アマゾンの最新型配達ドローンはヘリと飛行機のハイブリッド式

本日(現地時間6月6日)、ラスベガスで開かれている第1回re:Marsカンファレンスにて、アマゾンが最新の完全電動式配達ドローンを初めて披露した。ドローンと聞いて思い浮かべる形とは、ずいぶん違うと感じられるのではないだろうか。しかしこれは、画期的な六角形のハイブリッドデザインだ。可動部分が非常に少なく、ブレードを保護するシュラウドは、ヘリコプターのように垂直に離陸したあと、飛行機のように飛ぶための翼にもなる。

アマゾンによれば、これらのドローンは、正確な時期はまだわからないものの、数カ月以内に配達を開始するという。

しかし、もっとも重要な点は、このドローンにはセンサーがぎっしり埋め込まれていて、複数のコンピューターモジュールからなるシステムが、さまざまな機械学習モデルを実行してドローンの安全性を保つというところにある。今回の発表では、アマゾンが内部で開発した視覚、温度、超音波センサーについて、そしてそれらを使ってどのようにして自律飛行システムがドローンを着陸地点へ導くかについて、初めて一般に明かされた。開発の最大の焦点は、できる限り安全なドローンを作ることであり、独力で安全を保てる能力を持たせることだった。ネットワークの接続が途絶えた状態で未知の状況に遭遇しても、適切に安全に対処できる。

飛行機モードの姿は、ちょっとTIEファイターに似ている。中心の胴体部分にすべてのセンサーと航行技術が埋め込まれ、ここに荷物も格納される。この新型ドローンの最大航続距離は15マイル(約24キロメートル)、最大積載重量は5ポンド(約2.27キログラム)となっている。

今回の新型モデルのデザインは、初期のものから大きく変化している。私は、今日の発表に先立って前のデザインを見る機会があったのだが、正直言って、もっとそれに近いデザインになるものと想像していた。ひとつ前のバージョンを洗練させた、ほぼソリのような形だ。

アマゾンのひとつ前の世代のドローン。ずいぶん形が違う。

想像を少しばかり上回る要素に加えて、アマゾンが、今回、本当に強調したがっていたのは、このドローンのために独自開発した一連のセンサーと安全機能だ。

この発表の前に、私はアマゾンの「Prime Air」プロジェクト部長Gur Kimchiに会い、ここ数年間のアマゾンの進歩の様子と、この新型ドローンのどこが特別なのかを聞いた。

「私たちの感知と回避の技術により、このドローンの自律的な安全性が実現しました」と彼は話してくれた。「自律的安全性とわざわざ呼ぶのは、機体の外に安全機能を持たせるアプローチと区別するためです。我々の場合、安全機能は機体に搭載されています」

Kimchiはまた、ドローンのソフトウェアとハードウェアのスタックは、実質的にすべてアマゾン内部で開発したことを力説していた。「原材料からハードウェア、ソフトウェア、構成、工場、サプライチェーン、果ては配達に至るまで、この飛行機のテクノロジーをすべて私たちが管理しているのです」と彼は言う。「そしてついに、飛行機自体が自己の管理能力を備え、外の世界に対処する力を持つに至りました。そこがユニークなところです」

(JORDAN STEAD / Amazon)

ひとつ明らかなのは、開発チームができる限りシンプルな操縦翼面を目指したことだ。ドローンには、飛行機の基本的な操縦翼面が4つと、6つのローターがある。それだけだ。やはりアマゾンが内部で開発した、すべてのセンサーのデータを評価するオートパイロットは、6自由度の機構をあやつり機体を目的地に導く。中央に斜めに取り付けられた箱には、このドローンのほとんどの頭脳が収まり、配達する荷物が搭載されるが、回転することはなく、機体に固定されている。

どれくらいの騒音を発するかは不明だ。Kimchiはただ、安全基準以内であり、重要なのはノイズプロファイルだと繰り返すだけだった。彼はそれを、歯医者のドリルとクラシック音楽の違いに例えていた。いずれにせよ、家の庭に近づけばすぐに気付くほどの音は立てるのだろうと思われる。

ドローンの周囲の状況を把握するために、この新型ドローンには数多くのセンサーと複数の機械学習モデルが使われている。それらはすべて独立して機能し、ドローンの飛行エンベロープ(その独特な形状と操縦翼面のおかげで、通常のドローンよりもずっと柔軟性が高い)と環境を常に監視する。これには、周囲の状況を知るための通常のカメラと赤外線カメラの映像も含まれる。機体のすべての側面にはいくつものセンサーが備えられていて、遠くの物体も認識できる。たとえば、接近してくる航空機や、着陸時に近くにある障害物などだ。

