より安価で優れた太陽電池パネルを開発するRegher Solar、激増する宇宙産業からの需要に応えられるか?

質問自体には簡単に答えられる。今後10年間で打ち上げられる人工衛星は何機か?人工衛星に必要な太陽電池パネルの枚数は?現状人工衛星に使える太陽電池パネルは何枚あるのか?その答えは「たくさん」「ものすごくたくさん」「まったく足りない」である。Regher Solar(レガーソーラー)は、製造コストを90%削減しつつ、桁違いに多くの人工衛星用太陽電池パネルを製造して名を成そうとしている。

「控えめな目標」とはいえないが、幸い同社は科学的にも市場的にも有利な状況にあり、追い風に乗っている。問題は、コストと性能のバランスを取りながら、なるべく簡単にこれを実現することである。もちろん、簡単に答えが出る問題であれば、すでに誰かがそれをやっているはずだ。

宇宙で使用される太陽電池と地上の太陽電池は大きく異なる。地上では大きさや質量の制約があまりないので、より大きく、より重く、そして安価な太陽電池を作ることができる。効率が悪くても問題はない。一方、宇宙で使用する太陽電池は、効率が良く、非常に軽く、放射線や温度変化などのさまざまな危険に耐えるものでなければならない。小さな規模で高価な材料を使用して製造するトップクラスの製品で、地上用の太陽電池と比較して5~10倍のコストがかかる。

Regher Solarが開発した太陽電池パネルは、宇宙用としての最高品質ではないものの「まあまあ良い」レベルは満たしている。しかも、コストは(高品質の製品の)数分の一で、一般的なプロセスで大規模に製造することができる。20億円の静止衛星に最高品質の太陽電池パネルを利用できるのは、全体のコスト(200億円)に占める太陽電池のコストの割合が少ないからである。しかし、寿命の短い小型衛星を1万機展開する場合はどうだろうか。総コストに占める太陽電池パネルのコストの割合を抑えるためなら、性能が20%低下しても許容できるはずだ。

Regher Solarの共同設立者かつCEOのStanislau Herasimenka(スタニスラウ・ヘラシメンカ)氏は、同社の製品は簡単に開発できたものではなく、新しい宇宙経済にとって何が重要かを理解し、繰り返し改良を重ねてきたものだと説明する。

「(宇宙用太陽電池パネルの)技術は、小規模かつ高コストを前提に進化してきました」「宇宙用のパネルは、ゲルマニウムやガリウムヒ素などの非常に高価な基板上で、高額な加工が数多く行われます。そして宇宙での使用に耐える接合、高価なガラスや炭素繊維、アルミニウムの基盤、手作業による組み立て……最高の性能と低劣化性は実現されますが、まったく拡張性がありません。10倍の量を生産したいと思っても不可能なのです」。

それでも、今後打ち上げられる衛星の数は確実に2倍、3倍、そして10倍になるだろう。地上用のパネルをそのまま宇宙に持って行くわけにはいかないし(すぐに壊れる)、ガリウムヒ素などの化合物でセル(太陽電池の素子)を製造しているメーカーの在庫ではまったく足りない。そこでRegher Solarが開発したのが、宇宙用、地上用の両方の長所を取り入れた、宇宙用でありながら安価で簡単に製造できるセルである。

20ミクロンのシリコン基板を使用し、柔軟性のあるRegher Solarのシリコン太陽電池パネル(画像クレジット:Regher Solar)

ヘラシメンカ氏は次のように話す。「現在、私たちは研究開発用のパイロットラインを運用して、少量のパネルを製造しています。50kW、つまり宇宙用太陽電池パネルの約5%のサイズです」「私たちはシリコン基板で自動生産可能な製品を設計しました。1年後にはパイロットラインを離れ、現在のパネルの10倍に相当する10メガワットまで規模を拡大できるはずです」。

新しい製品とはいえ、特別な技術や新開発の技術を使用しているわけではないので、ヘラシメンカ氏がいうような増産も可能かもしれない。同氏は、宇宙用レベルの性能を地上用並みの価格で実現するために行った改良をいくつか紹介してくれた。

まず、シリコン基板の厚さを大幅に薄くしたことで、逆説的に放射線の吸収が少なくなり、耐放射線性が向上した。また、添加する不純物を変え、低温で硬化するようにして、ダメージを受けても80℃に加熱するだけで修復できるようにした。コーティング、接合、ボンディングを空間的に安定させた。ベゼルを細くして、太陽光に反応するセルが占める面積を増やした。さらに同社は、(この画像のように)パネルに柔軟性を持たせることで、一般的ではない形状にも対応可能で、物理的な耐久性が向上した製品も計画している。

Regher Solarの「solar blanket(太陽の毛布の意味)」の柔らかさを示す研究室の技術者(画像クレジット:Regher Solar)

どこまで開発を進めるべきかは、衛星コンステレーション(衛星を複数機協調させることで機能するシステム)に属する衛星のコストと計画寿命という動く目標に依存する。意外かもしれないが、Starlink(スターリンク)のようなコンステレーション企業にとっては、衛星の性能が良すぎるのは有害である。何千機もの衛星で構成される衛星コンステレーションでは経済性が問われる。打ち上げから5年後に交換する予定であれば、必要以上に性能を上げたり、コストをかけたりするべきではない。もし、5年後にまだ100%の性能を有しているのであれば、どこかでかなりの費用を節約することができたはずだ。

「コンステレーションの設計者は、指定された軌道で一定期間衛星が機能することを想定して設計しています」とヘラシメンカ氏。「衛星の寿命は2週間でも15年でも不適切です。ほとんどの衛星は徐々に軌道を下げて地球に近づき、5~7年で寿命を終えます。だから、私たちはこの条件を満たすようにパネルを設計したのです。5~7年以上経ってパネルが劣化するとしても、クライアントにとって問題ではありません。つまり、私たちも気にかける必要はないのです」。

Regher Solarはこの新しい市場に挑戦し、2019年にTechstars(テックスターズ)のプログラムに参加。その後、メーカーとの対話を開始し、取引の計画を立てた。さらに、米国国家航空宇宙局(NASA)の中小企業技術革新制度(SBIR)フェーズIと米国国立科学財団(NSF)のSBIRフェーズIIで、総額110万ドル(約1億3000万円)を獲得している。ヘラシメンカ氏によれば、プロトタイプと検証資金を獲得したRegher Solarは、夏の間に3300万ドル(約38億円)分の基本合意書を取り交わし、さらに5000万ドル(約58億円)分の合意に向けて調整中だという。

有望な市場が故に、迅速に行動しないと他の企業が参入してパイを奪われてしまうかもしれない。「たった数年ですべてが変わってしまい、業界がそれに気づいたときには市場のチャンスはなくなっていることすらあるのです」とヘラシメンカ氏はいう。Regher Solarがこの機会を逃したくないのは当然のことだが、彼らは現在、まずは試験的な製造ラインを立ち上げ、次にフルスケールの製造ラインを立ち上げるために多額の投資を必要としている。具体的な内容はまだ明かされていないが、ヘラシメンカ氏によると、機関投資家による500万ドル(約5億8000万円)のシードラウンドが年内に完了する予定で、個人投資家からも90万ドル(約1億円)の投資を受けるという。

既存の航空宇宙企業が関心を示し、NASAやNSFにも(SBIRで)認められたRegher Solarの活躍の場は広がりそうだ。しかし、難しいのは新しいパネルの設計なのか?それとも実際に製造することなのか?それは今後明らかになるだろう。

画像クレジット:Regher Solar

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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