お店とお客が値引きする/値切るの会話ができるeコマースTheorem

値引き交渉なんて前世紀に死んでしまい、今では混み合った青空市場やバザーにしかない、と思っておられるかもしれないが、でもよく考えると、今でも頭の中ではいつもそれをやっているのだ。ネットショップでシャツを見たあなたは、自分にこう言うだろう: “うん、これはお買い得ね”とか、“だめ、高すぎるわ”とか。欲しい物の値段が高かったら、すぐには買わずに、そのお店がクーポンを発行したり、売り出しで値下げするのを待つだろう。

新進のスタートアップTheoremは、お店とお客のあいだの、このような会話を大々的に復活させたい、と考えている。

Theoremはeコマース企業だが、お店とお客が値引き交渉ないし値下げ交渉できるシステムを作り上げた*。今日の立ち上げ時点でサポートしているのは、そのお店や地域で作られたアパレルとアクセサリだ。〔*: お店側がどんどん値を下げていく売り方が(動詞)negotiate、客が値引きを要求していくのが(動詞)haggle。日本語では、前者が値引き、後者が値切りか。Theoremは主に、店側のnegotiateをサポートする。〕

Theoremの協同ファウンダRyan Jacksonによると、小さな少量生産のブランドは、物を売るというゲームのやり方を知らない。また、市場調査をやるほどの資金もない。そこで彼らの値付けは、だいたい、客の肚(はら)をさぐる数当てゲームになる。また消費者の方は大型店の安い品物に慣れているため、地元産の高価な品物を、自分が納得できる値段で買えるためには、お店側との会話を必要とする。

Jacksonは曰く、“こういうブランドを抱えている人たちは、物作りの腕やセンスはすばらしい。でも、最終的に消費者に買っていただくための会話の能力が、彼らには必要だ。消費者はたとえば最初、‘あら高いわね’と言うかもしれない。するとアパレルの作者は、‘これ、中国製じゃなくて、サンフランシスコで、ここで、作ったのよ’と応ずる。そうすると消費者は、‘そうなの。分かったわ。でもまだちょっと高いわね’、と言うかもしれない。すると売る側は、‘おいくらぐらいなら、買っていただけるかしら?’と応ずるだろう*。〔*: ここからnegotiateが始まる。〕

Theoremを使うと、こんなやりとりがオンラインで容易にできる。消費者は、自分の言い値を店側に伝えることができ、店側はそれらをダッシュボード上で一覧できる。店側はそのデータを見て、各商品の消費者側から見た妥当な値頃を知り、そのあたりの価格で売ることができる。それは、店側の利益も出るが今後も継続的に買い手がつきそうな‘妥当な’価格だ。

Theoremは今日ベータから脱して一般公開したばかりだが、売れた値段のわずかなパーセンテージを取る。その率は品物によって違うが、現時点ではまったくマージンを取っていない。

Theoremが店側に提供するダッシュボードは、こんな画面だ:

Theoremと古典的なオークションとのあいだには、微妙な違いがある。まず、オークションでは品物が最高値の入札者へ行くが、Theoremでは最小公分母的な値付けがされる*。私が初めて見たときは、Goethe Auction(ゲーテのオークション)#やBecker-DeGroot-Marschack法$に似ているな、と思った。eBayで行われている値引き交渉よりも相当複雑だが、売り手と買い手の両方に最良の結果をもたらすやり方、と言えるかもしれない。〔*: 利益がある程度出て、かつ、今後もいちばん多く売れそうな価格。#: 自分の心中の決め値よりも高い言い値なら売ってしまう、という文豪ゲーテの方法。$:ゲーテのオークションに似ている。〕

このようなシステムをオンライン化することは、技術的に簡単ではなかった。まだ自己資本だけのTheoremを創ったのはRyan JacksonとAdam Robertsだが、両人は以前、Y Combinatorで創られたスタートアップで出会い、チームメンバーとして少数のインターンを集めた。これは、熱心な協同ファウンダが集まるとどんなものができるか、ということの一つの例である。

全体としてTheoremは、小売業という長い歴史をもつ業態へのたいへん巧妙な取り組みであり、商店と消費者両方が抱えるきわめて現実的な問題を解決しようとしている。今主流の、画一的な値付けによる大量生産大量販売という方法からは、大量の無駄と過剰在庫が生じている。あまり売れない品物ですら。Theoremを利用してその流れに逆らうことができるなら、それは私たち全員の利益になる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))