アマゾンとパナソニックが注目するバッテリーリサイクルスタートアップRedwood Materials

Tesla(テスラ)の共同創業者で元CTOのJB Straubel(JBストラウベル)氏は、謙虚で先駆的なエンジニアとして語られることが多い。ある意味会社の最も重要な技術に対して15年間裏方として目立たぬ苦労を重ねて来た人物だ。 テスラのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏に対する誇大宣伝とメディアの注目が高まるにつれて、その性格が対照的に語られることが多くなったものの、それだけでは真実の一部が語られているに過ぎない。

ストラウベル氏は、自己宣伝を行ったり進捗を誇ったりしがちなタイプの人物ではない。彼の個人的なTwitterアカウントも、彼のスタートアップであるRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルス)の専用アカウントも、これまでにツイートを行ったことがない。そして彼は、込み入った問題対して苦労を重ねることを、こよなく愛する人物なのだ。

しかし、彼の控えめな表現は、2017年に共同創業したリサイクルスタートアップのRedwood Materialsに対する、彼の野心と計画を分かりにくいものにしている。Straubelは、Redwoodを世界の主要なバッテリーリサイクル企業の1つにすることを構想し、積極的に取り組んでいるが、今では多数の施設が戦略的に世界中に配置されている。

ストラウベル氏は米国時間10月7日に開催された、TechCrunchのTC Sessions:Mobilityの仮想ステージ上で「これは主要な業界であり、大きな課題です。それこそが私にとって時間を費やしたい理由の大きな部分なのです」と語った。「私は、世界の持続可能性に、実際に重大な影響を与えることができる、何かをしたいと思っています。それを行うには規模が必要です。なので私はこの会社を成長させ続けて、世界最大とは言わないまでも、主要なバッテリーリサイクル会社の1つにすることに熱心に取り組んでいます。そして最終的には、世界の大手電池材料会社の1つになります」。

ストラウベル氏が経営する、ネバダ州カーソンシティを拠点とする同社は、循環型サプライチェーンの構築を目指している。同社はB2B戦略を採用しており、バッテリーセルの製造工程からのスクラップだけでなく、携帯電話のバッテリー、ノートブックコンピューター、電動工具、モバイルバッテリ、スクーター、電動自転車などの消費者向け製品からもリサイクルを行っている。Redwoodは、家電会社やパナソニックなどのバッテリーセルメーカーから、スクラップを回収している。次に、これらの廃棄物を処理し、通常は鉱山から採掘されるようなコバルト、ニッケル、リチウムなどの材料を抽出して、パナソニックやその他の顧客に供給する。Redwood Materialsには多くの顧客がいるが、協力が公表されているのはパナソニックとAmazon(アマゾン)だけだ。

現在のRedwood MaterialsはB2B企業だが、そのビジネスモデルはいつか進化する可能性がある。関心が非常に高まっているため、ストラウベル氏は現在、より消費者向けのビジネスにも拡大すべきかどうかを検討している最中だ。これまではRedwood自身が、消費者が直接古いスマートフォンやその他の家電製品を持ち込むことができる、収集サイトを提供することは決してなかった。しかし、地方自治体や、電気自動車(EV)のバッテリーを含む電子機器をリサイクルするオプションを探している消費者からの問い合わせの数を見て、ストラウベル氏は少なくともその可能性を検討するようになっている。

わかっていることは、ストラウベル氏が、多くの施設(おそらく数十カ所)を各地域に設置し、顧客数が十分に大きい場合には、工場と同じ場所に設置することも考慮しているということだ。同社は、これらの施設が将来どこに設置されるかについては明らかにしていない。

同社はカーソンシティに、2カ所のリサイクルおよび処理施設を持っている。そして、世界最大のバッテリーリサイクル企業の1つだと呼ぶことは難しいものの、Redwoodはすでに「ギガワット規模」で運営されている。

