これぞ「メイド・イン・デトロイト」の実力、現場労働者の安全性を向上させる多数センサーを搭載したGuardhatのスマートヘルメット

デトロイトを拠点とするGuardhat Technologiesの創業者Saikat Dey(サイキャット・デイ)氏は、鉄鋼業界で自身のキャリアを開始した。Guardhatを設立する前にはミシガン州ディアボーンに本社を置く多国籍鉄鋼コングロマリット、Severstal InternationalのCEOを務めていた経験を持つ。

前職ではミシシッピ州、ミシガン州、ウェストバージニア州の炭鉱で3600人の従業員を抱え、数量、売上ともに第4位の鉄鋼メーカーのグローバルビジネスを管理していたデイ氏。その頃から同氏は安全性に大きなこだわりを持つようになったという。

キャッシュフローやEBITDAといった一般的な数値だけでなく、従業員の安全性も報酬に影響を与える指標であるとデイ氏は考えている。「現場の従業員の安全性をいかにして守るかということは、重要な指標の1つです」とデイ氏は説明する。

工場の安全性に対する懸念から組合の幹部に働きかけ、そこから開発が始まり誕生したのが現在のGuardhatの中核となる技術だ。

Guardhatは危険な産業における作業中の事故を検知、警告、防止する、ウェアラブル技術と独自のソフトウェアを統合したインテリジェントセーフティシステムを開発している。

Dan Gilbert(ダン・ギルバート)氏が経営するDetroit Venture PartnersGeneral Catalystの他、Ru-Net Holdingsの共同創業者であるLeonid Boguslavsky(レオニード・ボグスラフスキー)氏が率いるベンチャー投資会社RTP Venturesなどの投資家がデイ氏のビジョンを支援している。また、何よりも重要な関係者である、同社の技術を利用している従業員を代表する組合からの賛同も得ることができている。

Guardhatの産業用ウェアラブルの初日のブレインストーミングのメモ(画像クレジット:Guardhat

世界中の産業労働者のために作られた「メイド・イン・デトロイト」

鉱業、金属、石油、ガスなどの産業分野では、毎日およそ15人の労働者が仕事中に死亡し、毎年300万人が負傷している。この業界の経営者にとってこの問題は、倫理的な問題であると同時に経済的な問題でもある。Severstalではデイ氏の給料の40%が労働者の安全に結びついていたという。

実際、Guardhatのアイデアは同氏がデトロイトにある同社の鉄鋼工場のフロアを歩いているときに思いついたものだった。いつものように工場内を歩いていると、ある機器を操作している男性の前を通りかかった際、その男性が持っていた一酸化炭素警報器が鳴り始めたという。しかしその男性は原因究明をすることなく、モニターの電源を切ってしまったのだ。

「デトロイトの中心部にあるその製鉄所には、北米最大の高炉があります。彼が何をしていたにせよ、大惨事につながる可能性がありました」とデイ氏。

それがGuardhatのテクノロジーが誕生したきっかけとなる。今どこにいるのか、どんな状況に直面しているのか、いつ助けが来るかなど、世界中のどんな工場にも当てはまるシンプルで状況に応じた質問に答えるように設計されている。

「当時、事故を防ぐための有効な手段や、事故が起こった場合にタイムリーな情報を提供する手段がありませんでした」。

経営陣によって設計されたこの技術だが、実際に労働者が使ってくれるようデトロイト地区の組合長と相談しながら作られている。

「2014年の9月にこのビジネスを開始することを決めました。この事業を始めるか否か迷っていたとき、ある組合員がやってみなよと言って背中を押してくれたのです。60億ドル(約6500億円)の損益計算書を見ながら米国の6大鉄鋼メーカーの1つを運営する有色人種の私が、文字通りガレージからこの事業を立ち上げました。勇気と愚かさが必要でしたし、UAW(全米自動車労働組合)の友人たちからは多大な支援を受けました」とデイ氏は当時を振り返る。

従業員が不必要に監視されたり罰されたりしているように感じることなく、情報を生成、保存できるようになったのは、このコラボレーションのおかげである。

Guardhat Technologiesのセンサー機器を詰め込んだセーフティヘルメット(画像クレジット:Guardhat Technologies)

プロトタイプから製品へ

同社の初となる製品は、センサー機器を詰め込んだヘルメット「HC1」だ。「誰もが着用し、着用が義務付けられているものに搭載すべきです」とデイ氏。

当初はウェアラブルの開発だけを考えていたものの、時間が経つにつれてデイ氏とチームはデバイスだけでは十分ではないことに気が付く。「ヘルメットは単なるフォームファクターの1つに過ぎません。【略】フォームファクターが何であれ、従業員を取り巻くすべての情報をプラットフォーム上でどのようにして1つの揺るぎない情報源として確立させるかが重要でした」。

デトロイトを拠点とする数多くのスタートアップ企業と同様、デイ氏とチームも資金調達の必要に迫られた際、ギルバート氏に相談した。

ギルバート氏はプロトタイプを着用してビルの中を走り回り、GuardHatチームが同氏のいる場所を探し当てられるかテストした。

ギルバート氏が加わったことにより、プロダクトデザイン会社であるfrog labsと3Mも協力することになり、そこからプロトタイプのテストが開始された。

「オハイオ州アクロンにある第三者認証機関でテストを行った初日のことを今でも覚えています。彼らは5メートルの高さから金属球を落としていました。1つ3000ドル(約33万円)のプロトタイプ27個が粉々になってしまいました。テストはすべて失敗です。我々はヘルメットの作り方を知らなかったわけです」とデイ氏は振り返る。

frog labsやその他企業の支援を受けて完成したこの装置は、現在5000人以上の作業員に使用され、少なくとも2000件の事故を未然に防いだり、警告を発したりすることができている。

同事業はデトロイトでしか誕生し得なかったとデイ氏は感じている。「デトロイトというのは象徴的なものです」と同氏。それはGuardhat創業チームが重工業のあり方を学んだ、実社会の厳しい試練の象徴でもあるのだ。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:デトロイトGuardhat Technologies安全工場建築

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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