アクセシビリティにおける次世代のブレイクスルーは文字通り「あなたの頭の中」にある

視覚障がい者にとってのテクノロジーの未来を予想することは、おそらくあなたが考えるよりも簡単だ。2003年に私はAmerican Foundation for the Blindが出している「Journal of Visual Impairment & Blindness」に「あなたの手の中で」というタイトルの記事を書いた。iPhoneが登場する4年前だが、支援技術の中心はデスクトップPCからスマートフォンへ移行すると私は自信をもって予想することができた。

私は「100ドル(約1万600円)を切った携帯電話は、見えない人のために見て、読めない人のために読み、話せない人のために話し、覚えられない人のために覚え、迷ってしまった人を案内することができるようになるだろう」と書いた。ありそうもないようにも思えたかもしれないが、その当時の技術のトレンドを見ると、そうした移行は必然だった。

私たちは今、同じような時期にいる。だから12月2〜3日にバーチャルで開催されるイベントのSight Tech Globalに参加できることをたいへん楽しみにしている。このイベントにはトップクラスの技術者が集い、AIや関連テクノロジーが、視覚障がい者のためのアクセシビリティと支援技術がめざましく進化する新しい時代をどう先導するかが議論される。

未来を目指すために過去を振り返ってみよう。1990年代に、私は支援技術起業家のパイオニアで視覚に障がいのあるJoachim Frank(ヨアヒム・フランク)氏と一緒にドイツの都市、シュパイヤーを歩いていた。ヨアヒム氏は私に、その時点で支援技術にできることと対比して本当はどうして欲しいか、空想を語ってくれた。彼は街を歩きながら、技術が進化したら自分にとってはこんなふうに役に立つという印象に残るストーリーを3つ話した。

  • 街やスーパーマーケットを歩くときに、看板をすべて読み上げて欲しいわけではない。でも、カスラーキプヒェン(好物の燻製ポークチョップ)を売っているという看板があってそれがお得な値段だったら、私の耳元でささやいて欲しい。
  • 向こうから若い女性が歩いてきたら、その人が結婚指輪をつけているかどうかを知りたい。
  • 誰かが私の後を2ブロック付けてきていて、その男が強盗だとわかっているなら、そのことを知りたい。そして歩く速度を上げ、50メートル前進し、右へ曲がり、さらに70メートル進めば警察に着くと教えて欲しい!

ヨアヒム氏の話に私は圧倒された。彼は短い散歩の間に、テクノロジーは自分のために何ができるかについての大胆なビジョンを細かいところに捕らわれず簡潔に語った。お金を節約し、新しい友人に出会い、自身の安全を守って欲しいと彼は望んでいた。視覚に障がいがない人と同等の能力に止まらず、さらにそれを上回りたいと望んでいた。そして特に「彼について」、そして「彼の」希望やニーズを理解するツールを望んでいた。

私たちは、ヨアヒム氏の夢を現実にできる時期に近づいている。アシスタントが耳元でささやくのか、ダイレクト神経インプラントを使って通信するのかは問題ではない。おそらく今後、 両方とも出てくる。しかしテクノロジーの細胞間結合のネクサスは頭の中で動き、アクセスの平等を実現するためのパワフルな道具になるだろう。サービスとしての知覚を持つ新しいテクノロジースタック。アルゴリズムによる識別を上回る対応策。テクノロジーのパーソナライズ。手頃な価格。

そうしたエクスペリエンスは、クラウドの豊富なアプリケーションとたやすく利用できるテクノロジースタックの上に構築されるだろう。テクノロジーにアクセスするコストが安くなればなるほど、プロダクトデザイナーはすばやく作り、実験することができる。最初のうちは高価でも、おそらくは障がい者以外の人々にも採用されるようになれば、それほど時間はかからずに価格は下がる。視覚障がい者向け技術に関する私のキャリアは、読み取り技術の価格を半額の5000ドル(約52万8000円)に引き下げたことで大きな話題となった読み取り機の開発から始まった。今ではそれより性能の良いOCRをスマートフォンの無料アプリで利用できる。

我々がどのようにしてヨアヒム氏の夢を現実にし、多くの視覚障がい者のニーズを満たすかを、12月2〜3日のSight Tech Globalで詳しく掘り下げる。そしてこのイベントでは、テクノロジーのツールであなたの想像をどのように実現できるかを世界有数のエキスパートとともに探る。これはたいへん興味深い。

登録は無料で、誰でも参加できる。

日本語版注:本稿を執筆したJim Fruchterman(ジム・フルヒターマン)氏は、社会貢献活動を支援する技術開発者の非営利団体、Tech MattersおよびBenetechの創業者だ。

カテゴリー:イベント情報
タグ:アクセシビリティSight Tech Global

画像クレジット:RyanJLane / Getty Images

原文へ

(翻訳:Kaori Koyama)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。