【気になるIT書籍】Amazon奇才経営者の実像に迫る『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』

編集部:この記事は、本の要約サイト「flier(フライヤー)」と共同で選書したIT・テクノロジー関連書籍の要約を紹介するものだ。コンテンツは後日、フライヤーで公開される内容の一部である。

タイトル ジェフ・ベゾス 果てなき野望
著者 ブラッド・ストーン、井口耕二 訳、滑川海彦 解説
ページ数 504
出版社 日経BP社
価格(単行本) 1944円(税込)
価格(Kindle版) 1800円(税込)

本書の推奨ポイント

本にとどまらず、衣類や家電、食品まで、いまや生活のあらゆるものを買い揃えることができるAmazon。ショッピングの手段としてあまりに身近なものとなったため、近所のスーパーに行くよりもAmazonで購入する人も大勢いると言われている。

本書はAmazonの立ち上げから、現在に至るまでの道程を緻密に描いた一冊だ。Amazonは当初、出版社から好意的に受け入れられたが、次第に業界を揺るがす脅威として捉えられるように。Kindle発表時には新刊書に強引な値付けを行うことが明らかになり、ついに敵対視されるまでになる。社内外に大小様々な傷跡を残していきながらも凄まじい成長を続けるこの企業のスピード感は、読者にとって一種の興奮を与えてくれるだろう。

また、Amazonを率いるジェフ・ベゾスの「野望」は果てしなく、スティーブ・ジョブズにも劣らない特異な性格や才能が感じられる内容となっており、一人の起業家の半生としても興味深い内容になっている。同時に、クレジットカード情報を登録しておけば、その名の通り1回クリックするだけで商品が買えてしまう「ワン・クリック」や、購買履歴からその人に合った商品を示してくれる「レコメンド機能」など、私たちの購買意欲をますます刺激するためのテクニックが生まれた背景、どんなに損失を出しても顧客中心に考えるベゾスの思考法は参考になるところが多い。

綿密な取材によって完成された500ページ超もある本書だが、冗長なところは一切なく、2014年必読の1冊であることは疑いようがない。

本書の重要ポイント

・ベゾスが起業を決断した理由は、将来自分の人生をふり返ったとき、目の前の高い給料を失うことよりも起業しなかったことの方が心から後悔する可能性が高いと考えたからである。

・ベゾスは他のテクノロジー企業のトップと同様、部下を厳しく叱責する、気性が激しい人物である。一方、彼の指摘はいつも的確で、顧客を第一に考えた施策を実行していくことでAmazonを成功に導いてきた。

・出版業界は当初Amazonを歓迎したが、KindleによってAmazonが覇権を握るようになると、その存在を脅威と見なした。いまやAmazonは単なるECサイトを超える存在になりつつある。

本書の必読ポイント

Amazonは小売企業ではなくテクノロジー企業

1990年代末ごろから、Amazonはテクノロジー企業であって小売企業ではないとベゾスは主張していたという。だが収益の大半を消費者への販売から得ていたため、それは単なる願望に過ぎなかった。

これを打破したのが、ストレージやデータベース、処理能力といった基本的なコンピューターインフラストラクチャーを提供するクラウドサービス、Amazon Web Services(AWS)だ。今ではスタートアップ企業だけでなく大企業にとっても欠かせないサービスとなっている。

オンラインショップとは全く違う事業に進出した背景は本書を参照いただきたいが、その誕生秘話も興味深ければ、AWSを成功に導いた価格戦略も示唆深い。

ベゾスはAWSの収益予想を尋ねられたとき、長期的には収益が上げられるようになるが「スティーブ・ジョブズの失敗」を繰り返したくないと回答したという。iPhoneは驚くほど利益があがる価格で販売されたが、そのためにGoogleなどの競合をスマートフォン市場に引き寄せてしまったことをベゾスは失敗だと見なしたのだ。

AWSは確かにまだそこまで利益を生み出していない。しかしながら、ことさら低く設定されたAWSの料金はベゾスが意図した効果を生み、スタートアップ企業がこぞってAmazonのプラットフォームを使うようになったにもかかわらず、Google会長のエリック・シュミットはこの事態に2年以上も気付かなかったそうだ。あとを追うようにMicrosoftは2012年にAzureというクラウド構想を発表、GoogleもCompute Engineで2012年に参入した。「これはAmazonの功績だ。本屋さんが情報科学をものにし、解析も勉強して、すばらしいものを作り上げた」とシュミットもAmazonを認めざるを得ないほどだった。AWSでの成功をもってAmazonはベゾスの望み通り、ついにテクノロジー企業になったと言えよう。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。