このドローンは、多様な機械学習モデルも多数使用している。たとえば周囲の航空機の飛行状況を検知して適切に対処するためのモデルや、着陸ゾーンの中に人がいることを感知したり、そこに引かれた線を確認するモデルなどだ(線の検知は往々にして困難な傾向にあるため、この問題は本当に難しい)。それを解決するために、開発チームは写真測量モデル、分割モデル、そしてニューラルネットワークを使用している。「おそらく私たちは、この分野でもっとも先端的なアルゴリズムを有しています」とKimchiは主張していた。

着陸ゾーンに障害物や人を検知すると、当然、ドローンは配達を中止、または延期する。

「この飛行機の機能でとってもっとも重要なものは、一度もプログラムされたことのない想定外の出来事に遭遇したときに、的確で安全な判断ができることです」とKimchiは言う。

開発チームはまた、VSLAM(視覚的に自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術)で、事前にその地域の情報を受けていなくても、またGPSの情報が一切得られない状況でも、ドローンが現在の周囲の地図を作ることを助けている。

「そうした知覚力とアルゴリズムの多様性の組み合わせが、私たちのシステムに他に類を見ない安全性を与えていると考えています」とKimchi。ドローンが配達先まで飛行し、また倉庫に戻ってくるまでの間、すべてのセンサーとアルゴリズムが常に合意している必要がある。そのうちのひとつでも問題を検知したなら、ドローンはミッションを中止する。「進んでも大丈夫だと、システムのあらゆる部分が合意していなければなりません」とKimchiは話していた。

私たちの会話の中で、Kimchiが再三力説していたのは、アマゾンのアプローチは冗長性を超えているということだった。同じハードウェアのインスタンスをひとつのボードに複数搭載するという冗長性は、航空の世界ではきわめて当たり前のコンセプトだ。Kimchiによれば、互いに完全に独立した多様なセンサーを備えることも、また重要であるとのこと。たとえば、このドローンには迎え角センサーがひとつしか付いていないが、別の方式で同等の値を取得できるものがいくつも搭載されている。

しかし、そのハードウェアが実際にどのようなものかを詳細に公開する気は、まだアマゾンにはないようだ。ただ、Kimchiが私に話してくれたところによれば、使われているオペレーションシステムもCPUアーキテクチャーも、単独ではないという。

それらすべてのセンサー、AIの知性、ドローンの設計そのものが統合されて、全体のユニットが機能する。ところが、物事がうまく運ばなくなることもある。ローターがひとつ停止した程度のことは簡単に対処できる。今ではごく当たり前の機能だ。しかしこのドローンは、2つのローターが停止した場合にも対処できる。通常のドローンと異なり、必要な場合は、飛行機のように滑空できるからだ。着陸地点を探す段になると、AIが働いて、人や物から遠く離れた安全に着陸できる場所を探す。周囲の環境について事前の知識がなくても、そのように行動することになっている。

その着陸地点を特定するために、開発チームでは、実際にAIシステムを使って5万件以上の設定を評価した。コンピューターによる流体力学シミュレーションだけでもAWS(アマゾンウェブサービス)の演算時間にして3000万時間も費やした(画期的な高度に最適化されたドローンの開発に、大規模な自前のクラウドが使えるのは得なことだ)。もちろん、すべてのセンサーについて数え切れないほどのシミュレーションを行い、センサーの位置や感知範囲の可能性を探り(カメラのレンズもいろいろ試し)、最適なソリューションを割り出した。「最適化とは、多様なセンサーの組み合わせと、機体への取り付け方のどれが正しいかを見極めることです」とKimchiは説明した。「そこには常に、冗長性と多様性とがあり、そのどちらにも、物理的な領域(音響対光子)とアルゴリズムの領域とがあります」

また開発チームは、HILシミュレーションを何千回も実行し、あらゆる飛行機能が動作し、シミュレートされた環境をすべてのセンサーが感知しているかを確認した。ここでもKimchiは、それを可能にした秘密の情報を明かしてはくれなかった。

さらに彼らは、当然のことながら、モデルの評価のための現実の飛行テストも行っている。「分析用モデルやコンピューター内のモデルも、細部に至るまで大変によく出来ていますが、現実世界に適合するよう調整されてはいません。現実世界は、究極のランダムイベント発生装置ですからね」と彼は言う。

このドローンが最初にどこで運用されるかは、まだ明らかにされていない。それも、アマゾンが公表を差し控えている秘密のひとつだ。だが、数カ月以内には発表されるだろう。アマゾンは、少し前からイギリスでのドローン配達を開始している。それは当然の選択だ。しかし、アマゾンがアメリカ以外の国を敢えて選ぶ理由も見あたらない。規制の問題がまだ流動的なアメリカが候補になる可能性は低いとは言え、それまでに解決されることも考えられる。いずれにせよ、一時はブラックフライデー商戦の見世物のようにも思えたこれが、自宅の庭に着陸する日は意外に近いかも知れない。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。