「私たちはとても急速に成長し、生産能力を増強することができました。それはリチウムイオン生産の規模をほぼ数年遅れで追っていくことになると思っています」と彼はいう。

ストラウベル氏の言葉を理解するために、パナソニックがネバダ州スパークでテスラと一緒に運営しているギガファクトリーについて考えてみよう。現在この工場には、年間35GWh(ギガワット時)のリチウムイオン電池セルを生産する能力がある。もしストラウベル氏が狙っている規模に達した場合には、Redwoodはパナソニックにその生産能力に見合う十分な材料を供給することになるだろう。その目標を達成することで、パナソニックのサプライチェーンは、採掘される鉱物からRedwoodによってリサイクルされる鉱物へと根本的に変化を遂げることになる。これらのリサイクルされる材料は、パナソニックの製造スクラップやその他の家電製品から供給される。

北米パナソニックエナジーのバッテリー技術担当副社長であるCelina Mikolajczak(セリーナ・ミコライチャック)氏は、同社にとってリサイクル供給を無視することは愚かな行為だと語った。

ミコライチャック氏は、TC Sessions: Mobilityでのストラウベル氏との共同インタビューの中で「私たちはすでに、これらの金属を大地から掘り出し、セルに入れ、もうそこにあるのです」と語った。「もちろん、セルの取り扱いは少々難しいものです。セルは通常の金属鉱石とは多少異なる方法で処理されますが、同時に、必要な金属の濃度は通常の金属鉱石よりもはるかに高いものになっています。ですから、リサイクルを積極的に追求することは理にかなっています。なぜならリサイクル対象のものがたくさんあるからです、世界中にすでにたくさんのバッテリーがあります」。

バッテリーの再利用

今日、スマートフォンやその他の家電製品に使用されているリチウムイオン電池の大部分はリサイクルされておらず、その代わりに所有者のガラクタ入れの中で忘れられるか、廃棄物処理の流れに乗って最終的に埋め立てられている。電気自動車は、言うならば、はるかに長い賞味期限を持っている。だが、最終的には、電気自動車に使用されるバッテリーは、自動車メーカーだけでなく、廃棄物に取り組むコミュニティにとっても課題となるだろう。

ストラウベル氏は、Redwoodが電気自動車のバッテリーの、寿命末期のソリューションの一部になることを望んでいる。

「再利用問題と、これらのバッテリーをどのように復活させるかはとても興味深いものです。そしてバッテリーをそのまま2番目のアプリケーションへと組み込む方法については、さまざまなアイデアが提案されています」とストラウベル氏は語ったが、Redwood自身は再利用そのものには直接は取り組んでいないと述べた。「これらのデバイスを一定期間再利用することで、より多くの期間利用できるなら素晴らしいことですが、それは避けられない運命をただ遅らせているだけです。最終的には、適切な廃棄とリサイクルソリューションが必要になるのです」。

ストラウベル氏は、Redwoodをそのための最終関門にしたいという。

EVのバッテリーをエネルギー貯蔵用に転用することについて、話し合いを持った自動車メーカーはたくさんある。しかし、OEMがそれらのバッテリーを、消費者から回収する手段は不十分なままだ。ストラウベル氏はRedwoodを、電気自動車を製造するすべてのOEMと提携し、業界全体にその材料を提供できるような、独立した企業にしたいと考えている。

Redwoodが、どの自動車メーカーと提携するのか、あるいはすでに提携しているのかについて、公に発表したことはない。とはいえ、EV業界全体を見渡せば、可能性のあるパートナーがいくつか浮かび上がる。たとえば、電気自動車のスタートアップのRivian(リビアン)は、Redwood Materialsと直接連携する計画を発表したことはないが、しかしどちらの会社も、投資家および顧客としてのAmazon(アマゾン)と関係を持っている。RivianのCEOであるRJ Scaringe(RJスカーリンジ)氏とストラウベル氏は、お互いを知っているだけでなく共通のビジョンも共有している。

