わてらも投資やりまっせ―、関西の朝日放送が12億円のファンドを設立

abcdreamANN系列で関西有力放送局の朝日放送(ABC)が100%子会社となる「ABCドリームベンチャーズ」を7月10日に設立し、総額12億円のファンドの運用を開始する。大阪では先日、大阪市や阪急電鉄、みずほ銀行などが出資する48億円規模のファンドとして「ハックベンチャーズ」が立ち上がったばかりだが、地方有力企業によるCVCはまだ珍しい。同業としては、すでにフジテレビが2013年3月に15億円規模でFUJI STARTUP VENTURESを、TBSが2013年9月に18億円規模でCVCを開始させている。日本テレビもCVCこそ立ち上げていないものの、スタートアップコミュニティ運営のcrewwなどのスタートアップへ出資をしている。

CVC設立に動いたのは、もともと「探偵ナイトスクープ」や「新婚さんいらっしゃい」といったヒット番組を手がけ、現場で番組作りをやってきたプロデューサーの栗田正和氏(朝日放送株式会社ビジネス戦略局ビジネス戦略部長)らで、すでに昨年6月には新規事業創出を目的に、ビジネス戦略部を社内で立ち上げていた。投資領域は放送やコンテンツといったメディア事業でシナジーのあるスタートアップを第一に考えているという。

「朝日放送は全国にコンテンツを配信しているとはいえ、関西ベース。地元での信頼はあります。地元で視聴者とともに育ててもらってきた。だから関西に対して貢献ができればいいなと考えています。企業も頭脳も東京に流出するという流れがあるなかで、関西の中でもエコシステムができないかなと。そういう旗振り役になれないか、という気持ちもあります」(栗田氏)

開局64年、関西ローカルで2190万人、970万世帯にリーチする朝日放送は、番組自社制作比率が34%と、5大在京キー局をのぞくと比較的高く、コンテンツ制作能力が高い。財務面でも近年増収増益を続けていて2013年の連結売上高は814億円、経常利益が60億円と優良企業だ。ただ、モデルハウスやショールームといった一部の住宅関連事業をのぞくと売上のほとんどがCM収入で、若者のテレビ離れや広告出稿先としてテレビの地盤沈下(といっても直近5年は微増)に危機感を持っていることも背景にあるという。

「スマホやタブレット普及で視聴形態が変わってきています。動画配信や見逃し視聴と、定時放送だけに頼れなくなってきています。ファンドを通じて革新的な新規事業を生み出したい。シナジー分野であるメディアやコンテンツ、エンタメなどだけでなく、関西で強い、医療や教育、IoT、ロボティクスなどでも出資を考えています」

6月17日にフジテレビが初めて自社制作コンテンツの最初の出し先をNetflixとすると発表して関係者を驚かせた。これまでテレビ番組はキー局や、朝日放送のような準キー局がコンテンツを作って地方局に配信してきた。地方局は番組を買い、地元でCMスポンサーを募る営業をすることで成り立っていた。そうした日本の放送ネットワークの秩序が外圧で変わったことを示す象徴的な発表だったからだ。財力もコンテンツ制作力もある関西の準キー局がCVCを設立するというのは、こうした環境変化を捉えての面もある。

せやけど投資やれる人なんて、いますのん?

ところで、CVCや大学発ベンチャーなどでつきまとうのは目利き力や経営での支援能力が投資する側にあるのかという疑問だ。可能性を見つけ出し、ハンズオンでスタートアップ企業をエグジットさせるだけの腕が一般の事業会社の社員にあるのだろうか? 外部から経験のある人材を引っ張ってくるのかという問いに栗田氏はノーと答えた。

「いえ、最初は自分たちでやっていきます。先日ハッカソンをやりましたが、ピッチやイベントを通じて人脈ネットワークを広げつつ、目利き力を上げていきたいと考えています。いずれは専門知識をもったコンサルタントやVCとも協力していきます」

当面はABCドリームベンチャーズがリードインベスターとなるようなことは難しく、ほかのVCと協力していく考えという。今日が外部への初めての発表日で、現時点で投資検討の俎上(そじょう)に載っているスタートアップ企業などもないという。

「CVCなので事業シナジー最優先。その先に金銭的リターンを考えていきます。それは後から付いてくるものと考えています」

栗田氏は探偵ナイトスクープのプロデューサーを5年ほど務めた経験があり、テレビ局には企画力、構成力、人間を見る力があると話す。関西ローカル局制作で人気の番組は、視聴者参加型のモノが多く、これはネットのUGC型コンテンツとも似た面があるし、その制作プロセスは、起業家の人間性を見るのと似た面があるという。

「投資先を探すのは視聴者参加番組の制作と似てる面があるなと思っています。ナイトスクープだと、調査の依頼者を応募者から選ぶわけですが、「それホンマに調査できるんか?」とか、実現可能なのかとか、まずそういう目でみます。ひとりよがりだとアカンのですね。それからテレビなので、最終的にむっちゃええ顔して泣いてくれるかとか、泣きながら頑張ってくれそうかとか、そういうのも見るんです。アタック25なんかでも、そうです。ただ単にクイズが得意かどうかだけじゃなくて、どういう表情をするのかを見ています。関西の放送局なので、おもろい素人を見つけて出すというのがアイデンティティとして流れてるんですね。すごく人を見てるんです。起業家を見る時も、実現可能性や市場性、人的魅力といいますが、根っこは一緒かなと思うんです。邪道やとは思うんですけど、せっかく放送局がやるんやから、そういうことをやっていきたいです」

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TechCrunch Japan

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