なぜVCは更年期障害に取り組むスタートアップにもっと投資しないのか?

近年「フェムテック」への注目度が高まり、デジタルヘルスアプリから、より新しいところでは再生医療企業まで、何十ものスタートアップが誕生し、ベンチャー資金を集めている。

そうした資金調達の多くが不妊症に関連するもので、その理由は容易に理解できる。米疾病予防管理センターによると、出産経験のない15〜49歳の米国女性のうち、26%が妊娠または満期出産までの妊娠の継続で困難を抱えている。

しかし、創業者や投資家は人口の半分が影響を受ける更年期障害というさらに大きなチャンスに徐々に気づきつつある。1960年代後半に始まった核家族への移行や平均寿命の伸びなどにより世界の人口動態が高齢化する中で、更年期障害は注目されつつある(1980年から2016年にかけて、出生時の平均寿命は73.7歳から78.6歳に伸びた)。

数字が示唆するのは、チャンスだ。実際、最近の国連のデータによると、総人口における高齢者の数は急速に増加している。65歳以上は2020年に世界で7億2700万人だったが、2050年にはその数は15億人に倍増すると予想されている。リバースモーゲージ型の融資会社や高齢者向け在宅介護サービスのスタートアップなど、高齢者層に対応した企業が増え始めているのはそのためだ。

しかし、更年期障害は明らかに巨大な市場であるにもかかわらず、依然として少額の投資しか集めていないのが現状だ。Crunchbaseのデータによると、過去12カ月間で資金を獲得した更年期障害に対応するスタートアップはわずか12社だった。

そうした資金調達の最新例がVira Healthだ。同社は更年期を迎える女性にパーソナライズされたデジタルセラピューティクス(デジタル治療)を提供しており、今週第2ラウンドの資金調達(約14億円)を発表したばかりだ。この取引は、女性の性の健康と更年期に焦点を当てたオフラインセンターの開設を目指している(現在2カ所を運営している)企業、HerMDが先月発表した1000万ドル(約12億円)のラウンドに続くものだ。一方、再生医療によって更年期障害を遅らせ、根絶することを目指すGametoは1月に2000万ドル(約24億円)の調達を発表した。

他の企業、それも似たり寄ったりの企業に投資されている金額と比べれば端金だ。閉経前から閉経後にかけての女性は往々にして消費力の絶頂期にあることを考えると、なおさら衝撃的だ。

投資家が躊躇する理由は、投資家の多くが男性であり、自身は更年期を経験しないなど、たくさんある。実際、これまで資金を調達した企業のほとんどは、女性VCから小切手を受け取っている。

更年期を経験する女性向けの消費者ブランドで「ブレイク」したものはない。

最もコストのかかる投資であるホルモン補充療法の開発は、製薬会社にとって大きな利益をもたらすことが証明されているが、安全性の問題にも悩まされており、新薬の展開には失敗がつきものだ(日本の多国籍製薬会社であるアステラス製薬は、アジアでの第3相試験で失敗した最新の例だろう)。

それでも、利益を求める投資家は、市場としての更年期障害に厳しい目を向けるかもしれない。近年の生物学、コンピューティング、自動化、人工知能の進歩により、さまざまな関係者が更年期障害への関心を高めており、再生医療(失われた組織や臓器の機能を修復・代替するために生きた機能組織を作り出すプロセス)に注目している関係者もそこには含まれている。

例えば、Future Venturesが出資しているGametoは、細胞療法を用いて卵巣が臓器として機能しなくなるまでの期間を延ばし、高血圧、心臓病、骨粗鬆症など更年期に関連する一部の症状を遅らせようとしている(同社のCEOは、女性は長生きしているのだから、より質の高い生活を長く送る権利があると信じている)。

治療法の可能性を示唆する証拠も増えてきている。例えば、更年期障害が女性の脳に与える影響について、研究者は今ようやく気づき始めたところだ。

「ほてり、寝汗、不安、うつ、不眠、物忘れなど、更年期障害の症状の多くは卵巣が直接作り出すものではありません」と、ワイルコーネル医学部の神経学准教授で女性の脳イニシアチブ責任者のLisa Mosconi(リサ・モスコニ)氏は7月にニューヨークタイムズ紙に語っている。「これらは脳の症状であり、脳は少なくとも卵巣と同じくらい更年期障害の影響を受けるものと見るべきでしょう 」。

兆候や症状を和らげ、慢性的な症状の管理を助けるなど更年期を経験する女性向けのブレイクしている消費者ブランドはないが、それらは間近に迫っているかもしれない。

1つだけ確かなことがある。更年期障害分野は急成長している、ターゲットが豊富な未開拓市場、ということだ。さらに、カテゴリーを代表するブランドの後ろ盾となるチャンスもあり、なぜVC、そして創業者は、更年期障害にもっと目を向けないのだろうかと不思議に思うのは当然だ。

画像クレジット:Ja_inter / Getty Images

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(文:Connie Loizos、翻訳:Nariko Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

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