スカーリンジ氏は、まだ詳細は不明なもののバッテリー再利用計画について語り、またバッテリーの寿命が尽きたときに何が起こるかについても語った。現在Rivianは路上を走る車を供給していないので、それは一見はるか未来の物語のように思える。だがその状況は、同社が電動ピックアップトラックとSUVを消費者市場に投入し、Amazonに電動バンを提供する2021年に変わるだろう。最終的に、RivianはAmazonに10万台の電動バンを配達する契約を結んでいる。

スカーリンジ氏は先月Bloomberg Green Summitで行われたインタビューの中で次のように語っている「JB(ストラウベル氏)がやっていることに、本当にわくわくしています。車両を原料として使うことができるからです。これらの車両から回収したバッテリーを原料にして、別のバッテリーと電気自動車のライフサイクルを開始できるからです」。なおこのインタビューの行われたパネルセッションにはストラウベル氏と、AmazonのGlobal Last Mile Fleet and Productsの責任者であるRoss Rachey(ロス・ラチー)氏も参加していた。「これを本質的にクローズドなエコシステムとして制御できるようになれば、業界全体が電化だけでなく様々な消費手段へと移行する中で、こうしたことに対する条件反射的な行動を学び行うことができるようになります」。

規模について

ストラウベル氏は「Redwood Materialを公開することに興味がない、特に短期的には」と述べた。

ストラウベル氏は、テスラの現状に向けられたコメントの中で「良くも悪くも、私は上場企業であることのよって効率の悪い部分を、最前列で見ていました」と語った。「私は急いでいません。公開企業であることは、なぜか成功の証だと思われていますが、実際にはあまり意味がないのです」。

彼は、その目標はRedwoodが影響を与え、産業規模で意味のあることを行い、見返りを得ること(すなわち利益を生み出すこと)だと語った。

「それはすぐに公開するということではありませんし、投資家にすぐに利益を還元しようとするようなことでもないのです」とストラウベル氏はいう。「私が本当に時間を使いたいことは、影響を生み出すことです。そして、これは数十年に及ぶ可能性のある、非常に長期的な成長ミッションだと思っています」。

労働者がインドのニューデリーで使用済みの携帯電話の山を選別している様子 (画像クレジット:Getty Images / Kuni Takahashi/Bloomberg)

ストラウベル氏は規模に関して大いに語った。それはRedwoodに対する彼のビジョンや米国の消費者のガラクタ入れの中に眠っている電子廃棄物の現状などを含む内容だった。まず語ったのはギガファクトリーの規模に関してである。ここはパナソニックがバッテリーセルを製造するために使用し、テスラがその車両用のバッテリーパックと電気モーターを製造するために使用している工場である。ストラウベル氏がRedwoodの創業を駆り立てられた理由の一部には、この工場の存在がある。

「世界が輸送を電化する中で、非常に多くの異なる材料が必要となっています。そんな中で、工場の上流のサプライチェーンはしばしば過小評価されていると思います」と彼はいう。「ギガファクトリーは氷山に少し似ています。水面下には通常目にすることのない、サプライヤー、鉱山、精製、その他供給する必要のあるさまざまなものが、たくさん連なっているのです」。

ギガファクトリーが成長するにつれて、サプライチェーンの一部がボトルネックになったのだと彼は付け加えた。

「もちろんテスラがここににもっと焦点を合わせているのを知っているでしょう。私も当然そう思っています」とストラウベル氏は語り、ニッケルのような材料の、より広範なサプライチェーンに焦点を合わせる必要性について述べたマスク氏の最近の発言に対して賛意を示した。「それは非常に興味深い分野だと私は考えていますが、あまり注目されていません。そして材料ライフサイクルの一部を構成する最終処理とリサイクル処理は非常に大切な分野で、バッテリー作成の持続可能性に対して大きな影響を持つことができると考えています」。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:Amazon、パナソニック、Redwood Materials

画像クレジット:Redwood Materials

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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