケージと一緒に。流石にディスプレイが大きいので、パッケージサイズが霞む

中身はどちらかというとMac miniに近い。キーボードやマウスは付属せず、入っているのは本体と電源ケーブルくらいとシンプルだ。

パッケージはiMacなどと同じく紙。パカっと開く構造になっている

パッケージはiMacなどと同じく紙。パカっと開く構造になっている

本体の他に付属するのは電源ケーブルくらい。キーボードやマウスは別売だ

本体の他に付属するのは電源ケーブルくらい。キーボードやマウスは別売だ

本体の設置面積はMac miniと同じだが、高さ9.5cmとかなり分厚くなっている。そして、意外なほどの重さに驚く。今回試用したM1 Ultra搭載のモデルは、重量が3.6kgもあるのだ。Mac miniが1.2kgなので、ちょうど3倍になる。

正面から。Thunderbolt 4端子が2つとSDカードスロットが前面に付いたのがありがたい。Mac miniと比べるとかなり厚みが増している

正面から。Thunderbolt 4端子が2つとSDカードスロットが前面に付いたのがありがたい。Mac miniと比べるとかなり厚みが増している

Mac Studioは、M1 Ultra搭載モデルとM1 Max搭載モデルとで重さが異なる。前者が3.6kgであるのに対して後者は2.7kg。その違いは、冷却に使われるファンやヒートシンクが銅製になっているからだという。

Appleの発表会映像を見る限り、Mac Studio内の3分の2程度が冷却機構で占められており、ボディの後ろ側にもかなりの面積の排気口がある。

Appleの発表会映像より。内部のかなりのスペースが、エアフローのための仕組みになっている

Appleの発表会映像より。内部のかなりのスペースが、エアフローのための仕組みになっている

背面。上3分の2が排熱口。その下にインターフェースが並ぶ

背面。上3分の2が排熱口。その下にインターフェースが並ぶ

底面にはロゴを囲むように吸気口がある。そういえば、MacBook Proの底面にもロゴが付いているのだが、Appleはこのパターンをハイエンド製品の定番デザインにするつもりだろうか。

底面。ロゴの周囲を吸気口が囲むようなデザインになっている

底面。ロゴの周囲を吸気口が囲むようなデザインになっている

Mac miniから大きく変わったのがインターフェースだ。

Mac miniは背面に

  • Thunderbolt 4/USB Type-C×2
  • USB Type-A×2

だったが、

Mac Studioは

  • Thunderbolt 4/USB Type-C×4
  • USB Standard-A×2

になり、さらに前面にも

  • Thunderbolt 4/USB Type-C×2(M1 Max搭載機ではUSB Type-C×2)
  • SDXCカードスロット(UHS-II)

が搭載されている。

「M1 MaxじゃMac Studioの意味が……」と思っている人もいそうだが、単純にインターフェースの増えたMacとして選んでもいいのかもしれない。

特に前面の端子は、今回も試用中にも大変お世話になった。当たり前の話だが、アクセスしやすい場所にあるインターフェースがあるのはとてもありがたい。

速さは圧倒的、コアの数だけ性能アップ

ではパフォーマンスをチェックしていこう。

今回は比較対象として、M1搭載のMacBook Pro・13インチモデル(2020年モデル)とM1 Pro搭載のMacBook Pro・14インチモデル(2021年モデル)も用意している。一部マルチプラットフォームで試せるものについては、自宅で使っているWindowsのゲーミングPC、ASUSの「ROG Zephyrus G14」(2021年モデル、CPUはAMD Ryzen 9 5900HS、GPUはNVIDIA GeForce RTX 3060 Max-Q)での結果も合わせて見ていただきたい。以下、「ROG Zephyrus G14」を便宜上「ゲーミングPC」と呼称する。

まずは定番の「Geekbench 5」から。

CPUについてはシンプルにわかりやすい結果だ。基本的にはCPUコアの数だけ速くなっている。1コアあたりの速度差は、M1とM1 Pro・Ultra、Ryzen 9で当然あるのだが、コア数による速度差を比較すると小さなもの。20コアを搭載したM1 Ultraが圧倒的に速い。

Geekcbench 5のCPUテスト。コア数の分だけ速い、というわかりやすい結果が出た

Geekcbench 5のCPUテスト。コア数の分だけ速い、というわかりやすい結果が出た

同じくCPUの速度をチェックするため、「Cinebench R23」も使ってみた。これはCG演算の速度を測るもので、主にCPUに依存する。

Cinebench R23。CPUでのCG演算の速度を計測するものだ

Cinebench R23。CPUでのCG演算の速度を計測するものだ

こちらの値も、基本的にはGeekbench 5のCPUテストと傾向が同じである。CPUコアの分だけスピードが出ている。

Cinebench R23の結果。こちらも、CPUコア数に応じたテスト結果になっている

Cinebench R23の結果。こちらも、CPUコア数に応じたテスト結果になっている

他のCPUの結果と比較すると、上にいるのは32コアの「Ryzen Threadripper 2990WX」や24コアの「Xeon W-3265M」といったところであり、もはやコンシューマ向けとは言い難いレベルである。

Cinebench R23には過去にテストされたCPUごとの値も提示されているのだが、M1 Ultraより速いものは、よりコア数の多い超ハイエンド2つだけになった

Cinebench R23には過去にテストされたCPUごとの値も提示されているのだが、M1 Ultraより速いものは、よりコア数の多い超ハイエンド2つだけになった

GPUについてはどうだろう?

