【TC Tokyo 2021レポート】コロナ禍で成長したD2Cブランドが、今後も生き残る条件とは?

12月2日から3日にかけてオンラインで開催されたスタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo 2021」。2日目午後3時25分から午後4時にかけて行われたセッション「D2C」では、コロナ禍で需要の伸びたeコマースの中でも、D2Cブランドにスポットが当てられた。セッションには、D2Cブランドとしてお菓子セットのサブスクリプションサービスを提供しているBokksu(ボックス)創業者兼CEOのDanny Taing(ダニー・タン)氏と、ツール提供側からオンラインストアの自動化ツールを提供しているAlloy Automation(アロイオートメーション)共同創業者兼CEOのSara Du(サラ・ドゥ)氏が登壇。モデレーターはライター / 翻訳家の大熊希美氏だ。

食を通じて日本文化を広めたい

タン氏はニューヨーク出身。スタンフォード大学で心理学と日本語を学んだ後、Googleで1年間デジタルマーケティング業務を行った後、東京に移り住んだ。早稲田大学で、さらに日本語を学んでから2010年に楽天に就職。2013年頃に楽天を辞め、故郷のニューヨークへと戻ることにした。

ニューヨークに戻ってからの悩みは「日本のおいしいお菓子が手に入らないこと」。「日本にいた4年間で日本語をだいぶ操れるようになったので、日本中を旅することができた。そして、各地で「地方限定」のお菓子と出会えた。しかし、米国ではそれを手に入れるのがとても難しかった」とタン氏は振り返った。

また、自分がアジア系というマイノリティであることに言及した後「米国の大多数は、日本にはピカチュウかゲイシャしかないと考えているのではないか、と思うことがあった」と所感を述べる。

「でも、日本にはもっと多様な文化がある。深いレベルで、食を通じて文化の橋渡しをしたい。家族経営で作っているお菓子は、みんなをワクワクさせる力がある。それで、2016年4月、日本のお菓子やお茶のセットを詰め合わせたボックスを、毎月届けるサブスクリプションサービス Bokksuを立ち上げることにした」とタン氏。

Bokksuのボックスで届くお菓子は、北海道から九州、沖縄まで日本各地のもの。数百年続いている老舗のメーカーや家族経営店など約100軒の菓子メーカーと契約しており「中には五代以上続くビジネスもある」という。「お花見、月見などを楽しむ文化が日本にはある。毎月、文化的なテーマに沿ってキュレーションを行い、約14~16種類の商品をボックスに入れている」とタン氏。発送先は世界中の約100カ国、発送個数は100万個近くに上るという。

創業当初の登録者数は40人ほど。菓子メーカーも2〜3軒だった。「外部からの資金提供もなかったので、できるだけコストに無駄のない手段を使いたかった」というタン氏が選んだツールは、ShopifyとReChargeだった。ShopifyはECプラットフォームを、ReChargeは、ECサイトにサブスクリプション決済を実装可能にするツールだ。

「おかげで、わずか数千ドル(数十万円)で起業。自分でウェブサイトを作り、ニューヨークの自宅の居間でお菓子を箱詰めして出荷するという一連のサイクルを回すことができた」とタン氏はいう。

垂直型成長に潜む落とし穴

立ち上げ当初は、口コミ、アフィリエイト、現物支給のインフルエンサーマーケティング紹介プログラムなど、コストのかからないマーケティング手法しか取れなかった。「ビジネスを始めてから2〜3年目までは、サービスの完成度を高めることに重点を置いた」とタン氏。「そのために、毎月顧客にアンケートを送り、改善点を尋ねながら、サービスを改善していった」。

タン氏は「顧客基盤があるサブスクリプションサービスだからこそ、継続的な改善が可能だった」と話す。

そして、2018年にそれは突然訪れた。バイラルキャンペーンが当たり、わずか1カ月で加入者が1000人から3000人に増加したのだ。

「私たちとしては、顧客が増えたと大喜びだった」とタン氏。「しかし急速に拡大したため、倉庫では出荷が、梱包時には人手が、カスタマーサポートは遅延によるクレーム対応がそれぞれ追いつかなくなり、すべてが壊れてしまった」と振り返った。

「急激な規模拡大には、ウェブサイトのソフトウェア面だけでなく、フルフィルメントなど物理的なインフラもしっかり用意しておく必要があった」(タン氏)

ツールによる自動化の必要性に迫られる

セッションは、ウェブサイトで利用できるツールに焦点を当てて続けられた。そして、この段階で必要性を増したのが、eコマースに関連したものすべてを包含可能な自動化ツールの利用だった。

「起業当初は、Shopifyに入ってくる注文1つ1つをチェックして興奮していた」とタン氏。「しかし、規模が大きくなり、1日に数千件もの注文を受けるようになると、手作業では対応できない。そこで、100%の確率で機能する強力な自動化ツールの導入を検討することにした」。

自動化ツールでは、トリガーに対して適切な対応を行える。注文のタグ付け、顧客プロフィールに応じた礼状の送付、さらにABテストなども実行できる。

「Alloyがなければ、顧客が受け取ったものをABテストし、それによりサービス向上につなげることはできなかっただろう」とタン氏はAlloyの有効性について述べた。

ここで、Alloyについて触れておこう。Alloyは、2019年に創業したスタートアップAlloy Automationが提供するeコマース向けのツールだ。eコマースを運営するためには、受注、決済、倉庫への連絡、顧客への連絡などさまざまな作業が必要で、場合によっては作業ごとにアプリを変える必要がある。それらをまとめて管理し、タスクを自動化するのがAlloyというわけだ。

