アルゴリズムによるゾーニングは、より安い住居と公平な都市への鍵となるか?

米国のゾーニングコード(都市の地区にコードを割り当て、そこに建築できる施設を規制する制度)の歴史は1世紀に及ぶ。そしてそれは、米国のすべての主要都市( おそらくヒューストンを除く )の生命線であり、何をどこに建築できるのか、近隣では何を行うことができるのかを決定するものだ。だが現在、研究者たちが、その複雑さが増してきたことを受けて、都市空間を合理化するための現在のルールベースのシステムを、ブロックチェーン、機械学習アルゴリズム、そして空間データにに基く動的システムで置き換えることができるかどうかの探究をさらに進めている最中だ。おそらくそれがこの先100年の都市計画と開発に革命を起こすだろう。

これらの未来のビジョンは、都市と都市ガバナンスの改善を現在のキャリアの中心に置く、2人の研究者であるKent LarsonとJohn Clippingerとの会話の途中で触発されたものだ。LarsonはMITメディアラボの主任研究者であり、シティサイエンスグループのディレクターである。そしてClippingerはヒューマンダイナミクスラボ (メディアラボの一部でもある)の客員研究員であり、非営利組織ID3の創設者でもある。

米国の主要都市が現在直面している最も困難な課題の1つは、過去数十年に渡って急騰してきた住宅価格である。このことによって、若年層や高齢者たち、単身者や普通の家族世帯の予算に信じられないような負担がかかっている。たとえばサンフランシスコエリアの1ベッドルームのアパートの平均は3400ドルであり、ニューヨークでは3350ドルである。こうした事情から、これらのイノベーションのメッカは徐々に、アーティストや教育者たちはもちろん、余裕のあるスタトートアップの創業者たちにとってさえ手の届かない場所になりつつある。

しかし、住宅だけでは、現代の知識経済労働者たちを十分に満足させることはできない。そこにはいつでも、素敵で安価なレストラン、広場、文化施設、そして食料品店、ドライクリーナー、ヘアサロンなどの重要な生活サービスに至る十分な近隣の環境アメニティが期待されているのだ。

現在のゾーニング委員会は、様々な開発案件の許可プロセスの一部として、必要な施設が単純に含まれるようにしているだけだ。このことは食糧砂漠や、興味深いいくつかの都市部における魂の喪失につながっている。しかし、LarsonとClippingerの思い描く世界では、ルールベースのモデルは、トークンと呼ばれるものを中心にした「動的な自律制御システム」にとって替わられることになるだろう。

すべての都市の近隣地域は、人生の目標が異なるさまざまなタイプの人たちで構成されている。Larsonは、「私たちは、どのような人たちがここで働きたいか、どのような施設が必要とされるかに関する様々なシナリオをモデル化することができます。そしてそれはアルゴリズムとして数学的に記述することが可能です、そのことでリアルタイムデータに基く人びとのインセンティブを、動的に計算することができるようになります」と説明した。

基本的アイデアは、まず移動時間、個別経済状況、各種施設スコア、そして健康状態、その他多くのデータセットを集め、機械学習に投入することで、近隣の住民の幸福度を最大化しようとするものだ。ここでトークンは、幸福度を改善するために、コミュニティに追加すべきものや、取り除くべきものを表すマーケットに対して、意味を与える通貨の役割を果す。

豪華なマンションの開発者は、建物が重要なアメニティ施設を提供していない場合は特に、トークンを支払う必要があるかもしれない。その一方、所有物件をオープンスペースに転用する他のデベロッパーは、既にシステムに対して支払われたトークンを全額補助として受け取ることになるだろう。「トークンの意味を単一の価格体系にまとめてしまう必要はありません」とClippingerは言う。その代わりに「フィードバックループを使用することで、維持しようとしているダイナミックレンジがあることがわかります」と語る。

このシステムベースのアプローチを、現在私たちが抱える複雑さと比較してみて欲しい。建築と都市計画に対する嗜好が変わり、デベロッパーたちが盲点を発見するたびに、市議会はゾーニングコードを更新し、更新の上に更新を重ねてきた。ニューヨーク市の公式ゾーニングブックは現在、4257ページの長さになっている(警告:83MBのPDFファイルだ)。これが目指しているポイントは、美しく機能的な都市の見え方を合理的に導くことだ。その複雑さは大きな影響を生み出しロビー業界を栄えさせた、そしてEnvelopeようなスタートアップがその複雑さを扱おうと努力を重ねている。

システムベースのアプローチはこれまでのルールは放棄するが、変わらず良い最終結果を求めている。しかしLarsonとClippingerはさらに一歩進んで、住居自体の購入も含め、地元の近隣経済のすべてにトークンを統合したいと考えている。そのようなモデルでは「あなたは参加権を持っているのです」とClippingerは言う。たとえば、地元の公立学校の教師や人気のあるパン屋は、隣人とはあまり交流のない銀行家とは、近隣のマンションに同じ金額を支払う必要はなく、アクセスすることができるだろう。

「財政的利益のために最適化する代わりに、社会的利益、文化的利益、環境的利益を最適化できる代替案を作ることは、素晴らしいことではないでしょうか」とLarsonは語る。社会性のある行動は、トークンシステムを通じて報酬を受けることができて、活気に満ちた近隣を生み出した人びとがその一部として残り続けることができるようになる。一方新しい人たちにも転入のチャンスが与えられる。これらのトークンは、都市間でも相互に利用できるようになる可能性がある、そうなれば、ニューヨーク市への参加トークンによって、ヨーロッパやアジア地域にアクセスできる可能性も出て来る。

もちろん、これらのシステムの実装は簡単ではない。数年前のTechCrunchで、Kim-Mai Cutlerは、これらの課題の複雑性を深く分析した記事を書いた、その中では、許可プロセス、環境レビュー、地域社会の支持や反対などと共に、自治体のリーダーたちにとって住宅の建築や開発を、最も扱いにくい政策問題にしている、基本的な経済性について述べている。

2人の研究者によれば、少なくとも複数の都市が、都市計画に対するこのアルゴリズムベースのモデルの試行に強い興味を示しているということだ。その中にはバルセロナや韓国の複数の都市が含まれている。これらのすべての実験の中心にあるのが、古いモデルは今日の市民のニーズにはもはや十分ではないという考えだ。「これは根本的に異なるビジョンです…ポストスマートシティですね」とClippingerは述べた。

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(翻訳:sako)

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投稿者:

TechCrunch Japan

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