とてつもなく大きな起業機会: 「インフラのソフトウェア化」の時代が夜明けを迎えた

[筆者: Navin Chaddha]

編集者注記:Navin Chaddhaは、起業初期のスタートアップを育成するタイプのVC Mayfieldの専務取締役。彼は35の特許を保有し、これまで複数の企業を起業してきた。そしてその間、数十回のIPOや買収を経験している。根っからのクリケットファンでもある。

ソフトウェア定義のデータセンター(software-defined data center)は、主にITのインフラ部分を扱ってきた起業家全員にとって、過去は未来を予言しないどころか、過去は未来によって葬り去られることもある、という警告として受け取られるべきだ。

その過去は偉大だった。それは、起業家とVCの両方にとって偉大だった。なにしろ、ハードウェアによるサーバ、ストレージ、ネットワーキング、セキュリティといったカテゴリが作られたのは過去30年のことであり、今でもそれらは年間2000億ドルあまりの売上がある。その利幅は大きく、ベンダロックイン(縛り付け)は強力であり、新規参入のハードルは高かった。それは誰にとっても有効な作戦であり、誰もが同じ作戦を使った…ハードウェアを軸とする、という作戦を。

しかしその作戦は、もはや有効ではない。インフラストラクチャの既存のカテゴリーは、それまで一体だったソフトウェアとハードウェアを分離させる新しいテクノロジにディスラプトされ、ハードウェアはすべて、基本的な部位だけを持つコモディティのボックスへと退化し、イノベーションは完全にソフトウェアの分野へ移行した。

今ITのインフラストラクチャを手がけるスタートアップは、その革新的なソフトウェアを一般市販の(どこででも買える)コモディティ(commodity off-the-shelf, COTS)のハードウェアで動かす必要がある。今や、高価でプロプライエタリなハードウェアを使う者はいない。

このような、インフラのソフトウェア化は、Google、Facebook、Amazon、Yahooといったインターネット世代の企業から生まれ、Cisco、EMC、Hewlett-Packard、Sun Microsystems/Oracleといったハードウェア企業にも大きな影響を与えた。

上記のどちらのグループにとっても、今や当然ながら、ソフトウェア主導型の企業の方が有利だ。彼らはハードウェア中心のやり方の限界を悟り、インフラストラクチャにおける真の機会はソフトウェアにあることを悟っている。Marc Andreessenがかつて Wall Street Journalに書いた“Why Software is Eating the World”(なぜソフトウェアが世界を食べてしまうのか)という記事は、コンピュータに限らず多くの産業に、強いインパクトを与えた。

製品の設計やデザインに熱心で、コミュニティのパワーをよく知っているCEOたちは、伝統を捨て過去と決別し、新しいビジネスモデルと営業戦略とライセンスモデルを積極的に採用しようとしている。彼らがやろうとしている変化は、成果が予測できる…より柔軟性に富んだ技術、使いやすいプロダクト、オープンな技術がベース、そして導入費用も運用費用も安い。でもまだ、最終的な勝者と敗者は決まっていない。

おそらく、サーバ市場に起きたことが、今後そのほかのハードウェアインフラストラクチャにも起きるのだろう。VMwareは、ソフトウェアと、それがその上で走るハードウェアとを、分離する方法を発明し、それによって、あらゆるデータセンターの運用効率と経済的効率を向上させた。仮想化技術の進展とともに、それまでハードウェアにあったイノベーションをソフトウェアが吸い上げ、ハードウェアベンダが顧客に対して持っていた優位性を下げた。

ソフトウェアのやることが増え、ハードウェアのやることは減った。サーバハードウェアのビジネスは、今や薄利多売型だ。世界の三大サーバメーカーも、この流れの中でラジカルな構造改革を余儀なくされた。Dellは2013年に上場企業ではなくなり、IBMは昨年サーバ事業をLenovoに売り、そしてHewlett-Packardは会社を二つに分割しようとしている。一方、VMwareはますます強力になった。