まず、Geekbench 5。こちらはマルチプラットフォーム性を考えて「OpenCL」でテストしている。M1 Ultraがかなり速いが、RTX 3060での値を超えてはいない。

Geekbench 5によるGPUテスト。OpenCLを使ってのテストだが、RTX3060を搭載したゲーミングPCの方が上と出ている

Geekbench 5によるGPUテスト。OpenCLを使ってのテストだが、RTX3060を搭載したゲーミングPCの方が上と出ている

ただ、Geekbench 5のGPUテストはGPUの全ての要素を反映する訳ではないので、そちらを考慮して別のテストもしてみた。「3DMark」のマルチプラットフォーム対応テストである、「3DMark Wild Life Extreme」だ。Extremeとあるように、スマホまで想定したWild Lifeの中でもハイパフォーマンス向けである。それを、フレームレート制限をかけない「Unlimited」モードでチェックした。

マルチプラットフォームの3Dベンチマーク、「3DMark Wild Life Extreme」でもテストを行なった

マルチプラットフォームの3Dベンチマーク、「3DMark Wild Life Extreme」でもテストを行なった

結果は、M1 Ultraの圧勝だ。多くのビデオメモリを活用できることもあり、ソフトの作り方によって相当な差が出るのであろうことが予想できる。

「3DMark Wild Life Extreme」でのテストスコア。Mac Studioの値は35159と他を圧倒している

「3DMark Wild Life Extreme」でのテストスコア。Mac Studioの値は35159と他を圧倒している

「3DMark Wild Life Extreme」でのフレームレートスコア。Mac Studioが210フレーム、ゲーミングPCが75フレームと差がかなり開いている

「3DMark Wild Life Extreme」でのフレームレートスコア。Mac Studioが210フレーム、ゲーミングPCが75フレームと差がかなり開いている

じゃあ、実際の作業ではどのくらいの速度になるのか?

ここでは、Macのビデオ編集ソフト「Final Cut Pro」を使い、4K/HDR撮影の映像をグレーディング・手ぶれ補正などの処理を施した上で2分51秒に編集した映像を、同じく4KのH.264形式で圧縮して書き出すまでの時間を計測した。これまでのグラフとは違い、「棒が短いほど性能がいい」のでその点ご注意を。また、アプリの関係上、Macのみでの比較になる点をご了承いただきたい。

Appleのビデオ編集ソフト「Final Cut Pro」を使い、4K/HDRのビデオを書き出すまでの時間を計測

Appleのビデオ編集ソフト「Final Cut Pro」を使い、4K/HDRのビデオを書き出すまでの時間を計測

こちらも、当然ながらM1 Ultraは速い。そこそこ重い処理なのだが、M1の半分の時間で終わっている。M1とM1 Proでは12%しか速度が変わっていないが、M1とM1 Ultraの比較では93%以上高速になっている。この差は大きい。

書き出し速度の比較。短いほど良い結果なのにご注意を。M1からM1 Proでは劇的な差にならなかったのに、M1 Ultraでは半分くらいまで時間が短縮されている

書き出し速度の比較。短いほど良い結果なのにご注意を。M1からM1 Proでは劇的な差にならなかったのに、M1 Ultraでは半分くらいまで時間が短縮されている

性能は重要、より重要なのは「速くてしかも静か」であること

ただ、テスト中に感じたのは「速さ」だけではない。

どのプロセッサも負荷の高い処理を長く行うと発熱が大きくなり、冷やすためのファンの動作も大きくなる。

M1シリーズはモバイル向けプロセッサが出自ということもあってか、比較的発熱が小さい傾向にあり、ファンなども回りにくい。だが、ベンチマークのようなことをすると、どうしてもアルミボディが熱くなってくる。

ゲーミングPCについてはいうまでもない。特に今回のテストは、パフォーマンス重視の「TURBOモード」設定で行なったため、発熱もファンの動作音も大きい。掃除機並み(55dB程度)の音になることも珍しくない。

一方、Mac Studioは全然音がしない。

アクティビティモニタで負荷を見ると処理負荷は天井に張り付いている状態なのに、ファンの回る音もほとんどしないし、排気もそこまで熱くはなっていない。手を排気に当てると、ほんの少し暖かい程度。これは、プロセッサの発熱が少ないだけでなく、相当に排熱機構が優秀ということだろう。

Mac Studioは高価な製品で、ここまでのパフォーマンスを必要とするのは一部のプロフェッショナル・ワークだろう、とは思う。

だが、高い負荷をかけてもこれだけ静かである、というのはそれだけで大きな魅力である。誰だって、作業を騒音や発熱で邪魔されたくないはずだ。

プロセッサとGPUの組み合わせによって、もっと高性能なPCを作ることもできると思う。PCアーキテクチャのサーバーなどではそうした機器が必要になる。だが、ここまで静かで「普通に卓上に置いて使えるのに、パワフル」な製品は少ない。Mac Studioが圧倒的に優れているのはその点だ。

(西田宗千佳。Engadget日本版より転載)

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。