なぜAppleはBeatsを欲しがるのか

世界最強のブランドが別のやはり強力なブランドを買うのは、そんなに驚くべきことではない。Beatsへの巨額な投資に意味があるとすればそれは、オーディオファンたちの馬鹿笑いや一部のApple通たちの不満顔を超えたところの、どこかにある。

まず理解すべきなのは、利益の出にくいハードウェアの世界でBeatsが、ハードウェアスタートアップとして成功していることだ。Beatsの競合他社は、その多くが、せいぜい等外者であり、同社と同じぐらいの知名度のある企業は、ぼくの知るかぎりない。ヘッドフォン市場のローエンドには南極海のオキアミのように多数の企業がうじゃうじゃといるが、彼らは某国製の安物を自己ブランドで高く売っているだけだ。ハイエンドはどうか。AppleはBoseやGradoを買っても良かったかもしれないが、Appleが望むスケールに対応できるのはBeatsだけだ。Beatsなら日産数千台ぐらいは楽勝だし、製品のクォリティもAppleのそのほかのアクセサリ製品と肩を並べうる。

Beatsは、確実に買収されるだろうか? 情報筋は、まだ不確定要素がある、と言っている。つまり明確な否定ではなくて、ゆがんだ微笑を伴う戸惑いだ。情報筋のそんな反応自体が、興味深い。

Beatsは、マーケティングの奇跡だ。同社はパートナーシップの失敗という灰の中から、何度も何度も蘇生してきた。最初はMonster Cable、次はHTC。HPのラップトップのパッケージの中に閉じ込められそうになったが、生きて脱出できた。オーディオのグルを自称する連中からの、執拗なあざけりにも耐えてきた。

一言で言うとBeatsとは、高価な人気ブランドであり、しかし消費者から見て価格と価値はつりあっている。高すぎる感はなく、自分のワードローブのおしゃれアイテムにヘッドフォンも必要なら、それはBeatsになる。なぜか? 皮肉屋はスタイルのせいだ、と言う。現実派はブランドイメージとデザインが良い製品がBeatsのほかにない、と言う。ヤングアダルトやティーンに対するマーケティングがきわめて難しい、と疫病の流行のように言われているこの時代に、Beatsだけはマーケティングに何度も何度も成功している。

Appleが1999年に、MP3プレーヤーでメディアシンクシステムでもあるSoundJam MPを買収したときもやはり、それに重要な意味があるとは思われなかった。同社はデスクトップ用の簡単な音楽プレーヤーを作っていて、市場ではほとんど無名だった。というか1999年には、MP3自体も、あやふやな存在だった。Napsterが1999年6月にローンチしたが、すぐに死んだ。そんなとき、Appleが、そんな二流のMP3プレーヤーアプリケーションを欲しがるとは、誰も思わなかった。

2001年1月1日に、SoundJam MPはiTunes 1.0に変身した。

2013年にBeatsは、高価格のヘッドフォンの市場の64%を専有していた。どんな経営者でも陶酔するようなマーケットシェアだ。昨年の時価総額が10億ドルだったから、30億ドルの買値でも安い。

でもなぜ、AppleはBeatsが必要なのか? 若い音楽ファンをAppleの重要な顧客層の一部にしたいのかもしれない。安定的に売れる製品が、もっとほしいのかもしれない。Lobotの強化バージョンのような、低音が重厚に響くヘッドフォンを、連中は好きなのかもしれない。Dreに会いたいのかもしれない。

でも唯一確実なのは、この買収には明確なねらいがある、ということだ。われわれがまだ、それを知らないだけである。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))