こうしてデータセンターのエコシステムにおけるサーバ部門は決着がついたが、そのほかの部門はまだこれからだ。企業ITのインフラストラクチャは、全体で2000億ドルの商機と言われる。本稿は、その網羅的なリストではないが、これからインフラストラクチャのソフトウェア化に取り組もうとするスタートアップにとってとくに有望な分野を、以下に列挙してみよう:

コンピューティング: VMwareがサーバ市場をディスラプトしたことは、さきに述べた。しかし今ではそのVMwareが、DockerCoreOSなどのコンテナ技術に押されている。ここでインフラストラクチャのソフトウェア化によって新たに変わりつつあるのは、アプリケーションの開発と展開と管理の方式だ。コンテナ技術はまだ比較的新しい分野だが、それはデータセンターのもっとも基盤的な部分に取り付こうとしている。この分野ではすでに、多くの新進スタートアップたちによる活発な進歩の歩みが見られる。

ネットワーキング: ネットワーキングは今、巨大な地殻変動を経験しつつある。長年ハードウェアが支配してきたこの市場が、今では、Cumulus NetworksのLinux OSによるスイッチングや、L4-L7サーバに対するVersa Networks(弊社Mayfieldが投資)のネットワーク機能仮想化(network function virtualization, NFV)などの、SDNベンダによって引き裂かれつつある。これらの新しい企業は、もっぱらCOTSハードウェアを利用することによって顧客企業の資本費用と運用費用を下げ、ネットワーキングの自動化や多様なネットワーク機能の統一化、アジリティ、そしてスケーラビリティを提供している。

ストレージ: 今やそれまでのプロプライエタリなストレージシステムをソフトウェアがいろんな角度から攻撃して、レガシーなハードウェアストレージベンダを打倒しつつある。InkTank(RedHatが買収)とSwiftstack(弊社Mayfieldが投資)の二社は、COTSハードウェアを利用するソフトウェア定義ストレージ(software-defined storage)企業の好例だ。これらの企業が提供する最大のアドバンテージは、資本費用/運用費用の大幅な軽減とともに、スケールアウト…分散拡大…タイプのアーキテクチャが可能になることだ(“スケールアップ”ではなくて)。またソフトウェア定義ストレージでは雑多なメーカー/機種のストレージハードウェアの混在が楽に可能になり、相互運用性や、ストレージリソースの過大や過小、ストレージリソースの監視などの問題で悩まなくなる。

セキュリティ: セキュリティの世界には、主なディスラプションが二つある。1)オンプレミスのセキュリティプロダクトがクラウドプロダクトに置き換えられつつあることと、2)新世代の企業たちがセキュリティの機能をCOTSハードウェア上のソフトウェアとして提供し始めていることだ。COTSハードウェア上のソフトウェアを提供する新時代の企業たちは、データセンターの外縁部でトラフィックを保護するだけでなく、トラフィックがソフトウェア定義データセンターに入ってくる時点でデータを保護し、次の時代のPalo Alto Networksになろうとしている。このような技術への需要は、インフラのソフトウェア化の進展に伴って必然的に生じてきたものだ。

管理: これらの次世代技術には、それらを管理する新しい方式も必要だ。ITマネージャの古典、IBM Tivoliに代わるものは、何だろうか? その究極の理想像は、単一のダッシュボードで企業のすべてのシステムのステータス監視と健康管理ができることだ。まだそういうものは登場していないが、長年の経験から言えるのは、新しい大きな問題が存在するときには必ず、それに見合う新しいビッグなソリューションが生まれてくる、ということだ。

上述のそれぞれに関して、それらを共通して貫くものはソフトウェアだ。ソフトウェア定義データセンターの全域に存在する機会は、やはりソフトウェア中心型の料金モデルにより、ハードウェアアプライアンスの代金を問答無用の前払いで徴収するレガシーベンダのビジネスモデルを、ディスラプトしていくことだ。

これからの企業ITの世界には、インフラストラクチャのソフトウェア化の、豊富で多様な機会が、今後相当長年にわたって存在する。未来は、イノベーションの手段はソフトウェアだ、と信ずる者にやってくる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

投稿者:

TechCrunch Japan

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