お手頃な新技術でクリーンな水素製造を目指すDibiGasが約4.2億円調達

多くの産業プロセスの中心である水素は、将来主要なエネルギーエコシステムに組み込まれる可能性を有している。しかしながら、水素を分離・貯蔵するプロセスは、エネルギーロスが多く、コストも高い。今回シードラウンドで360万ドル(約4億2000万円)を調達したDiviGas(デヴィガス)は、既存の方法を凌駕する新しい技術でクリーンな水素製造ビジネスを実現し、新たなグリーン経済を推し進めようとしている。

一般的に、水素はクリーンで非常に便利な元素と考えられているが、その製造には多くの「クリーンではない」産業プロセスが関わっている。例えば、石油精製やプラスチック製造の過程ではさまざまな炭化水素や混合ガス、化学物質が排出され、そういった排出物から水素を分離するためにはさらなる処理とエネルギーが必要である。

化学反応よりもクリーンでシンプルな方法として、水素分離膜やフィルターを使って、水素ガスや二酸化炭素ガスを他の物質から分離する方法がある。しかしながら、これらの分離膜やフィルターは高温では機能せず、低圧で分離して得られたガスの一部は再加圧する必要があり(コストがかかる)、分離膜自体も一般的な酸性ガスの存在下では急速に劣化する。

水素製造産業はとてつもなく大きいが、現在のところ高価でエネルギー消費の多い選択肢と、安価で限定的な選択肢しかない。シンガポールにあるSOSV(エスオーエスブイ)のインキュベーターであるHAXでお互いを知ることとなったDiviGasの創業者2人は、このような弱点を持たない第3の選択肢を提供しようとしている。

同社はオングストローム(ナノメートルの10分の1)スケールの新しい「中空糸高分子膜」を設計したと主張する。原子サイズ(1オングストローム程度)のフィルターを設計したという意味ではない。このサイズの機能的特徴が、望ましい高度に分離された結果を生み出すことができるのだ。この場合は、ガスにわずかに異なる圧力をかけることで水素ガスと二酸化炭素ガスを分け(ダイバート)、分離(アイソレーション)することができる。

画像クレジット:DiviGas

同社の水素分離膜技術では、膨大な数の繊維を束ねてチューブを作り、そこにガスを送り込むだけ。化学反応は必要としない。他の分離膜とは異なり、この新しい分離膜は150度以下の高温でも機能する。硫黄と塩素の混合ガスに含まれる一般的な酸性化合物にも耐性があり、腐食性の高い、処理されていないガスを劣化することなく処理できる。また、分離された物質の純度に影響する選択性、対応できる圧力に影響する透過性という基本的な性能では、従来の分離膜と同等以上の性能を持つ。

DiviGasの技術は既存の分離膜技術と原理的には同じなので、最小限の作業でDiviGasの水素分離膜を導入できる。また、同社の水素分離膜で使用する繊維の製造は簡単ではないが、ことさらに特殊なものではなく、既存のプロセスが多く利用されている。共同創業者かつCTO(最高技術責任者)であり、新素材の生みの親でもあるAli Naderi(アリ・ナデリ)氏が説明するように、新素材はさまざまな最先端の技術革新の成果であり、その結果として製造も難しくない。

ナデリ氏はメールで次のように説明する。「二層構造の中空糸膜の開発では、経済性を確保するために、選択層(=外層)に使用する高価な機能性材料をできるだけ少なくして、機械的支持層(=内層)には市販されている安価なポリマーを使用しました。この膜は、標準的な紡糸ラインをカスタマイズして使うことで、同程度の価格で商業的に製造することができます」。

画像クレジット:DiviGas

共同創業者でCEOのAndre Lorenceau(アンドレ・ロレンソー)氏によると、よりシンプルでクリーンな水素と二酸化炭素の製造が可能であろうという同社の見通しは、業界関係者から非常に高い評価を受けているという。

「この製品を数千万個提供できるのはいつごろか、という問い合わせがきています。今回の資金調達ラウンドは、問い合わせに応えるためのものです」とロレンソー氏。

今回の資金は、メルボルンにパイロットスケールの工場を建設するために使用され、工場は2022年3月には稼働を開始する予定である。現在のところ、デモ用のユニット(分離膜に使用する繊維の束)を1つ作るのに数カ月かかっているが、クライアントによっては数百、数千のユニットを定期的に必要とするケースも想定される。1週間で製造できるようになれば、より大規模なデモを行ったり、小さな施設で実際に運用したりすることが可能になる。そうすれば、実際の注文を確保して、さらにその収益を本格的な製造プロセスに充当できるようになるだろう。

「今は(従来の分離膜の)2〜3倍の価格ですが、クライアントは気にしていません」とロレンソー氏(数量が増えれば価格は下がるだろう)。「『私が知っている技術、私が知っている製造工程、それをこの価格で提供してくれるなら最高だ』といってくれます。まだ販売していないのに、そういってくれるクライアントが大勢います」。

競合他社が動きの遅い企業や停滞しているスタートアップ企業ばかりなので、クライアントがせっつくのはそのせいだろう、とロレンソー氏は続ける。

「製材の大企業では専門の部署があり、(水素製造技術の)改善を行っていますが、時代遅れです。次世代のソフトウェア技術を構築するのがコンピュータサイエンスの旧態依然の博士たちではないのと同じ理由です。常に次世代の「ヘンなもの」にチャレンジする必要があります」「(停滞している)スタートアップも、目まぐるしく移り変わるベンチャーキャピタルの世界に慣れていない研究者たちです。優れた研究成果があっても、製造しようとすると手のひらサイズのものを作るのに10億ドル(約1100億円)もかかります。「製造可能性を考慮して……」と口ではいいますが、まったく考慮していません。だから私たちはこのようなスタートアップや大企業を追い抜くことができるのです」。

今回の360万ドルのラウンドは、Energy Revolution Ventures(エナジーレボリューションベンチャーズ)とドイツの工業用フィルターメーカーであるMann + Hummel(マンウントフンメル)が共同で主導した。ラウンドには、Entrepreneur First(アントレプレナーファースト)、Union Square Ventures(ユニオンスクエアベンチャーズ)のAlbert Wenger(アルベルト・ウェンガー)氏、SOSV/HAX、Amasia VC(アメイジアブイシー)、Volta Energy Technologies(ボルタエナジーテクノロジーズ)、Climate Capital(クライメイトキャピタル)の他、数名の個人投資家が参加した。

画像クレジット:Shutterstock

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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