さくらインターネットのIoTプラットフォームの本質は、閉域網に巨大なデータを蓄積することにある

さくらインターネットが以前から発表していたIoT向けのプラットフォームがいよいよ本格稼働する。同社は2月8日、「さくらのIoT Platform」のアルファ版のパートナー申し込み受付を開始した。4月にもアルファ版サービスを開始する予定。また9月にベータ版としてサービスを拡大。2016年度内の正式サービス提供を予定する。

さくらのIoT Platformは、同社オリジナルのモバイル通信モジュールである「さくらのIoT通信モジュール」(設計、開発はCerevoが担当。ソフトバンクおよびソラコム(NTTドコモ)の回線の2種類を提供)を通してL2接続した閉域網を用意。閉域網内ではストレージやデータベースといったバックグラウンド環境を構築、外部のクラウドやアプリケーションなどから呼び出し可能なAPIも提供する。

プラットフォームのコンセプトは「どこでも誰でも手軽に今すぐに」。マイコンやIoT製品にモジュールを組み込むことで、通信経路やサーバとの通信プロトコル(モジュールマイコンのUART、SPI、I2Cといった通信規格に対応)などを意識せず、モノ(ハードウェア)の制御とAPIを使ったデータ処理だけに対応すればいい。

アルファ版のためプラットフォームは無償で提供。通信モジュールや通信費などをベースにした定額料金ではなく、通信モジュールと閉域網で実際にやりとりされるメッセージと、APIを利用したデータの取得に応じて料金が設定される予定だ。「メッセージに関しては2年間期限で100万件(2年間、1分単位での通信に相当)で無償」といったプランも検討されている。3G回線の通信モジュールはこれまで数万円ほどの価格帯が一般的だったが、1万円以下で提供する見込み。なおアルファ版に関しては無償で提供。現在モジュールは1000台生産しており、それ以上のニーズがあれば別途対応を検討する。

閉域網にアップされるデータは、パブリックなものとプライベートなものに分けられる。パブリックなデータに関しては、APIを利用して開発者が自由かつ無償で扱える。一方でプライベートなデータは有料で利用することになる。さくらインターネットでは、プラットフォーム上により多くのデータが集まるよう、API取得時の料金の一部を、データをアップする開発者に還元することを検討している。

開発中の通信モジュール

開発中の通信モジュール

アルファ版の開始にあたり、Amazon Web Services(AWS)やヤフーのIoTプラットフォーム「myThings」などとも連携。さらに「Priority Partner」と呼ぶ先行パートナー企業も集まった。NECパーソナルコンピュータとはホームIoTやパブリックIoTの実現に向けた共創プロジェクトを展開。Cerevo、ソラコムはそれぞれ前述のとおり、また医療IoTスタートアップのサイマックスやM2Mのデータソリューションを提供するアプトポッドなどがすでにプラットフォームの採用を決定している。

と、ここまではすでに各メディアでも報じられている話。ざっくり言えば、IoT機器メーカーにとっては、「とにかく簡単に作れる(組み込みソフトのスキルが低くてもいける)、なのにセキュア」ということだ。会見後Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏にも話を聞いたのだが、閉域網にデータを預けることは、「セキュアな環境なので極論を言えば暗号化せずに通信できる。組み込みのマイコンにおいては、SSL通信などは重くて無駄な処理。そう考えるとマイコンの品質を下げて、原価低減ができるというメリットもある」といった利点もあるのだそうだ。

膨大なデータを閉域網に集めることこそが本質

さくらインターネット創業メンバーであり、現在同社のフェローとしてこの事業に携わる小笠原治氏によれば、さくらインターネットがこのプラットフォームで狙うのは、別に通信料やAPI利用料によるマネタイズではない。IoT機器から送られる膨大なデータのプールを閉域網に作ることだという。

小笠原氏は会見の中でも「(通信モジュールで)格安MVNOをやるわけではない」「デバイスメーカーになるわけでもない」「インターネットに開かれた繋がれたクラウドサービスを提供するわけでもない」と語っていた。もちろん正式サービス時には課金を行うわけだが、とにかく色んなデータを集めて、それを使った新しいビジネスのシードを見つけていくことこそが重要だという。このプラットフォームは「人々が気づけなかった世界の相関性に気づくためのプラットフォーム」を目指すとしている。

岩佐氏は、作り手の立場からこう語る。「IoT機器のメーカーが、誰かのセンサー値を使える世界というのはめちゃくちゃ面白い話になる。もちろんそんな構想があるメーカーは(現状では)ほぼいないが、スタートアップからは出てくるのではないか」

例えば世の自動車がリアルタイムに車速のデータをさくらのプラットフォームにリアルタイムでアップロードしているとしよう。そのデータがオープンなモノであれば、「ある道が混んでる」と瞬時に判断して、リアルタイムに迂回ルートを提案してくれるなんてこともできる。一部の自動車メーカー(ホンダのインターナビなど)では自社製品に閉じてこういった仕組みを提供しているが、これがパブリックなデータで実現できるようになるわけだ。もちろんこれはあくまで一例。正式サービスのローンチはまだ少し先だが、はたしてこのプラットフォームからどんなIoT機器が生まれてくるのだろうか。

さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏(一番左)、同社フェローの小笠原治氏(左から4人目)ほか、Priority Partner各社の代表ら

さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏(一番左)、同社フェローの小笠原治氏(左から4人目)ほか、Priority Partner各社の代表ら

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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。