ドゥ氏は、ハーバード大学の学部生だったが、休学し、米国のショッピングアプリ「Wish」でインターンを行う。そこでZapireのような自動化ツールに興味を持ったが、アプリ同士をつなげる程度のシンプルなことしかできなくても、年間2万ドルもするような高額のものであることに気づいた。

「既存のワークフローを視覚的にする自動化ツールの構築に興味を持った」とドゥ氏。エンジニアであり、デザインの勉強もしていた氏らしい発想だ。

そして、さまざまなアプリ同士を連携させ、循環させるツール開発に取り組み始め、2019年10月に公開するや、爆発的にヒットした。

公開からしばらくは、用途を念頭に置くことなく、データ操作や論理的操作を実行する機能、つまりコアの構築にしぼってツールに磨きをかけていった。それにより、さまざまなAPIをサポートし、ワークフローエンジンを持たせるという当初の目的を果たすツールに成長したのだ。

「パンデミックが本格化する直前の2020年3月には、eコマースで磨きをかけた」とドゥ氏。「わたしも小さなストリートウェアブランドを立ち上げたばかりだったし、友人にも店舗経営者が幾人かいた。そこで、最初の統合にShopifyを加えることにした」。

Shopify FlowやZapireといった、他の自動化ツールとの違いについて大熊氏から尋ねられたドゥ氏は「接続アプリ数の違い」を挙げた。

「Zapireなどでは2つまたは4つのアプリを接続してデータを同期するだけだ。しかし、わたしたちの顧客の多くは20、または30以上の非常に複雑なワークフローを構築している。それに対応し、さらに視覚化するのがAlloyだ。

また、eコマースに重点を置いたツールで、プラットフォームでは行えないような深いところでのアプリ同士の統合を、エンジニアチームを必要とせずに行うことができるという特徴もある」(ドゥ氏)

実に、130ものアプリをサポートしているというのだ。それにはSMS、Eメールロイヤリティ、UGC、返品アプリの3PLなどが含まれる。そのため、商品の追加や在庫の更新、自動応答といった作業をすべて自動で行える。

「データがさまざまなアプリ間でサイロ化(データを横断的に使えない状態)されている、大量のデータを手動でさばききれないときなどに、Alloyはマーケターをサポートする。Bokksuのように、サブスクリプション決済を行っているケースでも、対応できる。しかも、ノーコードで、マウス操作のみでそれらが可能だ」(ドゥ氏)

顧客自ら参加したくなるコミュニティの形成でD2Cブランドを確固たるものへ

急激な成長時には、まだAlloyが誕生していないこともあり、Bokksuの自動化ツールとして利用できなかったタン氏だが「今ではAlloyのおかげで、Shopifyに関連した90%ほどの作業を自動化できている」と喜ぶ。「在庫が少なくなったことを検知するトリガーを設定し、倉庫にメールを送る、再入荷があった場合に顧客にメールを送る。これらを手動ではなく、自動的に行えるようになった」。

そのおかげで、本家のbokksu.comだけでなく、日本のキッチン用品や包丁、ガラス製品などを都度販売するbokksugrocery.comという2つのストアを円滑に運営可能となった。「Alloyは、bokksu.comに登録されている顧客がbokksugrocery.comで購入した場合に、特別な方法で識別して、タグ付けできる。これは、Shopify Flowではできないことだ」とタン氏は説明した。

最後に大熊氏は、2人にD2Cブランドの構築と拡大に重要な要素についてどう思うかを尋ねた。

ドゥ氏は「コミュニティの重要さ」について語った。「フォロワーが5万人いるのに、投稿に対しての『いいね!』が20件のコミュニティより、フォロワーが3000人しかいないのに、『いいね!』が常に300件つくようなコミュニティを育てるブランドのほうがはるかにいい。そのためにも、リテンション(顧客との関係性維持)に取り組むのに役立つツールも重要になってくると思う」。

タン氏も、コミュニティの重要さを肯定しつつ「商品を販売していては、Amazonに勝てない。D2Cブランドが提供すべきなのは、ユニークな体験だ」と語る。「Bokksuも、単にお菓子の詰め合わせを送っているわけではなく、24ページ以上ある『カルチャーガイド』マガジンに、アレルゲン情報や、製品の最高の楽しみ方、メーカーへのインタビュー、日本の地図や製品の産地などを紹介している。おいしいお菓子だけでなく、日本のグルメ旅行も楽しんでもらえる、そういう体験を提供しているのだ」と説明した。

「顧客が、『これは特別だ』と感じてくれるものを提供する。学び、記憶に残る経験をしてもらう。それができるD2Cブランドは、人々をコミュニティに引き込み、コンテンツに参加させることができ、成功に至ると思う」とタン氏は語る。

作業そのものはツールで自動化を図り、顧客に最高の体験を提供することに専念する。それにより、顧客満足度が上がり、良質なコミュニティを形成できる。これこそが、D2Cブランドの成功の秘訣だ、と感じられるセッションであった。

TechCrunch Tokyo 2021は、12月31日までアーカイブ視聴が可能だ。現在、15%オフになるプロモーションコードを配布中だが、数量限定なのでお早めに。プロモーションコード、およびチケット購入ページはこちらのイベント特設ページからアクセス可能だ。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。