アマゾン傘下のZooxが自動運転車の事故防止のために行ったこと

自律走行車業界を取り巻く話題は通常、ベンチャーキャピタルの出資やIPO(新規株式公開)、企業買収などに集中しがちである。しかし自律走行車産業の将来は、人間のドライバーよりも安全に運転できることを証明し、一般の人々の信頼を得られるかどうかという重大な課題にかかっている。要するに、安全性が肝なのである。

Zoox(ズークス)は米国時間6月22日に発表した安全報告書の中で、同社のカスタム電動自律走行車についての新たな情報を開示し、衝突防止と衝突時の保護を目的とした様々な設計の詳細を説明している。

「AV車を導入する理由は、すべてが安全性のためだと誰もが口をそろえて言いますが、実際には誰も次の項目にたどりついていません。衝突を防いで命を救うため、実際に何をすれば良いのでしょうか」。同社の最高安全イノベーション責任者であり、元国家道路交通安全局の責任者であるMark Rosekind(マーク・ローズカインド)氏はTechCrunchのインタビューの応じ、このように話している。

同氏のよると、最新の報告書がその質問に答えているという。

Zooxは競合他社とは少し違う。同社は自動運転のソフトウェアスタックの開発だけではなく、オンデマンドのライドシェアリングアプリや車両そのものの開発を行い、さらにはロボタクシーフリートの所有、管理や運営までをも計画しているのである。

12月、Zooxは同社が一から製作した自律走行可能な電動ロボタクシーを公表した。センサーを搭載したキューブ型の車体にハンドルやサンルーフはなく、4人を乗せて時速75マイル(約120km)で走ることが可能だ。当時Zooxはこの4人乗りの車両の仕様として、列車のような対面式の座席構成や、1回の充電で最大16時間の連続運転が可能な133kWhのバッテリーなどを紹介。しかしすべてを明らかにしたわけではなく、搭乗者のほか歩行者や自転車、他のドライバーをどのようにして守るのかについては明かにされていなかったのである。

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誤解のないよう書いておくが、安全報告書を発行しているAVメーカーはZooxだけではない。自主的な安全性自己評価レポート(VSSA)は同業界において比較的一般的になってきており、NHTSAの自動運転システムVSSA開示指標に含まれ、車両の設計、衝突シミュレーションシナリオ、テストのベンチマーク、搭乗者や道路利用者の保護対策などの12の分野をカバーすることになっている。

Zooxの最初の安全性報告書は2018年に発表され、ここでは同社の「防ぎ、守る」という理念が紹介されている。今回発表された最新の安全性報告書には、車両の設計に関する具体的な詳細を含む、同社の安全目標の達成方法が記載されている。そしてこの最新報告書が示唆するところによると、衝突回避システムや、車両が他の道路利用者とのコミュニケーションに使用する照明システムの詳細など、さらに多くの安全性報告書が発表される予定だ。

Zooxはこれまでに100以上の安全技術を設計し、専用車両にそれらを搭載している。その中から「運転制御」「単一障害点の排除」「搭乗者の保護」という3つのカテゴリーに分類される9つの技術について、ローズカインド氏が詳しく説明してくれた。

運転制御

画像クレジット:Zoox

Zooxの車両は独立したブレーキとアクティブサスペンションシステムを備えている。つまり、それぞれのブレーキには独自の電子制御ユニットが搭載されており、道路上のトラクションや重量配分をより正確にコントロールすることができ、その結果制動時間が短縮できる。

同車はまた、現在市場に出回っているAV車には存在しないとローズカインド氏が指摘する四輪操舵と、双方向性を備えている。四輪操舵とは車線内の位置と進行方向を同時に調整できる機能である。

「弊社のソフトウェアが車両の進路を決定すると、たとえスピードを出して縁石を通過しても、1センチ単位の精度でその進路を維持し続けます」とローズカインド氏。

四輪操舵と左右対称な車体デザインにより、双方向の走行が可能になる。双方向走行が可能になると、複雑で時間がかかり、対向車との事故のリスクを高めるUターンや3ポイントターンが不要になる。

単一障害点の排除

ローズカインド氏によると、同社の設計目標として、安全性上重要なシステムに単一障害点を存在させないという点があるという。例えば同車両には2つのパワートレインが搭載されており、モーター、ドライブシステム、バッテリーが互いに連動している。システム内の1つのコンポーネントが故障しても、もう1つのコンポーネントがそれを引き継ぐというわけだ。

また、車両には2つのバッテリーのほか、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアのすべてを監視する安全診断システムも搭載されている。また、車両の四隅にはライダーやレーダーなどのセンサーが配置されており、それぞれが270度の視野を確保している。

診断システムはモニタリングにとどまらず、発見された故障や性能上の問題を軽減することも可能だ。例えば損傷や破片のせいでセンサーの性能が低下した場合、車両のクリーニングシステムを作動させたり、双方向から単方向に変えてセンサーが不完全でも基本的には問題ない位置に配置させたりすることができるとローズカインド氏は説明する。

「フェイルセーフ操作なら、走行を継続し、搭乗者を降ろし、問題があればそれを解決するか、または安全な場所に停車させることができます」。

搭乗者の保護

画像クレジット:Zoox

車内のすべての座席において5つ星の衝突防止性能を満たすというのがZooxの目標だ。同社は現在衝突テストを行っており、ローズカインド氏によると「かなり順調に進んでおり、ほぼ完成している 」とのことだ。

同社は5種類のエアバッグを内蔵した新しいタイプのエアバッグシステムを設計。カーテンエアバッグが車の両サイドに配置され、また正面のものは2つに分かれており頭、首、胸を保護できるようになっている。後部座席と側部座席のエアバッグもある。

このシステムにはエアバッグコントロールユニットが搭載されており、これが衝突の場所や速度を監視して、どのエアバッグをどのような順番で展開するかを決定する。すべてのエアバッグが一斉に開くのではなく、衝突場所や衝撃の大きさに応じてエアバッグが開く仕組みとなっている。

さらに、シートやバックル、シートベルトの表面にもセンサーが設置されており、搭乗者がシートベルトを着用しているかどうかを判断することが可能だ。全員がシートベルトを着用するまでは車は動きませんとローズカインド氏はいう。

カテゴリー:モビリティ
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画像クレジット:Zoox

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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