アバター×ゲーム実況で世界へ挑むミラティブが35億円を調達

ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏

「アバターとゲーム実況の融合に強い手応えを感じている。今回の資金調達は国内において圧倒的なポジションを確立するとともに、グローバル展開に向けた礎を作っていくためのものだ」

スマホ画面共有型のライブ配信プラットフォーム「Mirrativ(ミラティブ)」を手がけるミラティブの取材は、代表取締役の赤川隼一氏のそんな力強い言葉でスタートした。

同社は2月13日、JAFCO、グローバル・ブレイン、YJキャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ANRIを引受先とする第三者割当増資により31億円を調達したことを明らかにしている(2月12日契約完了時点の金額であり、当ラウンドでのクローズ予定調達金額は35億円)。

Mirrativはもともと赤川氏が前職のディー・エヌ・エー(DeNA)に在籍していた2015年8月に、同社の新規事業としてスタートしたサービスだ。2018年2月に実質的にはMBOに近い形で新たに会社を設立し、事業を承継。同年4月にはグロービス・キャピタル・パートナーズや複数のベンチャーキャピタル、個人投資家から10億円以上の資金調達を実施した旨を明かしていた。

当時は個人投資家の名前は公開されていなかったが、佐藤裕介氏や古川健介氏、中川綾太郎氏らから出資を受けているという。

ミラティブでは今回調達した資金を用いてマーケティングの強化や「エモモ」を中心としたアバターに関する機能の研究開発、新規事業の推進、グローバル展開などに取り組む計画。2月15日からは初となるテレビCMも実施する。

ビジネスモデルを証明するための1年

赤川氏いわく、ミラティブにとって前回の資金調達からの約1年間は「ビジネスモデルを検証するための1年」だった。

「前回調達時点でユーザーが増えるモデルになっているのはある程度見えていた。一方でゲーム実況は本当にマネタイズできるのか、ビジネスとして成立しうるのか、そんなダウトが色々あったのも事実だ。1年を通して内部的な要因と外部的な要因の両方からクリアになってきた」(赤川氏)

外部的な要因としては、中国のゲーム実況サービス「Huya(虎牙)」が2018年5月にニューヨーク証券取引所に上場。ライブストリーミングの先進国とも言える中国でもゲーム実況領域だけが伸び続けているなど、市場が明確に存在することを実感できたという。

ミラティブ内部の変化としてはMirrativとエモモが順調に伸びた。スマホの画面を共有することで手軽にゲーム実況ができるMirrativにおいて、KPIとして重視している配信者の数が100万人を突破。全体のユーザーが増えてもなお配信者の比率は20%以上を保っている。

2017年9月にiOS端末からの配信に対応したことで配信者数が一気に拡大。2018年の秋からはプロモーションにも力を入れることで継続的に配信者の数を増やしてきた。

そしてMirrativユーザーをよりエンパワーするためのアイテムとして“上手くハマった”のが8月にリリースしたアバター機能のエモモだ。スマホ1台だけでVTuberのように配信・ゲーム実況ができる同機能を活用し、すでに数十万人がアバターを身につけてライブ配信を実施済みだという。

現在存在するVTuberの数は約7000人(ユーザーローカルでは12月にVTuberが6000人を突破したという調査データを公開している)ほどと言われていることも考慮すると、単純な比較はできないながらエモモの数字はかなりのインパクトがあると言えそうだ。

赤川氏としては、特に「結果的にエモモとMirrativが自然な形で融合したこと」に大きな手応えを得たという。

「もともと顔出し文化がなかったMirrativにアバター文化が上手く乗っかり、自分でもびっくりするぐらいに何の反発もなくユーザーに受け入れられた。昨年3Dアバターアプリの『ZEPETO』が流行った動きなどを見ていても、バーチャル化やアバターの流れがきている。ミラティブとしてはこの流れを汲み取りながら“いかに爆発させるのか”、2019年はさらに仕掛けていきたい」(赤川氏)

このアバターを活用した事業に加えて、秋にはついにライブ配信者が収益化できる仕組みとしてギフト機能も公開している。

「これまでのミラティブは、配信者がお金を稼ぐ仕組みはないのにただ面白いからという理由でコミュニティが盛り上がって、日本で1番スマホゲームの配信者が集まる場所になった。そこにモチベーションをアドオンする収益化の仕組みが加わったのが去年の11月。かつてYoutubeではアドセンスの仕組みが入ったことで『動画でマネタイズして、食べていけるぞ』となり、ヒカキンなどの個性的なYoutuberが続々と出てきた。今のミラティブはまさにそんなフェーズだ。収益化以降の成長カーブが加速していることにも手応えを感じている」(赤川氏)

アバターの世界観をさらに拡張し、国内外でさらなる成長へ

ミラティブの経営陣と投資家陣

今回の資金調達は直近1年の流れをさらに加速させるためのもの。まずは3つの方面に投資をしていくという。

1つ目がミラティブの成長を支える組織体制の強化。つい先日には元Gunosy取締役CFOの伊藤光茂氏が同社にジョインしているが、今後も経験豊富なメンバーの参画が決まっているようだ。同社では現在22人の人員体制を2019年中には100人規模まで拡張させていく予定だという。

2つ目の投資ポイントは冒頭でも触れたCMだ。「1番の競合は中国勢だと思っている。昨年TikTokが一気に拡大した例もあるので、まずは国内マーケットで圧倒的に突き抜けるところまで行きたい」(赤川氏)という。

そして3つ目はグローバル展開だ。これについては「本気でグローバル展開をやるなら今回の調達額でも足りない」というのが赤川氏の見解で、今のフェーズでは色々な国で今後展開することを見越した土壌作りを始める。最初の足がかりとしてはすでにMirrativが存在し、若い年代のネットリテラシーも高い韓国での展開を計画しているという。

合わせて土台となるプロダクトについても継続的に新たなアップデートを加えていく予定。そのひとつとして、現在はまだ開発段階であるが以前から話にあった「ボイスチェンジャー」機能にも着手済みだ。

僕も開発中のものを少しだけ見せてもらったのだけど、スマホから見た目だけでなく声までも気軽に変えられるのは、思った以上にインパクトがあった。目の前にいる赤川氏が実演してくれた様子は少しシュールだったけど、画面越しの配信だけを見ていると声が変わるだけで相手の印象も全く違うものになる。

「ミラティブとしてやりたいのは、人類の可能性を解放すること。たとえば才能がある人が容姿の問題で活躍できないような状況があるのであれば、アバターやボイスチェンジャーを通じてその人の可能性を解放したい。まだニッチではあるが、アバターだけの現段階でもすでに数十万人が配信をしている。そこにボイスチェンジャーが加わればより障壁が下がり『スマホ上での人格の仮想化』も加速すると考えている。この領域は偶然にも日本から出てきたものであり、グローバルで勝てるチャンスも十分あるので今後さらに力を入れていきたい」(赤川氏)

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TechCrunch Japan

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